洞窟への道
午後一は、まずマヤラを尾根まで案内する。
オリを回収しなければならない。二人は注意深く一つひとつを拾って、中をあまり動かさないようにそっと、中腹の草地まで運んだ。
日の当らない場所にそのまま積み上げ、とりあえず先に尾根の先まで進むことに決める。
尾根道は東に向かい、わずかに上ったり下ったりしながら先に延びていた。草を踏んだような跡は途切れることがなかった。
彼らは右と左、更に頭上の枝にも注意を払いながら先へと進んでいった。
小鳥のさえずりと海鳴りと、遠くを通る船のエンジン音が時おり聴こえてくるくらいで、空気は春も初めののどかさに包まれていた。
特に目ぼしい拾い物もなく、彼らはついに尾根道の終点、東側の突端にたどり着いた。
左側は切り立った崖になっており、海までほぼ垂直に落ちている。
「大きな荷物をここから落としたのかなあ」
サンライズは見おろして、すぐに目をそらした。
「下、かなり深そうだね」
白い波が泡になって逆巻いているのを、マヤラも恐ろしげに眺めおろしていた。
正面と右側にはまだ少し大きな木が残っていたが、やはりかなり勾配は急だった。
正面やや右寄りを注意深く見おろしていたサンライズ、ふと木々の切れ目にわずかなけもの道のような隙間を見つけ出した。かがんで目を凝らさないと気がつかないような裂け目だった。
「マヤラ」身を乗り出すように断崖を目で追っていく。「ここが道だ」
すでに彼が何をしようとしているか気づいたマヤラが青くなって叫んだ。
「アンタはヤギか? ムリムリムリ」
「オマエはここで待ってて」ロープを脇の木に結わえて、自分の腰に端を結ぶ。
「ホントだったんだね、ロージーよりクレージーだって」
誰にそんな事聞いてるんだ。彼はおそるおそるロープを繰りながらすぐ下の足場を目指す。
降りてみて気づいたが、その先の崖沿いにずっと、細いながらも通路ができていた。確かにヤギなら喜んで下りそうだ。少しずつ島の南側に向かって弧を描きながら、海の方へと降りて行けるようになっていた。
途中からはロープなしでも行けそうだった。
手近な場所に天然の岩が柱のように突き出していたので、腰からほどいたロープを結わえつけ、自分は身軽になって更に先に進んで行った。
そこからは案外、道は平坦だった。すぐ四メートル程下に波がしらが届いている。
ふと足元に、ポケットティッシュが袋ごと落ちていた。
手袋をはめて、そっと拾い上げる。中は湿ってはいたが、濡れてはいないようだった。案外最近の落とし物のようだ。やはりここに来たニンゲンがいる。
先をうかがいながら、彼は用心深く歩く。
左の海は見通しがよいのだが、視界は右側がずっと崖にかくれていて何も見えない。所どころ自然に洞窟のようにくぼみがあったり、隧道のように岩陰に隠れたり、それでも少しずつ、海面に向かって下り坂になっていた。
やや南よりに向きを変えた頃、道は急に島の内部に吸い込まれるように内側に折れ込んでいた。
そこはかなり大きな洞窟のようになっていて、手前には大きな岩がそそり立ち天然の隠れ家となっていた。
突き当たりの砂がわずかな浜をつくる半洞窟のような場所で、遂に、サンライズは彼を発見した。




