捜索開始
まず、南側のやや広い入江をもう一度よく捜してみる。
ドクターが送って来てもらった時は、ここから入ったはずだ。テントや機材の一式をここから持ち込んでいるので、この場所にそれらがなく、西の入江にも何もなかったということは、全てを山の中に運び上げたか、ここから全部海に流してしまったかの、どちらかしか考えにくい。
ペットボトルやアルミ缶の古そうなのがいくつか見つかったくらいだが、それもドクターが持って来たものか、他所から流れ着いたのかは不明だった。
入江から山肌に近づくと、くねりながら山へ登っていく踏み固められた小路がついているのに気づいた。
よく見なければすぐには気づかないが、上陸した人たちによって自然に歩きやすそうな所についた道らしい。
数日前も、ドクターを捜しにきた船長がここを登っていったはずだ。マヤラに合図して、ゆっくりと山への小路を登る。道というより、急な階段のようだ。
マスクをつけ、手袋をした状態で二人は足元に注意しながら上を目指した。ウィルスがある可能性も考えての装備だったが、息苦しいことこの上ない。
入江から三メートルくらい上がったあたりに猫の額ほどの草地があって、そこに人が入ったような跡がいくつかあった。
ペグを打った穴の跡や、草が踏み固められたような場所。船長が意識朦朧とした状態で発見されたのは、多分ここだろう。
マヤラに頼んで、草地を隅から隅まで、何か細かいものが落ちていないか捜してもらう。
その間、サンライズは背後にある木立に少し分け入ってみた。
ここまで続いていた小路はさらにくねりながら上に続いていた。それ以外の場所は蔓がからまったりバラがはびこっていたりしているので、むやみには入れそうもない。
それでも注意深く、下を見たり上の枝を見たりして上がっていく。
間もなく、山頂に続く尾根に出た。
周りは木が生い茂っているので海は切れ切れにしか望めない。
島どうし接近しているせいか、小鳥の姿もちらほらと見られる。
自然もゆっくり観察する間もなく、サンライズは周りの様子を調べ始めた。
まず左側、すなわち西の小さな入江の側に行ってみる。
道らしいものはほとんど消えてしまい、すぐに行き止まりになってしまった。岩や木の根に阻まれている。
あまり無理をして崖から落ちるのもイヤなので、周りを一通り見回してから、もと来た道を戻っていった。
さっき上ってきた分岐まで行って、今度は東側に続く道を臨む。
こちらは、何か大きな荷物を担いで通ったらしく、かなり広く草を踏みしだいた跡が残っていた。頭上の枝も数本折れている。
少し行ってから尾根道の右側、何か銀色の枠のようなものが木々を透かして垣間見えた。
マスクがちゃんと装着されているのを確認して、少し近づいてみる。
小型のオリがいくつかあって、中で動物が死んでいた。モルモットだった。
数えてみると、オリは全部で八つ。ネズミ捕りよりやや大きいくらい、その中に一匹ずつ、毛がもつれたように長くなっている。鼻や口から流れたらしい赤っぽい体液が固まってくっついていた。
寒かったせいか、日もまだ経っていないせいか匂いはなかった。それでも何となくマスクの上から鼻を押さえながら、少し奥まで進む。
だが、一番奥のオリを見て、急に足を止めた。岩陰に挟まるように落ちかかり、さかさまにひっくり返って入り口が開いていた。
中はカラだった。周りに死がいが落ちていないか注意深く探すが、どこにもいない。この島には他に哺乳類はいないと聞いていたので、捕られるとしたら鳥しかいないだろうが、もしかしたらどこか離れた所に逃げたことも考えられる。
状況を写真に撮ってから、そのまま後ずさりでもとの道まで戻った。
一度、マヤラの残った草地まで降りて行って、かがんでいた彼に状況を報告する。
「そっちはどう?」
顔を上げたマヤラ、ポリバッグを持ち上げて中身をみせた。
PET素材らしい細長い管のようなもの、片側が口が細く尖り、もう一方は丸く膨らんでいる。ディスポーザブルピペットと呼ばれる器具らしい。中身は何も入っていないようだ。
他にはビンの蓋らしい金属の丸い環、ビニルのレトルトの封を開けたらしい小さな切れ端、 それに、メモの切れ端。何かの数値がずらりと並んでいた。
「……あとでゆっくり見よう」さっき死がいをいっぱい見てしまって、すっかりやる気のなくなったサンライズ、時計をみた。
「昼飯に帰ろうか?」
いつになく細かいシゴトをしていたマヤラも、疲れきったように立ちあがった。




