ロージー頭悪いだろ?
小早瀬島は、山口県と愛媛県の陸地からちょうど中間地点くらいの瀬戸内海に位置していた。
近くのいくつかの小島は夏場にはクロダイやハマチの釣り場として人気もあり、ここにもたまに物好きが上陸することもあるが、潮の加減なのか何故か釣り場としてはあまり適さないらしく、たまに『呪われた小島』と呼ばれることもあった。
それでも、周りは本州・四国・あまたの島々に囲まれている上、各種航路からも遠くないせいかあまり孤立したイメージはないのだが、それでもこの春まだ浅い平日ともなると、押し寄せる波の音くらいしか耳に入るものはなかった。
特別に頼んだチャーター船は、西側のやや狭い入江近くに寄せてくれた。そこからゴムボートで近づいていってできるだけ密やかに機材を降ろす。
四日後の木曜日夕方4時に拾いに来てくれるということになり、船は白い軌跡を残し、海原を西に帰っていった。
すでに日は沈みかかっている時刻にキャンプの用意、火も使わないので、簡素なものだった。
翌朝月曜日、午前6時少し前。
サンライズはテントから出て、岩場に向かった。
ぶるっと身震いしてから煙草を取り出す。ふと、先の岩にローズマリーが沖を見やっているのが目に入った。
自慢の髪はしゃれっ気もなく無造作に後ろでひとつに束ね、寒くはないのだろうか、黒いランニングシャツに膝上で切ったズボン、今から漁に出るオヤジのように、目をわずかに細めてひたむきに潮の流れを目で追っている。
いつものとぼけたような軽さは、微塵も感じられなかった。
やっぱりコイツは、海のオトコなんだ。妙な所で感心する。
「おはよう」後ろから声をかけると
「あっ」急に軽い感じにもどり、わざと手を脇にぴったりとつけて
「おはようございます、リーダーさま」深々とおじぎをした。
「四日間、よろしくお願い申し上げますです」
「海に突き落とすぞ」
「海の中から引きずりこんでやる。オマエ泳ぎ苦手だって?」
態度をがらりと変えて、ヘラヘラしながら戻ってきた。
「今回は泳ぐ必要ないもんね」
煙を吐き出しながら、サンライズは木々のうっそうと茂る切り立った崖を仰いだ。今日からこの島内を探索しなければならない。
この島でひっそりと暮らすニンゲンを驚かさないよう、昨夜は灯りもともさず火もたかず、赤外線スコープまで使って過ごしたというのに、先客が覗きに来た様子は全くなかった。完全に日の暮れる前に、島の南側にも回って一番広い接岸可能地点と少し上の平らな場所も見て来たのだが、狭い島の割には他に人のいる気配は全くなかった。
「おはよう、リーダー」
マヤラが二の腕を掻きながらのっそりと現れた。
「まだ火は使えないの?」二人のリーダーが並んでいるのをみて、一瞬迷ったがそれでもサンライズにそう聞いた。
「もういいよ、使っても」捜す相手も特に、危険がある感じではない。逆に人が来たことが分かれば出てきてくれるかも知れない。
ようやく温かいメシにありつけた。島には食べられそうなものはほとんどないようなので、食料だけは四日の滞在に不足のないように用意してきている。
食事がひと段落して、三人は手際よく片付けていく。
「今日はどうするの?」ローズマリーは入江に迫る崖を見上げていた。
「この上全体見てくるんだろ? どっちから行く?」
「ローズマリーは、ベースに残ってほしい」
サンライズの言葉に、まるで小学3年生のような不服顔をみせた。
「何でだよ、オレも行けるし」
「ロージー、頭悪いだろ?」とマヤラ。違うよ、そりゃ頭痛い、つうんだ。
「あまり激しい運動しちゃダメだよ」元リーダーの事を心配そうな目でみている。
「そうそう、それにドクターが訪ねて来るかもしれないし、誰か接岸したら御用をお聞きしなくちゃ、残るのも大切なシゴトですから」
「はいはい」彼は両手をあげた。
「早く戻らねえとオヤツのプリン、食っちまうからな」
「昼飯におむすび、作っておいてくれる? 中身はねえ……」
リーダーの権限で、ローズマリーにそう頼むと彼は更にむっとしたように
「オマエ、どうせオカカとコンブしか食わないんだろ? ムカつく。フジツボ入れてやる。殻ごと」
そう言い捨てると、装備をつけた二人をつまらなそうに見送っていた。
「アイツ、案外子どもっぽいんだな」
歩きながらブツブツとつぶやいているサンライズに、マヤラは
「頭が悪いから、コンジョウも悪いんだよ今は」
と弁解にもならない言い訳をしていた。




