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 サワセ島に行きたい人この指とまれ

 細かいシゴトだが、やってくれないか? と乃木から呼ばれた後、サンライズは

「ホント、こまけ~」

 と、席についた。持って来たファイルで顔を仰いでいる。

 すでに片付け仕事に入っていたローズマリーが寄ってくる。

「何なに?」

「あ」サンライズ、わざとファイルを見えないように目の前に拡げた。

「ブガイシャの方は、見ないで下さい~」

 やだな~細かいシゴト、ジミだなあと言いながら一人でファイルを読んでいる。

「誰に頼もうかなぁ、シヴァは国に帰ってるし、ボビーは出張中だし……」

「いいじゃん、見せてよ」覗き込もうとするローズマリーをひじでブロック。

「人数はそんなに要らないかなぁ……」

「見せてくれよぉ」

 サンライズが、目だけぱっと上げた。

「手伝ってくれる?」

「オレが?」ローズマリーが素っ頓狂な声をあげた。

「てことは、オレの部下も?」

 ローズマリーの島に一人だけ残っていた巨漢マヤラがその叫び声で座ったままぴょんととび上がる。

「サンちゃんとシゴトぉ?」

 悲しげな声。前に、サンライズが殺し屋に追われた時、モニタを担当した時の恐ろしい記憶が刷り込まれているらしい。

「いやだよぅ、サンちゃんとじゃあ、命がいくつあっても足りないよぉ」

「リーダーと呼びなさい、リーダーと」偉そうにサンライズが命じた。

「手伝うなら見せてくれる?」ローズマリーはすでにやる気十分だ。

「アンタ、オレの部下になるんだよ、いいの?」先輩に対する口のきき方ではない、しかしローズマリーは全然お構いなしで

「はいリーダー、み・し・て・ください」

 すでに両手を差し出している。

「しょうがねえなあ、はい」彼にファイルを手渡す。

 ローズマリーとマヤラ、頭をくっつけてそれを読み始めた。

「なになに……」マヤラがごつい指で辿っている。

()(はや)()島? コバヤセ? 島なのこれ」

「サワセジマ、と読むんだ」意外にもローズマリーがすぐに答えた。

「瀬戸内の無人島」声にいつものような張りがない。

 マヤラがびっくりして彼の顔をみた。

「どうしたロージー、気分悪いの?」

「いや」ローズマリーは真剣に中身を読んでいる。

「どうしてサワセに……」

 サンライズは、少し離れてそんな彼の様子を眺めていた。支部長から少しだけ聞いてはいた、彼は元々ダイビングが得意で、この島近辺の海にも何度か潜っているらしい。他の無人島と同じようにこの島のことも知っているようだ。それでもこの表情は……やはり何か気になることがあるのか。

「どうする? やめとく?」病み上がりのヒトには、無人島はちと、キツイかなあと聞えよがしにつぶやくと、真剣な顔をしながらも

「行くよ」と即答した。

「調査と保護収容、回収で四日だろ?」

「三人行ければね」「えええ」

 マヤラは自分も人数に入っているのを知り、絶望的な声をあげた。

「週末パーチーに呼ばれてる」ブラジルから来た仲間の結婚式があるらしい。

「金曜の夜までに帰りゃアいいんだろ?」

「無人島でしょ? オレこれでも案外シチー派なんだよね」

 レスラー体系のマヤラが神妙な顔してそう言うと、逆に何となく説得力がある。

「虫とかニガテだし」

「この時期虫なんていねえ、いるのは毒蛇だけだ」「えええ」いるわけねえ。

 そんな賑やかなやり取りから一人、ぽつんと外れてローズマリーは窓の外を見つめていた。


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