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 玄界灘の男

 ごく普通の日。ごく普通の昼下がり。特務課のフロアのデスクわき。

 ローズマリーが突然の引退宣言をした時、サンライズは完全に固まった。

「オレもさ、そろそろゲンカイ灘、じゃねえ、限界かな~なんてさ」

 初めて声をかけた頃からほとんど変わりがない、さわやかな笑顔で彼は言った。

「もう今年で四十五になっちまうし」

 今までよくもまあ無事に生き残れたもんだ、と軽く感心している。

「その話」サンライズは固まったままようやく口を開いた。

「初めて聞いた」

「うん」すごくカンタンに彼がこたえる。

「だってオレも初めて言ったし、社内でさ」

 まだ課長にも部長にも総務にも話してないのだという。なんと、ゾディアックにもまだ話してないそうだ。

「そうだ、ついでに今からゾーさんに言ってこよう」

 まだ金縛り状態のサンライズを残し、彼はフロアの向うへと足取り軽く歩いていった。


 考えてみれば、最初にサンライズがリーダーに昇格した時、出張旅費精算書の書き方を親切に教えてくれた所からだから、かれこれ彼とも十年の付き合いになる。

 フロアでもずっと島が隣だったので、何かと相談にも乗ってもらったし、愚痴もこぼし合ったりもした。

 何度も一緒に飲みに行っている、しかし不思議なくらい私生活についてはほとんど、何も聞いたことがなかった。ペラペラとよく口が回るわりに、ローズマリーは肝心な自分のことについてはあまり語ったことがないのだ。

 主任としては三年先輩のゾーさんがいつかちらっと「昇格がオレより一年早くて」と言っていたので、自分よりは四年余分にリーダーをやってる事になる。

 以前は海上保安庁にいたという話も他から聞いたこともあるが、全然海の男っぽくない。

 確かにそこそこ日焼けはしているが、磯の香りが全くしない。ずっとサロンで焼いたのかとサンライズたちは思っていた。

 どちらかというと、売れっ子ホストとか都会のジゴロというイメージ。髪型も横分けに近いワンレンを長く伸ばし、前を一束ほど脱色しているのもずっと変わらず。

飲み屋に行くと必ず好みの女性に声をかけている。そして「お仕事は?」と聞かれると「出版社の営業」とにこやかに答えている。

 女性遍歴というものも、特に自慢することもなく、自分から他所に漏らすということはない。他人が自分についてああだこうだ言うのを笑って聞き流しているだけ。

 あたりが柔らかく、ハルさんみたいにすぐかっとなったり、ゾーさんみたいに酔って急に人格が変わったりということもなく、何となく安心できる、兄貴のような存在だった。


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