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第三話 扇子職人の恐ろしさ










「ぶえっくし! なんだ、誰か噂でもしてるのか?」


 んな訳ないかと一息ついてからまた歩き出す。

 ここまで一時間程歩いた結果、焦土が途切れ草木が見え始めた。が、どうも見たことのない植物ばかりだ。外国なのだろうか。しかし、外国と言えど杖を軽く振って空にふわふわ浮かぶ技術なんてないだろうし、黒い靄だっておかしな存在だ。

 その上、この紋様の力。どう考えても異世界です、ありがとうございます。なんて言うか! 迷惑ここに極まれりだ。


「能力プレゼントはテンプレでは無いものの、穴から落ちたら空でしたーはテンプレだったし」


 チートと言えば聞こえはいいが、実際俺は災厄撒き散らす迷惑な存在でしかない。あ、でもちょっと力使ったらクレーター大量生成とか解体作業員としては最高だったり?

 そう言えば、扇子職人なんて紋様もあったっけ。

 俺は思い出したついでに試してみたくなる。というか試す。とはいえ使い方がよく分かっていないので適当に実験する。先ずはイメージ。扇子を思い浮かべながら紋様を解き放つ。扇子職人の紋様は恐らく左の鎖骨あたり。少し暖かい。

 発動した紋様は、俺の手に何やら良く分からない力を集め光りと共に扇子の様な形を作り出す。そして光りが収まった頃、俺の手の上に載っていたのは真っ白な扇子だった。


「……出来ちゃったよ」


 しかし、だからなんだとも同時に思った。

 だって扇子だよ扇子。俺の生活に一度も関わってきたことのない扇子だよ? どうしろと言うのだろうか。

 

―――分割思考開始―――


No,1 どうしようもないような

No,2 それよりも、異世界と認めるのか?

No,0 認めざるを得ない。というかそれ以外だったら発狂するよ?

No,3 らっきょう?

No,0 No,3、今シリアスです。

No,2 どこが? と言っていいか?


 すまない、俺が間違っていた、シリアスならもっとこう、過去の思い出来事とかを思い浮かべるべきだった。


No,1 あるの?

No,0 ない。


 だから俺が間違っていた。案外動揺せず楽しんでる自分がいる。


No,2 壊れたか。

No,3 おじいーさんn

No,0 No,3は退室。言わせねぇよ?


 というか微妙に違うと思う、No,3。

 ……取り敢えず、帰る方法を探すのは勿論だがそれより大事な事がある。


No,1 食料?

No,2 寝床か?

No,0 正解。現在一文無し、放浪状態。

No,1 じゃあ村とか探す? ファンタジーの定番。

No,2 無ければ川か。水分に魚が捕れる。

No,0 No,3以外って優秀だなー

No,3 ペケポン!?

No,0 退室ったろが!


―――分割思考終了―――


 さて、じゃあ人を探そう。さっきの人に頼っても良かったけど、あの惨状を引き起こしたのが俺だってバレたら牢獄行きとかありそうで怖い。すると選択肢はそれ以外になる。


「村、探すしかないか……」


 俺は人を求めて歩き出す。

 トボトボ歩くと、少し先に森が見えてきた。この先は大分自然が残っているようで木の実やら果物なんかがあるかもしれない。そう思った俺は無謀にも足を踏み入れた。まぁ分割思考を展開し、其々に道を覚えてもらっているので大丈夫だろう。

 ガサガサと草を掻き分けながら勘に従い進む。偶に黒いのがニタニタ笑いながら出てきたので思いっきり息を吹きかけて霧散させてやった。まあすぐ復活するんだけどさ。

 そうやって森の中をひたすら歩いていると、何だか視線を感じるようになった。気のせいだと思って無視していたのだが、今でははっきりと感じ取れる。それに何やらブツブツと聞こえてくる。何だか嫌な予感がした俺は、ゆっくりと辺りを見回し怪しい物がないか探す。すると案の定、草がゆらゆら揺れている場所があった。ソレは徐々に前に進み出てきて―――――


「オオカミ、だと!?」


 ウオオォォォォンと仲間を呼び寄せるが如く遠吠えを繰り出してきた。

 体長は役三メートルちょっと。高さも俺以上ってコレなんて生き物? ていうか、どうやってあの草の向こうに隠れてたんですか?

 疑問が湧き出る、ホント、こっちに来てから疑問だらけでしょうがない。

 あーあー嫌だ、なんて呟いていると、左右前後からガサガサと草野擦れる音が聞こえてきた。冗談ダロ? と振り向くと、そこにはオオカミの様な生き物が三匹。前にいるの合わせて四匹。

 涎を垂らしている事から、俺を食らう気満々らしい。左右前後逃げ場はなく、俺の行き先は奴らの胃袋。オオカミ達はゆらりゆらりと近づいてくる。と、同時に、お腹がギュルルルーと鳴る音が聞こえた。それが誰のものか分かるだろう?

 音が鳴り止むと襲いかかってくる大狼×四。

 俺は襲いかかってくる大狼をスロー感覚で見つめ、ポツリと呟く。 


「ああ、人生オワタな…………お前らの」


 俺の持っていた扇子に現れる『惨劇必殺』の紋様。ゴメン森さん、俺、死にたくないのよね。……あと、お腹すいた。

 開かれた扇子は幾何学的な模様を浮かべ、強風を引き起こす。ゴォッと大狼達をなぎ払い木に激突させる。俺はその光景に呆然としていた。


「おろ? 随分と威力が弱いな。てっきり森一つ潰すかと思ってたんだけど……」


 すると何処からかヒッ! という声? が聞こえた。一体何処だと探そうとしたのだが、一向にやまない強風に疑問を覚えた俺はその声から意識が離れる。

 おかしいなーと思いながら木に叩きつけられた大狼を見る。すると奴ら、ゆっくりと立ち上がってくるではないか。大狼達は目を血走らせ俺を睨んでくる。これはヤバイ、本気だ彼ら。

 そう感じた俺は、もう一度扇子を振るおうとしたのだが、それよりも前に光りが走った。

 それと同時に爆散する大狼。


「………………」


 ビチャリと血と肉片が辺りに降り注ぐ、無論、俺にも。

 頭にかかった血は、タラタラと流れていき口にまで到達する。俺はつい癖で舌でペロリと舐めてしまう。分かるだろ?お茶とか飲んだ後ペロリとしたくなるアレ。まぁコレ血なんだけどね? 取り敢えず血なまぐさくて嫌なのでペッと吐き出す。

 すると雨も降り出した。ザァァァと土砂降りになり、雷まで鳴っている。恐らく、大狼を爆散させた光りは雷だろう。雷は雨と共に降り注ぎ、的確に大狼達を爆散させていく。また焦げ臭い匂いと血肉がばら蒔かれた。

 こう、普通なら吐きそうな場面なのだが、どうも平気らしい、鉄のメンタルもってたのかな俺。黒いのが出てきてまたケタケタ笑い出す。……少なからず、嫌悪感の塊であったコイツに慣れてしまったからな気がする。

 取り敢えずまた霧散させ、雨で体についた血肉を洗い流す。雷は、やまない。










 それから一時間位しただろうか。雷は治まり、大狼も全滅した。……もしかしたら、大狼以外の化け物級の生き物も全滅したかもしれない。ああ、小動物は生きてた。さっきリスみたいなの見たし、うん。


「……にしても、実に惨劇が起きた後って感じだな」


 空を見上げ現実逃避していた意識を地上の戻す。そのまま辺りを見回すと、赤と黒が一面に広がっていた。赤は言わずもがな大狼の血肉である。残念ながら雨だけでは地面の染み込んだ血と肉は流せなかったらしい。そして黒だが、雷の落ちたポイントである。ついでいうとちょっとクレーター惨劇。

 別に、俺はクレーター好きじゃないからな?


「………………」


 グゥゥ、と腹が鳴る。きっと食料が消えたせいだろう。ちょっと燻製にすれば食べれると思ったんだがな。あ、でも血抜き出来なかった。……結局ダメかよ。だが、それでも―――――


「食いたかったなぁ。それかせめて他の物残してくれりゃあ良かったのに……」


(ヒィィ!?)


「……ん?」


 何か聞こえたような気がするものの、それより腹の減り具合が気になったので頭の隅に追いやり分割思考に後を任せた。

 んでもって他のものtいうのは、牙や毛皮。村とかにたどり着いたら売れたんじゃないかと思ってさ。少し、加減の出来ない事が悔やまれる。って、そういえば媒介になったらしい扇子はどうなったのだろうか。俺は手に持つ扇子を開き、全体を確認してみる。

 すると扇子には、今だ幾何学模様が刻まれていた。と言っても本当に薄くだが。それを俺は試しに振ってみる。


 ヒュパッ!

 

 そんな音と共に、正面の木がずれ落ちていく。そしてズズン!と森を震わせる振動を発生させながら倒れてしまう。ちなみの二本。どうやら軽く貫通していたらしい。

 これは不味いと思った俺は、扇子を畳み仕舞おうと――――――――


「ままままま待ってください!」


 ――――――――していたら突然小太りな男性が現れた。

 俺は内心、ようやく人が! と小躍りしていた。安堵からか、少し顔の表情が緩む。ああ、助かった。これで俺は何とか生き延びることができる。そう、思いながら今度こそ扇子畳む。


「わわわ、分かりました! 私自身と相棒であるこの馬だけは差し出せませんが向こうにある商品その他全て差し上げます、珍しい食料とか宝石とか役立つその他の物ばかりです! ですのでどうか、どうか命だけはお許しくださいいいぃぃィィィ!」


 とか言って馬に乗ってカッポカッポ走り去って行ってしまった。

 残された俺はポツンと佇むのみ。


「…………え、いや…………え?」


 俺はポカンと口を開け、小太りの男性が走り去っていく方向を見つめることしか出来なかった。
















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