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第二話 異世界で初めての全力ダッシュ





 振り上げた拳は、残念ながら振り下ろすに至らなかった。

 あの黒いのはヒュッと俺の体内に逃げ込んだ。同時に黒い紋様が左の頬に現れ消える。流石に、自分にあれを打ち込みたくはない。それこそ折角生き延びたのに。


「……にして、なんだ? あの黒いのへの嫌悪感がなくなってるのか?」


 そう、何故か初見の時に感じた嫌悪感がなくなっていた。だからこそ、自分の体に消えていった瞬間を見ても発狂せずにすんだ。まぁ俺からしてみればそれはいいことなので気にはしない。

 しかし、気にするべき問題もあることも分かっている。取り敢えずは、ここが何処か、あの黒いのは何か、あの黒いの何故俺の中にいるかの三つだろう。

 となれば先ずはこのクレーターから出ないといけない。

 俺は立ち上がり、服についた埃を軽く払ってからクレーターの外に向かって歩き始める。考えてみれば、空から見たとき辺りは焦土になっていたことから碌な情報が残っていないかもしれない。


「でも、人はいたし大丈夫か……」


 残る頼れるものは、現地の住民と思われるあの人達。剣なんて物騒な物使ってた上、ふわふわ浮いてるおかしなのもいたけど仕方がない。選ぶ余地なんてないしな。まぁ最後の方、俺に向かって何か叫んでいたから喰われる寸前の俺を心配してくれたんだろう。

 そんな事を思いながら歩いていると、クレーターから脱出することが出来た。ジャリッと土を踏みしめ、三百六十度見回す。


「……え? いや、まさかこれ等も……俺?」


 ポカンと口を開けたまま固まってしまう。

 俺が驚き唖然とする理由は簡単で、俺の視線のその先にはいくつものクレーターが出来上がっていたからだ。空から見た時は焦土ではあったがクレーターなんて一つもない平地だったはず。このクレーターが出来た理由があるとすれば俺の可能性が大である。


―――分割思考開始―――


No,0 質問、このクレーター群は?

No,2 回答、No,0の『惨劇必殺』による結果だ。

No,1 黒いの諸共、全て粉砕していった。

No,3 それはまるで流星のように!

No,0 ……この場合は隕石でいいんじゃないか?

No,1 逃げた?

No,2 逃げたな。

No,3 逃走中!


―――分割思考終了―――


 ぶつりと接続を切り離す。ああ、何ということでしょう。あの真っ平らな平地を穴だらけにした犯人は俺でした。

 黒いのを狙ったつもりが、たった一撃でこんな事になるとは。……いや、ここは平地でよかったと言うべきか。人も住んでいないような所だし、被害は最小限に済んだと思う。多分、何もない平地でこれだから、住宅街でやったら辺り一帯全壊する事になりそうだ。


「なにそれ怖い。いや、冗談抜きでさ」


 なんて凶悪な紋様だよコレ。正当防衛でも使うの躊躇っちゃうじゃないかよ。

 そんな戸惑いを抱えるなか、俺は確認の為に一つクレーターを覗いてみる。これは分割思考で気になることを言われたからだ。

 恐る恐る、俺の予想が現実にならないでくれと祈りながらクレーターの中心部を覗き込む。するとその中心部には、うつ伏せになりつつ、土を被り、ピクピク動いている女性の姿があった。


「アア、ヤッテシマッタ……」


 俺はガクリと膝をつき、謝罪の念を女性に送る、まぁ死んではいないが気絶してるっぽいから届かないだろうけど。にしても、分割思考No,1が言うように黒いの諸共やってしまったらしい。この惨劇必殺、対象を選べないという欠陥が判明した。


「ま、まぁ一応威力の選択……というか調整? みたいなのは出来るっぽいし?」


 言い訳を並べてはみるが、自身すら説得できていない。確かに黒いのと彼女とではダメージが違うらしいが、それでも気絶するような威力だ。……恐らく、他のクレーターにも杖を持った人々が沈んでいるのだろう。

 手を合せ、一礼。





 そして俺は、その場から逃げ出した。














「く、一体、何が……」


 わたしは訳が分からない状況に混乱しながらも、何とか軋む体を奮い立たせて立ち上がる。そして横に落ちていた剣を拾い杖の代わりにして体を支える。何とか安定してきたわたしは、一体何があったのかを思いだそうと頭を捻る。


「確か……わたし達は闇の精霊王を討伐に来たはず。そう、そうだ。そして攻撃を仕掛けて少しすると空から声が聞こえてきて―――――!?」


 い、一大事じゃないか! そうだ、わたし達は精霊王を前にして上空から降ってくる少年を助けようにも助けれず見殺しに……。


「落ちてくる場所があそこでなければッ!」


 わたしだって助けたかった。しかし、少年の落ちてくる場所は精霊王の真上。精霊王は魔力を喰らうから魔法で助けようにも意味がない。攻撃用魔法なら完全に喰われることはないが、それでも強力な魔法を使わねば喰らわれて制御が離れ暴走する可能性が大だ。かといって強力な魔法を少年に放つと結局結末は同じになってしまう。


「……いや、これでは唯の言い訳か」


 悔しさから剣を強く握るが、それで何かが変わる訳でもない。

 わたしはよろよろと自分のいるクレーターから這い上がる。……そう言えば、何故わたしはクレーターに沈んでいたのだろうか。闇の精霊王の精霊魔法ではないし、理解できない。

 剣をつき、何とかクレーターの外に出るとわたしは目の前の惨状に言葉を失った。最早惨劇と言った方が良いのかもしれない。焦土と化し何も無かったはずの土地に、大漁のクレーターが存在している。どれも直径六百メートルちょっとはあり、足場に困る状態だ。

 枯れていても残っていた木々は消滅し、隕石でも降り注いだかの様な……

 わたしは嫌な予感がして別のクレーターを覗き込む。するとそこには―――――


「やはりか……同士達まで……」


 同じ騎士団の一員である男がピクピク体を痙攣させながらうつ伏せに沈んでいた。


「許さん、許さんぞ精霊王!」


 この惨劇の原因であろう精霊王に対し、わたしは激怒する。

 少年の仇とせめてもの罪滅ぼし、そして仲間の仇。必ず討つ、そう決意しなけなしの体力を更に振り絞り決戦に向かおうとした。そう、したのだ。しかし―――――


「―――――何処に、行った?」


 居ない。何処にも居ない。もしかしたら同じようにクレーターの底にでもいるかと近辺のクレーターを見て回るが、居ない。何故、そんな疑問が湧き出ては消えていく。

 分かってはいた、わたし達が生きている事から、精霊王が消えた事を。でなければ、あのクレーターの底で息絶えていたはずなのだ。闇の精霊王は手加減などしてくれない。敵対してきたものはどうあっても必ず殺す、そういう奴だった。

 では、そんな精霊王を倒したのは? 騎士団大隊で倒せるか否かの大物を倒したのは誰だ?

 そんな時、ふと少年の言葉が思い返される。


『誰がァァーーー助げでくだざーーーい!?』

 

 わたしはてっきり助けを求める声だと思ったのだが、実は違ったのだろうか。もしかしたら「誰が助けてください!?」、つまり、誰が助けてくれって言ってるの? と言う意味だったのかもしれない。

 そう言えば、落ちてきた少年は何だか奇妙な笑みを浮かべていたような気がする。口がニンマリとし、目は面白そうに細められ……あれもてっきり恐怖からくる錯乱かと思っていたのだが勘違いなのか?

 そして次に思い返されるのは、少年の服装と容姿。彼は目の色までは分からなかったが、髪は黒いし服装も黒。所々に金色の装飾があった。


「髪は黒、服装も黒、そして金色の装飾が幾つか……」


 それに加えてわたしが、喰われる寸前の少年にかけた声。最早叫び声になっていたのだが、わたしはこう口にした。


『誰かっ、誰か助けてくれ! 悪魔でもなんでも構わない! 好きなものをくれてやる、だから、わたし達を、少年を助けてくれ!』


 心の底から叫んだ。

 わたし達は国の命で、大隊で撃破が決まりの精霊王討伐に中隊だけで向かわされた。仲間は精霊王にたどり着くまでに配下の魔物にやられ、最早小隊程度の人数しか残っていなかった。更にわたし達の攻撃は通じないし、結果、見殺しにせねばならない少年が一人。騎士なら命をかけて救えという話だが、わたし達は精霊王から二十メートルの所までしか行けなかった。それ以上いけば障壁にぶつかり問答無用で、一瞬で魔力を喰われ倒れる上、拘束されて身動きが取れなくなる。わたし達はその魔力を喰らう障壁の突破に時間がかかり、少年が喰われるのには間に合わなかったのだ。


「そう、だから叫んだ。何でも、誰でもいいから、と」


 死に直行している少年と、絶望の淵にいるわたし達を救ってくれと。

 叫んだ瞬間、一瞬少年と目があった気がした。

 そして少年は喰われ、光りが視界を襲った。


「まさか、少年の正体は……」


 黒髪、黒い服装、金の装飾、この惨劇。

 この世界の伝承には、黒髪黒目、黒い服に、服の何処かにある金の装飾があり空から降りてくる人の形をした生き物がいると伝えられている。その人の形をしたものは、何かと引き換えにその願いを叶えてくれると言う。そう、悪魔という存在だ。

 わたしの願いは救い。言い換えれば精霊王の討伐と少年の存命。もしわたしの推測が正しいのであれば、願いは叶った。精霊王は消えたし、少年は元々死ぬような者ではなかった。

 そして代償は、わたし達全員を襲った謎の光り。少年が求めた代償は、愉悦か快楽。それも人を痛めつける事での。どうやらその代償はわたし達全員に分割された為か、生き延びる事ができたみたいだ。

 もし、それがわたし一人の身に降りかかっていたとするとゾッとする。どんな災いがこの身に起こっていたのか、このクレーター群を見て想像してしまう。


「しかし、お前達もわたしと同じだったのだな」

 

 同僚の騎士達。彼らの願いはわたしと同じだった。互いに救いを求め、生き延びた。死んでいった同士達には悪いが、わたしがそちらに行くのはもう少し後になりそうだ。


「共に再び戦おう、同士達よ。……それと、報告せねばならん事が増えたな」


 悪魔の到来。国へ帰り次第、王に報告せねばならない。放置すれば、どんな惨劇が引き起こされるか分からないのだから。















 

勘違い発生。

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