金の誘惑
「それで……話って何ですか?」
ワンピースの少女の後ろにいるメイド達は、
まだ推測ではあるがあの城の主に仕えているのだろう、
俺はメイドの人数に圧倒されながらも尋ねた。
すると彼女は癒される程の笑顔を俺に向けながら口を開いた。
「その前に、少しご挨拶をさせて頂きますね。
最近この町に引っ越してきた宇佐美レイラです。
ほら、そこに建ててあるお城です。分かりますか?」
「いやガッツリ分かりますから。だって近所の家とか全部無くなってますもん!」
何だこの娘!?天然って奴か?。
風でなびくキューティクルたっぷりな黒髪と言い、汚れ一つない白い
ワンピースと言い、見るからにお嬢様って感じだし。
「ここら一帯の住居は地主の同意の上退去してもらったのです。
もちろんそれ相応のお金も用意しました。しかし貴方の家だけは
在宅の確認が出来なかったのでこうして今やってきた訳です」
「なるほど……と言う事は俺にもこの家を立ち退いて欲しい、と」
「あまり驚かないのですね。そういう事です。当然
貴方の分のお金もキッチリ用意してありますよ」
一人のメイドがアタッシュケースをレイラさんに渡し、
レイラさんはロックを外すとケースをパカっと開けた。
「うおっ……!」
思わず声が漏れ、ケースに飛びつきたくなる
衝動に駆られたがなんとか理性を保つ。
ケースの中には福沢諭吉さんがぎっしりと詰まっていて、
ひっくり返しても落ちなさそうだ。
こんなにもお金があったらどんな生活ができるんだろう、と思わず夢が膨らむ。
だが
「残念ながら立ち退きには応じません」
「なぜ?」
この展開は意外だったのかレイラさんはパッチリとした大きい目を
さらに大きくし驚いた。
「ここは俺と、今はもういない家族との思い出の家です。
そう易々と渡すにはいきません。それにもう
十分の敷地をもっているじゃないですか。
それなのにまだ敷地を欲しがるのですか?そう言うのを強欲って言うんですよ」
「お金が足りないって事でしょうか?それならお好きな金額を
この小切手に書いてください」
「お金の問題なんかじゃない!」
俺はそう叫ぶとレイラさんが差し出した
小切手を乱暴に引ったくりビリビリと破り捨てた。
クソッ。最高にむかつくぜ……!
金なんかで人の思い出を買収しようとしやがって……!
「私には貴方が怒る理由が良く分かりません。
私の調べでは、貴方はとてもお金に困っているはずですが?
このお金があればしばらくは遊んで暮らせると言うのに」
「そんなお金で遊んだって何にも嬉しくも楽しくもないね。
とにかく俺は立ち退きはしない。以上。どうぞお引取りください」
言い終えると俺は鍵をさっと取り出して普段はスムーズに
開ける鍵を、わざとガチャガチャと音を立て開き、
中に入ると同時にドアを乱暴に閉めた。
「一瞬でも金に目がいった俺、最高に情けねえ……」
☆
「困りましたねセイラお嬢様」
「ええ、とてもね。この家の真下に御先祖さまが託してくれた秘法が
あるっていうのに……でも私はまだ諦めません。
お父様の期待を裏切ってしまったら、今度こそ私は捨てられてしまいますから」
「お嬢様……」