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戦場百景~ヴァラク/エルカーラ防衛戦~  作者: 埴輪庭


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エルカーラ防衛戦⑤

 ◆


 ギマのストンピングがギオルギの頭部を激しく打ち付けた。だが


「おォっと……?」


 ギマの足首をギオルギの手がガッシリと掴んでいる。


「魔族よッ!! この地は我等の地だ! 土を噛み、腑中よりそれを知れィッ!」


 ギオルギが渾身の力を込めてギマを振り回し、地面へと叩き付けた。周囲の尖兵達はそれを止めようとするが、振り回されたギマに打ち付けられ、吹き飛ばされる。


「どうだ! 母なる大地の味は!」


「旨いかァッ!」


「ぐおらァァァアアッ!!」


 叩き付けの回数が五、十、十五と増えていき……不意にギオルギは眼を見開き、ギマの足首を離した。


 ──何度叩きつけても、てごたえを感じぬ


 ──どういう事だ


 ──これも彼奴の体術か?


 宙空からどさりと地面に落ちたギマはしかし、大して堪えていないように立ち上がる。その表情には苦痛ではなく呆れが浮かんでいた。


「劣等……貴方様は狂戦士か何かで? 無駄な力が多すぎますよゥ……流れゆく力は、すこぉしいじってやるだけでその矛先を変えますねェ。おや、低脳すぎて言葉では理解できませぬか? ではこのギマが一つ業をお教えいたしましょうか、そのお体に……」


 丁寧ぶって言うギマの言葉からは、所々毒素が漏れている。するすると近寄ってくるギマに、ギオルギは雷を帯びた左の正拳を放った。


 その拳をギマは左掌で受け止め、同時に体をやや左にスライドさせる。更には掌に流れる電撃はギマの体を伝導し、まるで何かに導かれるようにその威力は彼女の右手に収束していった。左掌で受け止めた拳の勢いを利用してくるくると回り、その回転中にギマは右拳を固めた。その拳にはギオルギから放たれた電撃のエネルギーが込められている。


 回転の勢いはギマの右拳から放たれた裏拳に爆発的な推進力を与え、まるで夜空を切り裂く流星のように弧を描いて、ギオルギの右脇腹に突き刺さった。


 ・


 ギマの一撃によってギオルギの脇腹の肉、骨が砕かれ、叩き潰された。いや、それどころではない。心だ。心で負けた。


 ギオルギはギマと自身の間に埋めがたい格差がある事を感得してしまった。敗北とは自身が認めた瞬間に訪れるのである。


 (これは勝てぬ……であるならば退いて態勢を立て直し、策を……)


「あら? あら? あららァ? 怖気の香りがしますねぇ……このギマが逃すとお思いで? ……む!?」


 ギマが嗜虐的に笑い、しかし視線を上空に向けた。火弾がいくつも投射されてくるではないか。


 ◆


「みなさーーん! どんどん撃ってくださぁーい! ギオルギ師が魔軍に一人で突っ込んでしまいましたが大丈夫! こうされても文句言わないからこそ一人で勝手に突っ込んだんでしょうからー! 撃てー! 撃てー! 術師の炎は知性の灯! 無知蒙昧な魔族とギオルギ師に知性とは何かを知らしめましょおー!」


 エル・カーラ南門に展開していた術師達は、ギオルギの秘書的立場と目されている女性、魔導協会三等術師ジーナに煽られ、ぽんぽんと術を投射していく。


 怒りがジーナを支配していた。矛先はギオルギである。ぽんぽんと仕事を投げまくってくるギオルギ。面倒且つ重要な仕事を投げてくる事甚だしく、それでいながらも自分は好きにやって、しかも窮地に陥っているのだ。術師とは結局自身の事しか考えていない間抜けばかりであって、利己利己利己、利己の群れでしかないのだ、とジーナはほっぺを膨らませていた。


「仕事を投げるギオルギ師、対して火弾を、爆炎弾を投げる我々。お互いが投げあう事で調和が齎されます……」


 盛大な投射爆撃を見て、うんうんと頷くジーナ。それを同僚の術師達は怪訝(いぶか)な顔をして眺めていた。


 ◆


 ──好機!


 ギオルギはほんの僅かにギマの気が逸れたのを確認し、悲鳴をあげる身体を叱咤しながらその場を全速力で離れた。あっ、とギマが声をあげるが、ギオルギはそれに構わず脱兎の如く遁走していく。背後では火弾が着弾し、次々と大地に赤々とした炎の花を咲かせていった。


 ◆


「すまないね」


 手当てを受けながら軽く謝罪するギオルギに、ジーナは笑顔を浮かべて労った。


「魔軍の戦力調査お疲れ様でした。鞘当てで死に掛けるとは豪気だなぁーと私は感服しました。あ、そうだ、先ほど志願の生徒さん達がいらしましたよ。ギオルギ師にお話があるのだとか……赤い髪の毛の元気なお嬢さんでしたけれど」


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