第83話 はじまりの獣
戦闘は俺と赤毛の獣の奇跡を用いた槍の同時投擲から始まった。
俺の槍は燃える様な赤、対して赤毛の獣はセレーネさんと同じ蒼色の槍。
2つの槍はぶつかり爆発した。
「夢と違って蒼色なんですね、何か理由でもあるんでしょうか」
「それについては俺もよく分かんない」
「グルァ」ボォ〜
俺とセシリアが話してる間にキューちゃんが炎を吐く。
それを赤毛の獣が蒼い炎で薙ぎ払って相殺した。
セシリアが魔法で光の弓を放つもそれは跳躍で俺達に近付きながら躱した。
「あれは不味いかもっ!」
赤毛の獣は跳躍しながら両手に蒼い槍を生成しそれを逆手に持って落下。
俺は即座に防壁を張りつつセシリアに抱き抱えられ後ろへ後退。
赤毛の獣が着地と共に2本の蒼い槍を砂の地面へ突き立てれば眩い光と共に大爆発を起こす。
「自分諸共爆発ですか!?」
「うわ……防壁が一瞬で蒸発したよ……」
百歩譲って自爆は良しとしよう、防壁が一瞬で無くなるような威力ってなに……。
「グルァ!」
「伏せて!」
「っ!」
キューちゃんの警告をセシリアに伝える、セシリアは俺を抱えたまま伏せる、伏せた事でセシリアの胸が押し付けられるのを感じる。
爆煙の中から巨大な蒼い剣が伏せたセシリアの直ぐ上を通り過ぎる。
追い打ちを掛けるように晴れつつある爆煙の中から赤毛の手が伸びる。
セシリアは即座に起き上がり獣の懐に滑り込む事で回避しつつ獣の後ろを取った。
「貰っ「駄目だ!回避!」っ!!!」
後ろを取ったセシリアが魔法を撃ち込もうとしたが悪寒を感じ取って叫んだ俺の言葉に従い飛び退る。
瞬間赤毛の獣の背後が蒼い光を放ち爆発した。
「危なかったですね……」
「危機一髪だったね」
「グルァ」
辛うじて爆発から逃れ、俺達2人と一匹は安堵のため息を吐いた。
赤毛の獣は爆煙の中をゆっくりと歩いて来ていた。
その姿は自身の放った爆発等で少し傷が出来ているが未だ戦闘行動に支障は無さそうだ。
「動きに気を付けながら地道にやっていくしか無いかな」
「まだ何とも言えませんが今の所全て上手いこと対応されてますからね」
赤毛の獣は遠距離と近距離のどちらにも対応出来る手段がある。
しかも近距離だと爆発もある、爆発の前に一瞬光るから分かりやすくはあるけど。
何時までもセシリアに抱えられてる訳にもいかないから砂の上に降りる。
俺を降ろしたセシリアは剣を抜きつつ前に出た。
「前衛は私が務めます、エルは援護をお願いします」
「あい、分かった」
剣の扱いならセシリアのが圧倒的に上だし、俺が補佐に回るのは当たり前だよな。
俺は奇跡を行使してセシリアに身体強化を施す。
「背中は任せますね、旦那様♪」
「良し、任せて!」
普通は逆な気もするけど実力でセシリアの足元にも及ばないので仕方ない。
駆け出すセシリア、俺の奇跡とセシリア自身も魔法を用いて身体強化を重ね掛けしてる為に凄まじく速い。
だが此処は要の地が機能してないらしく魔力を練るのに必要な魔素が殆どない、その為セシリアのあの戦い方も長くは持たない。
今この状況下で魔力が無くなるのは危険、その為俺は大規模な奇跡の行使を行う。
やるのは俺を中心にした一定区域の浄化、それによる魔素の増加を図る。
そうすれば魔力不足は気にならなくなるから。
周囲の警戒はキューちゃんに任せて急ぎ奇跡を行使する。
この間にもセシリアは一人で赤毛の獣と戦闘しているのだ……いや、同時に支援すれば良いのか。
浄化と支援を同時にこなすのは難しいがやるしかないな。
とは言え完璧に行使は出来ない、セシリアの支援に気を回すと浄化の進捗が下がってしまう。
だから状況をよく見てどちらかを優先する。
セシリアの振るった隙を突く赤毛の獣の攻撃に合わせて防壁を張って守り、セシリアの安全を確保し終えたら即座に意識を浄化へと切り替え進捗を上げ、再びセシリアが危険なら防壁を張るを繰り返す。
「グルァ」
「今無理しないでいつ無理するってんだ!多少の無理は押し通すっ!」
キューちゃんが無理するなと言ったけど今は無理をする場面だと俺は思った。
「ハァ……グオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
溜め息を吐いたかと思えば唐突に古竜の咆哮を放つキューちゃん。
その凄まじい威圧に一瞬赤毛の獣が怯みその隙をセシリアが逃す事無く踏み込み斬り抜ける。
胴体を斬られ飛び散る鮮血、赤毛の獣は明らかに深手を負った、けどまだ倒れる気配は無い。
「良しっ!」
浄化が完了した。
だが要の地が機能を取り戻した訳では無いので永続ではない、浄化が完了した途端その力がゆっくりと失われていっている。
だがこれならセシリアの方に力を入れながら維持出来る。
セシリアに回復の奇跡を施し怪我と共に疲労を回復させた後、邪魔にならないように防壁を張って赤毛の獣の攻撃を全て防ぐ。
「つっっっ!!!」
奇跡の行使で無理が祟ったか、頭が痛む……。
気を引き締め直し、セシリアの支援を続ける。
振るわれる獣の剣を振り抜く前にその手の移動先に防壁を構築して振るのを妨害する。
赤毛の獣は槍を地面に突き刺し爆発させ、セシリアを自身諸共巻き込もうとしたが直ぐに俺が防壁でセシリアの前面を囲って防ぐ。
セシリアの攻撃は当たり、赤毛の獣の攻撃はその殆どを防いでいる。
普通なら焦りそうな状況だが赤毛の獣にその様子は見受けられない。
自身を巻き込む爆発攻撃と言い、死に急いでいるのだろうか。
幾度となく剣を交わす。
セシリアの傷と疲労は俺が奇跡を用いて癒し、キューちゃんによる周囲の警戒により俺とセシリアは目の前のことに集中できる。
数え切れない程の傷を負った獣はふらふらとしており、倒すのに時間は掛からないはずだ。
「これで終わりです!」
薙ぎ払いながら斬り抜けたセシリア。
刃は深く斬り裂き、獣は遂に両膝を地に付けた。
そして口から血を吐き地に伏した。
「やりましたよ、エル」
笑顔で此方に駆け寄るセシリア、俺は労いの言葉を掛けつつ抱きしめようと手を広げ。
ズキン━━━━━
━━━━━酷くなる頭痛。
「エルっ!?」
余りの痛みに頭を押さえその場に蹲る。
直ぐにセシリアが駆け寄って来てくれたのだけは分かった。
━━━━燃える音が聞こえた。
痛みを堪えながら視線を上げれば、獣はその身に赤き炎を灯し起き上がった。




