第81話 エオニアの大聖堂
ゴゴゴゴ……
開いた時と同じ様に勝手に閉まる大聖堂の両扉。
明かりの無い大聖堂の内部は両扉が閉まる事で外の明かりが徐々に届かなくなり、再び暗闇に戻りつつある。
「明かりを……っ!?」
明かりを確保する為にお姉さん達が光魔法を放とうとした瞬間、壁に等間隔で付けられた蝋燭が次々と火を灯す。
最後に俺達の目の前、祈りを捧げる為の巨大な空間に吊るされたシャンデリアに火が灯され、そして入り口の両扉は完全に閉ざされた。
「本当に……気味が悪いわね……」
流石のステラ達でもこれには恐怖を煽られる様だ。
それもそうだろう、何もしてないのに蝋燭に火が灯ったんだから。
それも魔法による物ならまだ理解できただろう、けれど蝋燭に火が灯った瞬間も、両扉の開閉も、鐘の音も全て魔法が使われた形跡は無かった。
だからこそ皆余計に怖さを感じるんだろう。
「エルは……平気なんですか?」
理解出来ない出来事による事で生じた怖さを紛らわせる為に私を後ろからぎゅっと抱きしめるセシリアがそう呟いた。
種さえ分かれば恐怖は湧かないからね。
見たところ私の他にオリヴィアさん、セレーネさん、セラさんだけが分かっている様だ。
恐らくだけどオリヴィアさんは俺に視線を向けた事から種自体は分からないけど、長年の知識で魔法による物でないと気付き、尚且つ俺が怖がって無いことで恐らく奇跡じゃないかと予測したんだろうね。
と言うことでセシリア達にもネタバラシしとこうか。
「これは奇跡の行使によるものだからね」
「「え?!これ奇跡だったんですか?!」」
この中で奇跡を扱えるクーデリアとユースティアが同時に驚きの声を上げた。
2人は奇跡を扱えるのに気付かなかったから驚くのも無理はないかな、なんで俺が気付けて2人が気付けなかったのかは謎ではあるけど。
「かなり高度な奇跡の行使よ、2人が気付かないのも無理はないわ……エルが気付けたのが不思議なくらいよ」
とセレーネさんからのフォローもありクーデリアは勿論他の人達もホッとしたようだ。
何故俺が気付けたのか、と言う謎は残るけど。
予期せぬ形で明かりを確保出来た俺達は取り敢えず進む。
目指すは鐘のある塔である。
理由は単純に何故鳴ったのか気になったからであり、もしかしたら何か手掛かりがあるのかも知れないから。
大聖堂内に何故かアンコニュの姿は無く、何の邪魔もなく塔の下まで到着。
そのまま木製の階段を登って上まで行き、扉を開けて外へと出る。
ステラ達により安全が確保され俺達も外に出る、冷たい夜風が頬を撫でた。
そして周囲を見渡してその特異点を見つけた。
「あんなの無かったよね」
大聖堂の鐘の塔。その頂上の柵の向こうに浮かぶ謎の穴。
試しにお姉さん達が浮遊魔法で行こうとしたが、魔法が発動しない。
どうやらあれを起点に周辺の魔力が乱され魔法の行使が不可能となり近づけないようだ。
魔法が使えないのは危険なので取り敢えず室内に戻る。
異常は見つけた、だが行くことが出来ない。
恐らくこの大聖堂の何処かにあそこに行く為の仕掛けが隠されている気がする。
ちなみに前回来た時に見つからなかったのは恐らくだがあれも隠蔽されていたようだ、それもセレーネさんやオリヴィアさんにすら感知されない程徹底的に。
なぜそれが今になって現れたかは不明ではあるが。
とにかくこのままでは埒が明かないので大聖堂内を隈無く探すことにした。
階段を降りて、最初の場所まで戻る際、隠し部屋等がないか隈無く探したが見つからなかった。
残るはこの場所のみ。
でも此処にも何にも無さそうなんだよね、並べられた数多くの長椅子に正面の奥に両手で杯を持つ男の像があってその手前に祭壇の様な物があるだけ。
「怪しいと言うと目の前の祭壇だよね」
「そうですね、それ以外は普通ですし……」
並べられた長椅子も等間隔に建てられた石柱も燭台も特におかしな点は見られない。
頭の上のキューちゃんもキョロキョロと周囲を見渡して居るが何も言ってこない事から異常がある訳ではないようだ。
リュミエール隊のお姉さん達が周囲を探索している中、俺とセシリアとキューちゃんは祭壇へと近付く。
アンコニュが隠れてないか祭壇の裏までしっかりと確認し、再び祭壇の前へ戻る。
祭壇の上には2つの小さな燭台とその間に置かれた杯。
そしてその杯の上に宝石の様に綺麗な赤い球体が置かれている。
「やっぱり……変わりないね」
「そうですね……」
以前来た時と何ら変わらない様子、原因は大聖堂では無いのだろうか。
あの鐘の音が俺達を誘き寄せ時間稼ぎする為の物だったなら分からなくはない。
そんな時だった。
「扉が開かなくなってる?」
リュミエール隊のお姉さんの1人がそう報告した。
何でも大聖堂を外から調べてみようと思い入り口を開けようと思ったけれどびくともしなくなったとか。
また窓ガラスも開かなければ割ることも出来なかったとのこと。
「閉じ込められた……?」
それとも本当にこの大聖堂に原因がある?
考えられるのは鐘の塔の向こう側にあった謎の穴。
だがあそこに行こうにも魔法が使えないのでは行けない。
さて、どうしたものか。
……少し休むか。
物事が行き詰まった時、一度それから離れて少し時間が経った後だと結構進展する事がある。
今回も少し休めば何か思いつくかもしれないし、取り敢えず休もう。
そういう事で俺達は一度休む事にした。
とは言え、幾らアンコニュの姿を見ないと言っても完全に安全とは言い切れないので周囲の長椅子を集め簡易的なバリケードを設け、見張りを代わりながら眠った。
そして日が登り、朝を無事に迎える事が出来た。
眠った事で頭がすっきりしたこと以外変化は無い。
残念ながら今回妙案が思い付くことは無かった。
更に残念なお知らせで入り口の扉や窓が開くことも無かった。
「どうしたものかなぁ」
キューちゃんを頭に乗せたまま俺は祭壇の前で頭を悩ませる。
にしてもこの赤い宝石……デカいな。
盗むつもりは無いけど、これ売ったら高くつきそうだよね。
本当に好奇心からだった。
祭壇の杯の上に鎮座した赤い球体に右手が伸びる。
なんてことはない、ただ手が伸びただけ。
そこに理由は無かった。
本当にただ軽く撫で付けるように触れただけだった。
━━━━ピシッ━━━
「へ?」
触れた箇所にヒビが入った、そしてそれは赤い球体の全体に向かって広がっていく。
パラパラ
理解する間も、焦る間もなく球体は朽ち果ててボロボロと崩れる。
その内部に小さな白い光が見えた。
ゴォーン……
ゴォーン……
ゴォーン……
遠くで鳴っていた鐘の音は次第と大きくなり。
ゴォーン……
最後の鐘の音と共に俺の視界は眩い白い光に包まれた。
そして視界が戻り周囲を見渡し唖然とした。
「え……」
ヒビ割れた窓から砂が零れ落ちている。
そう、この大聖堂が砂に埋もれていたのだ。




