第77話 聖樹上層
聖樹の木の上に家が建ち、家と家の間は吊り橋で繋がった場所。
「昔ながらのエルフの家の作りね」
木の上に建てられた家を見てローザさんがそんな事を呟いた。
だが俺の記憶が正しければ……
「エルフの国では余り見なかったような……」
エルフの国では殆どがゲネシスと同じように地に建てられていて木の上に家は建てられて無かったと思ったけど……。
「アンコニュの侵攻によって多くの家が無くなり、それ以降は普通に地に建ててますからね」
「そういう事ね、なるほど」
俺の疑問はセシリアが答えてくれた事で解消された。
さて、これから俺達はこのツリーハウスを一つずつ探索し奪還を行いつつ要の地の源を探す必要がある訳だ。
ぱっと見たところそれっぽい所は見当たらない。
下層、中層で見た教会や街の作りからして水が流れる所だとは思うけど実際はそれが正しいのかも分からない。
教会の奥に水盆が置かれていてその水盆に水が満たされる様に小さな水路が設けられていた事から水が湧く所だとは思うんだけどね。
吊り橋を渡りツリーハウスを探索、例の如く壺や像は容赦なく壊して進むステラ達。
「意外と揺れないんだね」
「エルフの中でも揺れると怖いって方も居ますからね、極力揺れないように作っているはずですよ。それでも完全に揺れないようには難しいですけどね」
セシリアが言った様に完全に揺れないと言うわけではなく微かに揺れているのは分かる。
これ程高い所で大きく揺れると流石に恐怖を感じるだろうから助かった。
「セシリア、ローザ女王」
何個目かのツリーハウスを探索していた時、カトリーナがセシリア達に声を掛けてきた。
話を聞く限りどうも像を壊していいか確認しているようだけど。
そのままセシリアに手を引かれて一緒に外に出て吊橋を渡った先。
ある一つの広場、そこに置かれた像を見て納得した。
二対のエルフの戦士の像。
これはエルフ達からしたら価値のあるものの様に思える。
だからこそカトリーナ達も壊すに壊せずセシリアやローザさんに聞きに来たのだろう。
「どうす━━━」
どうするのか聞こうとセシリアの方に視線を向けると同時にセシリアが魔法を発動。
エルフの像は粉々に砕け散った。
「カトリーナ達が歴史的価値のある物を破壊しているのに私達エルフだけ残すのは筋が通りません。それにカトリーナが言った様に安全こそ優先しなければ」
そうして始まったエルフ達にとって価値のある像の破壊作業。
容赦なく戦士の像を壊して進むエルフのお姉さん達。
歴史的価値のあるものを自分達の手で壊さなければいけないという状況、ただ様子を見るにそこまで苦しそうでも無い。
リュミエール隊のお姉さん達もそうだったけどどちらかと言うとやる気に満ち溢れている様な気がする。
「これでエル君の安全が確保されるわね!」
「また合ったわ!」
「壊すのよ!一つ残らず!!!」
「全てはエル君の安全の為!」
「「「「「「「エル君の安全の為!!!!!!」」」」」」」
「えぇ……」
俺の安全確保の為だけにやる気に満ち溢れてるのこの人達……。
よくよく見たら打ち壊すのにローザさんとエルミアちゃんも混ざってるんだけど、あの2人も俺の安全の為とか言って打ち壊してるけど……。
「エルミアちゃん魔法使えたんだ」
「魔力制御も出来て威力調整も出来る自慢の可愛い妹です」
魔法で戦士像を破壊するエルミアちゃんを見てセシリアは胸を張った。
その気持ちも分かる。
可愛い妹は他人にも自慢したくなるものだ。
俺達はツリーハウスを次々と制圧し、夜になった為探索を切り上げて制圧したツリーハウスにて休む。
ツリーハウスの中には料理場もあってありがたいことに魔力があれば火が今でも灯せた。
物資が少ないから良いものは作れないけどまぁ戦闘糧食よりは良いだろう。
いくら最近の戦闘糧食は味が改善されて良くなったとは言えまだまだ普通に作ったものの方が美味いからね。
夜は冷えるから身体の温まるスープをセシリアとレスティナ、アルティナと一緒に作った。
味見係はキューちゃん。
「……私達は慣れたけど古龍種が味見してるのいつ見ても可笑しな光景ね……」
「味見もそうだけど頭の上に乗ってるのも十分可笑しいわよ」
俺がスープを作っているのを見ていたオリヴィアさんとセレーネさんがそう呟いたのを聞きながら出来上がったスープを器に注いで皆に配っていく。
スープは好評で残る事は無かった。
ご飯も食べた、後は眠るだけ。
「さぁ一緒に寝ましょうエル♡」
何故か俺はローザさんに後ろから抱きしめられ、それに対抗するようにセシリアが前から抱きついてきた。
そしてエルミアちゃんがローザさんと俺の間に滑り込み抱き着いた。
この際抱き着くのは良しとしよう、だけど夜は冷えるから毛布を……と思ったら母さんがそっと掛けてくれた。
「どうしてこうなった……?」
「家族はみんな一緒に寝るものよ♪」
どうやら俺は既にローザさんに家族認定された様です。
レスティナ達は今日まで一緒に寝てたから今日くらいは良いとの事。
その内レスティナ達も混じりそうと思った。
翌朝。
軽く朝食を済ませ、俺達は残りのツリーハウスの探索、奪還を終わらせた。
ツリーハウスは奪還したがどうやらまだ上があるらしい。
吊橋を渡り進んだ先、聖樹の際に上へ登る階段があった。
階段を登った先は聖樹の頂上で聖樹の木々に囲まれた広々とした広場と水の流れるであろう水路、そして教会があった。
「枯れてなかったら、どれだけ綺麗だったことでしょうか」
「大丈夫、きっと戻るから」
そっとセシリアの手を握れば彼女も優しく握り返してきた。
さて頂上である此処に水路があるならきっとこの場所の何処かに要の地の源があるはずだ。
水路は教会の方に伸びている、恐らくあの奥にあるのではないだろうか。
周囲の警戒をしつつ教会へと向かう。
広場の真ん中付近まで来た時、突如教会の一部が爆発し、その爆風の中を何かが飛んで俺達の前に着地した。
咄嗟にセシリアやステラ達が俺を庇う様に前に出て武器を構える。
教会から飛び出て来たのは所々を黒い外殻で覆った身体に漆黒の翼の生えた人型の異形。
「コリズニキタカ、オロカモノドモ。」
そいつは人語を発した。
「っ!気を付けて!あいつ、私の腕をもぎ取って奴に似てるわ……!」
オリヴィアさんのその言葉に全員の警戒度が跳ね上がる。
エルフの国で墜落したあの日、雨に濡れて倒れていたオリヴィアさんは右腕を失っていた。
要の地が機能していなく、魔力不足に陥っていたとは言え、オリヴィアさんに致命傷を与えた相手に似た奴が相手とはね……。
「オトコハコロシ、オンナハ、ナエドコ……キヒヒヒッ」
そう言うや否やこちらへと駆け寄る異形。
振るわれる凶爪をステラが剣で弾く。
「ナエドコ、ワガ糧とナレ、ヒッヒヒ」
「さっきから気色悪いのよ!」
ステラは大声と共に横に一閃、しかし異形は一歩下がって躱す。
ステラと距離が開いた事で空かさずフィーユ達による魔法攻撃が放たれる。
「着弾確認!」
後方に居た俺はフィーユ達の魔法が異形に当たった事を確認した。
魔法による攻撃は続く。
「あれもアンコニュなのか……?」
「恐らくだけどアンコニュね」
一度対峙した事のあるオリヴィアさんが言うのだから間違いないとは思う。
魔法攻撃を受けた奴は爆風を漆黒の翼で払いそのまま勢い良く空へと飛んだ。
その右手に黒い光が集まっているのが見えた。
「!回避準備っ!!」
どういった攻撃が来るか分からない為闇雲に逃げてはいけない、何時でも回避出来るよう備えつつ奴から目を離してはいけない。
奴は空からアルドルに向け急降下、アルドルは直ぐに回避したが奴はそのまま地面に右手を突き刺す。
そして右手の黒い光が爆発し周囲に爆風が吹き荒ぶ。
「魔力じゃない、アンコニュが使う黒い光。これでアンコニュ確定だね」
オリヴィア「アンコニュはアンコニュでも今までの奴とは格が違うわね」
「援護射撃します、ジェームズ」
「おうよ」
俺は近くに来たジェームズと共にライフルを構える。
近くにはセシリアやオリヴィアさんが居るから護衛は大丈夫。
今奴はステラやサリーネと接近戦をしている、誤射しない為によく見て、奴が距離を取った時に撃つ。
「今!」
「っ!」
奴が距離を取った瞬間に引き金を引く。
狙いは勿論外殻に覆われていない部分。
俺は足、ジェームズは胴体を撃ち抜いた。
「グッ!?」
「「はぁぁぁぁ!!!」」
「ゴッ……!」
撃ち抜かれ、地面に膝を付いた瞬間を見逃さずソフィーとヴィクトリアがその顔面にメイスを叩き付け振り抜いて吹き飛ばす。
奴は何度か地面を転がった。
口から赤い血を吐き、地面に這いつくばる奴はソフィーとヴィクトリアを睨んだ。
「メス共ガ……!ガァァァァァァ!!!」
すると奴は突如顔を両手で押さえ苦しみだした。
俺達は距離を取り、警戒する。
よく見ると奴の身体を覆う外殻が広がっている。
「ワタ、ワタシガ……ア、アァァァァ!!!」
絶叫と共に奴のその身体の全てが外殻に覆われた。
「━━━━━━━━━!!!」
叫びと共に空を舞い両手に黒い光を集め始める。
恐らく先程アルドルに放った攻撃かな。
皆が回避準備をする中俺はライフルを構える。
それにいち早く気付いたセシリアが俺の傍に控えた。何時でも俺を抱えて回避出来るようにする為に。
俺はライフルで奴の翼を撃ち素早く排莢、装填して反対の翼を撃ち抜く。
「━━━━━━━━━!!!」
両翼に着弾し、奴は悲鳴のような叫び声を上げながらその身体がぐらりと揺れる。
落ちる、そう思ったと同時に奴のその背中の翼が更に一対増え、身体が安定した。
「四つ羽根?!」
体勢を建て直した奴はそのまま俺達の方にか向かって急降下、俺はセシリアに抱きかかえられて回避する。
着地と共に爆発、爆風の中から植物の蔓のような物が伸び、セシリアを捕らえようと襲い掛かる。
「エルッ!」
そんな状況なのにセシリアは俺の心配をする、それが愛おしくて、あんな物に触れさせたくなくて、だからだろうか、セシリアとアレの間に無意識に赤色の防壁を張ってセシリアを守った。
「キュー、穿て」
「グルァ!!!!!!」
キューの咆哮と共に圧縮された空気の砲弾が飛ばされ、その砲弾が防壁に当たると同時に防壁は砕け散って散弾となって奴に襲い掛かる。
散弾によって身動きの取れない奴に空気の砲弾が直撃。
本来ならその直撃で後方に大きく吹き飛ばされたであろう奴は後ろに張られた蒼色の防壁に打ち付けられた。
そして即座に四方を奇跡の防壁で囲われた。
「あれは……」
四方を囲まれた上に、恐らくテレサによって投げ込まれたであろう木箱が一つ、それが落下していくのが見えた。
木箱は奴に当たって砕け散り、防壁の中に粉塵が撒き散らされた。
「この匂い……火薬?」
エミリーの呟きと上空から赤く燃える槍が降ってきたのはほぼ同時だった。
燃える槍が粉塵に接触した途端眩い光と共に大爆発を起こした。
爆煙が収まり、倒れた奴の姿。
その姿が灰となって消えた事で俺達はようやく安堵の息をついた。
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奴を倒し、俺達は倒壊した教会を探索し、安全を確保した後、奥へと向かった。
奥は人工物から自然の聖樹の壁に変わり、その真ん中の地面に小さな窪みがあった。
恐らく此処が源だ。
俺とセレーネさん、セラさんが奇跡の力を流し込む。
力は順調に流れていく、これで此処がその源である事が確定した。
それから大凡1分ほど3人で流し続けてようやく窪みの底から水が溢れ出した。
これで時間経過と共に聖樹もあるべき姿を取り戻すだろう。




