第75話 聖樹下層
聖樹・下層街。
聖樹を中心にその周りに作られた街である。
下層と言う名の通り聖樹に作られた街の一番下に位置し中層の支えにもなる為石造りで無骨な形である。
以上が第1市街にて判明した事です。
ちなみに上層は聖樹の枝を利用して作られてるそうだよ。
そして今俺達はその下層街へと足を踏み入れた。
第1市街で見つけた資料に書かれていたように無骨で大きな建物。
上を見上げれば何処までも高く積み上げられており、それによって陽の光は入らず全体的に薄暗い印象がある。
俺達は下に降りる階段前の広場に陣地を設け、増員された人達にここを任せて先へと進む。
少し前に歩けば手で触れられるくらい直ぐそこに聖樹の大木がある。
遠くから見てもデカかったけど近くで見るとその頂点が未だに見えない。
建物がデカくて邪魔というのもあるけど。
「要の地の機能を蘇らせるのは此処では無理か……」
聖樹に触れて軽く奇跡の力を流してみたけれど上手く流れない。
此処ではない何処か、多分だけど上層とかに上手く流れる箇所があるはず。
具体的に言うならエルフの国にある石で小さな囲いが作られていた神秘の泉の源泉みたいな箇所。
かと言って聖樹は巨大だから探すのも苦労するだろうね。
セシリアの為なら幾らでも探せるけど。
「聖樹に直接流しても効果が無い、神秘の泉の源泉のような所を探す必要がある」
ステラ「なら予定通り上層まで行きながら探しましょう、もしかしたら何か手掛かりになる物が見つかるかもしれないわ」
カトリーナ「では当初の予定通り下層の奪還から始めましょうか」
ステラとカトリーナの言葉に頷いた俺達は下層の探索及び奪還を再開。
数こそ少ないがアンコニュが居て何度か戦闘が繰り返される。
戦闘はステラ達からリュミエール隊のお姉さん達が主軸に変わっている。
流石にずっと前衛を戦わせるのも申し訳ないとのこと。
聖樹が近いと言うこともあり、万が一燃え広がる可能性も考慮して火魔法は禁止。
水の槍で貫いたり氷魔法で凍らせて岩石を当てて粉々にしたりなど多様な方法で撃破していく。
建物の破損に付いては多少目を瞑る、建物まで気を付けて戦ってたら流石に厳しいしなんならアンコニュがお構い無しで壊すから気にするのは今更でもある。
聖樹は難しいけど建物とかは幾らでも建て直せるからね。
消費した魔力に付いてはオリヴィアさんが浮かせている植木鉢に入れた神の結晶苗木から魔素が放出されるから問題は無い。
ただ本来の使用方法である地面に突き刺していない為定期的に俺かセレーネさん、セラさんが奇跡の力を流し込まないといけないけど。
ちなみに同じ奇跡を扱えるユースティアやクーデリアでは練度不足なのか流し込んでも意味が無いとのこと。
俺の場合は相性が良すぎて練度不足とか何の問題も関係なく作用するようです。
「ん~~疲れたぁ……」
何度目かの戦闘を終えたフィーユが伸びをしながら此方に歩いてきた。
そして何の躊躇も無く私を抱き寄せた。
「すぅ……」
「当然の様に匂い嗅ぐね……」
「嫌?」
「嫌じゃないよ、けどそんないい匂いしないと思うんだけど」
「エルはいい匂いするよ〜」
そう言って更に強く抱きしめつつ匂いを吸うフィーユ。
フィーユが俺の匂いを嗅ぐ為こうして抱きしめてくるから俺にもフィーユのいい匂いが漂って来るんだよね。胸は大きいから否が応でも当たって柔らかさを感じる。
「最近はセシリアの匂いが強く混じってるけどね」
今度は後ろからそっとエミリーに抱きしめられ当然の様に匂いを嗅いだ後、そう呟いた。
獣人であるエミリーは鼻が効くから本人以外の匂いにも気付く様だ。
「ずっと一緒に居ますから匂いが移ってしまった様ですね♪」
エミリーの言葉を聞いてセシリアは嬉しそうに言った。
満足したフィーユとエミリーが離れたらセシリアが直ぐに傍へとやって来て俺の腕を取って自身の腕を絡めた。
そしてセシリアは俺と腕を絡めたまま進む。
全ての建物の一階部分の探索を終えた俺達は聖樹の中層へと向かう階段を登り上を目指す。
道中久々に手足の長いアンコニュと遭遇したけど外殻持ちに慣れていたステラ達により瞬く間に倒されていった。
「手足の長い奴が現れたから四つ羽根も居るかもね」
「そうだね、居ると思って動いた方が良いかも」
「なるほど……皆、四つ羽根が居るかも知れないから気を引き締めてね!」
俺とサリーネの会話を聞いていたフィーユがリュミエール隊のお姉さん達に伝える。
お姉さん達もその事を聞いて今一度気を引き締め直した。
結果として四つ羽根は現れず、俺達は結構上へと辿り着いた。
「こんな所に広場を作るなんてね」
「丁度良いですね、少し此処で休憩しましょう」
フィーユ「よーし休憩〜!」
カトリーナの言葉に各々が楽な姿勢を取る。
俺達が休む広場は見晴らしも良く周囲の警戒もしやすく、いち早く襲撃に気付けるから確かに休憩を取るには良いかもね。
襲撃に備え簡易的ではあるけど防壁は作っとこう。
「あれは……教会かな?」
防壁を作り終え、皆が休憩する中、周囲を見渡していた俺はある一つの建物が気になりキューちゃんと一緒にそちらへと歩いていく。
無骨な作りの街の広場の隅にある小さな教会と思わしき建物。
その入り口の両隣に剣を地面に突き刺して立つ騎士の像が置かれていた。
「グルァ!!!」
「っ!!!」
「エルッ!!!」
皆が休んでいる所からの距離もそんなに離れてなかったし、セシリアも此方に向かって来ていたから特に気にせず中に入ろうと思った所でキューちゃんに避けろと言われ即座に教会内へと飛び込む。
飛び込んだすぐ後ろから何か硬いものが叩き付けられた音が聞こえ、振り向けば先程まで横で立っていた騎士の像が剣を地面に叩き付けていた。
「騎士の像が動いた……まさかコイツもゴーレム?」
「キュー!」
「えっ、こいつアンコニュなの!?」
騎士姿のアンコニュの1体が教会内に侵入、それと同時に扉が閉まる……え?
「分断された……?」
扉の内と外に1体ずつ騎士姿が居ることからセシリア達も外に居るこいつを倒さなきゃ入ってこれないし、俺もこいつを倒さなきゃ外に出れないと言うこと。
しかも相手は見たことない新種。
ライフルは持ってきていたけど鎧相手に効くかと言われると微妙。
「となるとキューちゃん主軸で戦った方が良いかな?」
「キュー!」
任せろー!と鳴くキューちゃん、頼もしい限りだね。
「一応セレーネさんとセラさんが教えてくれた奇跡を用いた戦闘も出来るけど」
「キュー」
「はーい、了解」
攻撃はキューちゃんがやるから俺は攻撃を避けたりするのに専念すれば良いのね。
「キュー」
どうせセシリア達が圧倒して直ぐに助けに来るから逃げに徹すれば良い、それもそうか。
俺は一対一だけどセシリア達は対多数で有利だからね。
扉の向こうから爆発音やら硬いものがぶつかる音が聞こえることから戦闘が始まった様だ、取り敢えず俺はセシリア達が来るまでなんとか持ち堪えよう。
とは言え此処は教会の中で小さいし長くは逃げられない。
「グルァ」ボッ
さぁどうしようかって考えてた所でキューちゃんが火球を吐いた。
突然の攻撃だったからか騎士姿に直撃した。
攻撃を受けた騎士姿は後退ったものの倒れる事は無く、ゆっくりと此方へと歩み寄る。
あそこまで動きが遅いなら奇跡で束縛出来るのでは……?
「キュー、束縛してみる?」
「キュー」
良いけれど油断を誘う為かも知れないから気をつけろって?了解!
俺は即座に騎士姿の周囲に奇跡で鎖を形成した。
鎖は騎士姿の手足を捕らえその動きを止めることに成功した。
「騎士鎧が重くて早く動けないのか……?」
「エルッ!無事ですか!?」
不思議なほど簡単に捕まった騎士姿、これからどうしようかと言った所でセシリアが扉を魔法で破壊して教会内に入って来た。
そして束縛されている騎士姿を見ると素早くその首に剣を一閃して切り裂き心臓部を貫いた。
斬り裂かれ、抵抗が無くなったのを確認しつつセシリアは騎士姿を火魔法で燃やし尽くした。
「これでよし……エル!」
騎士姿を倒したセシリアはそのまま俺の方に駆け寄ってきた。
「怪我はなし……良かったぁ……」
怪我が無いのを確認しぎゅっと抱きしめるセシリア、その安堵の声を聞き俺はそっとセシリアを抱きしめ返した。
皆と合流した後、俺はセシリアとキューちゃんと一緒に教会内を探索した。
その結果、教会の最奥、祈りを捧げる聖樹を象った石像の更に向こうにある小部屋に水桶とその下に水が流れる様な場所があるのを見つけた。
「水が流れてくるみたいだけど今は枯れてるのかな?」
「神秘の泉と同じく、その源が枯れているのでしょう。恐らくその源が要の地の機能を呼び起こすもので正常に作動すると此処にも水が流れるのではないでしょうか?」
「となるとその源を探せば良いわけだね、流れるって事を考えると上層かな」
要の地の源の手掛かりを手に入れた俺とセシリア、キューちゃんは得た情報を皆に共有して要の地の源を探しながら上を目指した。




