第69話 ビギスト山脈
山崩れの場所にて安全確保の先発隊のステラ達がリュミエール隊のお姉さん達によって山崩れの向こう側へと運ばれ、その後荷馬車が運ばれていく。
そして最後に護衛として残っていたエルフのお姉さん達や俺とセシリアが運ばれていく。
セシリアはフィーユに、俺はエミリーに抱かれて空を飛ぶ。
「ん~~」
俺の胸に顔を埋めながら浮遊して運ぶエミリー。
しかしこんな風に密着状態で前が見えないと危ないだろうから両手で優しく顔を押して離す。
するとエミリーが信じられない物を見たような顔で俺を見る。
「何で引き離すのさ?!」
「なんでって前が見えないと危ないでしょ?」
「ちょっと待って正気?!エルニウムが切れるかもしれないんだよ!?」
「エルニウム?!」
なんか知らない単語が出てきたんだけど。
なにエルニウムって。
「エルニウムは精神を安定させる上で疲労回復とかの効果がある優れものだよ!?まさかご存知ない?!」
「今初めて聞いた……いやちょっと待って理解出来ないんだけど!?」
真面目にエミリーが何を言ってるのか全然分かんないだけど!?
「良いかいエル、此処は空だよ」
混乱してるのかと思ったら急に落ち着いてエミリーが諭すように言ってきた。
「うんそうだね」
現在エミリーに抱かれて空中を浮遊してる訳だし。
「地面から凄く高いんだ」
「そりゃそうだね」
チラッ下を見れば地面はかなり遠く、落ちたら無事では済まないだろう。
「エルニウムが切れたら危ないでしょ?」
「だからエルニウムってなんだよ!!!?」
そんなエミリーとの久々の空の旅は物の数分で終わりを迎えた。
優しく地に降ろされ、荷馬車に乗るためにそちらに向かおうとした時エミリーに手を引かれた。
「どしたの━━━」
「ん……ちゅ……」
両手で頬を掴まれ優しく口付けをされる。
数瞬して解放されエミリーは笑顔を浮かべた。
「よし!エルニウム補給完了!」
「さっきと補給方法が違うんですけど……」
結局エルニウムがなんなのか良く分からないままセシリアと共に荷馬車に乗り出発した。
木々が生い茂る山道を通る事数時間、少し開けた場所に出た。
「丁度良い、此処で昼食を食べようか」
「そうですね、そうしましょう」
カトリーナと話、そう決定した。
有り難い事に近くに川も流れているから水も確保出来る。
俺は昼飯の準備をしようと荷馬車から降りる。
「お兄ちゃぁぁぁぁん!」
「どったの━━」
後ろから聞こえたアルティナの声に振り向くと目の前が真っ暗になると同時に強い衝撃と柔らかさを身体全体で感じ、次いで後頭部に鈍い痛みを感じた。
「コラ、アルティナ!お兄様にそんな激しく飛び付かないでっていつも言ってるでしょ!怪我したらどうするの!?」
「えへへ、ごめんなさ〜い♪」
「反省してないわね……って言うかいつまでお兄様に抱き着いてるのよ!いい加減離れなさい!」
生憎柔らかい何かに押さえつけられ視界が真っ暗で何も見えない。
少ししてレスティナに両肩を掴まれてアルティナが引き離された事で視界は確保出来たが何故かが俺の上から退かない。
「お兄ちゃん!川で遊んできて良い!?」
「コラ!これからお昼なのよ!?」
「良いよ〜昼ご飯出来たら呼んで上げるから遊んでおいで」
「わ~い!お兄ちゃん大好き!」
アルティナは俺の身体を起こし力強く抱擁して川へと遊びに駆けだした。
「お兄様、余りアルティナを甘やかさないでちょうだい……」
「可愛い妹だからついね、ほらレスティナも遊んでらっしゃい」
「むぅ……分かりました」
渋々といった様子でレスティナはアルティナを追って川へと向かった。
それを追うようにエルフの護衛が数名、川の方へと向かう。
「ありがとうね、セシリア」
「いえ、彼女達にも休息は必要ですので気にしないで下さい」
護衛に向かわせたセシリアは当然といった様子でそう告げたが、護衛に付く時点で休息には程遠いだろう。
「相変わらず凄い元気だね、エルの妹ちゃんは」
「元気が良すぎて大変だよ……なんて言うと気を使っちゃうからね。口が裂けても言えないねぇ」
隣に来たフィーユが苦笑いした。
やはり傍から見ても大変だと思うのだろうか。
実際大変ではある、毎回あの勢いを受け止めるのは難しいからね。
けれどあの2人に気を使わせたくはない、あの2人には何の気負いもなく元気に遊んでいてもらいたいから。
だからこそ、頑張るんだ。
「私はお兄ちゃんだからね、妹の事をちゃんと受け止めてあげないとね。それがお兄ちゃんの役目だろうから」
正直もう少し落ち着いて欲しいとは思うのは内緒。その点レスティナは遠慮気味な気がする、もう少し構って上げたほうが良いかな。
その後見張りを交代しつつ全員で食事と休息を取る。
要の地を取り戻しているとは言え、アンコニュが居ない訳では無い。
此処はまだ我々が進軍していない場所なのだから。
「川に行くんですか?」
「うん、セシリアも行こ?」
「ええ、喜んで♪」
昼食を食べ終え再び川へと遊び走っていった妹達の様子も見たいのでセシリアを誘って川へと赴く。
川辺へ着くといつの間にやら水着に着替えていたレスティナとアルティナが2人で水を掛け合ってはしゃいでいるのが見える。
「少し安心したよ」
「何がです?」
「レスティナがああやって年相応に遊べているのを見れてね」
海で遊んだ時は何処か緊張気味で、今みたいにはしゃいでいた訳では無かった。
だから今回こうしてはしゃいでいるのが見れて安心したんだ。
「さて、俺も混じって来ようかな」
「ふふっ行ってらしゃいませ」
「何言ってるの、セシリアも行くんだよ」
「へ?ちょっとエルッ!?」
そのままセシリアの手を引っ張って強引にレスティナとアルティナに混ざった。
最初は驚いていた2人だが俺とセシリアが2人に容赦なく水を掛けると対抗して2人も水を掛け始め、気が付けば4人で楽しく水を掛けたり魔法で水球作ってぶつけたりして遊んでいた。
なおキューちゃんは俺の頭の上に居た為に否応なく水が掛かっていたものの楽しんでいた模様。
その後時間となり荷馬車に戻ったが、水着で遊んでいた妹達と違い普通に服で遊んでずぶ濡れになった俺とセシリアは互いに下着姿で同じ毛布に包まる事になった。
普通別々だと思うんだけどな……いやまぁ嬉しいから黙っておこう。
セシリアと一緒に毛布に包まりながら荷馬車に揺られて進む事数時間。
道の端に看板が立てられていた。
俺とセシリアは互いに着替え外に出る。
看板
【←━━街方面 →聖樹方面】
掠れて読めないけど左が街で右聖樹のようだね。
「聖樹は右のようだね」
「そうだね~」
フィーユとサリーネが看板を見てそう言った。
俺は右側を見る。
木々が生い茂り道という道が無い。
左を見る。
右程ではないが木々が生い茂っていてその間を下る道。
「これ本当に右で合ってる?」
「看板が嘘言うとは思えないけど……」
「けどねぇ……?」
山脈越える為に登るとかなら分かるけど右、道が無いよ?
「ちょっと待ちなさい」
「魔女さん?」
一陣の風が吹き抜け草木を凪いだ。
「やっぱり……草木で見えなくなってたようね」
邪魔な草木が無くなり、道が現れ、その道を進む。
「どんどん登って行くね」
「聖樹って山脈の頂上にあるわけじゃないないわよね?」
「山脈の向こう側と聞いていますから山脈の頂上には無いと思いますが……」
俺の言葉にステラが反応し、その言葉に更にセシリアが答える。
俺も頂上にはないと思うけど。
サリーネ「こうも登ると降りる時が大変そうだよね〜」
「最悪フィーユ達に運んでもらうしかないかなぁ」
「そのくらいお安い御用だよ!」
フィーユは胸を張った。フィーユの大きな胸が揺れた。
「それにしてもアンコニュも全然いないね」
「不思議なくらい居ないよね〜」
この山脈に来てからというもの、麓で戦った鋼鉄鳥以外にアンコニュを見ていないんだよね。
アンコニュですら寄り付かないような場所なのかなんなのか。
それからも周囲を警戒しつつ俺達は山道を登り続ける。
「時間も時間ですし今日はこの辺で1泊しましょう」
日も暮れてきた中、丁度よく開けた場所に出たので此処で一夜過ごす。
翌朝聖樹を目指し再び山脈を登って行く。
そんな俺達の前に道を塞ぐ形で古い要塞が現れた。




