第6話 エルフ救出作戦
ご機嫌よう、ロストです。
私は今、曇り空の下、荒廃し枯れ果てた森の中をセシリア、クランクさん、フィーユ、エミリーと共に歩いています。
フィーユとエミリーとはあれから仲良くなり、呼び捨てで良いことになりました、その方がもっと仲良くなれるからとか言ってました。
故障してた試験機は昨日の夜整備のおっさん達によって修理が終わった。
修理が終わった試験機に乗らなくていいのかって?問題なし。
昨日夕方、俺の代わりに試験機のテストパイロットに名乗り出た奴が居るから。
なんでも「失敗作が乗れるなら俺も乗れるだろ!」って笑いながら若い男が言ったから喜んでテストパイロット交代した。
セシリアやクランクさんは俺専属らしいし、若い男にもどうやら専属のオペレーターがいるらしい、ちなみにベオはと言うと。
Beo《今試験機が危うげに基地を離陸したぞ》
今俺と通信してるから若い男の専属ではない。
ベオが送ってくれた手より少し長細く、薄い板状の通信機。
これがあれば何処でも通信が出来るだとか。
ちなみに整備員のおっさんが言っていた試験機のデータから改良された空中戦闘機の一機が基地の格納庫にて保管された。
誰も運転出来ないから魔法使い達が数名飛んで運んできたけど。
今乗ってる奴が乗れるんだから乗って来いよと思ったけど試験機と違いまだ細かい調整がされてなく危険、あと今現在試験機に乗ってる奴はシミュレーションこそやってたけど俺みたいに実際に乗ったわけじゃないから飛行して墜落し虎の子の空中戦闘機を失うという事を避ける為だそうだよ。
だから空中戦闘機は今おっさん達がゆっくりと整備してる。
そんな中基地を離れゲネシスから西へ、アンコニュに支配された元エルフの国の枯れた森林地帯を何故歩いているか。
それはフィーユ達からエルフの部隊がこの付近の森にてアンコニュに抵抗してると聞いたから皆で救出に向かっているんだ。
上層部には偵察任務と言ってある、だって本当の事言うと絶対許可降りないもん。
抵抗してるエルフの部隊と合流、救出した後は基地へと帰還する。
エルフの国にある【要の地・神秘の泉】の奪還をするには戦力を集める必要があるからまずはエルフの国の各地で抵抗するエルフ達を集め反撃の準備を整えるという流れだ。
ちなみに武装は俺がライフルと短剣、クランクさんが拳銃と直剣でセシリアは魔法を扱えるから直剣のみ。
フィーユとエミリーは主に魔法を使うから武器は無いそうなので一応護身用に拳銃と剣を渡してある。
それぞれの予備弾薬などは俺の背負う大型の背嚢入っている。
「エ━━……ロストは私の後ろに居て下さいね、極力戦闘は避けるように」
危うく俺の本名を言いそうになったのを堪え、偽名を言ったセシリアから遠回しに戦力外通告されました。
まぁこの中で地上での戦闘能力が1番無いの俺だもんね、仕方ないね、ライフルを持ってるけど俺よりクランクさんが持ってた方が良い気がしてきた。
あれ、もしかしてこれ俺が知らないだけで実は荷物持ちだったりする?、このライフルも実はクランクさんが使う為とか。
と言うか俺という存在がそもそもお荷物な気がする、所詮はただの実験の失敗作……ハハッ。
そんな風に考えていたら俺のすぐ目の前を歩いていたセシリアが歩く速度を合わせて俺の隣に来たと思ったら急に優しく頭を撫でてきた。
「気にしないで下さい、ロストはお荷物なんかじゃないですから」
着用する白い外套を風に靡かせながら出会った当初では考えられない程に柔らかく優しい微笑みで頭を撫でる金髪ロングの美少女セシリア。
もうセシリアが俺に睨む事も無いんだろうね、良いことだ。
「そうだよロスト、君の事を悪く言う奴等の言葉なん気にしちゃ駄目だよ」
セシリアの言葉を聞き、後ろを歩いていたフィーユが声を掛けてくれた。
「少し休憩しよっか」
前を歩いていたエミリーが足を止め振り向く、俺達の居た基地はゲネシスの国境付近にあるがそれでもここアンコニュに侵攻された枯れた森林地帯まで2時間ぐらい掛かった。
目的がエルフの救出だから速く助けたいと焦る気持ちもあるけどいざって時に疲れているとこちらが危なくなる事だって十分あり得る。
取り敢えず俺達はエミリーの言った通り少し休息を取ることにした。
俺は倒木を背もたれにして地面に座りセシリアは俺の隣に倒木を椅子にして座り、その反対隣に俺と同じ様に倒木を背もたれにしてクランクさんが座る、そしてフィーユとエミリーは俺の対面に移動し地面に直で座った。
「にしても酷いよね」
フィーユがふとそんな事を漏らした。
何が酷いのか良くわからないから聞こうと思ってフィーユに視線を向ければ何故か俺を見ていた。
え?酷いって俺?何かしたのかな……。
「あっ別にロストが何かした訳じゃないからね?!」
顔に出ていたのか、フィーユが慌ててそう付け加えた。
なんならセシリアが優しく頭撫でてくれた。
「ほらロストの……その……」
余程言いづらい事なのかフィーユは口をもごもごし、両手の指を付けたり離したりし全身がもじもじと落ち着きが無い。
「あの……ロストの悪い噂っていうか話というか……」
「悪い噂?」
「う、うん……大金目当てに家族を捨ててまで実験を受けた失敗作って話……」
「……」
これまた懐かしい話が出てきたよ。
1年前に捏造され広められた話。
あの話のお陰で笑われる日々を過ごしたものだ、今の基地は有り難いことにそんな話を聞いても馬鹿にする奴は居ない……一人いたな……。
けどあの話がまさか国外にまで届いてるとは思わなかったけど。
「私達もそれを鵜呑みにしてたけど、救援に駆け付けた君が、誰よりも先に敵を見つけ一人で敵に向かった君がそんな人間とは到底思えなかった、実際こうして会って話をしてそれは確信に変わったよ、それに」
フィーユは一度そこで区切り呼吸を整える。
外れた視線は地面を見つめ、そして再び俺を捉える、その表情は何処までも優しく微笑んでいた。
「もし君が上層部の様に腐った人間なら危険な戦闘行動を一人でする筈が無いもの」
それもそうか、上層部の様に自分の事だけ考えている者なら魔法使い達に戦闘を任せ自分は安全域から高みの見物、危なくなれば全速力で逃げるだろう。
【自分が死ぬ迄、自分が楽しく過ごせれば後は知らんって感じ】
以前クランクさんがそう言っていたように。
「この音は……」
ふとエミリーさんがそう呟く、その耳はぴょこぴょこと忙しなく動いており今尚音の発生源を探っているのだろう。
それから数秒後に風切り音が聞こえ、空を見上げればふらふらと試験機が飛んで行った。
「危なっ、試験飛行なら基地周辺ですればいいのに」
Beo《功を急いたのか、はたまた自分の能力を過信したか》
胸ポケットに入れておいた通信機からベオの機械音声が聞こえる。
試験飛行のみならず初飛行で実戦を行うつもりなのだろうか。
休息も程々に俺達はフィーユ達から聞いたエルフの部隊が居るであろう場所を目指し進む。
程無くして金属音や爆発音などが聞こえてきて俺達は音のする方へ駆ける。
なおセシリアは俺を前に出させないよう俺の前を塞ぐように走っている。
「アンコニュ複数!エルフ達の援護に入るぞ!」
「「「「了解!」」」」
「坊主はセシリアの後ろに居ろ!」
返事をしたらクランクさんにそう言われた、余程前に出したくない様です。
まぁ自分が同じ立場なら全く同じ命令出すけど。
取り敢えず背負っていたライフルを両手で保持しつつセシリアの後ろに付く。
しれっと物陰から撃とうとするとニッコリ満面の笑みを浮かべたセシリアが手を掴んできます、無茶苦茶力が込められていて痛いです。
なんなら一部始終を見ていたフィーユやエミリーも近くに寄ってきた、3人揃って笑顔で圧駆けるのやめて……やっぱりお荷物じゃないかっ!
なおクランクさんは呆れた顔をしてました。
「姫様っ!!」
鎧とマントを着た一人のエルフの女騎士がセシリアをそう呼びながら駆け付けてきた、姫様と女性が一度は呼ばれたいであろう呼ばれ方をしたセシリアは……何故に無表情?
「エル、違います、これには━━━」
「セシリアのTacticalネームでしょ?」
自身が呼ばれたい名前をTacticalネームした、流石はセシリアだ。
そうすれば限定的ではあるが確かに姫様と呼ばれる。
そう思って言ったけどセシリアは何とも言えない顔をしていた。
「お前達!姫様が味方を引き連れ戻ってきたぞ!」
そんなセシリアを他所に駆け付けた女騎士は大声で他のエルフに伝える、すると他のエルフ達は此方を視認した後大きく鬨の声を上げた。
セシリアの存在だけで士気がこれ程上るのは凄いな。
士気が上がったは良いが此方はセシリア含め全員で5名だけ、援軍にしては心許ないから少し申し訳なく思えてくる。
今なおアンコニュとの戦闘は続いている、俺は他の騎士と話しているセシリアから離れエルフの陣地の奥へと向かう。
何故向かうか、それは微かに漂う血の匂い、負傷者がいるのだろう。
俺の背負う大型背嚢には傷薬なども入っているから負傷者の手当の助けになるはずだ。
設置された天幕の中へ入れば多くのエルフが血を流し、それに対して数名のエルフが手当てをしている。
何処からどう見ても手が足りてないし薬だって不足してる。
「これを!」
「人間っ?!いや、助かる!」
治療するエルフの女性に血止めの塗り薬を渡す。
エルフの女性は驚いたものの直ぐに気を取り直し薬を受け取り患者への対応に戻る。
「包帯など幾つか置いときますよ!」
「ありがとう!助かるわ!」
知識のない俺が手伝った所で邪魔なだけ、持ってきた包帯や薬を置いて声を掛けた後天幕から出る。
来た時に居た場所に戻ればセシリアや他のエルフが数名慌てて何かを探していた。
「何探してるの?」
「エルよ!エルが何処にも━━━は?」
必死に周辺をキョロキョロと探していたセシリアに声を掛ければ慌てた声音で返事をしたかと思えばピタリと動きを止め、此方に振り向いた。
振り向いたセシリアの表情は真顔で、綺麗な碧目が俺を捉え━━━━━。
「イッタタタタ?!?!!?!?」
「勝手に何処か行かないでください!この大馬鹿者ぉ!!!!」
セシリアの右手が俺の顔を鷲掴みし強烈に力を込める。
気の所為だろうか、なんかミシミシ言ってるんだけどどう考えてもこれ駄目な奴だよね?!
「すいませんごめんなさい許してぇ?!頭が割れちゃうぅぅぅぅぅ!?!」
セシリアのアイアンクローから解放され俺を手分けして探していたフィーユ達と合流、滅茶苦茶に叱られたのは言うまでもないだろう。
そうしてセシリアの傍を離れられなくなったものの他のエルフ達と共にアンコニュの迎撃戦を開始。
エルフの陣地内に入り込んだアンコニュを始末し俺達はエルフが構築した防壁に身を潜め、持ってきた銃や魔法による遠距離戦を仕掛けていた。
しかしアンコニュの数が異常に多く、その数が減る様には見えない。
倒したらアンコニュがその空いた穴を埋めるように後方から現れる、幸いな事に一定の距離を越えて此方に来ることは今の所無い。
「弾薬あります?」
「もう殆ど無いな……」
クランクさんに確認した所、弾薬も残り少ないらしく、このままでは弾薬が尽きて此方がやられるだろう。
逃げようにも背中を見せるのは危険、それに負傷者だって居る。
負傷者を置いて動ける奴だけで避難……?冗談じゃない、助かる命を見捨てる意味なんかない。
これはセシリア達が国を、故郷を取り戻す大事な一歩なんだ、誰一人として死なせる訳には行かない……。
だが負傷者を連れて基地へと行く時間をどうやって稼ぐ━━━
そうか、時間稼ぎか……。
手元のライフルの弾薬を確認、弾薬はまだ数発ある。
「弾薬よし……クランクさん」
「どうした坊主」
「負傷者は動けるエルフの人達が運び、鼻の利くエミリーを先頭にして基地を目指して下さい」
防壁に背を預けるクランクさんにそう告げつつ俺はライフルを背負う。
俺の言葉を聞いたクランクさんは直ぐにエミリーとフィーユに話、2人は近くにいるエルフ達を引き連れ負傷者の居る天幕へと走って向かって行ったのを確認した。
ちらりと隣のセシリアを見れば覚悟を決めた様な顔付きになっていた、きっと俺の考えを理解したんだろうけどセシリアにその必要は無い。
さて。
「ちょっエルっ?!……んっ」
最期に女性の胸揉んでみたかったから申し訳ないけどセシリアの服に手を滑り込ませその胸を問答無用で揉んだ。
「クランク特務官、後は頼みます」
「ま、まて坊主っ……クソッ!」
1揉み2揉みして堪能した後、セシリアの胸から手を離し、クランク特務官に大型背嚢を投げ渡し、後を託して俺は防壁に手を付いて乗り越えアンコニュへと駆ける。
セシリア達が基地へと安全に撤退出来るまでは粘ってみせるっ。
「は、離してくださいっ!エルがっ!」
「坊主の意思を無駄にするな!このまま全員残れば全滅なんだっ!坊主!補給して直ぐに助けに戻る!必ず生き残れ!!!」
「離してっ、離してっ!エルっ!エルゥ!!!」
クランク特務官に抱えられながら叫ぶセシリア、その大声は次第に聞こえなくなっていった。
背負っていたライフルを両手で保持し狙いを定めて引き金を引いて弾丸を発射、直ぐ様ボルトを手動で操作し弾薬の排出と装填を行い射撃する。
そうして即弾丸を全て使い切ったらライフルを再び背負い、短剣を抜く。
「悪いけどしばらく俺と踊って貰うよ!」
言葉が通じるとは思わないけど、それだけは言っておきたかった。
セシリア達が安全に撤退出来るように30 分位は時間稼ぎしなきゃね!
かと言って接近戦でセシリアに勝てない俺がアンコニュ相手に接近戦は危険な気がする。
腕の部分が長い奴もいれば足やら胴体やらが長いのもいる。
形は不形で全員バラバラ、異形と呼ばれるだけあるわ。
中には空で相手してやった四つ羽根のアンコニュもいる。
腕や足が長いやつによる薙ぎ払い、四つ羽根の光線を避けながら、時には掠りながら接近して1体ずつ確実に仕留めていく。
身体は自分と相手の血で徐々に赤く染まり、掠り傷が痛み動きが鈍くなる中必死に食らいつく。
10分、15分と時は過ぎていくが俺にはそれが永遠の様に長く感じる。
必死になりすぎてか、空で感じた死の恐怖は未だに訪れてない事だけが救いだろう。
今あの恐怖に囚われたら動けず死に至るだろうから。
20分、25分と経過していく中、最悪な事態に陥る。
パキン━━━
「クソッ!」
短剣が限界を迎え折れた。
俺の持ってきた短剣は上層部から与えられた不良品、遅かれ早かれこうなる運命。
高品質の物はセシリアやエミリー達に渡したから無かったし仕方ないね。
もし生きて帰れたらまた叱られそうだなぁ。
背負っていたライフルを両手で持ってフルスイングし手長のアンコニュを殴り倒す。
だがそれは用途外使用、そんなに長持ちする筈もなくライフルも無惨に折れる。
「がっあ、ア゛ア━━━━━━!?」
そして抵抗する手段を失った俺の腹を手長のアンコニュが手を鋭く尖らせた形に変形させ貫いた。
貫かれたことで激痛が迸る、なんとか抜き取ろうと両手で抜こうとするもびくともしない。
アンコニュはそのままその場で一回転し勢いを付けて俺を投げ飛ばした。
腹部を貫いていた手は簡単に抜け俺は成すすべ無く吹き飛び枯れた木に身体が打ち付けられた。
「いた、い……よ……」
貫かれた腹部が、打ち付けられた背中が痛い。
口からはとめどなく血が流れ地面に血溜まりを作る。
アンコニュはゆっくりと俺に近付いてきていた。
「は、はは……所、詮は……失敗、作か……」
勝てるはずもなくこうして地に伏せている、失敗作にはお似合いかな。
でも時間稼ぎは成功したよね?
生まれ変われたらもっといい人生生きたいな……。
振るわれるアンコニュの手、俺はそっと瞳を閉じる。
どうかセシリア達が幸せになりますように。
「でも……死にたくないなぁ……」
「私のエルに触らないで」
死を覚悟したらそんな女性の声が聞こえた。
次いで身体中から痛みが引いていき、暖かさに包まれる。
ゆっくりと瞳を開く。
「もう大丈夫よエル」
白い外套を着た長い蒼い髪、蒼い瞳の綺麗な女性がそこにいた。
「もう少し寝てても大丈夫よ、私が家まで送って行くから」
蒼い髪の女性はそう言うと俺の身体を横に抱き上げその場から逃走をした。
「ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
女性に助けられたからお礼を言えば女性は見惚れてしまう程の笑顔を向けて来た。
その顔に見惚れてジッと見つめてしまった。
「私の顔に何か付いてる?」
「あ、いえ、なにも……」
急いで顔を背ける、彼女から小さい笑い声が聞こえた気がした。
それから何度か休憩を挟みながら2時間程走っただろうか、試験機の風切り音が聞こえ空を見上げる。
すると上空で試験機が大量のアンコニュに襲われながら基地に向かっていったのが見えた。
「不味いわね、少し急ぎましょうか」
一緒に見ていた女性も非常事態と捉えたのか、俺を強く抱き締めた後、基地に向かって急いで駆けた。
セシリア達が無事でありますよう……。




