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Combat・ with・The・unknown  作者: 唯ノ蒼月
第6章 エルの悪夢

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第55話 記憶の海

セシリアSide


離していない。


離していないのにエルは黒い靄によって私の手からすり抜け地面へと落下、地面に激突する事もなくそのまま黒い靄の中へと落ちていってしまいました。

この黒い靄が私の腕を透過しエルを深みへと連れて行ってしまった。


「ッ……エ゛……ル゛……!」


束の間、動かなかった赤毛の獣が再び動き出し、両腕を使って身体を引き摺りながらも素早く黒い靄へと接近し、エルと同じく深みへと落ちていきました。


「私達も行きますよっ!」


意を決して私達もエルと赤毛の獣の後を追い深みへと身を投じます。




真っ暗な空間をただひたすら下へと落ちる。

周囲を見渡しても誰も居ない。

先に落ちたエルも、赤毛の獣も、私と一緒に落ちたステラやエミリー、セラさんの姿さえも見当たらない。


完全な孤独。


そんな状況下で私は身体に水が纏わりつく様な感触を感じ、寂しさと不安を覚え、ですが成す術も無くただ暗い深みへと落ち続けていきます。



〈聞こえるかしら〉


「セレーネ……様……」


孤独に苛まれていた私にセレーネ様の声が届いた。

たった1人で何も出来ないこの状況下で誰かの声が聞こえる事で救われる。


ああ、エルと初めて会った夜もそうでしたね。

貴方はたった1人、朽ちていくしか出来なかった私の手を取ってくれた。


「セレーネ様、ステラ達が居ないんです」


〈大丈夫よ、全員ちゃんと確認出来てるから。今貴女達は記憶を見ているのよ〉


「記憶……ですか?」


〈ここはエルの精神の奥深く。恐らくだけど赤毛の獣が倒れたことでエルと赤毛の獣の均衡が崩れて主導権がエルに変わったのでしょう。それによって貴女達はエルの奥深くに眠る記憶を見ているのよ。差し詰め記憶の海とでも言いましょうか〉


セレーネ様の言葉に反応するかのように深みの底から泡沫が浮かび上がりました。


その一つ一つにエルの失った記憶、恐らくその魂に刻まれた記憶の静止画がありました。


私は試しにその1つに触れると泡沫が弾け、等身大となった記憶の静止画が目の前で動き出しました。



幼いエルと一緒に荷馬車に乗る若い男女。

恐らくですが夫婦でありエルの本当の両親なのでしょう。

見慣れたフライトスーツなどでは無く、市民が着る様な服を着て家で母と父と一緒にパンを焼くエル。

その姿はとても小さく、可愛かったです。

本当に仲の良い家族で幸せな日々を過ごしているのが分かります。


ですがそんな幸せの日々は終わりを向かえました。


『エルッ━━逃げ━━』


記憶の中の両親が叫ぶ。

賊が荷馬車を襲い、両親が亡くなりました。

エルは壊れた荷馬車に挟まれ身動きが取れなくなりましたが不幸中の幸いか、賊から姿が見えなくなった事で生き永らえたのでした。


その後通り掛かったエルの義父ガーベッジ・ヴァルドリンが薄ら笑いを浮かべてエルを雑に抱き上げ歩いていきました。


どうやらこのクズはエルを狙っていたようで、賊の襲撃すらも仕込んでいたようです。



エルはレスティナ達と楽しく過ごしていた。

父と母から教えてもらったパンを焼いて3人で仲良く食べていたり、遊んだり、レスティナ達が笑うから、つられてエルも笑ったりしていました。

またエルは常にレスティナ達を気に掛け、危ない事などから守っていました。



そしてエルがガーベッジによって過激派に売り払われた日がきました。


それから悪夢が始まります。



神の再誕計画の実験体とされたエルはボロ衣1枚を着て鉄格子の向こう側に佇みます。

毎食出されるのも固いパン1つと水が少し。

自由はない。


目まぐるしく変わる場面。


椅子に座らされ、抵抗出来ないように四肢を固定され薬を投薬される。

それは神の血に馴染ませる為にエルの身体を作り替える悍ましい行為でした。


毎日少しずつ、少しずつ投薬され、内側が作り替えられる。

そしてそのデータを基にまた新たな薬を投薬する。

ただ見た目が変わるわけではない事だけが救い。


決して日の光が届かない、蝋燭の灯りだけの薄暗い室内で延々と行われる非道。


そんな実験が繰り返される、ある日、それは起こりました。


「エルの記憶が……」


エルが自分の事も今までの事すらも徐々に忘れていく、その事に気付いたエルは頭を抑えて乱れますが止めることは出来ません。


投薬が行われる度に忘れていくエル、助けは来ない。


〈なんて酷い事……〉


セレーネ様が呟かれた。

恐らく無意識に。

それ程までに幼いエルに対して行われた惨すぎる行為。


父と母の名前から始まり、レスティナ達の名前、声、香り、顔、遊んでいた記憶、過ごしていた記憶、そして遂には自分の事も消えてしまった。


投薬によって何度も、何度も楽しい記憶が、全て黒く塗りつぶされていく。


家族や自身が消えていくことに苦しむエル。


無垢を汚され、どす黒い色へと塗り替えられていく。



『後はこの神血を与えれば……そうすれば最後の実験が終わる』


実験が最終段階になったらしい。


蝋燭の明かりのみの暗いその場所。

石の台に白い布が引かれその上にエルが寝かせられている。

エルを囲む白装束達の内の1人が正気を失いただ虚空を見つめるエルから血を抜き取り、その腕に付けられた細い管から抜き取った分だけ別の血を入れる。

恐らくこの血こそが神血と呼ばれる他の神々の血なのでしょう。


『さぁ……我らが神よ……我らに神の奇跡を与えたまえ……』


周囲の白装束達全員が手を上へと翳す、その様子はまるでエルを生贄に捧げているようで不快な気持ちとなります。


しかし特に何かが起こる事はなく、ただエルが徐々に弱っていくだけでした。



『何も起こせぬのか』


『とんだ失敗作である』


『この研究に費やした費用、決して安くはないのだぞこの出来損ない!!!』


何も分からないままただ弱っていくエルに浴びせられる罵詈雑言、それだけに留まらずエルの小さな身体に手や足が容赦なく浴びせられる。

その光景に怒りが湧いてきますが耐えて見続ける。


『回復すらも出来ぬとは』


『これでは盾にすらならぬ』


『どうするのだこの失敗作は』


『廃棄処分で良かろう……いや、新たに捕まえた小娘共の牢に放り込み逆らったらどうなるかと言う見せしめにすれば良い』


そうして石の台から雑に抱えられたエルは白装束に運ばれまた牢に放り込まれました。


その牢の中には何人もの子供が居ます。

よく見ると幼いステラとサリーネが居ますね、3人が出会ったというのは此処の事でしたか。


「え……」


今まで小さくでしたが確かに呼吸していたエルの呼吸が止まりました。


「う……嘘ですよね……」


あり得ない……だってエルは私を助けてくれて……


けれど確かにエルは息絶えています。


そんな時、小さな赤い奇跡の光が息絶えた幼きエルの口の中へと入っていきました。


『ごほっ』


そしてその命が息を吹き返したのでした。


「良かった……」


分かっていてもやはりホッとします。


そしてこの先がステラ達がエルを命の恩人と言う出来事なのですね。



見た感じ此処は表向きは賊の隠れ家なのですね、過激派が賊の拠点と食料等を提供する代わりに賊は過激派の為に人を攫い捕まえてくると。


捕まっていた子達が減っていく中、エルはステラ達と毛布に包まったり、パンを分け合ったりして生き延びます。


そして密告された賊の頭が最後にとステラ達を襲い助けに入ったエルが此処で半殺しにされ左目に残る傷跡を付けられたと……。


恐らくこの件がステラ達が強くなろうと思った件なのでしょうね。


追憶は此処までのようで、目の前に映る記憶の映像が泡沫となって消えました。



記憶が霧散し目の前にエルと赤毛の獣が立っていました。


私と目が合ったエルは微笑み軽く手を降ってくれました。

そして直ぐに赤毛の獣と向き合いました。


「貴女も、助けてくれてありがとう」


「ア、アァ……」


エルは赤毛の獣の額に口付けを施しました。

口付けを受けた赤毛の獣は目を細め、光の粒子となって消えていきます。


その表情が微笑んでいるように見えてなりませんでした。
























━━━いつか、私を殺して(私の下へ来て)


「約束します」


消える瞬間、2人は確かに笑い合いました。




エルの夢が終わりを迎えるのか次第に私の意識も遠のいていきました。





「ん……」


目が覚めた、何かに抱き着いていたみたいです。

ゆっくりと身体を起こし顔を上げれば安らかに眠るエルの顔が目に入りました。


「っ━━━━━」


どうやら私はエルの腹部に顔を押し付けて眠ってしまっていたようです、同じベッドとはいえステラとエミリーはエルの隣で眠っていて私のようにしっかりと密着している訳ではありません。


ちなみにセラさんは正座し、自身の太腿の上にエルの頭を乗せて眠っていました。

事が終わったからなのか周囲に私達以外の姿もありませんでした。


私は顔を再びエルの腹部へと押し当て、エルを助け現実へと戻って来れた事を実感します。


「無事に帰ってこれたのですね……」


「そうだね〜」


「っ!?エ、エル起きてたのですか!?」


不意に声を掛けられ顔を離すも伸ばされたエルの両手が私の頭を優しく押さえそのまま腹部へと押し戻します。


「しー……皆が起きちゃうから、ね?」


「わ、わかり、ました」


エルが寝てるものと思って行ったこの行動、まさか起きてるとは思わなく今凄く恥ずかしいです。


「もう少しだけ寝てても良いよ、あ〜でも」


「な、なん━━ひゃっ!?」


頭から手が離れたかと思えば私の両脇の下から背中に手を回されそのまま引き上げられ目の前にエルの顔が……ち、近いですっ!?


「セシリアは、こっちの方が好きかな……?」


何処となくふにゃふにゃしたエル、普段の行動から考えられない事からまさか寝惚けて……?


私が何か言う前にぎゅっと抱きしめてくるエル。


「ほんとうに……ありが、とう」


「エ、エル?」


「すぅ……すぅ……」


本当に寝惚けていたようでエルは私を抱きしめたまま寝息を立てて眠ってしまいました。

私も戸惑いながらも今のこの状態が心地良く、直ぐに眠気に襲われたのでそのまま眠りにつくことにしました。




余談ですが起きた後、どうやらエルがこの事を覚えていたようで顔を赤くしていたのがとても可愛かったです♡

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