第51話 セシリアの気持ち
ディヴィニティ級戦艦の艦橋。
そこに居る船員の中に1人だけ場にそぐわぬ金の装飾が施された白装束を着用した男が居た。
「ぐふふ…もうすぐあのエルフの美姫が手に入る」
この男こそ、セシリアと婚約をした男である。
男は婚姻届と書かれた紙を持ちながら気色悪い笑い声を上げる。
「セシリア・フォン・セレスティアの姿を確認」
「な、なに!?は、早く見せろ!」
船員の1人がセシリアを見つけそれに反応した男が命令すれば艦橋のモニターにセシリアの姿が映し出される。
整った綺麗な顔立ち、綺麗な碧い瞳。
胸元が露出された緑色の服に丈の短い白いスカート。金色の長い髪を風に靡かせ、周囲に護衛と思わしき黒いローブを着た複数の人物と共にゲネシスとエルフの国の国境、その森の前にて姿を現し立っていた。
「おぉ…あれがエルフの美姫…なんと美しいことか…ぐふふ…あれが私の妻に…」
男は知らない。
セシリアが此処に現れた理由は結婚の為ではなく、婚約破棄であり、そして戦争を再開する為だと。
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セシリアSide
初めてエルに会った時。
ゲネシスの部隊に編入され私は焦る気持ちを抑え、やる気も無くただ木剣で素振りをしていましたっけ。
最初は『エルフちゃん』と呼ばれてましたね。
訓練場で会った時に『上層部が居るから、もう少しちゃんとやろう』と言われて。
私は『貴方よりはちゃんとしてますよ』と言い返したんですよね、今思えば本当に冷たかったと思います。
それでもエルは『他の人と模擬戦はしないの?』と話し掛け続け、私は『する必要もないので、もう良いですか、時間の無駄なので』と突き放したんでしたか。
あの時は兎に角祖国への救援を求めていて慌てていました、だからエルに突き放す様な態度を取ってしまいましたがエルは気にした様子すら見せず私の口に一口サイズのチョコを突っ込みその場を離れたんですよね。
『変な人』
それが私がエルに抱いた印象でした。
当時の私に話し掛けてくる様な人は本当に少なく、居ても身体目当てが多かったです。
所詮は滅びた国の王女、見捨てられていたのでしょう。
ゲネシスの部隊編入も『助ける代わりに我が国の兵となり部隊に入れ』というものでしたし、そのままゲネシスを防衛する兵として使い潰すつもりだったのでしょうね。
当初は約束が反故される事無く果たされると思っていましたが。
さらに私に部屋は与えられず野宿、凍えるような寒さの中で自身の不甲斐なさを思い知り、祖国を奪還するどころかこのまま凍えて死ぬのだろうと、そう思いました。
けれどエルは何も無い私に何も求めず救いの手を差し伸べてくれました。
寒さに凍えて丸まっていた私の手を取り自身の部屋へと迎え入れてくれたのです。
私を毛布に包まらせ、暖房器具の傍まで連れて行き更にはホットミルクまで差し出してくれました。
手を出されても仕方ないと思っていましたが彼は手を出すどころか私を安心させる為に少し離れた所で眠りに就いてました。
それから私はエルの近くで一緒に訓練をした、私も彼もどうやら彼処で疎まれていた様なので誰も寄ってきませんでしたね。
木剣を振り、腕立て、腹筋、背筋、スクワット、そして走り込み。
祖国の奪還には一歩と近付かない中、けれど不思議と充実した日々ではありました。
そんな日々を過ごしたある日、彼の眠りが浅い事に気付きました。
どうやら過去に何か合ったようで人が居ると眠りに付けないようで、そんな中でさえエルは私を助けてくれました。
そして1年の月日が経ち、ベオが裏で手を回して私とエルを同じ部隊に編入してくれました。
当時はクランクさんが編入してくれたと思ってましたが。
前例のない実験の部隊、祖国奪還など夢のまた夢でしたがそれでもエルが居てくれるだけで当時は心強かったです。
何度かに渡る試験飛行の任務を繰り返す。
そんなある日、エルフの国の荒れた森で抵抗する同胞達を救う為にわざわざ偵察任務と称してその森にまで同行してくれた上、同胞達を基地へと連れて帰り祖国奪還の為の力を蓄えさせてくれました。
撤退時に服の中に手を入れて胸を揉んできた時は驚きましたが、その後1人で囮になったのを見て気が気ではありませんでした……。
結果として無事……血だらけでしたけど無事に帰ってきてくれたので良しとしましょう。
それから私は同胞を、エルは戦闘機隊を率いることとなりました。
そして月日は流れ遂に祖国奪還、エルフの国の解放作戦が始まりました。
やっと悲願が達成出来る。
けれど現実は非常で、アンコニュの激しい抵抗を前に私達の仲間は次々と倒れていきました。
そして空の部隊が撤退し始める、それは私達地上部隊からすると絶望的でした。
手の届かない空から一方的に攻撃されるわけですから。
神秘の泉を、王城を目の前に私はここまでなんだと覚悟を決めました。
そんな時に彼が、エルが再び助けに来ました。
命令違反をしてまで来た彼、そんな彼をいつからか目で追っていました。
いつからだったでしょうか、祖国の奪還?それともその前?覚えてはいません。
けれどこれだけははっきりと分かりました。
一緒に居たいと思う人だって。
年老いても、隣で笑い合っていたいとそう思える人だって。
ああ、きっとこれが【恋】なのでしょう。
今なら言い切れます。
私は艦橋に居る【敵】に大声で告げる。
「私には想い人が居ます。だから貴方とは結婚する気はありません!」
《なっ?!》
相手が驚きますが構わず続けます。
「私は!私、セシリア・フォン・セレスティアはエル・ヴァルドリンを愛しています!!!」
誰が貴方の様な人の妻になどなるものですかっ!
そう言うと同時に相手の居る艦橋に上空から魔力の塊が直撃し、艦橋を破壊しました。
「え……」
上空へと目を向け、それに気付きました。
月女神のエンブレムが施された試作機。
《助けに来たよ、セシリア》
「ぇ……エル……?」
Eru《おはよ、セシリア》
あぁ、その声、間違いない、エルです。
また、助けに来てくれたんですね。
「馬鹿……起きるのが遅いですよ……!」
「セレーネ様に確認してみたけど、どうやら本当にセシリアを救う為に目を覚ましたみたいだよ」
私と護衛として紛れ込んでいたフィーユがそう言いました。
この3ヶ月、魘されているだけで決して目を覚ますことのなかったエルが私を助けに行く為だけに目を覚ました。
本当なら怒らなきゃいけないでしょう。
彼は3ヶ月も寝たきりだったのですから、無茶をするなと。
そう言わなければいけない。
けれどフィーユにそう聞かされた私の心は奥底から暖かいものが湧き上がるの感じていました。
私は今━━━━幸せです━━━
「羨ましいなぁ……じゃ、行こっか♪」
「行くって何処へ━━きゃぁぁぁぁ!?ちょっとフィーユ!胸っ!胸掴んでますよ!?」
フィーユは背後から私の脇下に腕を通し胸を鷲掴みして空へと上がりました。
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エルSide
Celestria《きゃぁぁぁぁ!?ちょっとフィーユ!胸っ!胸掴んでますよ!?》
セシリアの悲鳴が聞こえたから何事かと思ったらフィーユがセシリアを連れて空に上がってきていた。どうやら掴んだ所が胸だったらしくセシリアがビックリしたみたいだね。
Celestria《というか私スカートなんですよ!?下着見えちゃうじゃないですか!!!》
fille《この状況で君の下着見る奴なんて居ないでしょ、それとも見られたかった?とんだ痴女だね》
Celestria《あ、貴女だってピンク色で素肌が見えちゃうくらい薄い下着着てるじゃないですか!》
fille《ねぇぇぇぇぇぇ!!!言わないでよ!!!!》
「あの〜通信で全部聞こえてるんだけど……」
fille《大丈夫だよ〜》
Celestria《エルとしか通信繋いでいませんので》
「何も大丈夫じゃ無い気がするんだけど……!?」
fille《細かい事は置いといて。お姫様をお届けに上がったよ〜》
フィーユに胸を鷲掴みされながら届けられたセシリアをコックピットを開けて急いで迎え入れる。
だってフィーユが俺より少し上を陣取ってるせいでセシリアの下着が丸見えなんだもん。
その事に気付いてるセシリアは耳まで真っ赤だし。
今の試作2型は1人乗り仕様で後部座席は無い、その為セシリアは俺の邪魔にならない様に気を付けつつ向かい合う形で俺の膝上に座った。
「あ、汗かいているので……嗅がないで下さいね……」
「この距離じゃ無理だよ、いい匂いだし気にしないで━━」
「嗅がないで下さいって言いましたよね?」
「いひゃい、あひゃまるからほっへからてぇはなしへ」(痛い、謝るからほっぺから手離して)
「まったく……」
ほっぺを抓るのは止めたもののセシリアの両手は未だに俺の頬に触れたまま。
どうしたのだろうと思っていたらセシリアの顔が近付いてきた。
唇に柔らかな感触。
僅か数秒の接吻はセシリアが再び顔を離した事で終わりを迎えた。
「もう一度、面と向かってちゃんと言いますね」
「う、うん」
「愛してます、エル」
頬を染めつつもそう言ったセシリアの顔は、どこまでも綺麗な笑顔だった。
「キュー」
「へ……?キュ、キューちゃん!?居たんですか!?」
俺の首元から顔を出したキューちゃんに気付きセシリアは驚きの声を上げた。
「うん、キューちゃんにお願いして試作機の所まで先導してもらったから」
「本当に仲良しですね」
〘楽しそうな所申し訳ありませんが敵です〙
「っ!」
「きゃっ」
ココからの通信を聞いて我に返り、急いで操縦桿を握り直して試作2型を加速させる。
声を上げたセシリアは俺にもたれ掛かる、それによってセシリアの胸の柔らかさを感じるが今は気にしている場合ではない。
試作2型の周囲を幾つもの光線が通り過ぎて行く、恐らくディヴィニティ級戦艦の護衛機のライフルによる攻撃だろう。
「セシリア、身体強化をしてしっかり掴まってて」
「はい」
セシリアは即座に自分自身に身体強化を施し俺ごと椅子に掴まって身体を固定した。
《━━地上は良い!月女神のエンブレムを落とせ!》
《ですがあれにエルフの姫君が━━》
《婚約を破棄され戦争は再開された!今更無理に手に入れる必要は最早ない!落とせ!!》
通信から相手の声が響く、どうやらセシリア諸共落としに来るようだ。
何体かがスラスターを吹かして高度を上げた時、その内の一機がエルフの国の方から飛来した光線が直撃し撃破された。
Restina《兄さんはやらせない》
修理を施したイニーツィオを駆り、妹が援護射撃を行ったようだ。
「頼もしい妹さんですね」
「うん、自慢の妹達だよ」
《たかが2機!さっさと落と━━》
突如飛来したミサイルが直撃したことで人型の指揮官機は爆発し、通信が途切れる。
ミサイルはまたもやエルフの国から飛来した、見てみれば5つの機影が此方に向かって来ていた。
Kudelia《遅れました、これよりバナール1を援護します。バナール2交戦》
james《バナール隊の復活パーティーをここで挙げようぜ!バナール3交戦!》
Sofie《行くよー!バナール4交戦!!》
Victoria《援護をする……!バナール5交戦!》
Teresa《復活の祝砲です受け取って下さいね♪バナール6交戦!》
5機の一式の魔力砲が一隻のディヴィニティ級戦艦に襲い掛かった。
5つの魔力砲に包まれたディヴィニティ級戦艦は成す術無く、爆発を起こして地へと沈んだ。
残るディヴィニティ級は俺が艦橋を潰した一隻のみ。
《婚約を破棄してただで済むと思っているのか……!エルフの国は滅ぶぞ……!》
「何言ってるんですか、私は最初から婚約などしていません、婚約書にもサインはしていないですよ。本国に確認してみては如何でしょう」
敵から通信が来たがセシリアは気にした様子もなく淡々とそう返した。
Crank《このまま押し切るぞ。全機必ず生きて帰れ》
banalTeam《了解》
Restina《分かりました》
Altina《うん、分かった!》
「了解」
俺達は残りの人型とディヴィニティ級の殲滅に取り掛かる。
人型の相手をクーデリア達に任せ俺はディヴィニティ級へと迫る。
まずは一番の脅威である艦首の魔力収束砲の破壊。
魔力砲をチャージしつつディヴィニティ級の真上から艦首目掛けて急降下を始める。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「エルッ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫っ」
息が漏れ、肉体が悲鳴を上げている。
異変に気付いたセシリアが声を掛けてきたので心配させないよう意地を張る。
ディヴィニティ級から迎撃のミサイルが放たれるがそれはアルティナ達が駆るイニーツィオの肩部機関砲と手持ちのライフルによって迎撃された。
機銃による弾丸の嵐を潜り抜け、艦首に魔力砲を叩き付けた後に機首を上げて離脱。
離脱した俺達を機銃の弾が追尾してくる。
〘艦首砲の破壊を確認しました〙
「了解っ」
機銃を避けつつ周囲を見ればクーデリア達も順調に人型を撃破していた。
次に後方上部のミサイルを狙う。
再び魔力砲をチャージしつつ機銃を避け続け、溜まったら機首をミサイル発射口へと向ける。
今回は急降下では無く、同高度による真横から仕掛ける。
流石に毎回急降下では身体が持ちそうにない。
「はぁ……はぁ……」
魔力砲を発射、ミサイル発射口に当たり大爆発を起こした。
此処でディヴィニティ級が旋回を始めた、撤退するつもりだろうか。
艦橋を真っ先に潰した事で命令系統が麻痺しているのか動きが鈍い。
アルティナ達がライフルをディヴィニティ級の推進力装置に向けて放った、赤い魔力光線が着弾し爆発、推進力装置は破壊された、これでもう逃げられないね。
「少し見ないうちにだいぶ上手くなったね」
前に戦った時の実力では離れた距離から命中させるのは難しかっただろうに、先程のミサイル迎撃と言い、今回の推進力装置の破壊と言い、良い腕だよ。
〘特訓しましたからね〙
話によればシミュレーションをやり込ませたのとレスティナとアルティナが2人で操って居ることから余裕が出来た事も大きいらしい。
姉妹2人で互いに傍に居ることの安心感もあるかもね。
人型を片付けたクーデリア達がディヴィニティ級の主砲を破壊、成す術無くディヴィニティ級戦艦は2隻とも地に沈んだ。
Crank《敵人型及び戦艦の殲滅及び地上部隊の撤退を確認した》
「作戦終了ですね、エル、帰投しましょう」
「了解……」
敵の主力部隊を壊滅させた事でエルフの国に侵略しようとしていた地上部隊は撤退を開始、俺達は追撃をすること無く一度帰還することにした。




