第5話 試験のない日々
初の他国、ヴィンセント魔法大国への支援任務を終えた翌日。
「飛行試験はしばらくの間中止……?」
起きて早々、クランクさんに試験機による飛行試験は中止と告げられた。
なんでも上層部と話し合った結果、ヴィンセント魔法大国への支援時に浮き出た試験機の問題点、弾詰まりや弾薬数、通信機などの各機器の修正、新機能の追加などが完了するまで飛行試験は一時的に中止となったらしい。
またベオが基地の守備隊と支援システム等を組み込める人達を送れる様に手配するとは言っていた。
急な中止で俺達は暇を持て余す事になった訳だけど、取り敢えず3人で出来る範囲内で試験機の整備をする事にした。
試験機の整備と言っても弾詰まりを直せるわけでは無いのでそれはそのままだったり、アンコニュの攻撃で被弾し、穴が空いている箇所を直せた訳でもない。
ただキャノピーを綺麗に拭いたりとかそんな話。
また試験機はセシリアが魔法で浮かせ俺とクランクさんで押して格納庫に収納してある。
その後は訓練場にてセシリアと日課の修練をする。
木剣を持ちセシリアと対峙し模擬戦をし、俺は徹底的に打ちのめされて大の字に地面に倒れ空を見上げる。
「その……下手に武器を持たない方が良いような……」
余りにも下手過ぎてセシリアが言葉を選んでなのか考えながら慎重にそう口にした、泣きそう。
昼食を挟んで再びセシリアと模擬戦、結果は言うまでもない。
やる事をやった俺達3人は午後から暇になってしまった訳だ。
Beo《シミュレーションをやるか》
余りにも暇だったから俺は試験機の原動機だけ作動させ通信機でベオと話した時にベオからそんな話が来た。
シミュレーション。
本来試験飛行する前に試験機の動作などを確認するつもりだったのに上層部の命令でシミュレーションをやらずにぶっつけ本番の飛行となったわけだけど。
試験機の原動機を切り、コックピットから降りて試験室の隅に設置されているシミュレーションの機械へと足を向ける。
シミュレーションはコックピットの座席と各計器、操縦桿があり、映像映すモニターが前方と左右の計3つある。
座席に座ってシミュレーションを起動させる。
Beo《上手く起動できたようだな》
驚いた、シミュレーションにも通信機が付いていたみたい。
「驚きました、この機械にも通信機が付いていたんですね」
Beo《元々シミュレーションから私が教えるつもりだったからな》
俺の心の声を代弁したセシリアにベオがそう答えた。
複数あるシミュレーション機械の内、俺に与えられたこの機械のみがベオと通信が出来るよう改良を施していたみたい。
なんでも通信して互いに話しながらの方がより早く正確に教えられるからだとか。
「けど今更シミュレーションやるのもなぁ」
確かに暇だけど、もう試験機に乗った後だしシミュレーションやる必要があるのだろうか。
Beo《今回やるのは飛行訓練だ、今までのようにただ飛んでれば良いわけではないぞ》
取り敢えず、画面を見て進めていけば試験機のコックピット風景に変わる。
操縦桿を倒して試験機を動かし、格納庫から滑走路ヘと出てスロットルレバーを全開にし発進し操縦桿を引き空へ上がる。
Beo《上がったな、では戦場を変えるぞ》
ベオがそう言った瞬間画面が一瞬暗くなり、復旧した時に目を見開いた。
幾つもの断崖絶壁の岩山が乱立し、その上霧が薄く発生して空も曇り空と風景がガラリと変わった。
Beo 《障害物がある悪い視界での飛行に馴れておいた方が良いだろうからな》
目の前を横切る形で一機の試験機が急上昇する、その後を追い機体を認識すると機体の少し上にBeoと表記されている事からあれを操っているのがベオみたいだ。
Beo《私の後ろを付いてくるんだ》
ベオはそう言うと機首を下げ急降下する、俺もそれに習い機首を下げ急降下しベオの後を付いて行く。
するとベオはなんと乱立する岩山の間に侵入した。
「えっ……」
「本気ですか……?」
Beo《本気だ》
「マジか……」
困惑する俺の声、セシリアがベオに確認を取れば返ってきた返答は肯定と余りにも無慈悲。
余りの酷さにクランクさんも困惑していた。
なにせ岩山と岩山の間は狭く機体が擦れ擦れなのだ、その上で岩山は乱立している為その間をただ真っ直ぐ通過するだけでなく蛇行するように旋回して回避しなければならない。
Beo《言っただろう飛行訓練と、さぁ来るんだ》
「っ……うぉぉぉ?!」
意を決して俺も乱立する岩山へと進入するが最初の隙間は通れたもののその直後目の前に現れた岩山を避けれず激突した。
画面には緑色の文字で【エル、撃墜】と表記された。
Beo《最初っから最高速度で突っ込む馬鹿が何処にいる、まずは慣れるまで最低速度で行くんだ、慣れてきたら徐々に速度を上げれば良い》
「了解……」
緑色の文字で【再出撃】と書かれた所を操縦桿を操作して選び、引き金を引いて決定する。
画面が一瞬暗転した後、再び岩山の上空を飛行した状態で始まった。
気を取り直して操縦桿を握り締め、高度を下げて、スロットルレバーを操作し低速で岩山の間を通過し先程激突した岩山も何とか回避するも、その次に現れた岩山に激突する。
Beo《今日は此処までにしてまた明日にしよう》
何度も激突した後、ベオからそう告げられた。
どうやらかなり長い事やっていた様で窓の外は既に暗くなっていた。
クランクさんとセシリアと共に夕食を摂り各々で風呂に入ってこの日は眠りにつく。
結局岩山は2つ避けるので精一杯であった。
2日目
今日も今日とて試験機を清掃し、セシリアと修練の後、模擬戦をして徹底的に打ちのめされる。
そして午後からベオとシミュレーションをする。
高度と速度を下げ、低速で岩山の間を進入し、幾つか岩山を避けた後に避け切れなくなって激突する事を何度も繰り返す。
「そう言えばこのシミュレーションって流石にGの再現は出来ないんだよね?」
Beo《出来ないな、あくまでこれは試験機の操作を覚える為のものだからな、一応エルの試験飛行のデータから取り入れようという考えは出てきてはいるからもしかしたらだがいづれ出来る様になるかもしれんな》
なるほど、いづれ出来るようになれば実戦により近い形でシミュレーションが出来ると言うことだね。
そうして2日目の今日も程々にしてシミュレーションを終える。
3日目
今日も今日とてシミュレーション。
それなりに慣れてきたから低速でもある程度岩山を回避して飛行出来るようになってきて、それなりに余裕も出てきた。
「コックピットから見ると中々怖いですね……」
コックピットの画面向こうの直ぐ側を流れる岩山を見て恐怖を覚えたのだろう、セシリアがそう呟いた。
そこでふと思いついたことを、俺は操作中だというのに振り返って伝える。
「セシリアもやってみる?」
そう呟いた、その結果。
「へ?あっ!エル前っ!」
「え?うわっ?!」
前を向けばすぐ目の前まで迫った岩山、回避行動を取るまもなく激突する。
さっきもそうだったけど、激突する瞬間が滅茶苦茶怖い。
内蔵というのか、心臓がこう、キュッと締め付けられる様な感覚に襲われるくらい怖い。
「いひゃい」
そして恐らく同様の感覚に襲われたセシリアが俺の左ほっぺを抓る。
今回は俺が悪い。
また乱立する岩山もそうだが霧という視界不良な状況も中々厄介であることが分かった。
普段なら見えるであろう岩山も霧のせいで見えず突然目の前に現れた時は心臓が止まるかと思った。
余りの怖さにセシリアが座席の後ろから腕を回して抱き着いてくる程に、お陰で腕を固定され操作が出来ずそのまま激突してしまった。
そんな風にこなしながら今日もシミュレーションを終える。
模擬戦?言うまでもなくセシリアの圧勝だよ……。
4日目
そんな風に毎日飛行訓練を繰り返した事で慣れてきて、今日は昨日より速い速度で進入し、その速度を維持しながら進みつつ回避行動を取る。
ただ速度が増してからセシリアが怖すぎて横から抱き着いてきてるんだよね、ちゃんと操縦の邪魔にならない様にしてるからまぁいいか。
高速、時には地面擦れ擦れの低高度で岩山の間を擦り抜ける。
目の前に岩山が次から次へと現れては後ろへと高速で消えていく。
速度を速くした最初はやっぱりすぐに岩山と激突するけれど、時間が経つにつれて回避出来るようになる。
一度岩山から離脱しようと思い、操縦桿を引いて機首を上げ岩山避けながら高度を上げていき、乱立する岩山から抜け出し空へと上がる。
Beo《岩山での操作もだいぶ慣れたようだな、では次は夜間飛行といこうか》
ベオの言葉と共に画面が真っ暗となる、そして画面が再び明かりを灯す。
「いや真っ暗で何も見えないんだけど」
全く何も見えない訳では無い、ただ真っ暗な向こうに薄っすらと山の輪郭は見える。
Beo《基本見辛い事から夜間飛行は無いとは思うが万が一があるからな、これが夜間飛行のシミュレーションだ、これより夜間時の離着陸のシミュレーションを始めるぞ》
どうやらまだまだ終われそうにないです。
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翌朝。
ベオの言っていた試験機の整備が出来る人達が来て朝から格納庫内は人や物が溢れかえり賑わっている。
そんな中、金髪ロングに青目で黒いローブを纏った女性とゴールドベージュのウルフカットにベージュ色の瞳、同じく黒いローブを纏った女性がここ飛行試験場を訪れた。
話を聞くに彼女達2人はあの日、ヴィンセント魔法大国で魔法使いとしてアンコニュと対峙していた女性のようだ。
金髪ロングに青目の女性がフィーユ・リュミエールさんであの日戦っていた魔法使い達を指揮していた人。
ゴールドベージュのウルフカットにベージュ色の瞳の女性がエミリー・ルーヴさん。
エミリーさんの特徴はなんといってもその頭に2つある耳と外套の中からちらりと見える尻尾だろう、獣人という種族で狼の獣人だそうだ。
「救援に駆け付けてくれてありがとう、お陰で助かったよ」
フィーユさんが頭を下げてお礼を言えばエミリーさんもそれに続いて頭を下げた。
「にしても驚いたよ、まさか君のような歳若い子があの試験機のパイロットだったなんて」
「フィーユさん達も十分若いですよね?」
「そんな私達よりも君は更に若いでしょ?」
苦笑いしながらそう言ったフィーユさん。
彼女はその後、自分達を助けた試作機に目を移した。
ベオによって送られた整備員達が今なお試作機の修理と改修を行っている中、フィーユさんとエミリーさんはその試作機を見つめていた。
「君は勇気があるね」
「勇気……ですか?」
そんな試作機を見つめながらエミリーさんが口を開いた、何故勇気があると思ったのか気になってつい聞き返してしまった。
「うん、私やここに居るフィーユは君が飛んでいる姿をこの目で見たからこそこの試作機は空を飛ぶと理解できる、けれど君はこの試作機が空を飛ぶなんて分からないし見たこともない状態でこれに乗り、空を駆けたんだろ?だから勇気があるなと……私はそんな状況では怖くて到底乗れないだろうからさ」
「あはは……」
エミリーさんは感心した様にそう呟くが実際はそんな勇気どうこうという話ではない。
クランクさんの妹さんの病気の治療費の件やセシリアの仲間の救援など様々な要因から試験飛行を断れなかっただけなんだよね。
そりゃ別に俺1人だったら断ってただろうけども、クランクさんやセシリアの事を考えると断れんよね。
それに実際ベオが居なければかなり危うかっただろう、なにせシミュレーションを一切行わずぶっつけ本番の飛行だったから。
最初こそ胡散臭いベオであったが今では俺含めクランクさんやセシリアからも信用を勝ち取った、心強い味方だ。
またベオがクランクさんやセシリアに色々と教えているのもありがたい話である。
「にしても……いつ思い出しても最悪な初飛行だったなぁ」
「そんなに酷かったの?」
最悪な初飛行を思い出し、つい呟いてしまったその言葉はフィーユさんの耳にも届いてしまったようで興味深そうに此方に振り向きながら尋ねてきた、もちろんエミリーさんも興味があるようで此方を見つめながら狼の耳がピクピクと動いている、速く続きを聞きたいのだろうなぁ。
「話しても良いの?」
「極秘ではないから問題ないぞ」
クランクさんに確認を取り、許可を得たから2人に初飛行の話をすることになった。
二人とも全くの未知の話が楽しみなのか妙にそわそわしてる。
「そりゃぁもう最悪な初飛行でしたよ、なにせ乗る前に操作方法の確認をするシミュレーションをやる前に初飛行の命令が下されぶっつけ本番であれに乗った訳ですから」
そう言いながら俺は試作機を指差す、2人は俺の指に釣られ後ろの試作機を見てまた俺を見る。
その頬が少し引き攣ってる様に見えるのはきっと気の所為だろう。
「しかも初飛行とは名ばかりの実際はゲネシス郊外へ向かい侵攻された地域の偵察でしたもんね」
何処か遠い目をしたセシリアが俺に続いて当時の任務内容を2人に伝える。
より一層2人の頬が引き攣ったのを見るにどうやら見間違いでは無かったようだ。
「ぶっつけ本番の初飛行で偵察任務、それにプラスしてアンコニュとの接敵、上から交戦許可が出ていない状況下での戦闘、今思い返しても酷いな……」
クランクさんは溜め息を吐きながら俺の頭を少し乱暴に撫でる、労いの意味があるのだろう。
「ロストっ!」
「んっ……」
すると話を聞いていたエミリーさんとフィーユさんに抱きしめられ優しく頭を撫でられる。
二人共胸が大きくて顔が埋もれて少し息しづらい。
「私達も出来る限り力になるからねっ!」
力強くフィーユさんが宣言し、エミリーさんも頷いて同意してる。
別に狙ってやった訳では無いけどありがたい申出だ、少し申し訳無い気もするけど。
ちなみにベオを交えてクランクさん、セシリアと会議した結果本名は教えずそのままロストと言う偽名を教える事になった。
本名から家族構成が割れると面倒事が起こるかもしれないだとか。
一応クランクさん経由でステラとサリーネには記憶喪失の事と本名は伝えてある。
「弾詰まりもあったし胴体着陸もあったね」
「弾詰まりは分かるけど胴体着陸はどういう……?」
顎に手を当て首を傾げるエミリーさんに俺は再び試作機を指差す。
「試作機の身体を支える前の下側から伸びる1本の前脚と尾にある2本の脚があるでしょ?あれ飛行中は収納してるんだけどいざ着陸するって時に後ろ脚2つが出てこなくなってさ、それで脚を収納したまんま胴体を地面に接触させて着陸したんだ」
フィーユさんとエミリーさんの身体がぶるりと震え上がった。
「怖くなかったの……?」
「滅茶苦茶怖かった」
怖くないわけがない、ものすごく揺れるし。
でもまぁ過ぎた事だし。
「取り敢えず昼食とするか」
ワイワイと話が盛り上がって気が付けば昼、クランクさんが言った通り一度皆で昼食を取ることとした。
昼食を摂り終え整備のおっさん達が格納庫内で作業してる中、俺達はと言うと試作機のシミュレーション機の周りに集まっていた。
無論操縦者は俺。
昼間の岩山のステージ、その雲の上をベオと2人で飛んでいた。
Beo《だいぶ慣れたようだな、どれ、それなら高速で進入してみよう、ついてこい》
その言葉と共に俺の目の前を飛んでいた試験機、ベオが宙返りして反転、此方に向かいキャノピー擦れ擦れですれ違っていく。
俺も急ぎ操縦桿を引き急旋回しベオの後を追う。
「怖っ」
フィーユさんからそんな声が聞こえた、恐らく先程のすれ違いが怖く感じたのだろう。
俺はもちろんセシリアやクランクさんは岩山を見て体験してるので怖くはないようだ。
そんな風に考えながらもベオと俺はどんどん加速していきながら機首を下げて雲を突っ切り高度を下げていく。
岩山が見えてもなお速度を緩めずまた高度も更に下げる。
そしてベオは岩山に地面擦れ擦れの超低空飛行の高速で侵入し、それに続いて俺も高速超低空飛行で岩山に侵入、さぁここからだ。
「「ひっ!?」」
「っ」
フィーユさんとエミリーさんの悲鳴、セシリアの息を呑む音が聞こえた。
それもそのはず、キャノピーのすぐ向こうに岩山が現れては回避、横から後ろヘと次々へと流れて行くから。
初めて見るフィーユさんとエミリーさんには恐ろしくて堪らんだろう、画面に映る景色は本物の景色と見間違うほど現実味が強いのだから。
そう考えながらなんとかベオの後を追いながら岩山をすり抜けていく、そして最後の岩山を回避しそのまま上空へと上がる。
「やったっ!」
Beo《ふっ、だいぶ上達したな》
岩山を最後まですり抜けることに成功しベオからお褒めの言葉を頂いた。
「あんたそんなに上手いならテストパイロットは俺じゃなくても良かったんじゃ?」
Beo《シミュレーションでなければ乗れないのだよ、私は》
そうか、まぁ普通に試作機乗れるなら乗ってるよなぁ。
その後シミュレーションも程々にし、フィーユさん達を連れ基地内を案内したりして今日は終わった。
案内してて気付いたんだけど、またなんかもう一個格納庫を隣に作るらしい。
整備員のおっさんに聞いたら開発中の一機が出来たから此処に運んでくることになってその機体の保管場所の為だそうだ。
ちなみにフィーユさんやエミリーさんもシミュレーションをやってみたけど低速で真っ直ぐ飛ぶので精一杯だった。




