第48話 失ってから気付くもの
空が徐々に夜の闇に飲まれていく。
そんな夜の帳が降りる頃、俺はイニーツィオを駆って新たに現れた人型と対峙していた。
白く気品を感じる人型戦闘機。
手には俺の持つライフルとは別物のライフルとブレードを持ち、脚部の側面に小型の誘導ミサイルポッドが取り付けられた機体。
そのパイロットは気品もクソもない奴が乗っているが。
〘敵の機体情報がありません……〙
調べてくれたのだろう、ココが申し訳無さそうにそう告げた。
六試人型戦闘機とは別の新機体。
その詳細はベールに包まれていて、その武装に付いても一切不明である。
ただ何となくあの機体の本来のパイロットは奴とは別な気がする。
明らかに、いや、絶対奴が乗る事を前提とした機体では無いだろう。
機体を見て感じた印象からして、あれはなにか、権威の象徴な気がする。
〘あの機体が通信を妨害してます〙
「応援は望めないか」
恐らく今まで何度か試験をして形にした妨害装置かシステムをあの機体に組み込んであるんだろう。その試験のせいでステラ達が危険な目に遭ったというのに!
garbage 《お前は本当に親孝行者だぁ!俺に金だけでなく名声までくれるなんて!!》
どうやら俺を倒すとイコルやフィーニスにおいて名声が上がる様だ。
「揃いも揃ってクズしか居ねぇのかよ!!!」
コイツと言い、ステラ達を狙ってた奴と言い本当にクズしかいないな。
振るわれる魔力刃のブレードを同じく魔力刃のブレードで受け止め、弾く。
〘っ!回避を!!!〙
向けられたライフルの銃口。
スラスターを吹かして即座に回避行動を取る。
銃口が光、放たれたのは━━━散弾。
「チッ!」
左肩を赤色の魔力光線の散弾が掠めた。
〘左肩部の装甲が一部損傷、やはり直撃は危険ですっ!〙
「分かってる!」
威力は前もって目の前で見たからね。
恐らくこのライフルは重装甲である対人型用に開発されたと思う。
人型の装甲を貫通出来れば艦も簡単に破壊出来るだろうし。
何より対人用にしては威力が高すぎる。
右手に持ったライフルを白い人型に向けて放つ。
奴は横に移動して魔力光線を回避した。
「避けたか!」
再び向けられるライフル。
素早く後方へと下がり距離を取る。
放たれる散弾がイニーツィオ各部の装甲を剥がしていく。
「ココ!イニーツィオの出力もっと上げれたりする!?」
〘わ、分かりました!〙
恐らくココがイニーツィオにリミッターを設けていたんだろう、慌てたように返事をした後イニーツィオの出力が大幅に上がった。
「ぐっ……うぅ……!」
出力が上がったことで飛躍的に速度が増し、身体にGが掛かり呻き声が漏れる。
garbage 《ほぅ!ここに来て更に早さが増すとは。流石私の子だ!!!》
〘キモッ〙
普段のココからは信じられない程冷たい声が聞こえてきたけど今回ばかりは同感です。
我が子を殺そうとしているのにコイツは嬉しそうに、楽しそうに話す。
嬉しそうに我が子を褒めるコイツの考えが俺には分からない。
俺を売ったのはなんだったのだ?ただ金に困っただけじゃなかったのか?金に困ってただけなら今こうやって殺し合うはずも無い……。
本当にワ カ ラ ナ イ。
高速移動によって被弾することがほぼ無くなった。
しかしコックピット内は警告音が鳴り響いている。
〘限界稼働状態っ!これ以上は危険です!!!〙
「でもコイツを此処でどうにかしないとっ!」
イニーツィオの稼働が限界を迎えている、だが止まったら最後、俺は嬉しそうに攻撃してくる奴によって殺されるだろう。
「可笑しいだろ、なんで我が子を殺せるんだっ!何がそんなに楽しいんだよ!?」
ワカラナイ。
ワカラナイ。
なぜ我が子をそんなに楽しそうに殺せる?
ナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ。
garbage 《さっきから何か勘違いしているようだが、私は貴様を息子なんぞと思っていない》
「〘は?〙」
あれだけ我が子と言っているのに?
コイツは本当に何を言って━━━━
garbage 《その試作人型戦闘機の設計、開発に関わっているから我が子と呼んでいるだけで貴様の事を呼んでいるのではない、分を弁えろ失敗作が》
「え……?」
コイツは最初から俺のことなんてなんともおもってない……?
garbage 《ああ……可哀想な私の子よ……そんな失敗作がパイロットなんて……最後の最後まで失敗作が一緒なんて……ああ、でも大丈夫、私が介錯してあげるから!!!!》
ああ……コイツは初めっから俺を相手していない。
自分の作った人型戦闘機との戦いを楽しんでいたんだ。
機械だから。
だから倒す事に躊躇も何も━━イ ラ ナ イ。
〘消してやる〙
「っ!!!」
今までで一番低く、殺気の籠もったココの言葉が耳に届いて正気を取り戻す。
冷静を取り戻そうと思い、距離を取る為に後ろへと下がる。
相手は散弾は距離を取れば威力が著しく下がる様だし━━━
〘っ!〙
突如イニーツィオが勝手に右に動く。
直ぐ横を赤い光の奔流が流れていった。
鳴り響く警告音、モニターに表示された左手損壊の文字。
奴のライフルによって放たれた魔力光線によってイニーツィオの左手が肩から破壊されたと理解するのに数秒掛かった。
「ありがとう、ココ」
〘気にしないで下さいね〙
ココがイニーツィオを操ってくれたお陰で被害は左腕だけで済んだ。
あのライフル、散弾だけかと思いきやまさか普通の光線も出せるなんて思わなかったな。
garbage 《今のを避けるとは……!流石は私の子……私の!作った!人型だぁ!!!》
〘うるさいですね、直ぐ黙らせましょう〙
「……了解」
散弾の光線と単発の光線の2種類がある事が分かった。単発の光線はイニーツィオの重装甲を難なく貫通するから直線的な動きは命取りだ。
イニーツィオ自体もリミッター解除によって警告音が鳴り止まない。
garbage 《チッ!》
だがそれでも奴の動きに付いて行けている、少しずつ奴の装甲を削っている。
単発の光線を避け最高速度で奴の懐に潜り込み体当たりしバランスを崩させる。
そのままコックピットを蹴りつけ転倒させようと思ったが奴は倒れ掛けた姿勢のままスラスターを吹いて後方に移動して距離を取った。
「異様に操作が上手い、補助システムかなにかありそうだね」
〘十中八九補助システムでしょう〙
それでも倒せない相手では無い、イニーツィオに無理を強いるがこのまま追い詰める。
武器を魔力刃のブレードに持ち替えてスラスターを吹いて突っ込む。
散弾と単発光線の弾幕を掻い潜り、下がり撃ちを続ける奴に接近し右手に持つライフルをブレードで切り裂く。
━━━衝撃。
斬り付けると同時に奴に頭部を左手で殴られた様だ。揺れるコックピット、更に破壊された奴のライフルが爆発を起こしたことで再び揺れる。
回避行動、横にスライドする様に移動し爆煙から出て奴を視認、即座にそちらに向かう。
奴は両足の小型誘導ミサイルで迎撃してきたのに対し俺は即座に肩部30mm機関砲でミサイルを迎撃する。
先程の光線で左肩の機関砲は機能せず右肩のみだがそれでもココがサポートをしてくれたお陰で何とかミサイルを全て迎撃出来た。
garbage 《クソッ!》
奴の焦り声。油断を誘う為の演技の可能性もある、ここは慎重に攻める。
ブレードを手に魔力刃を展開した奴に俺は30mm機関砲で牽制しながら接近し右腕の関節部にブレードを突き立てる。
刺されたことで制御系に異常が起こり奴はブレードを落とした。
garbage 《待てぇ!!!》
〘命乞いでしょうか、聞く必要は━━〙
その時奴のコックピットが開いた。
〘何のつもりで━━なっ!?〙
意図が読めなかった俺とココはそのコックピットの内部が見えた時、驚愕した。
パイロットである男が出てきた、縄で縛られて拘束された女性を前に立たせながら。
「このまま俺を殺せばこの女も……母親も死ぬぞ!!!」
奴に人質にされた母。
その母の頭や身体に何やらコードが取り付けられている事から恐らく補助システムの正体は母を用いた生体ユニットなのだろう。
「救いようのない奴だな……!」
「……エル……?」
母が弱々しく口を開く、かなり衰弱していた。
「私の事は……気にせず、やりなさい……」
「何言って━━━」
「貴方は……私の子じゃない……貴方は孤児院から引き取られた子なのよ……」
「シャルロットっ!貴様━━なっ!?」
真実を喋られ、焦った奴が母を殴り付けようとし、その母がコードを引き千切りコックピットから飛び降りた。
〘っ!〙
「母さんっ!」
即座に右手で優しく母をキャッチし、後方に飛び退きながら母をコックピットに引っ張り込む
「母さん!」
「気にするなって言ったのに……無茶する子……」
「母さんに言われたくないよ」
母は無事、とは言い難いが大丈夫。
母をコックピットの後ろにもたれさせる、奴と戦いを直ぐに終わらせる。
とは言えに母が乗ってる状態では危険だし、此処は引くべきか。
けれど奴は俺を逃がしてはくれない。
garbage 《貴様らは此処で必ず仕留めてやるぞ!!!》
奴は左手でブレードを持って駆ける。
俺を追い掛けながら、脚部からミサイルを2発撃ってきた。
〘まだあったのですか!〙
近距離でのミサイル、何とか肩部30mmで迎撃したが爆風でイニーツィオが姿勢を崩してしまった。
garbage 《貰ったぁ!!!!》
「っ!!!!」
逃げ切れない。
ブレードを片手に突っ込んでくる奴を見て俺も覚悟を決めてブレードを構える。
そして互いのブレードがコックピットを狙って━━━━貫いた。
「うわぁぁぁぁ?!」
直ぐ左を魔力刃のブレードが貫通し、機器が爆発した。
garbage 《は、はは、や、やったぞ、私は勝━━》
通信越しに聞こえた狂喜の叫び声は相手の機体が爆発したと共に消えた。
イニーツィオも爆発を起こし、システムも機能停止してしまった。
もうココの声も聞こえない。
「母、さ……ん……」
痛む身体を動かし母さんを抱き起こす、頭から血を流す母を見て俺は急いで奇跡を行使する。
息苦しいそうな呼吸と表情が安らかになったのを確認し安心した。
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夜の暗闇を燃え盛るイニーツィオの火が辺りを照らす、幸いな事に振り始めた雨によりその火は消火される。
「おわ……た、か、かえ……かえる……んだ……」
開け放たれたコックピットからシャルロットを抱きながら身を乗り出すエルは重力に従い転落、母の身体を守る様に抱き、その身体を地面へと打ち付けた。
「ベ、ベ……オ、や、やったよ……かった……よ」
身体を起こし、シャルロットを抱きかかえ引き摺る様に歩く。
「失敗作じゃ……ないって、証明で……きた……よね?」
降り注ぐ雨は容赦なくエルとシャルロットの身体を濡らしていく。
雨によって泥濘んだ大地に足を取られ転倒してしまう。
「か、かえ……ら……なきゃ…… かえるって、かえるっ、 ちかった…… みんな と ろに…… かえる だ……」
足を引き摺り、少しずつ進む。
今なお意識を失っているシャルロットに、自分に、大丈夫だと言い聞かせながら。
「かえって……て、つなぐ……て……せし、りあ……と……やくそく……したんだ……」
何度も、何度もエルは転倒し、そしてそのままシャルロットを雨から庇うように重なり、動かなくなった。
「キュー」
雨に濡れながらエルを迎えに来た古龍の幼子。
「キュー」
古龍の幼子は鳴く、だが返事はない。
「キュー」
再度鳴き、その頬を優しく舐める。
しかし閉じられた瞳が開くことはなく、古龍の幼子は遂に舐めるのを止めた。
「グゥ……グ……」
倒れたままのエルの襟元を加え古龍の幼子は進む、エルとシャルロットを交互に引き摺って。
その直ぐ後、古龍の幼子の前に雨に濡れた天使が舞い降りた。
「帰りますよ、マスター……セレーネ様が……皆が待ってますから」
そう言って女性は古龍からエルを預かり、優しく抱き上げる。
「帰るんですよエル……皆の所に……」
そう呟き、女性は一対の純白の翼を羽ばたかせて、奇跡を用いて古龍とシャルロットを共に浮遊させ飛んで行った。




