第43話 強制奇襲作戦
あれから数カ月、年を跨いで俺達は偵察を繰り返した。その間にエルツ国の西部と獣人の国の奪還に成功。
俺達の偵察の情報に基づいて連合軍上層部がアンコニュの本拠地を割り出した。
そして今日、俺達バナール隊による本拠地への奇襲攻撃が言い渡された。
今回は本拠地への迅速な奇襲攻撃と言うこともあり、本拠地への直接攻撃の参加者は俺とバナール隊のみ。
上層部の立てた作戦としてはフィーユ達魔法使いの部隊をアンコニュ本拠地の半分程の地点まで連れていき、そこからバナール隊のみで本拠地まで接近、奇襲を敢行する。
連れて行く理由は試作2型及び一式の燃料となる魔力の温存。
今回は地上への攻撃を考えて魔力貯蔵タンクは装着せず代わりに投下型の爆弾を装備している、アンコニュ本拠地上空での交戦を考え魔力は温存しておきたい、そこでフィーユ達に白羽の矢が立ったんだ。
フィーユ達は途中で離反するけれどそこはアンコニュに支配された地だ。
幾ら空中部隊のエースと言えど魔力を大幅に消耗してる状況では危険な為後続で護衛の魔法使い達も進軍する。またステラ達地上部隊も緊急時に備え待機する事となっている。
半分程の距離はフィーユ達リュミエール隊や他魔法使い達と相談し帰還出来るギリギリの距離がそこだからだ。
恐らくだが上層部はアンコニュの母体またはその本拠地を素早く叩いて奴等の勢いを落としたいのだろう。
時間を掛ければ掛けるほどアンコニュはその勢いを増していくだろうから。
イコル、フィーニスの動きが怪しいと言う気掛かりもあるが今はアンコニュだね。
作戦開始は深夜。
夜の闇夜に紛れて飛ぶ。
偵察の結果、夜間ならアンコニュの索敵能力が著しく低下する事も判明した。
だから俺達は極力戦闘を避けるため夜間飛行することにした。
時間を計算し夜明けと共にアンコニュの本拠地へと辿り着けるよう出発する。
作戦開始前日、俺はステラ、サリーネ、フィーユ、エミリー達と同じ部屋で寝ることとなった。
セシリアの計らいらしく、「死地に赴くエルと居たいでしょうから」と。
「貴方を困らせるって分かってるわ」
「それでも僕達は言うよ」
「行かないでほしい」
「一緒にここに残って欲しい」
ステラが、フィーユが、サリーネが、エミリーがそう言う。四方から俺の身体に縋り付いて。
「けれど貴方は止まらないでしょう」
「だから、私達はこの言葉を贈るね」
「「「「必ず生きて帰ってきて」」」」
「……分かった」
「間が気になるけれど、まぁいいわ」
ステラはそう言って俺の身体を持ち上げベッドへと運ぶ、そのまま俺はステラ達に抱きつかれながら眠りに就くこととなった。
そして作戦当日の暗い夜の時間、俺はクーデリア達と一緒に外に居た。
フライトスーツを身に着け、手には杯。
「必ず皆で生きて帰るぞ」
「おう!」
「「「「はい!」」」」
俺達はステラ達が見守る中、生還の誓いを立て杯を交わした。
いよいよ出発だ。
「エル」
試作2型に乗り込もうとした時、セシリアに呼び止められた。
「エル、帰ってきたら手を繋ぎましょう」
「手?」
「はい、互いが互いの生存を、その身で感じる為に」
セシリアはそう言って俺の手を両手で握る。
その手が震えていることに握られてようやく気付いた。
きっとセシリアも不安を感じているんだろう。
「分かった、約束だよ」
少しでもセシリアの不安を払拭したくてセシリアの手を両手で包み、約束を交わした俺は試作2型に乗り込む。
今回ばかりは流石にキューちゃんも置いていく。
「「「「「「行ってらしゃい」」」」」」
「行ってきます」
皆に見送られながら俺達は暗い空へと飛び立った。
俺もココもクーデリア達も付き添いのフィーユ達すらも不思議と道中喋ることは無く、フィーユ達の離反地点へと到達。
此処から先は俺達だけ。
「気を付けて……!」
離れたフィーユが最後にそう口にし、俺は片手を上げて応える。
今作戦が成功すればアンコニュから世界を奪還するのが夢物語では無くなるだろう。
アンコニュを倒し、平和になれば戦いに暮れた生活が終わる。俺達はありふれた日常を過ごせるだろう。
それを願い俺達は、それぞれありふれた願いを考えて奇襲作戦に赴いた。
バナール隊のバナールは(banal)古代語で【ありふれた】という意味、それにあやかってクーデリア達もありふれた願いを込めた。
2番機のクーデリア・オルドリッジ。
込めた願いはlever
ルヴェとは起床、すなわち平凡な日常で起きる事を願う。
3番機のジェームズ・マルティネス。
込めた願いはLe repas
ルパとは食事、すなわち平凡な日常で食事を取る事を願う
4番機のソフィー・アンダーソン。
込めた願いはSortir
ソルティとはお出かけ、すなわち平凡な日常で出掛ける事を願う
5番機のヴィクトリア・ガルシア。
込めた願いはbain
バンとは入浴、すなわち平凡な日常で入浴する事を願う
6番機のテレサ・オースティン。
込めた願いはcoucher
クシェとは就寝、すなわち平凡な日常で眠り夜明けを願う
そして俺の込めた願い、それは【エファセ】で古代語で「efface」と表記し、消されたという意味で、すなわち戦争とその記憶の消失を願ってのもの。
古代語に詳しくないから意味が合ってるかは分からない、それでもそれぞれの想いが籠もった願いだ。
だが所詮は世界を知らない子供が名付けたと上層部に知られれば嘲笑われただろう。
きっと、今作戦は余り意味を成さない。
この世界は要の地という重要な場所がある。
つまり今作戦でどれだけ戦果を挙げても、要の地を奪取出来なれけば世界を救う為の意味を成さない。
今作戦でアンコニュの勢いを潰したとしても直ぐに奪還作戦を行わなければ意味が無いはずだ。
故に今作戦の本来の目的も恐らく上層部の為の時間稼ぎ、だから戦場に出させるのも若い奴らだけ。
上層部は残り少ない人生を満喫したいのだ。
だから俺達が世界でたった6機しか無い機械に乗ってるんだ。
全ては上層部の為の時間稼ぎにしか過ぎないから。
ちなみにだがこの世界に神は実在しているとの事。
だが神々はこの世界を棄てて神界へと戻った。
異業種を恐れて。
神々はこの世界が無くても神界があるからどうでも良いのだろう。
一部残った女神も居るが会ったことないから分からない。
それでも縋るのには十分だろう。
「……………」
フィーユ達と別れてからも誰も喋らない。低いエンジンの音だけが響いている。
索敵装置には5つの友軍の印がある事からクーデリア達はちゃんと付いてきているのも分かる。
それでも俺達は話さなかった。
何なら通信機越しに話せるステラやセシリア達ですら話し掛けては来なかった。
いや、話せなかったんだと思う。
死地に赴く俺達に、俺達よりも安全な所から気楽に話すのを彼女達の心が許さなかったんだと、そう思った。
東の、俺達の後方の空が明るくなってきた。
夜明けはすぐそこだ。
Beo《敵本拠地を確認、1分後に到着》
沈黙を破り、通信機からベオの声が響く。
その言葉に俺は気を引き締める。
自然と操縦桿を握る手に力が籠もる。
誰かが息を呑んだのが聞こえた。
それが俺なのか、通信機からなのかは分からない。
〘アンコニュを確認〙
ココが言った様に目の前、その奥に黒い点が複数あるのを見つけた。
地上は破壊された家屋の残骸が散らばりその上でアンコニュが佇んでいた。
Beo、Crank《全機、必ず生きて帰るぞ》
「《《《《《了解》》》》》」
クランクさんとベオの言葉に6人全員が応答する。
程なくしてアンコニュの本拠地へと攻撃を開始した。
Crank《バナール隊、交戦を許可する》




