第42話 束の間の休息
エルツ国の要の地であるツェントルムを無事に奪還し、俺はセシリアと共にエルフの国に帰郷した。
ツェントルム奪還後は防衛部隊を残し、リュミエール隊含め幾つもの部隊が獣人の国の奪還に向かった。
大陸西部にあると見られるアンコニュの母体、その偵察を行う為の地盤をより盤石な物とするため。
その為バナール隊からもクーデリア、ジェームズ、テレサの3名が護衛に付いて行っている。
俺とソフィーとヴィクトリアはその間休息を貰った訳だ。
俺達は現在エルフの国の王城、その一室に集まって話し合いをしていた。
内容は勿論、大陸西部への偵察について。
時刻は朝、日中はそこまで寒くないにせよ朝方は冷えるから室内に魔導具を使って快適な温度にする。
「前回獣人の国へ偵察に行った際、暗闇に紛れて進んだ時のことを覚えてる?」
膝にキューちゃんを乗せその頭を撫でながらセシリア達に聞く。
「はい、覚えていますよ」
「うん、覚えてるよ〜」
俺のすぐ隣のセシリアと部屋に置かれたベッドの上に寝転がっているソフィーが応える。
「迎撃に来る敵が少なかったのを覚えてる」
俺をセシリアと挟む様に隣座るヴィクトリアがそう言った。
なんか……ヴィクトリアも距離近くない……?
「まだ仮説の段階で確定では無いけど暗闇に紛れれば戦闘を大幅に避けられると思う。そこで今回の偵察も暗闇に紛れようと思う」
と言っても本当にまだ仮説の段階だから必ずアンコニュに発見されないとは言い切れない、その為この仮説が外れていてアンコニュに発見されて迎撃に出て来られると俺達は夜間戦わないといけなくなる、いくら索敵装置や補助システムがあるとは言え戦いづらいのは俺達も変わらない。
それを皆分かっているから少し悩んでいる。
「偵察は数日掛けて行うんだったよね?」
「そうだね、流石に1日で探せるとは思えないし」
ソフィーの言葉に頷いて答える。
そもそもがアンコニュの母体が全くの未知だからねぇ……何日かに分けてよく見ないといけないよね。
だから偵察を数日間行いアンコニュの母体またはその本拠地を見つける。
見つけた後はその周辺の地形等を考慮した作戦を考える予定だ。
「なら初日から何日か掛けて近距離から徐々に距離を伸ばして様子見してそれで迎撃に来ないようなら効果ありって事で良いんじゃない?」
「そうだね……クーデリア達とも相談して問題が無いようならそうしよう」
偵察は俺とバナール隊全員での任務、だから今は居ないクーデリア達にも話を聞かないとね。
話し合いを終え、俺はキューちゃんを頭の上に乗せて席を立つ。
するとセシリアが手をヴィクトリアが俺の服の裾を掴んで留まらせる。
「何処行くの?」
「試作機を洗おうかなと思ってね」
そう言うと全員が立ち上がった。
「私も行きます」
「私も行く〜!」
全員一緒に格納庫へと行くことになった。
防寒着を着込みセシリアとヴィクトリアに両手を掴まれて歩く。城内でオリヴィアさんと合流し彼女も一緒に行く事となった。
格納庫まで残り半分程来た所でヴィクトリアとソフィーが変わる、俺の手は相変わらず空かない。
手を繋ぐ理由を聞いたら。
「寒いですから、こうすれば暖かいです」
とセシリアが言っていた。
何なら道のりの後半は手を繋ぎながらポケットに突っ込まれた。
道中エルフのお兄さんお姉さんに微笑ましい目で見守られていた。
格納庫へと到着してようやくソフィーの手が離れる、セシリアは変わらず繋いだまま。
セシリアと手を繋いだままバケツに水を入れたり、ホースを試作2型の所まで引っ張ったりして洗う準備をする。
準備を終え、さぁ洗うぞっと言う時になってようやくセシリアの手が離れる。
「……どうかしましたか?」
「う、いや、何も?」
「……ふふっ」
気が付いたら離れたセシリアの手を目で追っていた、その事にセシリアが気付いて聞いてきたけど誤魔化した。
どうやら俺は繋いだ手が名残惜しかったようです。
両手にそれぞれ水の入ったバケツとモップを持ち試作2型の機首へと向かう。
機尾にはホースを持ったソフィーとモップを持ったヴィクトリア、俺の隣にはホースを持ったセシリアとオリヴィアさんが待機する。セシリア達に目配せをし全員が頷いたのを確認して俺は一言言葉を放つ。
「キューちゃん」
「キュ」
俺の合図と共にキューちゃんがホース元の蛇口を前足で器用に捻り水を出す。
オリヴィアさんはホースの先端を絞り勢いよく水を出して試作機を濡らしていき、俺はその後をゆっくりとモップで擦る。
オリヴィアさんはそのまま先に行き、俺の磨く所をセシリアが水を流し続けてくれるのでそのままモップで綺麗に掃除していく。
胴体、翼、尾翼と洗ったら次はコックピットのガラスを手で拭く。
オリヴィアさんの魔法でバケツを浮かせてもらいそのバケツの水に雑巾を濡らして丁寧に磨く。
洗い終えたら次は一式だ。
一度水を止めてもらい一式の場所まで伸ばして洗う準備をする。
昼食を挟み、一式も洗い終え、皆で片付けをする。
屈んでホースを片付けているヴィクトリアの背後からソフィーが静かに近寄りその襟元から背中に手を突っ込んだ。
「ひゃぁ?!」
「えへへ〜♪ヴィクトリア可愛い〜♪」
手を突っ込まれたヴィクトリアは可愛い悲鳴を上げて一瞬固まったかと思うと暴れ出す。
どうやらソフィーが手を水につけてキンキンに冷やしていたみたいだね。
「ソ〜フィ〜!!!」
ヴィクトリアが怒りホースの先をソフィーに向ける。蛇口はすぐそこにありヴィクトリアは手を伸ばす。
慌てるソフィー、だが時すでに遅く、ホースの先端を絞り勢いよく出た水がソフィーの顔に当たりそのまま全身を濡らしていきシャツの下の下着が透けて見える。
「やったなぁ〜!?」
そして何を思ったのかニヤニヤと笑ったソフィーはその場に置いてあるバケツを持ちヴィクトリアに向かって振り、水の塊がヴィクトリアを襲う。
一瞬、ヴィクトリアが怯んだ隙にソフィーはもう一つのホースを持ち蛇口を捻って水を吐き出す。
「きゃぁ!?」
その水がそのままヴィクトリアの顔に当たった。
そこから2人は負け時と水を掛け合い続ける。
時にはホースを離してバケツの水を掛けて。
笑顔で遊ぶ2人のやり取りを微笑ましく見てたけどこのまま放っておいたら風邪引きそうだからそろそろ止めないとね。
「おーい、2人と━━━」
「エル〜?片付け終わりましたか━━━」
ザバーン
俺とセシリアの声を掻き消す水の音。
オリヴィアさんと一緒に隣にモップ等を片付けに行っていたセシリアがその扉から、オリヴィアさんと一緒に出てきた瞬間。
互いにバケツを持ち、水を掛けたソフィーとヴィクトリアの動きが止まる。
2人に挟まれ、水を掛けられたセシリアとオリヴィアさんの全身が水で濡れて同じ様に下着が透ける。
あわあわと慌てだすソフィーとヴィクトリア。
俺はそっと目を逸らし。
「お風呂……入っておいで……」
そう言った。
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中央基地にある浴場。
そこは大人数でも利用できるように大きく、また男女別で分かれて用意されている。
その貸し切られた女湯で、俺はセシリア達と共に湯に浸かっていた。
……………………………………………………………………………何故?
この場に、この浴槽にセシリア、オリヴィアさん、ソフィー、ヴィクトリアの女性しか居ない。
そりゃそうだ、だって女湯だもん。
逆になんで俺が居るの?貸切だけどここ女湯だよ?しかも俺皆と違ってそんなに濡れてなかったのに?
しかし現実は非情である。
ソフィーとヴィクトリアに濡らされたセシリアはあの後、何を思ったのか俺に笑顔で抱きつき一言。
「魔女さん」
そう言うや否や俺とセシリアの頭上から大量の水が降り注いだ、滝のように。
そうしてものの見事に濡れた俺はセシリア達に浴場へと連行され今に至る。
背後からオリヴィアさんに抱きつかれ、両腕にソフィーとヴィクトリアが抱きつき、そして正面からセシリアが抱き着く。
しかもソフィーとヴィクトリアはしれっとそれぞれ指と指を絡めてくるし。
幾らタオルを巻いているからと言ってこれは流石に恥ずかしいんですけど……
と言うかオリヴィアさんはタオルくらい巻いて欲しい、後その状態で足で絡めて来ないで。
セシリアだけだ……と思ったけどセシリアはセシリアで前から抱き着いてるからオリヴィアさんと同じくらい身体が密着してるわ……タオル巻いてるだけマシなだけ……
少し離れた所にて、キューちゃんはご満悦のようでプカプカと湯船に浮いていた。
その後、ソフィーとヴィクトリアに手を引っ張られながら浴場を出て更衣室でセシリアに髪を拭かれる。
そして皆で王城へと戻った。
今回はセシリアの部屋ではなくヴィクトリアとソフィーの部屋に連れて行かれた。当然の様に後ろをセシリアとオリヴィアさんが付いてくる。
「少しお昼寝しよ」
そう言うや否やヴィクトリアに抱き上げられベッドに運ばれる……一体何処にこんな力が……?
「身体強化魔法ですね」
俺の心の声が聞こえたのかニコニコ笑顔のセシリアがそう告げた。そりゃ軽々と運べるわけだ。
俺はヴィクトリアによってベッドで両手を広げて待つソフィーのその大き過ぎず小さ過ぎない大きさの胸に顔を突っ込まれ、ソフィーは待ってましたと言わんばかりに後頭部に両腕を回して抱き込む。更に足まで絡ませ、背後からヴィクトリアがそのまま抱き着く。
「むぐ……」
「んっ……お兄ちゃんくすぐったいよぉ〜」
俺の息がくすぐったいらしくソフィーが身体を捩らせた、その度に柔らかな胸の感触が俺の顔に押し付けられる。
背後のヴィクトリアはより一層強く抱き着いてくるし、自力で逃げ出すことが出来ない。
「夕食まで時間ありますし、ゆっくり寝て下さい。大丈夫ですよ、ちゃん傍で見てますし、ちゃん起こしますから」
頼みの綱のセシリアがそう言い終わってすぐ、眠気に襲われる。
恐らくセシリアが睡眠魔法を使ったのだろう、こうなってはもう抗えない。
俺は前後から心地良い感触を包まれながら意識を手放した。




