第33話 母艦への移動
偵察任務を終え、その結果から上層部は離島の奪還作戦を立案、決行することとなった。
ちなみに離島を奪還するに当たって海上の拠点となる母艦だが、これはフィーニスが新造していた艦を急遽母艦として建造改修したらしく作戦自体は何時でもやれたとのこと。
上層部は奪われた離島を取り返したくて仕方ないようだ。
個人的にはそのまま大陸を取り返した方が良いのではと思わなくもないけど。
さて、離島の奪還という海洋進出だけど。
メンバーはバナール隊とフィーユ率いるリュミエール隊。それとステラ達プリュフォール隊と他の地上部隊。
まずは俺達が制空権を確保、安全を確認したらステラ達が上陸するとの事だ。
黒い双翼が居る可能性も踏まえて誘導ミサイルを装備する。
イニーツィオは持って行く予定は今の所は無い。
恐らく何回か偵察するだろうからその時に確認、または制空権を取れたら俺だけ戻ってイニーツィオで出撃し直すでも良いけど。
さて、今日は持って行く武装などをコンテナに移す。
コンテナはリュミエール隊のお姉さん達が運んでくれるんだ。
食料、武器や弾薬、傷薬等を木箱に詰めてコンテナに運ぶ。
木箱に詰める時にキューちゃんが近くにある弾薬や武器とかを持ってきてくれるから凄くありがたい。
「ありがとうね、キューちゃん」
「キュー」
お礼を言い頭を撫でる。
そしてまた一緒にキューちゃんと物を木箱に詰めていく。
持っていく物の中には瓶などの割れやすい物もあり、そういった物は布などを詰めたり巻いたりして緩衝材にする。
「フィーユ〜、量が結構多くなりそうだけど大丈夫なの?」
「他の魔法使い達にも声を掛けてあるから大丈夫だよ、それに一回で持っていかなきゃいけない訳でも無いからね。持って行けなかったら複数回に分けて運ぶだけだよ〜」
「そうなの、了解」
それなら多くなっても問題無いね。
コンテナに運び終えたらしっかりと封をしてリュミエール隊のお姉さん達に運んでもらおう。
「お願いしま〜す」
「は〜い!」
魔法で軽くしたコンテナを数人掛かりで紐を持って持ち上げ運んでいく。
流石に一回じゃ運べなかったので3回ほどに分けて運ばれていった。
次に一式。
当初は一式に乗ってそのまま母艦に運ぶ予定だったけれど作戦が始まる前から着陸に失敗しては危険なので一式もリュミエール隊のお姉さん達に運んで貰うこととなった。
まぁその方が無難だよね。
後は俺達が行くだけ。
「ちょっと失礼するわよ〜」
「オ、お〜魔女さんだ〜」
危うく本名が出掛けたが何とか誤魔化せただろう。
「どうかしたの?」
「私も一緒に行くからついでに連れてってあげようと思って」
なんと、オリヴィアさんも付いてくるそうだ。
オリヴィアさんならこの人数でも一度で連れて行けるんだったかな。
「という事で君は、ほらセシリアちゃん抱えて」
「はい、分かりました」
何か言う前にセシリアに抱きかかえられる。
背中にセシリアの胸の感触が伝わってくる、今更ながら王族の胸触るとか死刑では?
今日が私の命日か……。
冗談はさておき、皆準備が出来たようなのでオリヴィアさんが魔法を使う。
ゆっくりと身体が空に浮く。
「エル」
「あ、セレーネさん」
長い蒼い髪に蒼い瞳、白いロングワンピースを着た女性、セレーネさんが見送りに来ていたようだ。
と言うかこの人また勝手に来たんじゃなかろうか。
「気を付けて行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
「じゃあ行くわよ」
セレーネさんに見送られながら俺達はオリヴィアさんに連れられ空を飛ぶ。
俺、セシリア、クーデリア達とステラ達と言う大人数の為進む速度は非常にゆっくりである。
たまにはこうしてゆっくりと空から地上を見るのも良いかも知れない。
「綺麗ですね、エル」
「そうだね、凄く綺麗」
そう囁くセシリアはギュッと俺を抱く腕の力を強めた。痛くはない、けれど逃れる事は出来ない程の力強さ。
まるで逃さないとでも言うように感じる。
それを俺は何処か心地良く感じていた。
けれどセシリアは王族、跡継ぎの問題もあるだろう。今は良くてもいつか出来なくなるんだろうね。
遅かれ早かれ訪れるであろうその事実に俺は少し寂しさを覚えた。
長い時間を掛けて俺達はフィーニスの港湾都市へと来た。
港湾都市の港に俺達の母艦となる船が停泊してるらしいから。
「見えたわ、あれよ」
ステラが指差す方向を見る。
広大な海原とそこに浮かぶ何隻かの船が見えた。
その内の一隻が他の船と違い艦の全長にわたって長く広く確保された平らな甲板の船が合った。
「あの長い平らの甲板の船が母艦?」
「そうよ、航空機運用のために船の甲板を離着艦用の滑走路としたものね。一式の飛行の障害物となるような突出物は極力排除されてるわ」
「へぇ」
よく見るとその母艦の甲板にコンテナと一式が既に置かれていた。
「キュー!」
「キューちゃんどうしたの?」
俺の服の襟元から顔を出していたキューちゃんが嬉しそうな鳴き声をあげた。
何が嬉しいのか……まさか。
「キューちゃん海見るの初めて?」
「キュー!キュー!」
ぶんぶんと頭を振るキューちゃん。
どうやら当たりのようだ。
「魔女さん、ちょっと浜辺に降ろしてもらっても良い?」
「良いわよ〜貴方達はどうするのかしら?」
「勿論私はエルに付いていきますよ」
そう言うのはセシリア。
「私達も付いていきましょうか、まだ時間はありますし」
「そうだな」
と言うのはクーデリアとジェームズ。
他にもステラ達も了承した為皆で砂浜へと降り立つ。
「キュー!」
襟元から取り出し砂浜へと降ろせば勢いよく走り回るキューちゃん。
キューちゃんはそのまま波打ち際に近付く。
打ち寄せてきた波にゆっくりと足で触れる。
「キュー!」
そして一際高い鳴き声を上げるとそのまま波打ち際を走る。
俺もキューちゃんと一緒に波打ち際を走る。
「楽しいか?キューちゃん」
「キュー!」
聞けば楽しそうな鳴き声で答えるキューちゃん。
まだ時間はあるし、キューちゃんが満足するまで付き合うとしよう。
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クーデリアSide
「本当、いつ見ても信じられない光景ね」
エルと一緒に波打ち際を楽しそうに走るキューちゃんの姿を見て魔女さんがそう呟きます。
エルと一緒に居るとつい忘れそうになりますが古龍、それも子供が人族に懐く事など殆どありません。しかもこんなに楽しそうに人族と遊ぶ古龍の子供なんて見たことないです。
私達は相変わらずキューちゃんが何を言っているのか、何を考えているのか良く分かりませんがどうやらエルはキューちゃんが何を考えているか分かるっぽいんですよね。
それ程までに仲の良い2人。
少しキューちゃんが羨ましく思います。
「……これ何処からどう見ても惚れてるよね?」
「そうね、間違いなく惚れてるわね」
「……?なんですか2人共」
「「いえ、別に」」
こそこそと何か話していたサリーネとステラ。
気になって尋ねて見ましたがはぐらかされてしまいました。
首を傾げながらエルの方を見ればまだまだキューちゃんは遊び足りないようです、もう少し待ちましょうか。
「なんだかんだでエルも楽しそうだな」
「ああ、良いことだ」
そう呟くジェームズにアルドルが腕を組み頷いていました。
この2人もエルと仲が良いですからね。
エルが楽しそうにしてるのを見て何処かホッとした様にも見えます。
ユースティアも微笑ましそうに見てます。
「……嫉妬してる様には見えないね」
「男友達に嫉妬なんてしないでしょう」
「いや古龍に嫉妬してるんだよ?なら男友達にもするでしょ」
「……と言うと男友達と遊ぶと嫉妬するのかも知れないわね」
「あの……さっきからどうかしたんですか?」
「「いえ、何も」」
またしてもサリーネとステラが小声で話していましたがその声は聞こえませんでした。
「ん〜っ!よし!エルゥ!!!私も混ぜろぉぉぉぉぉ!!!!」
「へ?え、ちょ、止まっ━━」
そうかと思えば両手を上げて伸びをし、そう叫びながらエルへと突撃し2人仲良く海へと転がりました。
「はぁ……いっそのこと私達も混ざりましょう、ほら行くわよセシリア」
「え?えっえ?!ま、待ってください?!」
呆れたようにため息を吐いたステラに手を引かれ海へと駆け出し━━━。
「エルゥゥゥゥゥ!!!!」
「またかよぉぉぉぉぉ?!?!?!?!」
サリーネに押し倒され、身体を起こしたエルに大声を出して飛び掛かるステラとそれに連れられる私を見てエルが大声で叫びました。
そうして私とステラは二人してエルへと抱き着きエルと共に海へと倒れました。
「キュー……」
後ろからキューちゃんの呆れたような鳴き声が聞こえた気がしました。
「何してんのさ」
「「「ごめんなさい」」」
4人揃って全身ずぶ濡れ。そんな中私とステラはその場で正座し、一番最初に飛び掛かったサリーネは後ろからエルに頭を両手で絞められています。
「せい」
「わぷっ!?」
そしたらエルが唐突にサリーネを後ろへと引き海に倒しました。
そのまま私の方へ来るエル。
「へ?ちょっ、まっ!?」
エルに手を掴まれたと思ったらそのまま海へと引き倒されました。
「こうなったらとことんやるぞぉ!」
暴走したエル。
そうして浜辺で待ってたクーデリア達をも巻き込んで浜辺での対戦が始まりました。
暴走を始めたエルが問答無用で浜辺からクーデリア、ソフィー、ヴィクトリア、テレサと順に連れてきては海へと倒していきます。
それだけに留まらずユースティアや魔女さん、様子を見に来たフィーユやエミリーすらも巻き込みます。
その結果皆が皆、バラバラに狙い始めました、ソフィーがクーデリアを狙い、そんなソフィーを狙ってヴィクトリアが後ろから近付いたりと。
と言うかクーデリア達も楽しんでますねこれ。
ちなみにジェームズとアルドルも対エルのみで参戦してます。
そして女子組は一足先に浜辺へ上がり、キューちゃんの炎や魔女さん、フィーユ達に魔法で乾かしてもらいつつ未だに戦い?続けるエル達男子組を見守っています。
「……と言うかサリーネ……貴女下着くらい付けなさいよ」
当たり前ですが、私達全員水に濡れて透けてます。ですから下着とかも透けて見えてるんですがサリーネがまさか下着を付けていない事に驚きです。
「別に良いじゃん、減るもんじゃないし」
「エル以外に見られて良いんですか?」
「その辺は大丈夫、あの2人見ないように徹底してるし」
「……」
変な所で信頼してますねこの人。
「それに魔女さんやテレサちゃんだって下着付けてないじゃん」
「わ、私は今日はたまたまっ!」
テレサが顔を真っ赤にして反応しました。
「なんならエミリーも付けてないもんね、今日」
「いちいち言わなくて良いじゃん!?」
フィーユにバラされてしまったエミリー。
「アルドルゥゥ!!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
そんな時エルとアルドルの叫び声が聞こえてそちらを見るとエルを持ち上げたままアルドルが前に倒れ海へとその身体を叩きつけていました、勿論エルも一緒に。
「うわぁ痛そう」
様子を見ていたサリーネがそう呟き。
「にしても、あの三人凄く生き生きしてますね」
「本当に仲良いですよね」
クーデリアとユースティアが微笑ましそうに眺めながら言いました。
「それにしてもあんなに楽しそうなエル、私初めてみたなぁ」
「そうですね」
フィーユの言葉に私も同意しました。
なんならエルが一番楽しんでいる様にも見えますね。
度重なる任務に疲れていたでしょうし、良い息抜きになったと思います。
「もしかしてこれを狙っていたのですか?」
「グルァ」
私の隣で丸くなったキューちゃんに尋ねますが素っ気ない反応しか返ってきません。
やはりこの子はエルにしか可愛い反応をしませんね。それでも服とかを乾かすのを手伝ってはくれたのでそれなりに友好ではあるのでしょうが。
それからエルが満足するまでの数分間眺め、戻ってきたエル達の服を乾かした後にその街の温泉に入る事にしました。
温泉に入り身体を洗って出てそれから皆で母艦へと赴きました。
気が付いたら海で遊んでる。
可笑しいな……そのまま母艦に乗って出発する筈だったのに……。
そしてキューちゃん可愛い。




