第28話 試作人型戦闘機
アルトゥン鉱山の奪還から一ヶ月ほどが経った。
防御陣地の製作と安全域の拡大を終わらせ鉱山の採掘が始まったのが2週間ほど前。
連合軍上層部はアルトゥン鉱山から採掘され入手した鉱石を即座に人型戦闘機の製作に充てたらしい。
アルトゥン鉱山付近の防衛を冒険者や連合兵に任せ俺達はゲネシス西部にある基地に帰還していた。
「……」
俺は新造された格納庫に届いたある試作品を見ていた。
一言で言うのなら鉄の巨人。
地上部隊の敵防御陣地を空中戦力無しでも突破する事を念頭に開発、生産された試作機。
その名も【試作人型戦闘機】である。
どうやら上層部は既に試作機の製作を始めていたらしい。ではアルトゥン鉱山の鉱石は何に使うのかと言うとその鉱石で六試人型戦闘機を生産するようでこの試作人型戦闘機はその為のデータ採取機の様だ。
この人型試作機でデータを採取して六試人型のシステムに反映するらしい。
武装はマニュアルに記載されていたロケット砲や150mm滑腔砲がありそれらのデータも採取しろとのこと。
また一式や試作機と違い装甲が重装甲と厚くそれなりにアンコニュの攻撃には耐えられる様だ。
ただ……
「これだけ重装甲だと鈍重じゃないだろうか?」
凄い遅そう。
それはそうとこいつも試作機って呼ぶと紛らわしいしなんか名前付けるか……。
こういう時はベオがプレゼントで送ってくれた本に載ってた古代語で気に入った単語を引っ張ってこよう。
そして試作機はinizioと命名した。意味は始まり。
こいつは人型の原型機、だから始まりと名付けた。
「取り敢えず乗ってみよう」
イニーツィオのコックピットは腹部にあり、そこまで仮設足場の階段で行く。
コックピットの扉は閉まっているので扉の横にあるカバーを外し中にあるI字型のレバーを握り引っ張りながら縦から横に、━の向きに変える。
こうするとコックピットが上へと開く。
開いたコックピットの中は少し暗い、俺はその中に入り座席に座る。
「ふむ」
左右に操縦桿、足元にはペダル。
試しに始動スイッチを押してみる。
〘システム、起動します〙
女性の声がコックピット内に木霊した後、起動音と共にコックピット内の明かりが付きコックピットの扉が下がり閉まる。イニーツィオの補佐システムだろうか。
「へぇ扉の内側がカメラの映像を映すんだ」
視点の高さ的に頭部カメラのようにだね。
補助カメラもある様で正面以外に左右も見える。
「後方はどうやって見るんだろう、もしかして無いのかな?」
〘後方の映像を映します〙
再び女性の声が響いたかと思えばメインカメラの映像を映すモニターの左下に小さく後方の様子が表示された。
どうやら俺の声に反応して後方の映像を映してくれたようだ、凄い。
「武装の切り替えとかはどうやるのかな?」
〘左手元の小型モニターよりウェポンシステムより選択していただく事で可能です。ウェポンチェンジは此方でやりますのでご安心を〙
左手元に起き上がった小型モニター。
今は手持ち武器が無いから選択出来ないけど、武器がある場合は選ぶとイニーツィオが自動で武器を変えるそうだ。凄い。
〘前面のモニターに狙いを付けるマーカー……試作機で言う所の照準器があります。また右下にそれぞれ弾数等が表記されます〙
「その辺は試作機と同じなのね」
マーカーも最近装備された補助システムに近いだろうし。
〘また最新の索敵装置も搭載し右手元の小型モニターに反映して敵の位置を知る事も可能です〙
「敵の位置が分かるのはありがたいな」
さて、次はイニーツィオを実際に動かしてみようかな。
そう思って操縦桿を握り直した時、モニターに人の姿が映った。モニターに映し出された姿はセシリアだった。
Cecilia《エルー!そろそろお昼ご飯ですよー!》
おや、もうそんな時間か、後は昼からにしよう。
「あっ、そう言えば君の名前は?」
〘私の名前はココです、よろしくお願い致します。マスター〙
「うん、よろしくね」
ココに挨拶をしてコックピットを……。
「へい、ココ。コックピットってどうやって開けるの?」
〘……少々お待ち下さい〙
・
・
・
・
・
ココにコックピットを開けてもらいセシリアの下へ行き一緒に食堂へと行く。
ご飯をトレーに乗せ席に着く。隣にセシリアが座る。
「エルは午後、何をするのですか?」
「イニーツィオ、試作人型戦闘機を動かしてみようと思う」
「イニーツィオ……名前を付けたのですね」
「うん、始まりって意味」
「あ!エル居た!」
声のした方を見ると食道の入り口にサリーネが居た。サリーネはご飯を持って俺の隣に座る。
よって俺はセシリアとサリーネに挟まれてしまった。
「姿が見えなかったけどどこ行ってたの?」
「あ、セシリアにしか言って無かったっけ、人型戦闘機の試作機の所に居たよ」
「ふふっ、私だけでしたか」
そう言ったらセシリアが嬉しそうに反応した。
「午後からはどうするの?」
「試作人型戦闘機を動かすそうですよ」
サリーネの問いに俺が答える前にセシリアが答えた。
「あら?確かまだシミュレーションやってなかったわよね?大丈夫なのかしら?」
そこでいつの間にか俺の対面に陣取っていたステラがある事に気付いて話し掛けてきた。
そう、俺はシステム周りが気になったから乗っただけでまだシミュレーションは一切やっていないんだ。
「音声による補佐があったから多分大丈夫だよ」
イニーツィオは音声ガイドがあるから多分なんとでもなると思う。
それに試作機の時なんてぶっつけ本番の飛行に戦闘だからね、それに比べたらだいぶマシだよ。
「イニーツィオ……あの試作人型戦闘機に人の声を発する補佐システムとかあります?」
「いや、そんなシステムは搭載してないし開発もされてない筈だが?」
疑問に思ったセシリアが同席していたクランクさんに聞くとクランクさんは頭を横に振って答えた。
Beo《クランクの言う通りだ、となると……》
《「「「「「セレーネ様か」」」」」》
満場一致でそうなった。
「午後からエルの所にお邪魔してもよろしいですか?」
「良いですけど特に面白いものは無いと思いますよ?」
「ありがとうございます!」
シャルルさんが聞いてきたので了承すると目をキラキラさせてお礼言ってきた。
そんなに面白い物じゃ無いけどなぁ。
ちなみにシャルルさんとカトリーナさんとは何度か作戦を共にした事で本名を教えた。
今ではシャルルさん達も仲良し組になったよ。
「あ、私も同席しても良いですか?」
「俺も見るぞ」
クーデリアやジェームズが手を上げて主張しだすとソフィー達もそれに乗っかる。
そうしてカナリアさんやユースティア達も賛成していき。
「いっそのこと皆で見るか」
「「「「「「「「賛成!!!」」」」」」」」
とクランクさんが述べ、皆が賛成した。
こうして俺は仲の良い皆が見守る中でイニーツィオの操縦を行う事になった。
午後。
昼食を終えた皆はそれぞれ時間までのんびりと過ごした後、イニーツィオが保管されている格納庫へとやって来た。
俺は有事に備えクーデリアやセシリアにも開け方を教えようと思い一緒に足場を登りコックピット前まで来た。
先程と同じ様にレバーを引っ張り扉を開けて中へと入る。
〘来ましたかマスター〙
「「は?」」
「あれ?ココ?まだ起動してないよね?」
中に入った途端に聞こえてきたココの声。
どう聞いても機械音声に聞こえないその声にセシリアとクーデリアは目を丸くしていた。
〘私は何時でも補佐できるように試作人型戦闘機イニーツィオ自体のシステムとは別ですからね、イニーツィオが起動して無くても問題なく話せますよ〙
「流石セレーネさん」
イニーツィオに関与せずに補助システムを搭載するなんて。
セシ「これ絶対システムとかじゃ無いですよ」
クー「セレーネ様は何をしたんでしょうか、これイニーツィオとも関係ないですよ」
セシ「精霊か何か憑依させたのでしょうか」
「ありえますね」
セシリアとクーデリアが顔を見合わせて呟いている、残念ながらその声は聞こえなくて何を言ってるかは分からない。
「それじゃシステム起動するから2人共足場から降りてね〜」
「「分かりました」」
2人が足場から降りて皆の下に合流したのを確認してから始動スイッチを押す。
〘システム、起動します〙
ココの声がコックピット内に木霊した後、起動音と共にコックピット内の明かりが付きコックピットの扉が下がり閉まる。
「モニターに異常は無いね」
映し出されたモニターにセシリア達の姿が見える。
整備員さん達が足場を退けてくれたのを確認して操縦桿を操りイニーツィオを動かす。
ゆっくりと前進するイニーツィオ、足が地面に接地する度に音が響く。
Charles《凄いですね!》
Katrina《エルの試験を目の前で見れるなんて!》
シャルルさんとカトリーナさんの声をイニーツィオが拾いコックピット内に響く。その瞳がキラキラと輝いているのがモニター越しにでも分かる。
Beo 《問題はなさそうか?》
「うん、大丈夫そうだからこのまま滑走路に出るよ。推進装置による加速とかも見てみたいし」
Cecilia《エルったらそのまま外に行って加速速度を試すみたいですよ》
Sarine《え?!シミュレーションしてないよね?!》
ベオから聞いたのかセシリアがこれから起こる事を皆に説明するとサリーネが驚きの声を上げた。
無論サリーネだけじゃなくステラやこの基地にセシリアの様子を見に来ていたローザさんやエルミアちゃん達、クーデリア達も驚いていた。
クランクさんや整備員さんなど古い付き合いの人達は皆なんか納得した様な顔してた。
Crank 《まぁ坊主ならやるわな》
Cecilia 《ですよね》
うんうんと首を縦に振るクランクさんとセシリア。
そのまま格納庫を出て滑走路に進入した後イニーツィオのアクセルペダルを全開に踏み倒して加速する。
「遅っ!!!!」
……いや、多分鉄の塊って事を考えると速いんだろうけど試作機に乗ってる身としては物凄く遅い。こんなん試作機や一式の半分以下だよ。
ただ良い所もある。
各部スラスターによる細かな機体の姿勢制御や急旋回が可能。
それでも遅い……速さが物足りない。
「ねぇ、これ試作機かなんかの上に乗せれる様に出来ない?クッソ遅いんだけど」
Beo《上層部が作った試作品の中にそう言う考えの下に作られた試作機の付属装置があったな……直ぐに送ろう。明日には届くだろう》
ベオが付属装置を送ってくれる事になった、明日が楽しみだね。
Charles 《あれで遅い……?》
シャルルさん達が困惑していた。
翌日
ベオより送られてきた付属装置の台を試作機2型の後部に取り付けた。
これによって人型戦闘機が試作機2型の上に乗れるようになった。
「クーデリア、2型の操縦して」
「ふふっ……ええ、分かりました」
俺はこのまま人型を操縦するから試作2型に乗れないので俺の次に技量のあるクーデリアに頼むと彼女は満面の笑みで了承した。
どうやら俺の愛機を操縦出来るのが嬉しいそうだ。
滑走路に出て試作2型の背に乗る。
「何時でも良いぞ」
Kudelia《了解、行きます》
加速と同時にイニーツィオが後方に倒れたので急いでスラスターを吹かして体勢を立て直す。
「立ったままだと駄目か、次は膝を付いてみよう」
Kudelia 《了解》
もう一度試作2型の背に乗る。
Kudelia 《行きますよ!》
少しバランスが崩れるもなんとか持ち堪えて試作2型はイニーツィオを乗せて空へと上がった。
Kudelia 《やりましたね!》
「うん、成功だ!」
地上を見てみれば皆も喜んでいるのがモニター越しに見て取れた。
イニーツィオが試作2型の背に乗れる事で戦術の幅が広がったね。




