第25話 エルツ国偵察任務
ゲネシス聖都では現在、エルフの国の奪還成功を祝い戦勝パレードが行われている。
作戦成功の立役者であるクーデリア達バナール隊は勿論、ステラ達魔法使いやセシリア達エルフもドレスや礼服を着て参加していた。また来賓でシャルル達やエルフの国の女王ローザも参加していた。
幾つもの豪華な馬車に分かれて乗り、国民達の歓声を受けて進むクーデリア達。
だがその中にエルやクランクの姿は見当たらない。
エルはエルフの国の隣、エルツの偵察任務にクランクはその補助に当たっている。理由は軍の命令違反を犯したため、その罰だ。
故にクーデリア達も決して表には出さないが内心乗り気では無い。
笑顔で応えるその表情が作ったものであると知るのは当人達のみであろう。
((((((早く終われば良いのに))))))
その心もまた当人達のみしか分からない。
そしてクーデリア達の思いとは反対に豪華な馬車はゆっくりと聖都の石畳の上を進む。
この戦勝パレードはいわゆる住民達から資金を調達する為のプロパガンダなのだ。
住民達に勝利を謳い、資金を援助してもらう。
この戦いは決して勝てないものではない、意味があるのだと、そう囁くのだ。
実際にアンコニュに敗北したエルフの国の女王が居ることから住民達はその言葉を信じるだろう。
住民達から得られた資金は全てが軍事費に行くことはない。腐った上層部、その懐に多くが入るのだ。
その事実を考えなくとも思いつくセシリアやシャルル、ローザ達は思うところがある。
その考えが口から出ることはないだろう。
〈今頃エルは単独での偵察任務をしてるのでしょうね〉
〈そうだね、護衛も無しに〉
セシリアが念話魔法を用い話始めればその言葉にフィーユが溜息混じりに応えた。
〈早く終わってエル兄様の援護に行きたい〉
〈〈〈〈〈同感〉〉〉〉〉
ヴィクトリアの言葉に全員が同意した。
しかし戦勝パレードはまだ終わらない。
・
・
・
・
・
エルSide
聖都でセシリア達が戦勝パレードを行っているであろう頃、俺は格納庫で試作品の武装を漁っていた。
クランク「上層部より単機でのエルツの偵察と長時間の飛行におけるデータ取得が言い渡された、それに伴い武装も長期継戦が出来るものを選ぶぞ」
エル「これとか良さそうじゃない?ついでにこいつらの試験データも取ろう」
データ取得とか言うけどこれ命令違反の罰でしょ、俺でも分かるわ。
さて、補給物資と共に送られてきた試作品の山から長期戦に向けての武装を選ぶ。
選んだ武装は補給なし前提の為長期戦用とし機体後部に取り付ける新兵器の誘導式魔力爆裂弾にした。
魔力爆裂弾は発射時に直上しその後相手に向かって進み相手付近で爆発を起こす範囲兵器。
一発撃つ事にチャージが必要で再チャージにおおよそ1分掛かるらしい。それを3つ搭載した。
再チャージ出来るから補給の為に着陸する必要は無いのも良い。
偵察任務ということなので長時間飛べるように魔力貯蔵タンクも付ける。
コックピットの後ろに食糧も幾つか乗せておく。また万が一に備えて短剣2本と短銃と少しの弾薬、傷薬なども忘れずに。
準備も終えた俺は試作機2型に乗る。
オリヴィアさんはお留守番、キューちゃんはお留守番を断固拒否したので何時ものように首元から顔を出すスタイルで連れて行く。
試作機を滑走路へと向かわせる為に格納庫を出ればコックピットのガラス越しに眩しい太陽の陽射しに照らされる。
清々しいほどの晴天である。
Beo《バナール1離陸スタンバイ》
Crank《クランクよりバナール1へ、離陸を許可する》
「了解」
離陸許可が降り、俺は試作機を発進させ空へと飛ぶ。
空を飛んだら機首を方位270、西へと取って飛ぶ。
後はエルフの国の西部に到着するまでは自動操縦で飛んでいく。
Beo《懐かしいな、久し振りの単独飛行》
「そうだね、数カ月ぶりだ」
ここ数カ月はほぼ絶対と言っていい程クーデリア達かフィーユ達の誰かと一緒だったからね。
なんなら後部座席に誰か居たりもしたし、キューちゃんが居るけど今回はクーデリア達も他の部隊も居ないからほぼ単独飛行。
今回は補佐にセシリアが居ないけどクランクさんとベオの2人が居るから実質最初期のメンバーのみでの飛行。
「今回セシリアが居ないんだよね」
Olivia《ん〜?私じゃ役不足かしら?》
「そんな事ないですよ、居るって分かるだけでも安心感はありますから」
オリヴィアさんなら何かあればすぐ駆け付けてくれるだろうし、基地に何かあっても対応してくれるだろうから。
無論セシリア達もやってくれるけど。
ちなみにオリヴィアさん、1人の時なら空間転移魔法が使えるらしく遠く離れたエルツ領にも数十分程で来れるとか。
他に人が居るのと自分1人では空間転移も勝手が違うとかなんとか。
エルフ領に入り下を見れば北東部の基地が見えた。ここの神の結晶苗木はユースティアと一緒に回収済み。
北東部基地を越え少し経てばエルフの王城と神秘の泉が見えてくる。
枯れ果てていた神秘の泉も今では上空からでも泉と分かるほどに水の量が増えた。
そのまま西へと飛び続け森を越え国境の平原へと到着。
見張りの魔法使いちゃんに手を上げて挨拶しながら俺はそのままエルツ領へと進入した。
エルツ王国。
鉱山が多数あり、そこから産出される鉱石等で有名だった国だそうだ。
Beo《此処から先は未知だ、気を引き締めよう》
「了解」
自動操縦を解く。
枯れ果てた大地、これはもう見慣れたね。
エルフ領と違いエルツ領は山が多い。
「幾つか穴が確認出来るけど、これ鉱山なのかな」
Crank《可能性は高いな、なんせエルツは鉱山が多いからな》
草木が一切生えてない岩肌の鉱山かぁ。
Beo《方位270に敵の反応あり》
Crank《バナール1、交戦を許可する》
「バナール1、交戦」
眼前に迫るアンコニュの集団。
「丁度いい、早速魔力爆裂弾を使ってみよう」
「キュー」
爆裂弾の発射スイッチを押すとボンッと言う音が鳴り響き、その少し後に目の前のアンコニュに向かって3つの光弾が高速で飛んでいき、アンコニュの集団のすぐ近くで大爆発を起こした。
「凄いなこれ」
「キュー」
キューちゃんと共に感心しつつ補助システムによってコックピットの前面、その隅に表記される緑色の文字を確認する。
【爆裂弾・魔力充填率━10%】
この充填率が100にならないと爆裂弾は次弾が発射出来ない。
だが問題はない、武装はこれだけじゃないから。
ミサイルの代わりに両翼の下に装備した魔力機銃。筒状の武装で貯蓄された魔力を弾丸にして放つ。いわゆる魔力版の機銃だ。
こちらも緑色の文字で魔力充填率100%と書かれている。ちなみにこれは100%まで溜まって無くても放てる代物でなんと1%でも放てるという。
その代わり1%だと一瞬で弾切れになって発射出来なくなるらしいけど。
「爆裂弾は効果が高くて良いけどその分魔力消費が激しいね」
此処はエルツ領、既にエルフの国の要の地の恩恵は殆ど得られない。
その為魔力の補給が出来ず爆裂弾は機体下部に取り付けていた魔力貯蔵タンクから魔力を充填しており、既に魔力貯蔵タンクの魔力残量が70%を切っていた。
「計算すると3回分しか使えないね」
Beo《飛行用に取っておくと更に使用回数は減るな……どちらも要改良か》
Crank《改良すると言っても質の良い魔鉱石を使うくらいしか今は手の内ようがないだろう、値が張るぞ》
魔鉱石、確か魔力を貯める性質があるんだったけ。良質な物ほど多く魔力貯めれるとか。
「今付けてる魔力貯蔵タンクって魔鉱石の質悪いの?」
Beo《その貯蔵タンクは試験段階だ、良いものは使われてないな》
「なるほど、でも質の良い奴使ってタンク作ったりしないよね」
Beo、Crank 《そうだな》
質の良い魔力貯蔵タンク作る位なら上層部の奴等は懐にしまうだろう。
「爆裂弾は取っといて機銃とかで相手しようかな」
爆裂弾の充填率は100%になったので武装への魔力供給を切断して全て推力の方へと回す。
魔力の機銃や実弾の機銃でアンコニュの相手をしよう。
「魔力機銃……連射は速いけど消費が速いね」
あっという間に10%減ったよ。
それから機銃でアンコニュを倒し続け周囲に姿は見えなくなった。
Crank《アンコニュの反応消失を確認、周囲に反応もなし》
「このまま方位0に向かってみるよ」
Beo《了解した。エル、少し休め。その間索敵は私とクランクでやる》
「了解」
機首を方位0、北へと向けそのまま自動操縦で休息を取る。
コックピットに引っ掛けて置いた袋の中からお気に入りの一口サイズのチョコを2つ取り出し一つをキューちゃんにあげる。
チョコを食べつつチラリと下を覗けば街らしき物が見えた。けれど大半の家は壊れているようだ。
Crank《敵の反応、方位270》
「了解」
西よりアンコニュが現れた様なので自動操縦を解き方位270に機首を向ける
Beo《待て、方位315にも反応がある。225からもだ!》
西の他に北西と南西からも来たようだ。
Crank《多い、多いぞ!》
アンコニュが群をなしてお迎えに来たようだ。
本来なら逃げるべきなんだろうけど戦勝パレードで守りが手薄な今あれだけの数を連れて行く訳にもいかない。
「やるしかないよね!バナール1、交戦」
Olivia《すぐ援護に向かうわ!それまで持ち堪えて!》
大群のアンコニュに向けて飛び、前面の緑枠と照準器が合わさった瞬間に引き金を引く。
機首の30mm機関砲2門が火を吹きアンコニュが地に落ちていく。
使用武装を追加し両翼の12mm機関銃も一緒に放つ。
「流石に多いっ!」
旋回、宙返り、急上昇、急降下などあらゆる方法で滅茶苦茶に動き回りながらアンコニュを撃破していくもその数が減っているようには見えない。
被弾こそしてないがそれも時間の問題な気がしてならない。
背中を冷たい物が伝っていった気がした。
そんな時だった。
Beo《不明反応が急速接近……数5!これは……!》
「あいつらか!」
放たれる5つの弾丸の嵐が周囲のアンコニュを蹴散らし、俺の目の前を5つの影が通り過ぎた。
久々に見た黒き5機の一式
そのコックピットは相変わらず人影はなく無人であることが見て取れる。
遠隔操作で操ろうかと考えた事もあるがその結果何が起こるか分からないため今では触ってはいけない存在としてみている。
が今回も味方をしてくれるそうで助かる。
1体、また1体とアンコニュが次々と落ちていく。
黒き5機の一式参戦により減るアンコニュ、その時新たな援軍が登場した。
Olivia《助けに来たわよ!》
藤色の長髪にとんがり帽子を被りマントをはためかせネックラインが深く大きくカットされ肩と胸の上部を露出した黒いドレスを着た女性オリヴィアさんだ。
「黒い一式には攻撃しちゃ駄目ですからね!」
Olivia《分かったわ!》
オリヴィアさんから放たれる火の槍や氷の刃がアンコニュへ次々と襲う。
「凄……」
あっという間にアンコニュの数が半数以下になった。これが魔女かぁ。
その後オリヴィアさんや黒い一式達のお陰で事なきを得た。
アンコニュを倒し、オリヴィアさんをコックピットへと入れる。
後部座席は撤去してるのでオリヴィアさんを横にして抱く。
オリヴィアさんを横抱きしながら試作機2型を操るのは難しいので今日はここまでにして自動操縦でゲネシスへと帰ろう。
黒い一式はオリヴィアさんが乗り込んだのを見て西へと向かって飛んでいった。




