第20話 神秘の泉攻略戦
試作機に乗ってセシリア達のいる前線、要の地へと急いで向かう。
「凄い速いし自分の魔力の消費も無く目的地に行けるし楽でいいわね〜」
すぐ後ろに座るオリヴィアさんがそう言った。
試作機は後部座席を操縦席のすぐ後ろに移設してある。それによりオリヴィアさんは俺の腹に腕を回して身体を固定している。
確かに今回は後部座席を設けるつもりは無かったから急造品だけどそれでもちゃんと身体を固定する器具はあるのだけれどオリヴィアさんは頑なに抱きつく方式を取った。
「オリヴィアさんなら同じくらいの速さで飛べるんじゃ?」
「無理よ、身体がその速さに対して長く持たないし持つために風魔法とかで軽減すると魔力消費が重なって疲労も大きくなるし」
「あーだから巡航速度も低速な上風魔法による防風を施す様になったんだ」
そう、クーデリア達の一式はまだだが俺の試作機は最新の機器の試作品に積み替えられている、その中に両翼に風魔法による防風システムが追加されたんだけどそういう理由か。
このシステムが上手く使えればフィーユ達を両翼に乗せても強風による疲弊を抑えられるかな。
Beo《そろそろ作戦空域に到着するぞ》
「了解」
オリヴィアさんとの楽しいお喋りはここまで、此処から先はアンコニュとの戦闘に集中する。
Crank《エルフの国が所有する要の地である神秘の泉攻略戦に関する情報だが、第一次、第二次総攻撃を仕掛けた様だがどれも失敗に終わっている、原因は神秘の泉周辺に堅固に構築された陣地による物だ》
Beo《よって本作戦におけるバナール1の役割はミサイルによるこの防御陣地の破壊だ、ただしミサイルの数が少ない為撃破目標を絞る必要がある》
「作戦空域到達後セシリア達と連絡を取り合ってどの防御陣地を破壊するか目印を付けてもらった方が良いね」
全て破壊出来れば良いけどそれをやるにはミサイルの数が足りない、セシリア達に魔法で目印を付けてもらってそれを破壊した方が良いだろうね。
「試作機への魔力供給は私がするし、残量管理もするから君は目の前のことだけに集中してね」
「はーい」
返事をすればオリヴィアさんが優しく頭を撫でてくれた、魔力量の多いオリヴィアさんが一緒に来てくれたお陰で飛ぶ為に必要な魔力残量を気にしなくて良いのは助かる。
「バナール1戦闘空域に到着、これより作戦行動に移る」
Crank《バナール1交戦を許可する》
クランクさんから交戦許可を貰えたので俺は機首を下げ急降下を始める、さぁ戦闘開始だ。
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クーデリアSide
アンコニュに支配されたエルフの国、その要の地である枯れ果てた神秘の泉の奪還作戦。
そんな要の地の攻略戦は構築された堅牢な防御陣地の存在とこれまでに行われた奪われた地の奪還作戦など比べ物にならない程のアンコニュの大群により難航、予定より大幅に遅れていました。
防御陣地を突破する為の第一次総攻撃、第二次総攻撃はアンコニュの激しい抵抗により失敗に終わり、積み上げられる仲間とアンコニュの亡骸で埋まる大地はまさしく悪夢でした。
Allied forces《クソッ!上はっ、空はどうなってる?!》
adventurer《駄目だ抵抗が激しすぎる!援護をっ!》
戦場は阿鼻叫喚、地上の手助けをしようにも私達も空のアンコニュの相手で手がいっぱい。
fille《バナール隊っ!一度引いて体勢を立て直すよ!》
「ですがそれでは地上が!」
fille《空の僕達が継戦出来なきゃ被害がもっと広がるだけだ!一度引いて魔力を補給するんだ!》
そんな時でした、通信機が雑音を放ち、そしてあの人の声が聞こえたのは。
Eru《バナール1戦闘空域に到着、これより作戦行動に移る》
落ち着いた彼の声が聞こえたと思ったら彼が急降下して目の前を通過し地上への援護射撃をしました。
Allied forces《月女神のエンブレムッ!彼が来てくれたんだっ!》
急降下と同時に風切り音が響きます。
通称月女神の警笛。
何故月女神なのか、それは彼の尾翼に描かれた月女神のエンブレムから取られました。警笛は急降下の際に生じる風切り音を指します、その音はアンコニュの意識をエルに向けさせるのに十分でそれだけアンコニュがエルを危険視していることが分かります。
そしてその音だけで落ちていた私達や魔法使い達の士気は大きく上がるのです。
fille《リュミエール隊、バナール隊!まだ戦えるかい!?》
Emily《まだまだ行けるよ!》
「私も行けますよ!」
燃料となる魔力にもまだ余裕がある、エルの援護をするには十分でしょう。
リュミエール隊のお姉さん方も問題なさそうです。
「援護行きますよ!」
私達はエルの援護をすべく一式を操りアンコニュを掃討する。
私達を狙うアンコニュもいますがやはりエルの方が脅威と捕らえているらしく先程よりも戦いやすいです。ですがそれは代わりにエルが多くのアンコニュに狙われているという事で正直嬉しいことではありませんが。
「あれは……ミサイルですか!?」
よく見るとエルの試作機の両翼にミサイルが装備されていました。一度あのミサイルの誘爆によって墜落していると言うのによく再び使う気になりましたね……しかも私達には使うなと言っていたのに。
まぁ恐らくあれを装備した理由は地上の援護、防御陣地を破壊するためでしょうけど。
「まったく、来るなら最初から言って下さいよ」
アンコニュを倒しつつエルに通信機でそう伝える、エルが来てくれるだけで私達は安心して戦えるんですから。後から来るなら「後から行く」と一言伝えてくれるだけで良いんですから。
Eru《いや、来る予定は本当に無かったよ?》
「では緊急指令でしょうか?」
エルには今作戦の参加は許可されていませんでしたし、要の地の攻略が上手くいっていないから救援で呼んだのでしょうか。
Beo、Crank《いや、単純に命令違反だ》
「《《《《《《命令違反?!》》》》》》」
えぇ?!命令違反!?エルったら何してるんですか!?と言うかクランクさん達も止めてくださいよ!
私の他にもジェームズ達やセシリア様やステラさん達も驚きに声を上げたのが通信機越しに聞こえてきました。
Eru《帰ったらベオとクランクさんと3人で始末書書くんだ〜》
あ、クランクさん達も共犯ですね、これ。
fille《なんで嬉しそうに言ってるのかなこの子は……》
Cecilia《どうしましょう……エルが悪い子に……》
呆れたフィーユさんと嘆くセシリア様の呟きを聞きつつエルの援護を続ける。
「ん?え?魔女さん!?」
コックピットを見てみるとエルのすぐ後ろに見覚えのある人が座っていた、よく見てみるとその人はエルと共に基地を訪れそのまま基地に居着いた藤色髪の魔女さんだった。
まさかエルと一緒に来るとは思いませんでした。
それから数十分、エルの参戦により空の優位性を確保しました。けれど地上は未だに進展はありません、堅牢な防御陣地が地上部隊の行く手を阻んでいるのです。
エルを除く私達バナール隊とフィーユさん含むリュミエール隊は一度魔力補給の為前線基地へと戻る事になりました。
エルはそのまま制空権を確保しつつ待機し、私達が戻ったら地上の防御陣地への攻撃を開始するようです。
fille《エル、君が要の地奪還の鍵だ、絶対墜ちないでね》
Eru《分かってるよ》
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エルSide
フィーユとクーデリア達が魔力補給に向かってる間、俺は他の魔法使い達と共に空中優位を保持しつつ牽制で地上のアンコニュを撃つ。
いくら空中優位取れても地上はまだ侵攻は出来ない、防御陣地への攻撃は万全を期してフィーユ達が戻って来てから。
fille《お待たせー!》
補給を終えたフィーユ達が戻ってきた。
戻ってきたフィーユは当たり前のように俺の試作機のコックピットの横に取り付く。
「皆戻ってきたみたいだね」
fille《うん、それじゃ始めようか!》
その言葉を合図にフィーユは飛び立ちいつでも援護出来る様に準備を始めた。
Crank《セシリア、予定通り始めてくれ》
Cecilia《分かりました》
ミサイルは4発と少ない為、防御陣地の突破口を作る為地上部隊を率いるセシリアに重要箇所を魔法で印して貰い、そこに俺がミサイルを放つ。
Beo《セシリアから目標の印を確認、バナール1、始めろ》
「了解……オリヴィアさんしっかり掴まっててね」
オリヴィアさんがしっかりと抱き着いたのを確認し、俺はセシリアが付けてくれた印に向けて試作機を急降下させる。
コックピットの前面に表記される緑色の枠、これは新たに搭載された補助システムでセシリアの魔法を観測し俺の試作機にその位置をリンクさせ前面に表記させた物。後はこの表記に照準器を重ねるだけ。
狙いを定め引き金を引きミサイルを一発放ち機首を上げる。
Crank《目標への命中を確認、残り3つ》
高度を十分に取り、再び急降下して目標へミサイルを放つ。それを3回繰り返す。
Beo《目標の防御施設の沈黙を確認、よくやった》
Kudelia《一発も外さないなんて……流石ですエル》
Sofie《流石お兄ちゃんだね!》
フィーユやセシリア達等の親しい者だけの通信グループでクーデリアやソフィーから褒められちゃった。
Allied forces《よしっ!月女神のエンブレムが防御陣地の突破口を開いてくれた!行くぞ!》
開かれた突破口へと冒険者達が向かう、俺とフィーユ達はその冒険者が空から狙われないようアンコニュを倒しつつ地上部隊の様子も気にする。
adventurer《要の地、神秘の泉とその周辺を確保したぞ!》
その報告に通信機越しに歓声が聞こえた。
james《お手柄だな!エル!》
Charles《神秘の泉周辺に防壁を設置してください!その地だけは絶対に死守しますよ!》
驚いた、前線の指揮をするとは聞いていたけどまさかこんな最前線にシャルルさん達が居るとは思わなかった。
Charles《バナール1、地上部隊の援護、感謝します》
「任務完了、これより帰投します」
要の地の奪還は成功した、まだまだエルフの国の解放は終わっては居ない。だが要の地の奪還はエルフの国の解放の大きな一歩だろう。
Crank《よしエル、帰って3人で楽しい始末書だ!》
Cecilia《クランクさん、エルに嘘を吹き込まないで下さい、楽しくもなんとも無いんですから》
「えっ楽しくないの?!」
俺の反応にクーデリア達の小さな笑いが聞こえる、その笑い声を聞きながら俺は基地へと向けて帰路に付いた。




