第17話 エルの看病
視界がぼやける……。
身体は熱く、そして気怠い。
少しボッーとするし、風邪でも引いたのだろうか。ずっと雨に打たれて濡れたまんまだったからそうなのかも知れない。
「コホッ、ゴホッ」
取り敢えず朝食を摂ろうと暗い部屋の中、ベッドから起きた。
それがいけなかった。
「あ━━━?」
回る視界、足に力は入らず身体を支える事が出来なくて重力に従って床へと身体を打ちつける。
「グゥァァ」
怪我も治ってないから身体中が痛む。
風邪を引いて判断が鈍ったのかな……。
「これ、って、けっこう、まず……い?」
恐らく動いてはいけなかったのだろう、大人しくベッドで寝ていれば良かったのだが後の祭り。
ベッドに戻る事も誰かを呼ぶ事も叶わないまま風邪の苦しさに襲われながら、床の硬く冷たい感触を味わい、遠くでキューが鳴いているのが聞こえる中私の意識は次第と遠くなっていきました。
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セシリアSide
エルを救出した翌日、私達はエルと共に居た藤色髪の魔女さんの手を借りてエルフ領内の前線基地からゲネシスの基地へと移動しました。
方法は魔女さんに浮遊させて貰いそのまま高速で飛行するだけ。
魔力が枯渇していた魔女さんでしたが前線基地に植えた神の結晶苗木付近で魔力を回復したことで可能になりました。
移動した理由はエルの療養ですね、どういう訳かエルは自身に奇跡の行使が出来ず怪我の治療が出来ません、なので安全地帯のゲネシス基地へと移動しセレーネ様をお呼びして診てもらう事になりました。
「エル?まだ寝ているのですか?」
朝食を食べに行ったらエルは朝食を食べには来ませんでした。
クランクさんやクーデリア達に聞いてみた所、今日は誰もエルの姿を見ていないそうです。
もしかしたらまだ寝ているのかなと思いこうして今、エルの部屋の前に来たのですが呼び掛けに反応はありません。
「まさか勝手に出掛け……っ!」
その可能性を否定しきれず焦りが生まれると同時に部屋の中でエルが連れてきた古龍種、キューちゃんの鳴き声と扉を叩く音が聞こえました。
取り敢えず部屋の中を確認しましょう。
「失礼しますよ、キューちゃんエルはどこに……ってエルっ?!」
暗い部屋の中扉の前に居たキューちゃんに話し掛ける、その時視界の奥、ベッドの直ぐ側で倒れているエルの姿が目に入り急いで傍へと駆け寄ります。
息は……ありますが何処か苦しそう……。
「エルっ、しっかり……っすごい熱!」
エルの身体を抱え起こし、その額を手で触れて見るとすごい熱さを感じました。
直ぐにエルをベッドへと寝かせ、部屋の外へ向かいます。
先ずは氷水と濡れタオルを……クーデリア達にでも頼みましょうか!
「クーデリア!居ますか!?」
「どうしたんですかそんな大声出して、って何故エルの部屋に?」
エルの部屋から顔を出して叫べば幸いな事にクーデリアはまだ自室に居たようで部屋からでてきました。
「エルが熱を出して倒れてましたっ急ぎ氷水とタオルの準備を!」
「っ!了解!」
クーデリアは即座に部屋を出て廊下を走り氷水とタオルを取りに行きました。
私はクーデリアが戻って来るまでの間に部屋にあるタオルを手に取りエルの汗を拭くとしましょう。汗で身体が冷えてしまっては悪化してしまいますからね、取り敢えず顔等拭ける所を拭いておきましょう。
汗を拭いた後は上半身だけでも着替えるのがいいのですがこれはクーデリアが戻って来てからにしましょう。
エルの着替えが何処にあるかは把握してますし問題ないですね。
その後氷水と複数のタオルを持って戻って来たクーデリアと共にエルの看病をします。
「クーデリア、申し訳ないですがエルの身体を支えてください」
「分かりました」
クーデリアはエルを優しく抱き起こす、エルは右腕を痛め、傍から見ても分かるほど腫れていますから特に気を付けて起こしました。
そっと服を脱がし丁寧に上半身を拭きます、最初は擦り傷等もありましたがそういった小さい傷はユースティアが回復の奇跡を用いて治してくれました。
汗を拭いた後はクーデリアと協力して2人でエルを着替えさせます。
着替え終えたら慎重にエルを寝かせつけ、額に冷やしたタオルを置きます。
ひとまずは大丈夫でしょう。
「ありがとうございます、助かりましたよクーデリア」
「いえいえ、後はエルがこれ以上悪化しないと良いのですけど」
「セレーネ様が来られるまで付きっきりで看病するつもりですから大丈夫だと思いますよ」
「では交代で看病しましょう、私は一度ジェームズ達に伝えてきます」
「分かりました」
そう言ってクーデリアは部屋を出て行きました。
クーデリアを振り返って見送り再び視線をエルに向けるといつの間に登ったのやらキューちゃんがエルの上に乗って丸まっていました。
「キューちゃんも寝るんですか?」
「キュー」
どうやらエルと一緒に寝るようですね。
……眠ってる今なら撫でれる「グルルゥ」駄目でした。
古龍種のキューちゃんはその身体をエル以外に触れさせません、触れようとすると今の様に威嚇してくるんですよね。
まぁ昨日は目が合うだけで威嚇してましたしそれに比べればマシですね。
とはいえ、エルがお願いすれば渋々触らせてはくれますので今は我慢ですね。
そうしてエルの看病をクーデリアやステラ達と交代で行いつつセレーネ様の到着を待ちます。
そして昼頃、セレーネ様が着いたら直ぐにエルの部屋へと案内させます。
「エルの容態は?」
「朝に熱を出しましたが今は下がって落ち着いています」
看病の甲斐があってか、エルの熱は下がり落ち着いて眠っています。
ただ右腕だけは未だ腫れたままですが。
そうして説明をしつつエルの部屋へと着きましたので扉を開けます。
「キュー」
「あら?え、古龍種?」
扉を開けるとキューちゃんが出迎えてくれました、エルの部屋に古龍が居る事にセレーネ様はどうやら驚いたみたいです。
「流石の貴女様でも驚くみたいですね」
「貴女は……古龍に続いて魔女にも懐かれたのね」
エルの看病をしてくれていた藤色髪の魔女さん、魔女さんとセレーネ様はどうやら面識がある様ですね。
「懐いたのではなくて命を助けて頂いた恩を返しているだけです」
「そういう事にしといてあげる」
2人の話が終わったようでセレーネ様はエルの傍に行き治療を初めました。
前線基地でエルがやった時の様に蒼白い光が部屋中に満ちる。
蒼白い光が収まりセレーネ様は私達の方へと振り返ります。
「大きい怪我は右腕の骨折位で後は問題はない、命に別状もない、風邪も安静にしてればすぐに治るわ」
「良かった……」
それを聞いて安心しました。
エルの近くに寄ってその姿を見れば痛々しく腫れていた右腕も元通り、苦しそうな表情も今はすっかりと無く眠っています。
「キュー……」
そして当たり前のようにエルの上へとよじ登り丸まって眠るキューちゃん。
クーデリア達も安心した様子で皆自室へと戻って行きます。
エルの看病は引き続き魔女さんとセレーネ様がすると言うことで一度私も自室に戻ろうと思った時、右手がエルに掴まれました。
「あら?もしかして起きてます?」
返事は無く眠るエル。けれど私の右手はエルの右手にしっかりと握られています、無理やり解く事も出来ますがそれでエルを起こす訳にもいきませんし何より私としてはこうしてエルを感じていたいのも事実、ですのでもう暫く傍に居ようと思います。
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エルSide
魔女とは。
魔法に長け、どの公的機関にも属さず、またどの学派にも所属しない女性のこと。
魔女達は全員独学で魔法を磨き上げた。
魔女の殆どが美しく、また若さを保ち、優に100歳を超える。
また世間一般的に悪とされている孤独な存在でもある。
また中には学び始めに魔法学校などに通っていたりする者もいるらしい。
そして目の前に居る藤色髪の女性、オリヴィアさんは最古にして厄災の魔女と呼ばれるお伽噺の様な存在だそうだ。
風邪で倒れた俺の看病を皆と一緒にしてくれた。
悪なんてとんでもない、凄く優しい良い人だ。
そして身体を起こした俺の目の前で頭を伏せているのがヴィクトリア。
「エル兄様本当にごめんなさいっ!」
「気にしないで、こういう時もあるから、ね」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「良いから、ほらおいで」
頭を起こし此方にやってくるヴィクトリアを優しく抱きしめ頭を優しく撫でる、珍しく甘えるように胸へと頭を預けてくるヴィクトリア。
やはりだいぶ堪えているようだ。
綺麗な金色の髪は普段は後頭部で一つにまとめて垂らした髪型だが今はそのままストレートに下ろしている。
そしてヴィクトリアは胸が大きく、そんな彼女が抱き着いているため胸の感触が腹部に伝わってる。
自分からおいでと言ったから離れてとは言いづらい、ヴィクトリアは気にしてなさそうだしまぁ良いのかな。
そんなこんなで暫くは安静にしててくれとのこと。
ちなみに目覚めた時に治っていた右手がセシリアと握りあっててビックリした。
そして時間は進み、その日の夜。
「本当に此処で寝るの?」
「はい、エルは嫌ですか?」
「嫌じゃないしセシリアが良いなら良いけど……」
「なら問題無いですね♪」
俺の部屋にて寝泊まりをしようとするセシリアに聞くと当然のようにそう答えた。
まぁセシリアが良いなら良いか。
「セシリア、悪いんだけど机にあるノートが取ってくれる?」
「これですか?」
「うん、それ」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
セシリアからノートを貰いつつ俺の膝上で丸まってるキューを撫でながらノートを開く。
ノートに書き込んでおいた魔力と魔素の復習をしよう。
「復習ですか、偉いですね」
俺の隣に腰掛けノートを覗き込んだセシリアが抱き寄せ優しく頭を撫でてくれた。
セシリアの胸の柔らかさを感じ、また撫でられる事に心地良さを感じつつノートに目を向ける。
“人は魔力を有している、その量は個人差があり
魔力量は修練で増やせる。
魔素から魔力に変換するよりも既に体内にある魔力から魔法を放つ方が速い。
アンコニュの支配地域で魔法が使えるのは体内にある魔力があるから。
しかしそれでは足りなくなった分を魔素から補えない為魔力が枯渇する。
アンコニュは攻撃に魔力を用いえず、別の何かを使っている為魔素が無くても問題無い。”
「後魔女さんとかに付いても追加記入しとこ」
「ちなみにですが魔力が枯渇しても人体に対して影響はありません、多少息切れや疲れなどは出ますが、倒れたり等は無いです」
セシリアが足りてない所を教えてくれたのでそれも記入する。
このノートに書いてあるように、魔力を必要としないアンコニュ相手に魔法に頼りきっていると負ける可能性が高くなってしまう訳だ。
だから俺達も魔力だけに頼らず剣や銃器とかも使ってる訳なんだけど。
セシリアの故郷であるエルフの国の奪還、その足がかりとなる前線基地にはユースティアから貰った神の結晶苗木を植えたお陰で魔力の補給が出来るようになったのはデカいよね。
お陰で一式戦闘機の補給も出来る様になったし。
そう言えば俺の乗る試作機はフィーユ達に回収しに行ってもらう事になったんだったな。
誘爆によって根元から千切れた左翼も回収してもらう。
回収して貰った後、修理と改修を始めるんだって。
1から作るのも資源が無く、大変だから何が何でも壊れた試作機の修復をするらしい。
今回もセレーネさんが試作機の修復を担当するようだよ。
「そうだ、セレーネ様がリンゴを持ってきて下さったのですが食べますか?」
「食べる」
「では準備してきますので待っててください」
そう言ってベッドから離れ部屋を出ていくセシリア。
丸まってるキューちゃんを撫でて待つこと数分。
廊下から足音が聞こえ部屋に入ってきたセシリア、その手に銀のトレーを持っていた。
セシリアはトレーをベッドの近くの小棚に起き椅子を持ってきて座ると再びトレーを持ち上げ膝上に乗せる。
トレーの上にある一口サイズに切られたリンゴをフォークで刺し此方に差し出した。
「はいあーん♪」
「あー…あむ」
差し出されたリンゴを遠慮なく食べる。
滅茶苦茶美味い。
食べ物の匂いに釣られたのだろうか丸まって眠っていたキューちゃんが首を持ち上げ俺の顔を見た。
「キューちゃんも欲しいですか?はいあー「ガルル」駄目でした……」
「……キューちゃん、あーん」
「グッ……ガル……」
キューに食べさせようとしたが威嚇されしょんぼりしたセシリア、仕方ないのでセシリアの手に俺の手を添えて2人でキューちゃんにリンゴを差し出す。
俺とセシリアの2人から与えられるという事にキューちゃんは葛藤しつつも最後には渋々リンゴを食べてくれた。
食べてくれた事にセシリアは満面の笑みを浮かべた一方でキューちゃんはそっぽを向いてリンゴを味わって食べている。
その後セシリアは俺に、キューは俺に、俺はキューとセシリアにリンゴを差し出して食べさせ、リンゴを食べ終えた後セシリアはトレーを片付けに部屋を出て、また戻って来る。
「それでは、おやすみなさいエル、キューちゃん」
「おやすみなさいセシリア、キューちゃん」
「キュー」
同じ布団の中でセシリア抱かれられ、キューちゃんが俺の後ろで丸まって眠る。
セシリアの胸から聞こえる心臓音が心地良く、直ぐに眠気に襲われた。




