第15話 前線基地始動
エルフ領内の前線基地・格納庫。
俺は一度ゲネシス領内の基地へと戻り試作機をここ前線基地へと乗って持ってきた。
滑走路への着陸は問題なく、整備員に聞いた所整備環境も悪くは無いそうだ。
それでも敵地の前線だから少なからず不安はあるそうだ、それでもこうして整備する為に前線に来てくれるのだから、俺の他にもクーデリア達の機体の整備もやってもらってるし本当に助かる。
ちなみにだけど俺が護衛の人達と一緒に試作機を取りに戻っている間に前線基地周辺で何度か小規模の戦闘が合ったのを聞いた。
本当に数人程度の衝突で戦闘時間も数分から十数分と短時間。また冒険者側に被害はほぼ無く、あってもかすり傷程度。
大規模な反攻じゃ無かった為か基地にいる冒険者達はその殆どが油断しきっていて俺個人としてはあまり宜しくないと思っている。
油断というか胡座をかくというか、相手を甘く見ていると足元を掬われるだろうから。
長い事アンコニュと戦っていたセシリアやフィーユ達は勿論ステラ達も気を引き締めているが冒険者達は経験が少ないのだろうか。
未だにその生態が不明の異形達アンコニュ、もし冒険者達がアンコニュを甘く見て油断している今この状況が奴等の思い描いているものだとしたら相当不味い。
そもそも奴等にどの程度の知力があるか分からない、もしかしたら考えすぎなのかも知れない。
けれど奴等は此方が魔力が使えないという不利な状況下とはいえ幾つもの国家を滅ぼし、この世界の大半を手中に収めた強者だ。
常に最悪の状況を考えるに越したことも無いだろう。
「クーデリア〜聞こえる?」
Kudelia《バナール2感度良好、はい、聞こえますよ》
「よし、他の皆は聞こえるか〜?」
james《バナール3、感度良好、問題ないぞ!》
Sofie《こちらバナール4、問題なく聞こえるよ〜!》
Victoria《バナール5、聞こえる》
Teresa《バナール6、聞こえます!》
順に通信で返事がきたのを確認、よし、皆問題なく聞こえる様だ。
「何時出撃しても良いように気を引き締めておいてね」
banalTeam《了解!》
クーデリア達にそう伝え返事がきたのを確認した後、コックピットから降り、セシリアに抱きとめてもらう。
当たり前の様にセシリアが居るからいつか居ない時に癖で飛び込んで硬い地面と熱い抱擁を交わしそうで怖い。
セシリアにお姫様抱っこされながら整備員の人と話をして試作機にミサイルを装備してもらう。
この際だから試作品を装備して試してみるのもありだと思ってね。
試作機の両翼の下に2つずつ、計4つ付けられるミサイル。
勿論試作品なので俺以外には付けさせない。
adventurer《て、敵襲!!!》
そんな時通信機から冒険者の焦る声が響いた。
どうやらアンコニュが攻めてきたみたいだけど今までの反応が嘘みたいに焦ってるじゃん。
「それじゃ迎撃に━━《きゃぁぁぁぁ!?》っ!?」
《おい!?何やって━━》
《落ち着━━》
《痛い……痛いよぉ━━━》
《うわぁぁぁぁ━━━━》
迎撃に上がろうと言おうとした途端通信機から聞こえた少女の悲鳴、その後色んな人の通信が鳴り響いた。
只事じゃない、通信越しにも分かる焦り。
何が起きてるか分からないけど急いで上がった方が良さそうだ。
そう思ってクーデリア達に呼び掛けようと通信機を手に取る。
「ク━《エル!上がっちゃ駄目だよ!》━━フィーユ?」
フィーユから静止の声が上がる、その声は酷く焦りに満ちていた。
fille《制空権を取られた……!》
・
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フィーユからの通信を受け出撃は中止、直ぐに来て欲しいとの事で整備員さん達も連れてクーデリア達と共に休憩場へと赴く。
休憩場に入った時、微かに血の匂いが漂い、それは奥に行くほど濃くなる。
周囲に待機する人達の顔には恐怖が滲んでいた。
「エル!こっち!」
俺の姿を視認したフィーユが手を上げて位置を知らせる、フィーユの下へと行きその奥の光景を見て俺は直ぐに駆ける。
腹部から血を流し横になるフィーユの隊に所属する魔法使いのお姉さん達。
プリュフォール隊のユースティアが治療をしているがその血は止まること無く未だに流れていて、顔は痛みに歪み涙を流していた。
「何があったの」
「大量のアンコニュの侵攻にパニックになった冒険者が固定式機関銃を上空に向けて撃ってそれが低空で迎撃してた人達に当たったの……」
何があったか小声で聞けばフィーユから信じたくない様な事を聞かされた。
咄嗟に魔法で防いだものの完全には防げなかったらしい。
防衛の為に設置した武装が仇になったのか……。
「これからどうすれば……」
「ま、魔法使える奴がさっさと迎撃しろよ!」
「無茶言わないでよ!今上がったら格好の的よ!」
後ろでは冒険者達が恐怖から騒ぎ始めた。
恐怖は伝播する、それは実戦から日の浅いクーデリア達にも伝播しその顔は不安に染まっていた。
……やる事は変わらん、まずはリュミエール隊の人達の治療だ。
ユースティアが言うにはまだ回復の奇跡は会得しきれていないようで完全な治療が出来ないとの事。
俺は横たわるお姉さんの1人の前に屈んで腹部の上に両手を翳す。
「セレーネさんが教えてくれたんだ、やれる筈だ!」
そうして両手に力を込めてると次第とセレーネさんがやってくれた様に赤い光が灯る、後はこれを増幅させるだけ!
「これは……神の……」
ユースティアが何か呟いた気がするけど今は目の前に集中っ!このまま効果範囲を広げて治療するっ!
赤い光に包まれたお姉さんの腹部の傷がみるみる塞がっていき、ついに傷が完全に塞がる。
他の人達の傷も塞がった様なので力を抜いて奇跡の行使を終える。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
で、出来たっ!今までうんともすんとも言わなかったのに!出来てよかったぁ!
けど凄い疲れた。
「ありがとうエル君っ!」
治療を施したお姉さん達に駆け寄られ抱きしめられたり頭を撫でられた。
「フィーユ、さっき制空権取られたって言ったけど」
「うん、空を防衛する子が味方の誤射にやられちゃったから、数名が上にまだ居るんだけどアンコニュの数が多くて防戦一方で……」
「なるほど、なら早く上がらないと空中のお姉さん達の魔力が尽きちゃうね……」
「おい!お前らさっさと迎撃しろよ!」
そんな時1人の冒険者が声を荒げてそんな事を言ってきた。
「あいつ……自分がパニックになって誤射しなきゃこんな風になってないって言うのに……」
俺を抱きしめているリュミエール隊のお姉さんが小声で毒を吐く。
どうやらあの冒険者が誤射をしたらしいが本人は俺達にさっさと上がれと大声で叫び散らかしている。
「空中のアンコニュの相手はてめぇらの仕事だろ!怪我治ったんならさっさと相手しろよ!」
「チッ」
後ろのお姉さんが舌打ちした!怖い!
それはそうと相手にするのも馬鹿らしいので俺達は急ぎその場から格納庫へと向かう。
「フィーユ分かってると思うけど」
「分かってるよ……納得はしてないけどね!」
納得はしてない、けど無理やり自分を言い聞かせてるフィーユ。
その証拠に顔は私は不満ですって言ってるもん。
フィーユだけじゃなくリュミエール隊の人達もね。
俺は直ぐに試作機に乗り込む。
「クランクさん、ベオ聞こえる?」
Crank《問題ない、聞こえる》
Beo《こちらも問題ない》
感度良好、問題なく聞こえているようだ。
「クーデリア達はフィーユ達と共に待機」
banalTeam《……了解》
「不服そうだなぁ」
通信機から聞こえた不満気な声につい苦笑いとなる、けどこればかりは譲れない、クーデリア達をわざわざ危険な状況下で離陸させたくはない。
俺は操縦桿を操作し試作機を滑走路へと進ませる。
「思ったより多いな」
キャノピーの向こうに見えるアンコニュの大群、今まで小規模でしか来なかった敵が急にこんな大群で来たらそりゃ焦るだろうけど。
今日は曇り空、少し暗いけど離着陸には対して問題はない。
アンコニュは休憩場付近を主に狙っているから全く妨害がないな……今の内に上がってしまおう。
スロットルレバーを全開にし急速発進、流石に気付かれたらしく流れ弾が飛んで来る。
Kudelia《っ……!》
通信機からクーデリアの息を呑む音が聞こえた、格納庫で見守ってるから俺がどういう状況下分かるんだろうな。
そのまま問題なく空へと上がる。
Crank《バナール1の離陸を確認、交戦を許可する》
交戦許可も得られたしまずは空中で防戦一方のリュミエール隊員を助けよう。
LumièreTeam《ありがとうエル君!》
リュミエール隊のお姉さん達に手を上げて応え、共に基地を襲うアンコニュの相手を始める。
隙を見てフィーユ達が空中に上がり注意を引き付けて滑走路付近から離れる、これによってクーデリア達を安全に離陸させるのだろう。
Cecilia《セシリアよりバナール2へ、離陸スタンバイ……離陸を許可します》
そしてセシリアがクーデリア達へと合図を送り順に空へと上がってくる。
無論俺もフィーユ達も離陸するクーデリア達の援護をしているよ。
空の優位性を確保出来た後通信機でステラ達に通信を送り地上の迎撃戦を行ってもらう。
Allied forces《クソッ多いっ多いぞ!》
LumièreTeam《焦らないで!彼が居る限り負けはしないわ!》
james《信頼されてるなエル!》
Crank《私語は慎めバナール3》
迎撃戦に参加し始めた地上部隊がアンコニュのあまりの多さに焦る声が通信機から聞こえた、直ぐにリュミエール隊のお姉さんがフォローに入ったから問題は無さそうだね。
クーデリア達も問題なさそうかな?
だが何にしろアンコニュの数が多い。
Beo《アンコニュの増援を確認》
そう、倒しても倒してもアンコニュの増援が来るんだ。それ程までにこの前線基地を危険視しているのだろうか。
「エミリー、何人か連れて地上の援護して上げて」
Emily《了解、気を付けてね》
数が多いが捌け無いものではないのでエミリーに地上の援護をするよう伝える、エミリーは直ぐに応え数名の隊員を連れて地上の援護に向かった。
「一発試作品使ってみるか」
何時までも使わずにぶら下げてても仕方ないし。
照準器を覗きアンコニュを中央の円形に捉え引き金を引く。
右翼から発射されたミサイルは凄まじい速度でアンコニュへと突っ込み、衝突と同時に爆発を引き起こした。
「すご……」
立て続けにもう2発放つもこの2つは外れてしまった。外れた2つはそのまま自由落下し地上で爆発する。
「……なんというか当てるの難しいから誘導するとか近くで爆発とかしてくれるとありがたいなぁ……後外した時の保険的なもんも欲しい、外してそのまま落下すると撃つ時の向きとかも気にしないといけなくなる」
Beo《了解した》
撃って外しました、自由落下したミサイルの先に味方の部隊とか基地とかあったら目も当てられないよ。
威力は申し分ないんだけどね。
Teresa《ヴィクトリア!後ろ!》
Victoria 《っ》
突如通信から聞こえたテレサとヴィクトリアの焦り声。
即座にヴィクトリアを探し、見つけるとヴィクトリアの後方にアンコニュが引っ付いて追っかけ回していた。
Sofie《ヴィクトリア!今助けるからっ!》
Kudelia《待ちなさい!ヴィクトリアに流れ弾が当たる危険があるわ!》
慌てるソフィーを静止したクーデリア、うん正解。
ヴィクトリアは焦りなのか恐怖からなのか、かなり滅茶苦茶に動いているというのもあるがアンコニュが後ろにピッタリ張り付いていて距離が近いのもある。
この状態ではクーデリアが言うように流れ弾がヴィクトリアに当たる可能性がある。
james《エル!どうする!》
「俺が対応する、各機周囲の警戒をしろ」
Sofie《っ……!了解!》
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アンコニュに追われるヴィクトリアを助ける為、エルは操縦桿を引き機首を起こして急上昇し、ヴィクトリアの上に向かう。
一度そのまま進行方向を変えずに1回転し、天地が逆さになった時にヴィクトリアとアンコニュの位置を再確認する。
そして急降下しアンコニュに狙いを付けそのまま猛スピードで突進、ヴィクトリアに当たらない位置取りで機首の機関砲を放つ。
Eru 《避けたかっ》
エルに気付きアンコニュは進路を変更、だが避けきる事は出来ず試作機の左翼に当たりそのまま引き摺られる。
結果としてヴィクトリアから引き離す事には成功したエル。
だがその瞬間アンコニュが光を放つ。
攻撃ではない、それは仲間に知らせる信号であった。
アンコニュの狙いは初めから自分達の脅威となるエルただ1人。
複数のアンコニュから放たれる光弾。
今までの光線とは異なる新種の攻撃。
それらは試作機の付近に到達すると一斉に爆発を起こした。
Eru 《ぐっ……くっ!》
Kudelia《エルッ!》
試作機を操り爆発を避けるエル、それを見たクーデリア達が助けに向かう、クーデリア達によって撃ち落とされていくアンコニュ、そんな時だった。
試作機の直ぐ左、引き摺られるアンコニュが弾けたのだ。
凄まじい爆発音と共に試作機の左側一面が黒煙で埋まる。
アンコニュの自爆で左翼に吊るしていた最後のミサイルが誘爆したのだ。
Eru《誘爆っ!?クソッ━━》
自爆と誘爆の爆発により左翼が根元から千切れ、それにより試作機の操縦が困難となった。
試作機は煙を吐きながらクルクルと回りながら地上へと落下していく。
Kudelia《嘘ッエル!?》
Victoria《兄様っ!?エル兄様ぁ!!!》
Teresa《応答して下さい!エル兄さん!》
Cecilia《エルッ!応答して下さい!エルッ!!》
クーデリア達の呼び掛けに応えられる事はなく、通信の向こう側からは雑音のみが返ってくる。
Beo《バナール1……ロス……》
そしてベオから伝えられる最悪の情報。
エルの反応消失である。
Stella《嘘……》
Sarine《嘘だよね……?》
LumièreTeam《エル君が……落とされた……》
思い掛けない事に呆然とするクーデリア達。
adventurer《異形共が引いていくぞ!》
adventurer《俺達の勝ちだ!》
そして地上のアンコニュは用は済んだと言わんばかりにその場を去り、空中のアンコニュはエルの墜落付近に漂う。
残されたクーデリア達、その様子を嘲笑うかのように雨が降り出した。




