第13話 合同訓練
ステラ達がエルと再会した翌日。
まだ日も昇らぬ早朝、セシリアはベッドから起き上がり、半袖半ズボンと動きやすい姿に着替え部屋を出る。
向かうは自身の対面のエルの部屋。
セシリアはエルの日課の走り込みに一緒に参加しようと思い彼の部屋に訪れたのだ。
「エル」
扉をノックしつつ彼の名を呼ぶ、だが何時まで経っても扉が開く気配はない。
普段の彼ならもう既に起きているはず、と考えたセシリアはもう一度名を呼びつつノックするもやはり扉が開く気配は無い。
「……空いてる?」
試しに取っ手を握りゆっくりと押すと扉は小さく軋む音を立てながら開いた。
「エル?まだ眠っているのですか?」
声量を抑えめに問い掛ければ返ってくるのは静寂。
セシリアは部屋の中に入り扉をゆっくりと閉めてベッドへと向かう。
膨らんでいるベッド、微かに上下していることからそこに人が居ることを確信したセシリアは彼が未だに眠っている事を珍しく思いつつもベッドに近付く、そして違和感を覚えた。
(こんなに大きくなかった筈……一体何が……?)
異様に布団の膨らみが大きく疑問を抱いたセシリアは恐る恐る布団に手を伸ばす。
「っ?!」
そしてゆっくりと布団を剥げばその先の光景に絶句した。
布団を頭から被って眠っていたエルの前後に居る少女。
豊満な胸にエルの顔を埋めて両手をその首に添え抱きしめつつ足を絡めて眠る青い長い髪の少女とエルの背後から腹部に手を回し後頭部に顔を埋め、また同じ様に足を絡めて眠る黒い長い髪の少女の姿が目に写ったからだ。
「何当たり前のように一緒に寝てるんですかぁ!!!それも……!し、下着姿なんてっ!!!」
眠ってるだけならまだ良かった、けれどセシリアが言った様に2人は下着以外の衣服を身に着けずに眠っていた事からセシリアは大声を出す。
「良いじゃん久々なんだもん……」
目を擦りそのままエルに抱きつき直すサリーネ、ステラも一度その瞳を薄く開くも直ぐに閉じエルの身体をサリーネ同様強く抱きしめ直した。
そんな2人に問い詰めようとしてセシリアはある事に気付き動きを止める。
(エルが寝たまま……?)
近くに人が居ると眠れないエルが深い眠りに就いている。
つまりそれはステラとサリーネの傍では安心して眠れると言うことで、セシリアに嫉妬の感情が湧き起こる。
だがそれも本の一瞬で直ぐに自分自身が近くに居ても深く眠るエルの姿が目に入る。
(もしかして私も……)
自身が近くに居ても安心して眠れるエル、その事にセシリアは自身の口角が少し上がったのを自覚した。
「……んっ?」
するとエルが目を覚ます。
その数秒後廊下から誰かが駆けてくる足音が聞こえてくる。
「セシリア様?!大きな声が聞こえましたが何がありました?!」
「いえ、大丈夫ですよ、何もありませんから」
廊下から顔を室内に覗かせるクーデリアにセシリアは振り向き笑顔でそう告げた。
(ふふっ、そうですか、私も……♪)
クーデリアの大声に身体を起こした3人、瞼を擦るエルを見てセシリアは確信した。
自身が傍に居てもエルはゆっくりと眠れる事に。
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早朝の走り込みを終えた俺は汗を流した後、食堂で待機中。
朝起きたらセシリアやクーデリアは勿論何故か両隣にステラとサリーネが居て何が起こったか分からなかった。
可笑しいな……俺は確かに昨日1人で寝たはずなんだけど……。
まぁそんな事は置いといて、この食堂では今から歓迎会が行われる。
勿論この基地を訪れたステラ達plusfort隊の歓迎会だよ。
机に並べられていく様々な料理、ある程度並んだあとステラ達が前に出る。
「改めまして、プリュフォール隊隊長のステラ・グラディウスよ」
「プリュフォール隊副隊長、サリーネ・アステールだよ、よろしくね」
「プリュフォール隊所属のアルドル・アウィスです」
「同じくプリュフォール隊所属のユースティア・レクスです、よろしくお願いします」
ステラとサリーネの後、プリュフォール隊に配属された唯一の男性隊員、赤髪短髪の赤眼の剣士アルドルさん、金髪ロングに碧眼の女性神官ユースティアさんが挨拶をすると今度は同じく前に出ていたフィーユ達が自己紹介を始める。
「Lumière隊隊長、フィーユ・リュミエール、よろしくね」
「リュミエール隊隊長補佐のエミリー・ルーヴだよ、普段はエルの補佐してるよ」
「この基地でエルの補佐をしています、セシリア・フォン・セレスティアです」
セシリア達の自己紹介が終わり次にこの基地の主力とも言えるクーデリア達が挨拶を始める。
「バナール隊、2番機を務めさせてもらってますクーデリア・オルドリッジです、よろしくお願いします」
「同じく3番機のジェームズ・マルティネスです」
「4番機のソフィー・アンダーソンですっ!」
「5番機、ヴィクトリア・ガルシア……」
「ろ、6番機テレサ・オースティンです!」
とそれぞれの自己紹介を行っていた。
その間俺はと言うと皆の自己紹介を聞きながらスープ飲んでた。
俺の自己紹介は必要ないでしょ。
「ほらエル、エルも自己紹介してください」
と思ってたら俺の後ろに来たセシリアにセレーネさんの時の様に両脇を掴まれそのまま持ち上げられた。
俺の自己紹介いる?俺は要らないと思います、はい。
けどセシリアに言われたのでしましょうかね。
「試作機のテストパイロットのエル━━━」
「「「「バナール隊隊長、エル・ヴァルドリンです」」」」
折角自己紹介したのにセシリア、クーデリア、エミリー、フィーユの4人が俺の言葉を途中で遮り訂正した。
可笑しいな、テストパイロットで合ってるはずなのに。
「猫みたいで可愛いねエル」
「シャー」
いつの間にか目の前まで来ていたサリーネが笑顔でそんな事を言ってきたから威嚇しつつサリーネの頭に軽く猫パンチを放っておいた。
そして歓迎会も終わり、午後からはフィーユ達、
ステラ達との合同訓練を始める。
と言ってもこの日は互いに基礎訓練をやって終わりだけど。
何故なら翌日から数日掛けてエルフの森、アンコニュの支配地域へと向かうからだよ。
勿論セシリア率いるエルフ達も参加する大規模訓練だ。
その為今日は早めに切り上げ明日の支度をし、朝から出発。
クーデリア率いるバナール隊はフィーユ達魔法使い、リュミエール隊が護衛に付きつつ空中からセシリア達とプリュフォール隊を援護する訓練。
何故こんな多くの部隊が参加する訓練をするか、それは近頃大規模作戦が行われるからだそうだ。
その作戦を成功させる為に各隊の連携が重要である為こうして集まって訓練をするみたい。
ちなみに私、エルも参加させられてます。
何故か試作機に乗らずステラ達と共に地上を進行してます。
僕要るこれ……?要らなくない?
ステラ達はアンコニュとの戦いで領土の奪還こそしたが完全なアンコニュ支配下の荒れた土地に行ったことは無いそうで、今回はステラ達を連れてアンコニュの支配地域に行くそうです。
領土を奪われたといえど要の地が奪われてないから瓦礫の山と化した市街地での戦闘が主だったそうだよ。
ちなみに要の地が奪われてなくても長期間支配されると支配された土地と周辺は徐々に荒廃するらしい。
曇り空の下、支給されたライフルと食料や医療品が入った大型背嚢を背負って森を進む。
以前行ったエルフ救出作戦での一件があるからかセシリアは俺の右手を握って離さないし、雰囲気も何処かピリピリしてる。
「次あんなことしたら許しませんからね」
出発する時にそう言われたのを今でも覚えている。
胸を揉んだことかなって思って聞いたら顔を赤くして否定した。
どうやら1人で殿を務めたことらしい。
胸を揉んだのは良いのだろうか。
そうして歩いて行けば緑豊かだった森は次第に荒廃し枯れ果てた森へと変貌していく。
「これが……」
「そ、アンコニュに支配されて荒廃した土地だよ」
ステラをはじめとしたプリュフォール隊のメンバー全員が初めて見た変わり果てた土地に驚きを顕にした。
Kudelia《バナール2よりクランク特務官へ、上空よりエル達の姿を確認出来ましたover》
Crank《了解した、バナール隊及びリュミエール隊はそのまま上空で地上及び空の警戒にあたれ、決してエル達を見失わない様にover》
banalTeam《了解》
|LumièreTeam《リュミエール隊》《了解》
俺の持つ携帯通信機からクーデリア達のやり取りが聞こえた。
飛行と徒歩とで時間差がある為かなり時間をずらして出撃したクーデリア達だったがどうやら無事にこちらを見つけられた様だね。
「バナール隊各位、常に魔力残量に注意して、魔力が無くなって墜落なんて笑えないからね」
携帯通信機を左手に取りクーデリア達に注意を促す、通信機の向こうからクーデリア達の返事が聞こえたので胸へと戻す。
相変わらずセシリアに右手を握られたまま荒廃した土地を歩き続けること数十分。
セシリアが立ち止まり俺を抱き寄せたかと思ったら俺とセシリアを守る様にエルフの騎士が前へ出る。
「アンコニュを3体確認、エル君とセシリア様は私の後ろへ」
そう言う彼女はセシリアの護衛で名はカナリアさん。
金髪ロングに青い目をした美少女。
その他にも何人かのエルフが前へと出る。
Beo《いい機会だ、プリュフォール隊、君達だけで対処して見せてくれ》
「了解、行くわよ」
ベオからの通信にステラが応じ、プリュフォール隊が対処する。と言っても飛び出したのは2人だけ、副隊長のサリーネと隊員のアルドルのみ。
ステラとユースティアはその場で待機していた。
アルドルは背中にある大剣を抜き大きく振り上げてそのまま振り降ろす、大剣はアンコニュの両腕を交差した防御体勢事いとも容易くその身体を真っ二つに切り裂いた。
サリーネは右肩を突き出してアンコニュに体当たりをし体勢を崩した所を素早く抜いた剣で切り裂く。
そうしてあっという間に2体のアンコニュを危なげなく倒し残る1体もアルドルによって倒された。
「増援!」
「「「了解」」」
新たに現れた数体のアンコニュ。
即座にステラがサリーネ達に伝えればそれぞれが対処する。
ユースティアは迫るアンコニュに対し前面に防壁を張り食い止める。
奇跡の防壁だけど俺やセレーネさんの様に完全な奇跡ではなく、あくまで奇跡の再現と言うことで魔力が無ければ発動は出来ないらしい。
食い止めてる間にサリーネが防壁に張り付くアンコニュを一撃で仕留めていく。
またステラもサリーネ同様危うげなくアンコニュを対処し倒していた。
話には聞いていたけど、サリーネ達がここまで強くなっていた事を今一度実感し、俺だけまるで成長してなく役に立てない現状に虚しく思えた。
「エルさんは十分凄いですし、役に立ってますよ」
いつの間にやら傍に来ていたユースティアがそんな事を言ってきた。また顔にでも出ていたのかな。
だが凄いというのも、役に立っているのも俺には良く分からなかった。
「地上における戦いが全てでは無いです、エルさんは前例の無い試験を行い、空を駆り、何度も魔法使いの皆さんを救ったじゃないですか。誰もが諦めかけていた心に、貴方はたった1人で再び闘志を灯したのです。基地の襲撃時だって貴方は諦めず、狙われている中で空へと上がったのを私達は知っています。隊長達だってエルさんが頑張っているのを知ってここまで頑張って━━━」
「ストップストップっ!!!」
ユースティアの背後からサリーネが慌ててその口を両手で塞ぐ。何処となくサリーネの顔が赤い気がする。ユースティアはもがもがと口を動かすが何を言ってるかは聞こえない。
「エル、怪我はないか?」
「おかげさまで無事だよ」
未だに格闘しているユースティアとサリーネを他所にアルドルが近付いて来てそう聞いてきた。
無論プリュフォール隊の4人が近付かせる事は無かったから俺は勿論セシリア達も無傷だけど。
「なら良かった」
アルドルがホッと一息付く。
「お前さんに万が一があると俺が━━━」
「戦い足りないかしらアルドル?」
「はははっそんな事無いですよ、じゃ気を付けてなエル!」
そそくさと前衛に戻ったアルドルと変わってステラが傍まで歩いてきた。
「お疲れ様、ステラ」
「ありがとう、大丈夫よね?どこも怪我とか……」
「大丈夫だって大袈裟だなぁ」
大丈夫だと伝えてもステラは心配そうな表情のまま変わらず、俺の身体を触って確かめる。
……もしかして過去に目の前で切り裂かれた事があるから過保護になってたりするのかな。
そしてユースティアとの格闘を終えたサリーネも合流し2人して身体を触ったり見たりしてようやく安心した。
ちなみにセシリアはと言うと後ろでぎゅっと抱きしめてて離さなかった。そういえばセシリアの前でも血だらけの姿見せたっけ。
夜間はクーデリア達バナール隊は基地に引き返し休息、フィーユ達は地上に降りて順番に休息をとる。また俺達も見張りと眠りに就くのと別れて過ごす。
そして翌日の昼、木々が無く周囲の見晴らしが良い丘上に出る。
道中出てくるアンコニュはステラ達やカナリア達が始末してくれた。
「この辺をエルフの国奪還の際に前線基地とかに出来たら良いんだけどなぁ」
「どうしてですか?」
俺の呟きを聞いたユースティアが尋ねてきた。
「国を奪還する際に今の前線基地からだと遠すぎる、ここら辺に仮拠点というか基地を作れればここから進軍すれば良い分時間の短縮が出来る、疲労とかも無いだろうからね、またこの辺から進軍出来れば今の前線基地からの距離分の護衛が必要無くてここら辺に来るまでの数分から数十分くらいの魔力消費のみで済むから護衛に付くクーデリア達戦闘機隊やフィーユ達魔法使いの魔力も温存出来るし」
「なるほど……」
俺の言葉にユースティアが頷く、周囲で話を聞いていたステラやサリーネ、カナリアさんも納得したかの様に頷いていた。
ただ1人、俺の後ろで自慢気にセシリアが胸を張っていた。おかげでその豊満な胸が後頭部に当たってるんだね……。
「ただ基地と言うか……拠点を作成する資材があるかだけど……」
Beo《その辺は問題ない、私の方で手配しよう、またセシリアの許可が要るが道中の木々を伐採出来ればそれも利用出来る》
「祖国を取り戻す為です、問題は無いですよ」
ベオの手配とセシリアの許可も降りた事で資材は何とかなりそうだね。
「まぁ拠点を作れるとしても大規模作戦の後になるよね」
Beo《それも問題ない大規模作戦の内容はエルフの国の奪還だからな、早速明日もしくは明後日から拠点を作成するとしようか》
ベオから知らされた大規模作戦の内容。
その内容はエルフの国の奪還と言ったが大規模とはいえ一つの作戦で国を奪還出来るとも思えない、だから多分だけど国を取り戻す為の作戦の一環なんだろうね。
そんなこんなで明日明後日くらいからこの辺に拠点を作ることとなり、今日の合同訓練は終わりを告げた。




