第10話 エルによるエルのための訓練
クーデリアSide
例の彼を初めて見た時、思ったより小柄で幼いなって私クーデリア・オルドリッジはそう思いました。
燃えるような紅い髪に黒い瞳、左目に切り傷の付いた彼、ロストは何故かエルフの姫様にお姫様抱っこされながらまだかまだかと楽しみに待つ私達の前に現れた。
人への当たりが冷たいと有名なエルフの王女、セシリア・フォン・セレスティア様が嬉しそうにお姫様抱っこして現れたものだからつい固まってしまったのを今でも覚えています。
お姫様抱っこのまま基地内部を案内してもらって彼が基地に居る殆どの者から慕われているのが分かりました、エルフのごく一部の者は余り面白そうでは無かったですが。
案内された格納庫で自分達に与えられた5機の戦闘機を見て気になった事をロストやクランク特務官に聞けば丁寧に教えてくれました。
ただ保管されている戦闘機は5機でロストの搭乗する試作機が見当たらなかったので気になって聞いてみれば試作機は隣の格納庫に保管されているみたいです。
案内が終わり、それぞれに与えられた自室にて休息を取り晩御飯の時間となって皆で食堂へと向かいます。
そこで開かれた歓迎会は楽しく、皆一層仲良くなったと思います。
歓迎会も終わり、自室で眠って1日を終える。
初めて家族の下を離れて1人で眠る夜は不思議と安心感に包まれぐっすりと眠れました、これもロスト達が優しいからでしょうか。
そして翌日の早朝、まだ少し薄暗い空の下、私達5人はロストに集められました。
チラリと横を見ればテレサやソフィーが目を擦ったりしていることから私以外もやはり眠たいようです。
「おはよう皆」
「「「「「おはようございます……」」」」」
「眠たい中申し訳無いけど今から訓練を始めるよ」
ロストがそう言った後、訓練の内容を告げました、訓練の内容は。
“1500mのランニング、その後腕立て伏せ、腹筋、背筋を30回×3セット”
私含む全員がそれぞれ動きやすい格好で来させられた理由がわかりましたね。
軽く準備運動をした後、皆でランニングを開始。
ランニングを終えたら腕立て伏せ、腹筋、背筋を行い小休憩を挟みながら3セット終わらせます。
少し息切れしてる私達とは別にロストはずっと行ってきてたからか息切れしていませんでした。
日が昇り明るくなった中、体力作りの特訓を終えた私達は次の特訓に取り掛かる。
ロストが提案して建てられたという射撃場、そこで拳銃やライフル銃などの練習をし、それを終えたら今度は円形の訓練場にて木剣の扱い方を仕込まれる。
銃はクランク特務官、木剣はセシリア様が教えてくれました。
ロストやセシリア様曰くロスト自身は銃も剣も上手く扱えない為教えられないとの事でそれぞれ得意な方が教えてくれたという事ですね。
そうして全ての訓練を一通り終え、時刻は昼に差し掛かり、昼ご飯を頂く前に掻いた汗を流す為、浴室へと向かう中、何故この様な体力作りや銃、剣の特訓を行うのかロストに聞いてみた所、私達は戦闘機のパイロットですが戦闘機に乗るだけでは無いそうで、地上部隊に同行する事も十分あり得る為それなりに体力がいり、戦う術もいるからその為の訓練だそうです。
当たり前ですけど男女別で浴室は別れている為ロストやジェームズと一旦別れて私、ソフィー、ヴィクトリア、テレサの4人で女風呂へと入ります。
「ロスト、優しい人で良かったね〜」
「そうだね、これなら安心……ふぃ〜……」
ソフィーの言葉にヴィクトリアが肯定する、勿論私もテレサもそれに同意だから首を縦に振っている。
それにしても、私たちの中でも特に入浴が好きなヴィクトリアは湯船に浸かって蕩けきってるわね、声に普段の張りがなくふにゃふにゃになってるもの。
湯船から上がり皆で食堂へと行き昼食を取る、ロストの姿が見えないのでセシリア様に尋ねた所、どうやら午後から戦闘機の飛行をする様でその点検を行っているそうです。
少ししてロストが整備員の方達と共に食堂に姿を表し、食事を持って私達から少し離れた所に座りました。
それを見たセシリア様は空かさず自身の食事を持ってロストのすぐ隣に移動しました。
セシリア様が此方を見て笑顔で手招きしたので私達は互いに顔を見合わせた後、頷いて自分の食事を手にロストの近くに移動します、無論私はロストのすぐ隣ですね。
「どうして離れた所に座ったのですか?」
「食事の時くらい静かな方が良いかなと思っただけだよ」
今まで訓練でずっと傍に居た為、食事の時くらいは静かな方が良いと思ったみたいですね。
食事を終えいよいよ、待ちに待った戦闘機での飛行。
ですが自分1人で飛ぶ前にロストの試作機で2人で空を飛ぶ事になりました。
この為だけにロストは自身の試作機を改造し2人乗り出来るようにしたようです。
ロストと一緒にコックピットに乗り込む、ロストが前で私が後ろ。
座席に座り周囲の確認をする、どれもシミュレーションと同じ仕様でこれなら直ぐにでも動かせそうね。
《聞こえる?》
「はい、聞こえます!」
コックピット内をあちらこちらと見ていれば通信機からロストの声が聞こえ、応答する。
《操縦桿握ってて良いよ、俺が操縦権渡さない限り反応しないから》
「分かりました!」
彼の言葉を聞いて私は直ぐに目の前にある操縦桿に手を伸ばした。
シミュレーションで散々握っていた操縦桿は何処か固く、そして重く感じました。
開かれた格納庫の扉、射し込む陽の光。ロストが操る試作機がゆっくりと前進し始める。普段より高い位置から見える景色がゆっくりと後ろに流れる状況に高揚感を覚える。
いよいよ彼と共に空を飛べる、その事実にただ胸がドキドキする。
外に出て陽の光に照らされながらロストは試作機を滑走路へと進め、待機状態となった。
暫くして通信機からクランク特務官の声が聞こえてきました。
Crank《コールサイン『バナール1』聞こえるか?》
「ば、バナール1、感度良好、聞こえるよ」
ロストは声を震わせそう返答しました、緊張してるのでしょうか?
Crank《風向、風速、共に離陸に問題なし、バナール1離陸スタンバイ》
Cecilia《セシリアよりバナール1へ、離陸を許可します》
セシリア様から離陸の許可を頂いた後、ロストは試作機の出力を全開にして発進しました。
「へ?!?!」
発進した瞬間、身体がシートに押し付けられ、試作機はガタガタと揺れながら滑走路を走ります。
シミュレーションでは感じない感覚に驚きつい声が出てしまいました。
そして揺れが収まったと同時に外を見れば地上が離れていくのが見えました。
Beo《バナール1の離陸を確認、高度が十分に上がった後、飛行訓練を開始する》
どんどん高度の上がる試作機、そして遂にシミュレーションで見慣れた景色が目に映り込みました
。
「綺麗……」
キャノピーの向こう側を覗く、生まれて初めて見る実物の空から見る世界の景色はシミュレーションで見た仮初の景色よりも美しく、何処までも綺麗な空と大地が広がっていました。
banal1《高度上昇、周囲の安全を確認、これよりクーデリア・オルドリッジの飛行訓練を開始します》
Crank《了解》
Cecilia《了解しました》
Beo《了解した》
ロストの言葉に3人が同時に答えました。
banal1《と言うことでクーデリア、今からクーデリアに一時的に操縦権を譲渡するから操縦してみて、危なくなったら直ぐに補佐に入るから》
「わ、分かりました!」
通信機越しのロストの言葉に操縦桿を握っている両手に力が入るのが分かる。
banal1《始めるよ、3、2、1、0》
「っ?!」
一瞬試作機がぐらりと揺れる、急いで試作機の姿勢を安定させようと動かせば暫くして試作機は落ち着きを取り戻し何事もなかったように真っ直ぐ飛ぶ。
banal1《やっぱりシミュレーションやってただけあって上手く飛行出来るね》
「あ、ありがとうございます!」
ロストからお褒めの言葉を聞き、頬が緩むのが分かる。
自分達より技量が圧倒的に上の人に褒められるとやはり嬉しいものですね。
banal1《普通に飛べるならよし、予定を前倒ししこれから俺の操作を覚えてもらうね、方法は簡単、今から操縦桿とかの動きを俺の方とクーデリアの方とで同調させるから握ってて、要するに身体で覚えてね》
ロストに言われた通り操縦桿を両手で握り締めていると操縦桿が動き出す。
「っ?!」
操縦桿の動きに合わせ試作機が旋回を始める、それに伴い私の身体を押さえつけるように圧力が発生しました。
それからロストは試作機で様々な機動を取りました。旋回や機体姿勢を急激にピッチアップして迎角を90度近く取りつつ減速し再び水平飛行に戻すコブラ機動と呼ばれるもの、横転と機首上げを同時に行うバレルロール、背面飛行、宙返り、螺旋を描きながらほぼ垂直に降下する錐揉み降下等を行い、そして最後に急上昇からの急降下。
「ロ、ロスト?!」
高速で地面へと向かう試作機、このままではぶつかってしまうと思いロストに声を掛けますが返事が返ってきませんっ!
まさか気絶してないでしょうね?!
試作機は地面へぶつかる寸前で機首を上げ速度をそのまま地面と水平に飛行する、そして目の前に現れるは乱立する岩山。
「う、嘘ですよね?!」
当たり前のように返事は返ってきません、そして試作機は速度を落とす事なく高速飛行で岩山へと突入しました。
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
怖い!
キャノピーの直ぐ向こう側を擦れ擦れで岩山が通過する状況に身体が完全に固まってしまいました、動きを覚える為に握っていた両手は今や全力で操縦桿を握っていて動きを覚えるどころでは無いですっ!
そんなロストによる飛行を味わわされた後、訓練は終わったらしく試作機が着陸する為基地へと戻る。
Cecilia《セシリアよりバナール1へ、着陸を許可します》
セシリア様から着陸の許可を得たロストは了解の意を伝えた後滑走路へと浸入。
強い衝撃と共に滑走路へと着地した試作機はそのまま音を立て、ガタガタと揺れながら滑走路を走り格納庫前で停止。
その後キャノピーを開けたロストはコックピットから飛び降りてセシリア様に抱きかかえられていました。
「わ、私も降りなきゃ……きゃっ?!」
震える身体、恐怖から全力で操縦桿を握っていた私の身体に力は残っておらずコックピットから転落、あわや頭を地面に打ち付ける所で先に降りていたロストが抱きかかえてくれて事なきを得ました。
「産まれたての仔鹿みたいに震えてんなクーデリア、シミュレーションで散々やったがいざ実践すると怖かったか?」
次の訓練者として傍に待機していたジェームズが不思議そうな顔をしてそう言いました。
「覚悟した方が良いですよ、ジェームズ」
「覚悟ねぇ……まぁ女の子だし仕方ねぇよな」
私の言葉を聞いても余裕の表情でそう言ってジェームズはコックピットへと乗り込みました。
試作機がどういう動きをしていたのか流石に地上からでは分からないのでしょう、帰ってくるのが楽しみですね。
ロストは私をセシリア様に預けた後水分補給をして直ぐに試作機に乗り込みました。
「貴女達も……覚悟というか、心の準備をした方が良いですよ」
いまいちよく分かっていないソフィー、ヴィクトリア、テレサの3人を他所に私はセシリア様に肩を貸していただきながら休む為に広場へと向かいます、その間に試作機は何も知らないジェームズを連れて空へと上がって行きました。
その後ジェームズを含め全員が空から戻ってきたら私のようにプルプルと震え、立つのもやっとの状態になったのは言うまでもないですね。
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今日の飛行訓練を終え、私達は夕食を食べようと食堂に来ました。
その食堂でカタカタと音が鳴り響きます。
音の発生源は私達5人、手が震える為食器にスプーンが当たって音が鳴っているのです。
力一杯に操縦桿を握っていた事で手が痺れてしまったのでしょう。
「テレサ、あ〜ん」
「あ、あ〜ん……」
そんな私達の姿をみかねたのかロストが隣に座っているテレサの口にスプーンで食事を運びました。
「「「あ〜ん」」」
「えぇ……」
テレサの様子を見ていた私達、そしてジェームズを除く私達3人は同時にロストに向かって口を開ける、その様子にロストは困惑しました。
ですが!テレサだけ食べさせてもらうなんて不公平ですっ!確かにこの中で1番テレサが食べづらそうに見えますが私達だってロストの訓練のせいでこうなっているのですから食べさせてもらう権利くらいはありますっ!
「早くしてくださいっ」
気恥ずかしさもあり、つい早口でそう言いました。口を開けてずっと待つのも恥ずかしいので仕方ないですね!
「そんなに欲しいなら、はいどうぞ〜」
「んっ?!」
そんな私の口の中に待望のスプーンを入れたのは望んだ相手ロストではなく、私の隣に座っていたセシリア様だった。
セシリア様から運ばれてきた食事を咀嚼しながらソフィー達を見れば彼女達もロストからではなくエミリーさん達魔法使いの少女達が口にスプーンを運んでいた。
ただ1人、テレサだけロストから直々に食べさせてもらえて嬉しそうにしながら食事を楽しでいました。
その様子に少しだけ羨ましいという気持ちを感じつつ私もセシリア様から差し出される食事を楽しみました。
ちなみにジェームズは頑張って1人で食べてました。
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エルSide
クーデリア達に厳しい訓練を施した。
理由は単純に嫌になって辞めてもらおうと思って。
試作機で人が1人亡くなっている、絶対に誰も死なないと言う保証は何処にもない。
俺は彼女達に死んで欲しくない、だから出来ればこれで心折れて欲しかったがそうもいかない。
初飛行であんな飛行訓練をして我ながら酷いとは思うがこれも彼女達の為。
耐えて技術を身に着けられれば良し、嫌になって辞めてくならなお良し。
夕食の時に手が震えてスプーンが食器と当たって音を立てていた時は流石に申し訳なく思って食べづらそうにしていたテレサにスプーンを持って食べさせてあげていたらクーデリア達も自分もという感じで口を開けたのには驚いた。
結果クーデリア達にはセシリアやエミリー達が食べさせたけど。
訓練を終えたクーデリアに労いも込めてマッサージをしてあげようと思い自室に誘った。
勿論クーデリアを終えた後時間があればソフィーやヴィクトリア達にも施してあげるつもりだ。
無ければまた明日かな。
「ロスト?来ましたよ」
「入って来ていいよ」
扉をノックする音が聞こえた後、クーデリアの声が扉越しに聞こえたので入室の許可を出せば扉を開けて部屋の中へと入ってくる。
薄紫色のネグリジェを着用し長い黒髪は普段と変わらずストレートに下ろしたクーデリア。
彼女は興味深そうに室内をキョロキョロと見ていた。
「なんというか……可愛い部屋ですね」
ベッドに飾られたぬいぐるみの一つ、うさぎのぬいぐるみを手に取りクーデリアは意外そうに呟いた。
「ああ、この部屋にあるそういった可愛い物とかは全部セシリアの物だよ」
それもそのはず、だってこの部屋にある殆どの物はセシリアの私物だから。
セシリアがこの部屋に初めて来た時に余りにも何も無さすぎたからセシリアが自分の部屋から色々と持ってきてくれたんだけど気が付いたらセシリアの第2の部屋みたいになってた。
「仲、良いんですね」
「この基地で一二を争う古い付き合いだからね、クーデリアも普通に呼んでみれば?」
「怒られますよ」
セシリアなら怒らないと思うけど……さて、そろそろマッサージを始めようかな、寝る時間なくなっちゃうし。
「それじゃベッドに転がってね」
そう言うとクーデリアはベッドに仰向けで寝転がる。
何の抵抗もなく寝転がってくれた事から信用はされてる様で安心した。
2年前にサリーネやステラにした様に手のひらから前腕、上腕と順に揉んでいき肩、腹部、太腿、ふくらはぎと下がりながら優しく揉んでいく。
このマッサージはセシリアやエミリーにも好評だ。クーデリアからも揉む度に吐息や声が漏れていることから問題無さそうだね。
「ッァ━━━━━━?!ッ━━━━━?!」
湧き上がる悪戯心、サリーネの時と同様にクーデリアの足裏のツボを強めに押す、すると声にならないない叫び声を上げた後に体全体に力を入れ逃げようと暴れるクーデリアを無視して更に力を入れてツボを押す。
「ァ━━━━?!ロッロ゛ス゛ト゛痛いですよ゛ぉ゛?!」
と凄く良い反応をしたのは言うまでもない。
結果としてマッサージ自体は良かったが悪戯で足ツボを押したのがいけなかった。
罰としてクーデリアの抱き枕にされて眠れなくなっちゃった。
過去に囚われてた経験から人が近くに居ると満足に寝れない身体で、セシリアと一緒に居た時も深い眠りに就けた事はなかった。
クーデリアの両腕は俺の首から胴体に伸びて抱きしめ、両足も絡めて抱き枕にされたおかげでクーデリアの柔らかく大きな胸が背中に当たってる、ある種のご褒美の様な状況ではあるけとわ。
今日出来なかったソフィー達はまた明日やってあげるとしよう。
「エル、起きてますよね」
どうやって眠ろうかと思考していた時に部屋にセシリアが静かに入ってきた。
そのままセシリアは音を立てないようにベッドに近付いてしゃがみ込んで俺の目線と合わせてきた。
「やっぱり起きてましたね」
「やっぱり?」
「はい、エルは人が傍に居ると寝れないんじゃないかなと思いまして、私の時がそうでしたし」
ありゃ気付かれてた、気付いてないと思ったんだけどなぁ。
「そういう事で睡眠魔法を掛けます、寝不足では明日の訓練に宜しくないでしょう」
そう言ってセシリアは俺の目に手をそっと被せる。柔らかなセシリアの手の感触を感じながら眠気を感じ始める。
「お休みなさい」
セシリアのその言葉と頬を優しく撫でられる感触を最後に俺は眠りに誘われた。
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