2025年1月・惑星直列に寄せて
武 頼庵(藤谷 K介)様が主催されている「冬の星座(と)の物語企画」の参加作品です。
おうし座に余分な星があった。
見慣れたV字形の顔、うすぼんやりとした昴。
明るすぎる新参者が、それらを凌駕している。
14時間半のフライト後、2時間半という最短記録で自宅最寄り駅改札を出たところだった。
あとは徒歩で帰るだけ、東向きの小さな橋を渡る。
進行方向低空で迎えてくれたのがオリオン。
置き去りにした実家もここも、夜空は暗く、星の数は多い。
背中のリュックが肩に喰い込むのは、中に丸めた喪服が入っているからだ、うつむいてはいけないと、オリオン座の上に目を向ける。
おうし座が妙に明るい。
線で辿れない白い星が、星座の造作を乱している。
ウィンクするように瞬いてくれるわけでもなく、じっと私を見つめかえす。
木星ーーーー
金星ほど大きくはない白い光、これは夫の星。
迎えに来てくれたんだね、夜道が暗いから。
ふっと笑みを浮かべて橋を渡り終わり、北へ歩く。
今度は妙に大きいオレンジの光が目につく。
自分が乗ってきた類の国際線の灯りだろう、点滅して飛び去るはず、と思っても、執拗に空に張り付いている。
ああ、そうなのか。
私より外向的で他者を恐れなかった母は、こんな星になったのかもしれない。
注目を浴び、それを増幅して相手を照らし出す。
見守ってくれるのだろう。
そして世渡り下手な私を、バカねと笑い飛ばしたり、強くなれと突き放したりもする。
火星ーーーー
無視できない存在感。
母の生死は問題じゃないのかもしれない。
夜空に、私の体内に、彼女の在り方が多すぎる。
惑星直列の年、私を愛して逝った人々は、そうは簡単に手を放してはやらないと、寒空に並び帰宅を見届けた。
ー了ー