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85 最後の一撃

 ユーリはスバルとスバーニャを信じて、天から落ちてくる黒炎弾を躱して氷竜をクレイジーバニーへと向かわせた。


「てえぇりゃあ!」


 光りの尾を引く流星刀の一撃がクレイジーバニーの肩を掠める。


「いいのかな? あの威力の黒炎弾を放置して。街を半壊出来る規模だよ」

「ボクはまだ未熟だから、仲間に任せてきた。後はスバルがどうにかしてくれる!」

「仲間を信じるって? ……そうかよ」


 聖属性の力が込められた刃が肩に食い込み、煙りを上げているのも意に介さず、クレイジーバニーは流星刀を掴み、顔を歪めてユーリを睨んだ。


「どこまでも気に入らない奴だな、君は……そんなんじゃ、君も私と同じ道を歩む事になるだろうに」

「……アナタの身に起きた事は悲しい不幸だ。もしボクがアナタの立場なら同じように復讐へ走っていたかも知れない……そして、その時はきっと誰かがボクの前に立ち塞がり止めてくれると思う。この世界が悪意だけで成り立っている訳ではないんだから!」


 流星刀を握るユーリの手に力が入り、刃がクレイジーバニーの身体に食い込んでいく。


「そんな事……!」


 クレイジーバニーが身体を切り裂く刃を押し戻そうとした時、落下していた黒炎弾を魔力で構成された巨大な右手が包み込むように受け止め、握り潰した。


 辺りに猛烈な爆風が吹き荒れ、相討ちとなって巨大な右手も消え去った。


 そして、二人の目には消耗して床に膝をつくスバルの姿が写った。


「馬鹿な……有りっ丈の力を込めた黒炎弾が」

「スバル……今度はボクの番!」


 クレイジーバニーの抵抗する力が消えて、刃が一気に胸の辺りまで食い込んだ。


 放心していたクレイジーバニーが再び刃を掴み激しく抵抗する。


「何だよ……君達まで私を邪魔者扱いして消そうってのかい。勇者の使命にでも目覚めたのかな?」


 その言葉を否定するように悲しい目でユーリはクレイジーバニーを見詰めた。


「今、ボクが……ボク達がアナタを止めようとするのはアナタを否定する為じゃない。ただアナタを静かに眠ってもらいたいからだ」

「…………ふん」


 クレイジーバニーがユーリの身体を蹴り、反動で流星刀から脱出すると距離を取った。


 黒い結晶体から得た力の殆どを黒炎弾に注ぎ込んでいたクレイジーバニーは弱体化し、ユーリの攻撃で受けた傷が再生せずさらに力が抜けていった。


 だが変わりに頭の中に響いていた怨嗟の声が消え、思考はとても落ち着いていた。


「あ~あ、生意気な後輩ちゃんにとことん邪魔されたよ。こうなったら……」


 クレイジーバニーの手に黒炎の剣が現れる。


「後輩ちゃんだけでも道連れにしようかな」

「………………」


 黒炎のが剣の切っ先がユーリに向けられ、ユーリもまた流星刀を構えた。


 クレイジーバニーとユーリがお互いを見詰めてその心中を察した。


「さあ、一緒に死んでくれよ。後輩ちゃん!」


 口角を吊り上げて笑みを浮かべたクレイジーバニーがユーリ目掛けて真っ直ぐに突進する。


 その攻撃をユーリは僅かに身を屈めて躱し、クレイジーバニーの懐に飛び込んで流星刀を突き刺した。


 胸を貫かれたクレイジーバニーの手から黒炎の剣が消え、凭れ掛かるようにユーリに身を預けた。


「あ~あ、格好悪いなぁ……後輩ちゃんに諭されて、手を煩わせて……本当、格好つかないや」

「最後の一撃……当てる気、無かったですよね」

「さあ、どうだろ……ね」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 塔の屋上に戻ってきたユーリはスバルの下へ急いで駆け寄った。


「スバルッ! 大丈夫!?」

「……あぁ、何とかな」


 座り込むスバルの右腕は力無く垂れ下がり浅黒く変色していた。


 弱々しいながらもどうにか答えたスバルはユーリの肩を借りて、横たわるクレイジーバニーに歩み寄った。


 ユーリの付けた傷口は立ち上る煙りと共に広がり、灰になっていく。


 最早、立ち上がる事すら不可能だろう。


「やあ。凄いね、君は……負けちゃった」

「こっちも死に物狂いだったからな。それに……アンタはどこか本気じゃなかった」


 スバルの言葉にクレイジーバニーはクスッと笑い。


「そうかな? ……そうかもね。勝ちたいって思いは無かったよ」


 身体の灰化は止まらず、崩壊が進んでいく。残された時間はあと僅かだ。


「私の時間は……十年前に止まっていたから。これでようやく終われるよ……ありがと、ね」


 スバルとユーリが見守る中でクレイジーバニーは燃え尽き、その灰は風に吹かれて空へと散っていった。


「……終わったねぇ」

「あぁ……コーネリア達は大丈夫かな。ユーリ、下へ……」

「スバル?」


 地下で別れたコーネリア達の安否を心配していたスバルは強烈な目眩を起こし、意識を失った。


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