76 二匹の獣
ミオン達は実験室のあった階層からさらに下へと降る階段を進み、ダンジョンの最下層、ダンジョンコアのある階層へと降り立った。
「ダンジョンコアって破壊可能なん? それに壊した途端にダンジョンが崩壊したりしないかな?」
コーネリアが少し不安そうな顔でミオンに尋ねた。
「ダンジョンコアの破壊は~難しくありませんが~コアの前には大抵、コアを守るガーディアンが~いるものです~そのガーディアンの排除が少し厄介でしょうか~」
「崩壊の可能性は?」
「……絶対無いとは言えませんね~ここのダンジョンは塔の真下にありますから~万が一の事態に備えて~自壊しないように処理してあると思いますけど~」
教団が管理している以上、コアが破壊されても崩壊する可能性は低いとミオンは考えている一方で、万が一魔物が暴走し街に溢れ出すような事が起きた場合を想定して緊急時にダンジョン全体が崩壊するような仕組みになっている可能性もあると考えた。
だが、その事を二人に語るのは止めた。
今、最優先で行わなくてはならないのは神器の破壊であり、ベガの企みを阻止する事。
次に大事な事は、筒に捕らわれている人々の救出。もし、神器の破壊と人々の救出を天秤にかけたのならミオンは即座に神器の破壊を選ぶだろう。
その為に誰かを犠牲にするのなら、当然そこには自分も名を連ねるつもりではある。
「デカい扉があるよ。ここがコアの部屋?」
三人が進む先に、二メートルを越える巨大な扉が現れた。
厳つい獣の顔が装飾された鋼鉄の扉だ。
「そうです~この先にコアとコアを守るガーディアンがいます~」
「ガーディアン……どんな魔物なんすか?」
「えぇ~と、確か~……亀系の固いヤツだった筈~」
「防御力の高いヤツか……倒せるのか、コーネリア」
「なぁに、亀の一匹や二匹。ちょちょいと倒して亀鍋にしたるわぁ!」
コーネリアが扉のドアハンドルを握り、重い扉を開けた。
「……血の匂い」
「ぅうげぇ! 肉片が散らばってんじゃん」
「これは~……ガーディアンの魔物~?」
扉を開けた先にあったのは血生臭い匂いと床に散らばった魔物の臓物と肉片、そして大量の血液だった。
部屋の中央で残骸と化した甲羅に座り、亀の足を齧っている獣人の男がいた。
身の丈はコーネリアを優に越える大男で、筋肉に覆われた太い手足は相当な攻撃力を有している事が分かる。
傍らに置かれた斧にはガーディアンの魔物を殺した時の返り血がべったりと付着していた。
「あぁん? こんな所に侵入者かよ。教団の奴が迷い込んだ訳じゃねぇよな」
顔半分に広がる大きな傷跡で片目が潰れ、常に顔が歪んでいる猪獣人の男の名は。
「星騎士プロキオン……」
「俺の事を知ってんのか? ……そっちのガキは見覚えがあるな。もしかしてミオンか?」
「プロキオン、どうしてあなたがここに~? それにどうして~ガーディアンを殺したのですか~」
ミオンが問い掛けると、プロキオンは斧を手に取り立ち上がった。
「大星師から地下ダンジョンのコアを守るように指示を受けたのさ。ついでにミオンの部下が現れたら捕まえろとも言われてるな……亀は暇だったから潰したまでだ」
プロキオンがコーネリアに斧を向ける。
「テメェがミオンの部下か……ついでだ。ミオンとそっちの小せぇのも一緒に捕らえるとしよう。面倒だから抵抗すんなよ」
「待って下さい、プロキオン~貴方は本気でベガの考えに~同意するんですか~本当に、ベガの蛮行を許すのですか~?」
「蛮行? あぁ、他人の命を吸い上げて神器だかを作るって計画か……んな物に興味ねぇよ」
「だったら」
「興味はねぇけどよ……世界相手に喧嘩を吹っ掛けようって話には心が踊るぜ。頭の固い他の星騎士や他国の強者、果てに魔族の戦士まで……全てを踏み潰して見える景色は、さぞかし見晴らしが良いだろうからな!」
狂人。一言で言うなら、まさにプロキオンこそが狂人と呼ぶに相応しいだろう。
「プロキオン~貴方という人は……」
「問答は終いだ。精々、気合いを入れて抗えよ……じゃねぇと、あっという間に死んじまうぞぉ!」
プロキオンが斧を振り上げてコーネリアに襲い来る。間一髪、コーネリアはミオンを抱えて斧を躱した。
「良い反応だ。足手纏いを抱えて、良く躱したな」
「ルイ、教官を連れて離れてて!」
「わかった」
コーネリアがミオンを放り投げて、プロキオンと対峙する。
「獣人娘が相手か……面白い。猪牙一族のプロキオンだ」
「犬神一族、コーネリア」
「それじゃあ、いくぜ。簡単に死ぬなよ、コーネリアァ! 烈波っ!」
プロキオンが叫びとともに斧を床に叩きつけると周囲に衝撃波が走る。
コーネリアは空中に飛び上がり衝撃波を躱すが、その動きを読んでいたプロキオンは空中に飛んだコーネリアへ追撃をかけて横薙ぎの一撃を繰り出す。
確実にコーネリアの腹を捉えた筈の斧は何の抵抗もなく空振りした。
斧を躱したコーネリアが無傷で床に着地した。
「どういうこった。まるで手応えが無かった」
「今のウチは木葉よりも軽いんよ」
コーネリアは装備した腕輪の効果により極限まで身を軽くして、巨大な斧が巻き起こす風圧に合わせて身を躱したのだ。
「はは、面白い。オラァ!」
鋭い刃がコーネリアの脳天目掛けて繰り出されるが、紙一重でそれを避けたコーネリアが反撃の回し蹴りをプロキオンの顔に入れた。
今度は尋常ではない重さを加えた蹴りを食らったプロキオンが吹き飛んだ。
「……ふはははぁ! こいつは大したもんだ。まさか、この俺が……先に一撃食らうとはな」
目を血走らせてプロキオンが獰猛な笑みを浮かべた。
「謝罪するぜ、コーネリア。正直、たかが小娘と侮っていた。ここからは……本気で行くとするか」
プロキオンの全身から威圧的なオーラが放たれる。
それを受けてコーネリアも呼応するように気合いを漲らせる。
そして。
「獣性解放ォ!」
「獣性解放!」
黒と白の獣が牙を剥く。




