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73 神器

 階層移動用の転移魔法陣によって目的の増設された階層に転移してきたスバル達。


「薄暗いね……何だろ。何かが並んでる?」


 照明の消えた薄暗い部屋の左右には大きな筒のような物が並んでいた。


 ミオンが壁に設置されている照明のスイッチを入れて部屋に明かりが灯る。


「何かの実験室かな……?」

「何なんだ、この筒は」


 長さが二メートルほど、幅も一メートルくらいある金属製の筒だ。それが部屋の左右に数十個置いてある。筒の下部から伸びているコードは部屋の一ヶ所に集められて、制御盤らしき物と繋がっているようだ。


 コーネリアが筒を軽く叩いて反響音を探ってみる。


「中は空洞だね。材質は何かの合金か……ん~? 微かに呼吸音がする。中に生き物を詰めてんのか、この筒!」

「ここの資料を見る限り、中に入っているのは……人間、だね」


 スバルは記録用ファイルに目をやると、そこには筒の内部にいる人間の体調をチェックしている事が分かる。どうやら仮死状態にして保管しているようだ。


「人間がこの中に……!? すぐに助けないと!」


 金属製の筒をこじ開けようとコーネリアが筒の切れ目に指をかける。


「待ってコーネリア! 壊してはダメ!」

「でも、スバル! このままには……」

「どうやらこの部屋の仕掛けがコードを通じて筒の中にいる人達を仮死状態で保っているみたい。下手に筒を壊して中の人を強引に解放するとそのまま死んでしまうよ!」

「えぇ! じゃあどうすれば」


 スバルは資料を読んで辛うじて筒の仕掛けを少しだけ理解出来たが、中の人間を安全に解放する方法までは読み解く事は出来なかった。


「ミオン先生、どうにか出来ない?」

「むむむ~こうした仕掛けは専門外で~私にはどうする事も~……やはり~ここの研究者を捕まえて~解除させるしかないかと~」


 現段階では筒をどうにかする事は諦めるしかない。スバル達はさらに資料を漁り、この筒と部屋の仕掛けが何の為に作られたのかを手分けして調べた。


「いったいどれだけの人間を実験しているんだ……古い記録は数年前からあるよ」

「別の場所でも同じ事をしていたのか……死亡例もあるみたい。こうまでして筒の中に閉じ込める理由って、いったい……」


 膨大な記録の中からルイが気になる資料を見付けた。


「ねえねえ、ちょっとコレ見てよ! 『被験者六番、十二番、十八番を召喚実験に回す。召喚に成功。オリジナルとの血縁が成功率に起因する模様、オリジナルの血統図から被験者を確保するよう進言する』だって……」

「何かの実験が成功した……日付は、結構前だね。え、ちょっと待って……この日付って」


 資料を確認していたユーリが実験が行われた日付を見て、何かに気付いた。


「ミオン先生、この日付って……」

「……はい~ユーリさんがこの世界に召喚された日付ですね~。つまり、この資料に書かれている実験とは~勇者召喚の実験という事ですね~」

「じゃあ、この三人の被験者は……」

「三人の聖人……という事になりますね~。でも、そんな都合良く聖人が見付かる筈が……」


 通常、聖人の称号を持つ者が現れるのは数年に一人と言われている。その為、ステラ教団では血眼になって聖人を探しているのだ。


「オリジナル……血統……聖人……まさか、この研究って、聖人の魂を複製する研究なんじゃ……」


 スバルは事前に得ていた情報とこの部屋で見付けた情報から推測した。自身が魔王スバーニャの魂の欠片から作られた、言わば複製体である事から、自然と研究内容を読み解く事が出来た。


「ふ、複製? 魂を複製なんて出来るの?」

「普通の人間では無理だと思う。でも、聖人の魂は可能なのかも。それと被験者側の魂を弱らせておけば成功率が上がる」

「弱らせる……! だから仮死状態にしているのか!」

「多分そうだと思う……オリジナルの聖人の魂を、多数の人間の魂に上書きして聖人を作り出す研究をここでしているんだ」


 想像以上に闇深い研究が行われていた事にスバル達が絶句している中、ミオンはさらに資料を読み続ける。


「ユーリさんが召喚されても~この研究は続行されていますね~……ベガの狙いは勇者の数を増やす事では無いようですね~。それを超える成果を求めているんでしょか~」


「その通りです」


 ミオンの独り言のような言葉に、スバル達以外からの予期せぬ返答があった。


「誰っ! ……貴方は~」


 誰何するミオンの前に現れたのは、ベガの下にいた秘書の男だった。


「星師アルファルド……」

「星騎士ミオン、ずいぶんと変わり果てた姿になって……やはり生きていましたか。樹人族の貴方なら、あの状況でももしやと思っていましたが……」

「バレていましたか~、侮れない人ですね~。それにしても~先ほどの言葉……ベガは聖人の数を増やして、いったい何を望んでいるのですか~」


 アルファルドに問い掛けてはいたが、まともに答えがあるとはミオンも思ってはいなかったのだが、意外にもアルファルドはその問いに答えた。


「神器……ですよ」

「神器?」

「そうです。教団の為、人族の為、世界の為に、大星師ベガ様は勇者を超える力を持つ神器をお作りになっているのです」

「……なるほど~あちこちで見付かったおかしな武器は~その失敗作という事ですか~、この分だとまだ未発見の物を相当数ありそうですね~……この所為で、どれほどの犠牲が出たと思っているのですか~?」

「全ては世界の為……ですよ」


 一切の悪びれもなく、アルファルドは淡々と答えた。


「この不安定な世界で人族は魔物を恐れ、魔族と争い、人族の意思もバラバラ……未来永劫、このような状況が続く事を憂いたベガ様は、希望の光りを灯すべく圧倒的な力を持つ神器を作り出そうとしているのです! その為ならば我々は喜んでこの身を、この命を捧げるべきでしょう」

「貴方のその妄想に~ここにいる人達は~賛同したというのですか~?」

「勿論。わざわざ全てを話さずとも皆進んで協力してくれましたとも! 大星師ベガ様の為ならば、どんな事でもしますとね!」

「うげぇ、それって絶対分かってないヤツじゃん。誰が好き好んで使い捨てにされたいなんて思うかよ」

「黙りなさい! この畜生がぁ!」


 アルファルドの恍惚とした物言いに、コーネリアが苦虫を噛み潰したよう顔で吐き捨てると、アルファルドは激昂した。


「ここに並ぶ筒の数は数十個……この全てが聖人として神器のエネルギーにされたら、とんでもない物が産み出されてしまう。狂人の手に渡るような事は絶対に阻止しなくては……」


 スバル達が武器を構え、アルファルドに刃を向ける。


「ほう、私に刃を向けますか……逆賊としてステラ教団の意に反するという事ですね」

「ステラ教団の~全ての人間が~ベガを盲信している訳ではないでしょう~。ステラ教の~世界を守り、人々を守るという意思の下に~集まっている人々にとって、ベガこそ邪悪な逆賊として討つべき存在でしょう~」


 ミオンの言葉に、怒りで身を震わせたアルファルドが唇を噛み切って血を滴らせて叫んだ。


「このぉ低能な愚物どもがぁ! 崇高なる意思も理解出来ぬ貴様らに、ベガ様を謗る資格など無いわぁ!!」

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