71 種子転生
順調にポラリス近くまで戻って来たスバル達の馬車の行く先に、フードを被った小柄な人影が手を振っていた。
「何だろ、子供?」
「乗りたいのかな? すいませ~ん、御者さ~ん」
こちらに手を振る存在に気付いてコーネリアが馬車の手綱を握る御者に停車を願い出てみたが、御者は首を横に振り。
「ダメダメ、盗賊の襲撃の可能性もあっから馬車は止めないよ。子供のように見えて、ドワーフとかノームかもしんねぇだろ」
「……う~ん、そんな感じには見えないけどなぁ」
コーネリアはそう思っているが、馬車を操る御者の判断には従うしかない。
両手を振る小柄な子供を避けて馬車が進む。
「ごめんねぇ~」
スバル達を乗せた馬車は停車せずに通り過ぎ、置いていかれた子供は離れていく馬車の後ろを諦めずに追い掛けている。
「ま、待って~」
短い足で必死に追い掛けてくる様は、獲物を罠に嵌めようとするような感じには見えない。
「やっぱり悪い人には見えないなぁ……すいません、馬車を止めてもらえますか? 何かあればこちらで対処しますし、追加料金も支払いますので」
「えぇ? 仕方ないなぁ……」
御者は渋々、馬車を止めて子供が追い付くのを待った。
「ひぃ……ひぃ、はぁ……はぁ……おぇっ」
力を振り絞って走り、足をもつれさせながらもようやく追い付いた子供は、呼吸を荒げながら馬車にしがみついた。
「君、馬車に乗りたいの? それともウチらに何か用かな?」
「はぁ……はぁ……はひっ」
「こりゃダメだ。スバル、水ちょうだい」
子供を荷台に引っ張り上げて、スバルからコップを受け取ったコーネリアが子供にゆっくりと飲ませた。その際、子供が被っていたフードが脱げた。
露になった桃色の髪、そして見覚えのある顔立ちにスバル達は首を傾げた。
「……あれ?」
「何だか……誰かに」
「似てる、ような?」
「気がするね」
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御者に追加料金を支払い馬車は一路、ポラリスへ向けて走り出した。
馬車の中で注目を浴びている子供がスバル達にニッコリと微笑んだ。
「助かりましたよ~。合流出来なかったら~どうしようかと思いました~」
「……え~と、ミオン教官の子供かな?」
「えっ! 年の離れた妹では?」
「ミオン先生にお子さんがいるなんて聞いた事無いよ。故郷から出てきた親族なんじゃないの?」
スバル達が顔を突き合わせてあれこれ予想を立てていると、子供がコホンッと咳払いをしてスバル達の注意を引いた。
「これは~私のユニークスキル『種子転生』による効果で~若返った姿なんですよ~」
「じゃあ、本当にミオン先生本人なんですか?」
「そうで~す」
スバル達は見た目が、七、八才程度にしか見えないミオンに本当に本人なのかと疑いの目を向ける。
「何かのイタズラと言うわけでは無いんですか? ボクは先生からそんなスキルを持ってるなんて聞いた事無いんですけど?」
「それは当然です~このスキルは成功率が低く、広く知られると困る切り札なので~」
「はぁ、なるほど。では何か本人しか知らない情報を言って下さいよ」
「本人しか知らない情報……そうですね~、ユーリが初めて魔物と戦った時に思わず腰を抜かして漏ら……」
「だああぁぁっ! はい! 間違い無いです! ミオン先生本人です!!」
ミオンが話している途中で、慌ててユーリが割って入って話を遮った。
「はぁはぁ、まったくもぅ……あのミオン先生、一体何があったんですか」
「それについては~街で宿を取ってからお話しましょう~」
「宿?」
その場で詳しい話はせず、教団の宿舎ではなく街中で宿を取るようにスバル達に指示をするのであった。
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街に到着後、適当な宿で部屋を取ると子供となったミオンがこれまでの経緯を滔々と語りだした。
ミーノ島で回収したアンデッドナイトの素体となった青年の事、大星師を問い詰めた事、クレイジーバニーとの戦い、そして負けた事。
「……そうしてクレイジーバニーとの戦いで深手を負った私は~止めを刺される寸前にユニークスキル『種子転生』を使い~この新しい身体に~意識を移して生き延びたので~す」
「『種子転生』……コーネリアの『獣性解放』と同じく種族固有のスキルですね。樹人族のミオン教官の取って置きですか」
『種子転生』。致命傷を受けた樹人族が記憶の全てを一粒の種に移して生き延びるスキルだ。このスキルによってクレイジーバニーの攻撃で命を断たれる寸前に種を発芽させて古い身体を囮にして、意識を移した種は別の場所で成長して逃亡したのだ。
「欠点としては~元の能力と姿を取り戻すのに~時間が掛かるという事で~すね。今の私は無力な子供ですから~敵に抗う術がありませ~ん。なので貴方達の帰りを待っていたわけで~す」
「そうだったんですか……それにしても、大星師ベガの企み……どう対処しますか? 他の星騎士の方達に話して味方になって貰えますかね」
「……ベガがどこまで勢力を~伸ばしているか、わかりません~。味方と思っていた人物が実は敵側、という事もありえます~。ここは貴方達に頑張ってもらって~何とかベガを止めてもらいたいので~す」
「それはつまり……大星師ベガの暗殺、という事ですか」
スバルの問いにミオンは無言で頷いた。




