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70 大星師ベガ

 スバルの立てた推測が事実であるのなら、聖人の魂を作り出す方法を手に入れたステラ教団はこの先、何人でも勇者を召喚出来るという事なる。


 もしかしたら破棄された『神兵計画』の神兵とは勇者の事か? だが計画は破棄されている。


 憶測ばかりでハッキリしない。だが大きく外れてもいないだろう。早急に調べる必要がある。


「ユーリ、明日にはポラリスへ帰ろう。ミオン教官もきっと待っているだろうし」

「うん、そうだね。休暇も満喫したし、あの地獄のような訓練も何だか懐かしいや。あはは」


 二人は小屋に戻り、先に眠っているコーネリア達を起こさないようにベッドに潜り込み、就寝した。


 そして夜が明け、村人達に見送られたスバル達は馬車に乗ってポラリスへ出発した。


「んん~! 休暇も終わりかぁ……土産もたんまり買ったし、良い休みになったよね」


 荷台の上でコーネリアが大きく背を伸ばして身体をほぐしながら言った。


「休みは良いけどさぁ。爆弾スライムと戦ったりドラゴンと戦ったりして穏やかな休暇とは言えないよね。まぁその分、美味しい思いも出来たけど」


 一生に一度あるかどうかというような経験を何度も味わい、自分達の運の悪さに呆れたルイは苦笑した。


「確かに。どうせならミオン先生も一緒ならもう少し楽だったのにね……どうしてるかな、ミオン先生」


 ユーリは空を見上げ、アルスタで別れたミオンに思いを馳せた。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 アルスタでスバル達を残し、一人だけでポラリスへ戻ってきたミオンは焦る気持ちを抑えて教団資料を閲覧していた。


 積み上げたファイルをめくり、とある情報を探した。


「……あった。『第百三十期 星騎士候補生選抜試験受験生リスト』これですね~」


 スバル達が受けたあの試験の受験生リスト。そこに書かれた名前を指でなぞりながら一つ一つ確認していく。


「やはり無いですね~。大星師の所属リストにも~教団の所属リストにも~。果てには受験生リストからも~記録が抹消されています~」


 ミーノ島の地下で確認したアンデッドナイトの素体となった青年。あれはミオンの見間違いなどでは無く、確かに星騎士試験を受けた者だ。


 試験に落ちた後、偶然通りかかった大星師ベガに拾われて付き人となった筈の青年が遠く離れた地でアンデッドとなっていた。


 その事実を調べようとミオンは教団資料を漁っていたのだが、その資料の何処にも青年が存在していた記録が残っていなかった。ご丁寧に試験を受けた記録さえ書き換えられていた。


 資料を調べる事を諦めたミオンは、直接大星師ベガを問い詰めようと塔を登り彼がいる上層部へとやって来た。


「これはミオン様、何か御用でしょうか。大星師ベガ様は御仕事中ですが」


 部屋の前で立番中の二人の兵士がミオンを呼び止めた。


「緊急の要件が~発生しました。速やかに~大星師様と面会しなければ~なりません」

「少々、お待ち下さい。確認して参ります」


 兵士の一人が部屋に入りミオンの来訪を知らせている。


 残った兵士にミオンが質問した。


「ところで~最近、大星師様の下で働いていた者の中で~姿が見えない者がいますが~何処かに異動になったのですか~?」

「は、はい。詳しくは存じ上げませんが大星師様の命により何人かは配置変えになったとか……」

「そうでしたか~」


 特に口止めされているわけでも無く、単なる配置変えとして扱われているようだ。そうやって徐々に記憶から消していくつもりなのだろう。


「お待たせ致しました。大星師様がお会いになります」

「ありがとう」


 兵士に一礼して、ミオンが部屋の中に入ると大星師ベガが机に向かい書類に決裁のサインをしていた。ベガの傍には秘書が一人、静かに立ち控えている。


「御忙しい中~失礼致します」

「緊急の要件と聞きましたが、何があったのですかな。ミオン」

「はい~……単刀直入に聞きます。貴方の部下で所在不明となった者がいませんか?」


 書類にサインする手が止まり、ベガの表情が変わった。温和な笑みを浮かべていた顔から感情が抜け落ち、下から睨め付けるようにミオンを見た。


「さて……所在不明とは、穏やかではありませんね。確かに何人かの部下には遠方への出張なり異動を命じております。このご時世、不運にも命を落とし連絡が付かなくなる可能性もゼロでは……」

「ではこれも不運な事故でしょうか?」


 ミオンは魔法鞄を開き、ミーノ島で回収したアンデッドナイトを取り出し、床の上に置いた。


「こ、これは……」

「………………」


 秘書は狼狽し、ベガは眉一つ動かさずアンデッドナイトを見下ろしている。


「貴方の部下がアンデッドとなり、完全武装した状態で発見されました。この者を調べようとした所、教団資料に細工がされていて記録が残っていませんでした。さて、これでも貴方はシラを切るおつもりか?」


 雰囲気を一変させたミオンが厳しい目でベガを睨み付ける。


 しばらくの無言の後、溜め息をついたベガはミオンに一言。


「全ては教団の為なのです。ミオン、貴方にも協力して頂きたい」

「それは自白と受け取りますよ、大星師ベガ。貴方が何を考えているかは地下牢の中で聞かせてもらおう」


 ミオンが木魔法でベガを拘束しようと蔦を伸ばした。ベガの身体が巻き取られかけたその時、鋭い刃が蔦を切り裂いた。


「なっ!」


 驚愕するミオンの目の前、机の影の中から大鎌を持った道化姿の怪人クレイジーバニーが現れた。


「何ですか、コイツは!」

「きゃはははっ! 何だ、何だ、お前ぇ!?」


 クレイジーバニーの振るう大鎌がミオンを向けられ、間一髪でそれを躱したミオンへさらに大鎌の刃が襲い来る。


 床や調度品を破壊しながらクレイジーバニーがミオンに詰め寄る。


「くっ……強い。ですがっ!」


 負傷を覚悟して踏み込んだミオンは、躱し切れなかった攻撃で肩を負傷しながらも手にしたナイフでクレイジーバニーの首を掻き切った。


「終わりです……なっ!?」


 首に深い致命傷を負ったクレイジーバニーがニヤリと笑う。そして傷口からの出血が無い。


「しまった、アンデッ……!」


 身を引こうとしたミオンの腹部に大鎌の刃が深々と突き刺さり、傷口から止め処なく大量の血が吹き出した。


 手足は力を失い、手にしたナイフを落とした。


「がはっ……ぐっ……ぁあ」

「すみませんねぇ、ミオン。これも全ては教団の為、世界の為なのです。クレイジーバニー、ミオンに止めを」

「あ~い」


 倒れたミオンの髪を掴み、引き摺ってバルコニーに出るとクレイジーバニーはミオンの身体を高々と放り投げた。


「ふっしゃあぁ!」


 宙を舞うミオンの身体を追って飛び上がったクレイジーバニーは、手にした大鎌で力を失い無抵抗のミオンの身体を切り裂いた。


 血を撒き散らしながら、ミオンの身体は遥か下の地面へと落下していった。


「ふっふっふ、悪く思わないで下さいよ。全ては私が極星となり、教団を、世界を統べる為なのです。貴方に安らかな休息が訪れん事を祈ります」


 ベガは胸の前で印を切り、静かに神への祈りを捧げた。

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