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07 月明かりの下で

 簡易テントを張り、簡単な食事を終えるとゴートンは馬車の荷台で就寝し、『災禍の盾』の三人とスバルは交代で見張りを行う事となった。


「それじゃスバル。先に頼むな、俺達は休ませてもらうよ」

「はい、お休みなさい」


 赤々とした夕陽が沈み、夜空には星々の光りが煌めく。スバルは剣の手入れをしながらも周囲の音に耳を澄ます。

 川のせせらぎ、微風に揺られ弾ける焚き火の火の粉、どこかで鳴く野鳥の声も微かに聞こえてくるほどの穏やかで静かな時を感じて、スバルは不意に眠気を襲われ大きく欠伸をした。


「あぁ~、暇だなぁ」


 何気なく後ろを振り向くとそこには黒装束の不審者がいた。


「っな!! 何、おま……」


 知らぬ間にわずか数メートルの近距離まで接近されていた事実に動揺したスバルは燃える薪を放り投げた。不審者は怯みながらもさらに接近してくる。


「このっ!」


 体勢を整え、不審者の蹴りを剣で受けると声を張り上げて休息しているオースト達に異常を知らせた。


「オースト! 夜襲だ!」


 暗闇の中で不審者の襲撃に応戦しつつ、数メートル先で休んでいるオーストの名を叫んだが誰も出て来ない。


 いくら就寝中とはいえ、護衛依頼の最中に戦闘音や叫び声に気付かないほど熟睡するとは思えない。


 何か仕掛けられたと考えたスバルは不審者の腰に付けられた魔法具に気付いた。


「消音のアミュレット……!?」


 消音のアミュレットとは範囲内の音を外に漏らさないようにする魔法具で、それを装備する事で近付いてくる足音を完全に消していたのだ。

 そして今はその範囲にスバルも入っている為、声がオースト達の所まで届かないのだ。


「範囲から出ないと」


 不審者から距離を取ろうとしても、不審者の方が速いのか逆に間合いを詰められてしまう。

 剣で戦うスバルに対し、徒手空拳で戦う不審者の方が戦いの主導権を握っていた。


 不審者を狙って剣を突き出したが、身を屈めて躱した不審者が空振って伸びた右腕を掴み捻り上げる。

 軋みを上げる右腕が破壊される前に自ら身体を回転させ、不審者の頭に蹴りを入れて右腕を掴む手を外した。その時のスバルの蹴りが不審者の顔を隠していた覆面を飛ばした。


 離れた状態では不審者の素顔が確認出来ない。多少危険だが思いきって踏み込んでいく。


 不審者とスバルの間合いが重なり攻撃を繰り出そうとさらに踏み込んだが、お互いの素顔を見て驚愕した。


「コーネリア……」

「スバル……まさかアンタが」


 思わぬ相手に二人とも戦闘中である事を忘れ気が緩んでしまったが、コーネリアが先に気を取り直し、取り押さえようと剣を握るスバルの右腕を掴む。だが瞬時に剣を手放し、左手で落下する剣を逆手で掴み、刃をコーネリアの首に当てた。


「お仕舞いだよコーネリア」

「……見損なったよ、スバル。まさかウチと同じ星騎士を目指すと言っていたアンタが、犯罪者の一味だったなんて」

「はぁ?」


 コーネリアの言葉が理解出来ず、呆気に取られたスバルの隙を突いてコーネリアの右拳がスバルの腹にめり込む。だが苦痛に顔を歪めながらも、その攻撃にも耐えてスバルが口を開く。


「……犯、罪者の、一味ってのは、何の話しさ」


 腹部に痛烈な攻撃を食らっても反撃しないスバルに、コーネリアも疑問を持つ。


「アンタ……密輸に関わってないの?」

「だから、何の……!」


 何かしらの誤解が解けてコーネリアの殺気が収まりかけた瞬間、コーネリアの背後から一本の矢が飛来した。

 コーネリアが気付くより先にスバルがコーネリアの身体を引き寄せ、狙いを外した矢はコーネリアの肩を掠めた。


「誰!」


 矢の飛んできた暗闇の向こうを鋭く睨み、誰何する。

 警戒する二人の前に黒装束に身を包んだ五人の盗賊が姿を現した。その姿を見てコーネリアが噛みついた。


「お前らぁ! これはどういう事だ、ウチを騙したんかっ!」

「ふん、こっちの予定通りに死んどけば良いものを……面倒をかけやがって」

「初めからウチを殺すつもりで利用したんか……このクサレどもがぁ」


 怒りに震えるコーネリアの身体がミシミシと音を立てて強張っていく。

 多少、数で優位に立っていても本気の獣人相手では決して安心は出来ない。

 だが盗賊達の顔は下卑た笑みを浮かべたままだ。

 その様子に疑問を感じていたスバルの背後にオースト達が現れた。

 これで形勢は五分と五分。の筈だが。

 

 スバルの脳裏に街での出来事が思い浮かんだ。オーストの見せた笑みと盗賊達の笑みが同じもののように思えたのだ。


 トロスとワンドは無言のまま左右に展開し、スバル達が盗賊とオースト達に挟まれるような配置になった。


「これって……」

「ウチら、嵌められた?」

「悪いな、スバル。本当は君に危害を加える予定じゃなかったんだよ……上手く混戦状態に持って行ってゴートンを始末する筈だったのにな」


 悪びれもせずオーストが語る。


「当初の予定だと君には『災禍の盾』は力及ばず護衛依頼に失敗したって証言してもらう手筈だったのに、まさか殺られ役と顔見知りとは予定外だったよ」

「殺られ役、証言……そこの盗賊どもとアンタらはグルで、狙いはゴートンさんのアイテムボックス内の貴重品か。だが随分と面倒な手段を取るじゃないか、何故私達を巻き込んだ?」

「護衛と盗賊がグルってのは良い手だと思ったんだよ。カモになる金持ちをリスク無しで襲えるんだからな……だがちょっと調子に乗り過ぎて荒稼ぎし過ぎたんだ。冒険者ギルドに怪しまれてきたから、今回を最後に狩り場を変えるつもりだったんだよ。盗賊との派手な戦闘を見せた上に盗賊の一人を殺せば、まさか裏で繋がっているとは思わないだろ」

「なるほど。その殺された盗賊が偽装の為に用意された者だとはアンタら以外誰も気付かず、護衛側の臨時雇われに護衛達に不審な点は無かったと証言させるってのが、アンタらの計画か」


 ジリジリと囲みが狭まってくる。盗賊達も武器を構え、トロスとワンドも臨戦態勢だ。


「なかなか上手くいかないもんだよ。賞金首になると面倒だからアレコレ策を講じたというのに……残念だよ。殺れ」


 オーストの合図を受けて双方が一斉に襲い掛かる。

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