67 白蜥蜴
「ふぅ……! ユーリ、コーネリア!」
氷竜との契約を完遂し、一時的に鎮める事に成功したスバルが安堵しかけるが、直ぐ様ユーリとコーネリアの姿を探して氷竜のブレス跡を駆けた。
「ユーリィ! コーネリアァ! 返事をしてぇ!」
氷竜のブレス跡は遥か先まで続いている。二人のいた辺りには、何一つ残っていなかった。
必死に呼び掛けるスバルの声に、返事は無い。
「どこぉ……」
スバルの心が無情な現実に押し潰されかけたその時、雪に覆われた地面から腕が突き出た。
スバルが素早く駆け寄り、何故か泥だらけになっている腕を引っ張り上げると姿が確認出来ないほど泥塗れになった二人が出てきた。
「うげぇ……口の中までジャリジャリするぅ……ぺっ! ぺっ!」
「目が開けられないぃ、前見えないよぉ」
声を聞いてようやくユーリとコーネリアだと判別出来る。どうやら氷竜のブレスに飲み込まれる寸前に泥の中に落ちたようだ。
「二人とも怪我は無い? 凄い格好だけど、無事で良かった……」
スバルの用意した水でとりあえず顔だけでも洗うと、二人の無事を確認出来た。
「所で、この泥の穴は何?」
「ちょっと待ってね……え~と」
コーネリアが泥の中に腕を突っ込んで掻き回し何かを探していると、手応えを感じて見付けた物を泥の中から引っ張り出した。
コーネリアが掴んだ泥の塊。よく見ると手足が付いている。
「……え、ルイ!? いつの間に」
「ユーリの魔法障壁が砕ける寸前にウチらの足下を泥に変えてブレスの直撃から逃がしてくれたんよ」
「……ふ、ふふ、どんなもんよ」
どろどろの身体で飛べなくなったルイを肩に乗せ、コーネリアが辺りを見回す。
「上手く行ったんだよね?」
「うん、氷竜との契約は上書き出来たよ。流星刀を契約の魔法具にして、今は待機状態にしてある」
「それじゃ村に帰ろうよ。ボク、お風呂に入りたいよ。全身泥だらけで気持ち悪い」
「そうだね。村の人達も色々心配してるだろうし、帰ろう」
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村に戻ったスバル達を出迎えてくれた村人達は、変わり果てた姿のコーネリア達を見て小屋の中に水桶と湯を用意してくれた。
数人の女性達に手伝ってもらい三人が小屋で汚れを洗い落としている間に、スバルは村人達に氷竜について説明した。
「……と言うわけで、基本的にはあの竜は神殿で眠り続けています。これまでは契約の魔法具が無くて不安定な状態でしたが、今は私と契約して制御下にあります」
スバルの言葉に集まった村人達にどよめきが起こる。にわかには信じ難い話だが、実際に暴れる竜を見てしまった以上、信じるしかないのだがまだ事態に頭が追い付いていない村人達は溜め息をついた。
「はぁ~……まさか御山に竜が眠っとったとは」
「そういや、ワシが子供の頃に村の長老から昔話を聞いた事があったな。あの御山には荒神様がおるって。おとぎ話だとばっかり思って、忘れてた」
「スバルさん達が鎮めてくれたみたいだけど、また暴れたりするんかね?」
将来の危険性を心配して村人の一人が尋ねてきた。何しろ目と鼻の先に巨大な竜が居るとなると安心して暮らせない。
どれほど村にとって大切な場所だとしても、そうホイホイ出て来られては実際に暮らしていくのに支障をきたすだろう。
魔法に関して知識の無い村人に、魔法的な仕組みを話しても理解されず、村人達に心から安心してもらうのは難しい。
どうすれば良いかとスバルが悩んでいると、湯浴みを終えてスッキリしたルイがホカホカと湯気を上げながらやって来た。
「はぁ~気持ち良かった。スバルどしたん?」
「うん、村の人がまた同じような事が起きるんじゃないかって心配してるんだよ。何とか説明しようとしてるんだけど、言葉だけじゃ上手くいかなくて……」
「ふ~ん……つまり、目に見える形で納得出来れば安心するんじゃね?」
「目に見えるって……どんな?」
ルイはスバルの腰に差した流星刀をマジマジと眺めて、何か考え事をしたかと思えば頷き。
「よし。すいちゃん、型を取って」
ルイが腕を振るうと目の前に流星刀を模した氷の刀が出現した。
「スバル、この刀を握って竜を最小サイズで呼んでみて」
「え、最小サイズ? 出来るかな」
「大丈夫大丈夫、あの氷竜は召喚竜だから普通の生き物とは違うんだよ。それに契約主の指示にはちゃんと従う筈だよ」
スバルがひんやりとした氷の刀を握り、言われるがまま氷竜を召喚してみる。
「え~と……召喚」
スバルが呟くと刀の刃に張り付くように白い蜥蜴が出現した。
「あ、出た。小っちゃ」
「うん、間違いなくあの竜だね……さぁさぁ皆の衆、この氷の刀と白蜥蜴はあの氷竜の化身だよ。これを大事にすれば、決して氷竜が村を襲うような事は無いよ」
ルイの言葉に半信半疑ながらも村人達が答える。
「つまり、その蜥蜴を村で飼えっちゅう事か? 大丈夫か? 小さい魔物に食われてえらい事にならんか?」
「あっははは、このサイズでも竜だよ。そこらの魔物なんて敵じゃないって。それにこの刀がある限り、竜はスバルの言葉を守るよ。スバル、言葉を」
「わかった。え~と……村人達を見守って。もしも村人達の力が及ばない事が起きたら、助けてあげて」
スバルの言葉に応えるように白蜥蜴が大きく口を開けた。
「はい、これで大丈夫。今後、不届き者が神殿を荒らしても、氷竜が暴れるような事にはならないよ」
まだハッキリと納得したわけではないが村人達も一応信じてくれたようだ。
氷の刀と白蜥蜴を大切にしていくと約束した。
「……それはそうと、コーネリアとユーリは遅いね」
「あぁ、何しろ全身泥だらけだからね。髪の毛やら耳の中やら大変みたいだよ」
「そっか。じゃあ私も手伝うか」
その後、二人の身体と装備品を洗い終えるまで数時間を要した。




