65 氷の魔獣
村人に囲まれ、スバル達が参戦した事で勝ち目が無くなった賊二人は観念して武器を捨て、降参した。
リゲルがユピテルの無事を確認して目に涙を浮かべ喜んでいる。しかしこの場にミルキーがいる事には苦笑した。親として、危険な場所に姿を見せた娘をキツく叱りたいが、家族としては居ても立ってもいられないのは理解出来るのだろう。
賊二人を荒縄で縛り、雪の上に転がしておく。その間に賊の処遇に関してどうするかという話が出たが、まずは村に帰ってユピテルの無事を皆に知らせるのが先決であるとされ、見張りを残して数人の村人達が一旦山を降りようと下山を始めた。
その時、山全体を揺るがす地震が起きた。
「きゃああぁ!」
「お父ちゃん、怖い!」
「だ、大丈夫だ。お父ちゃんにしっかり捕まれ!」
地震など経験した事の無い村人達は軽くパニック状態となり、多くが腰を抜かした。
その隙をついて賊が駆け足で逃げ出した。
「あっ! くそ、アイツら……」
「に、逃げたぞ」
「ダメだ。た、立てねぇ……」
唯一、空中を飛んでいるルイは地震の影響を受けていないが、彼女は別の何かを気にして動かなかった。
「なん、これ……とんでもない、力が」
「ルイ、アイツら逃げたよ。追って! ……ルイ、どうしたの!?」
スバルの呼び掛けにも反応せず、ルイは山頂を見上げていた。
ルイの行動を不思議に思い、スバル達も同じ方向に視線を向ける。
そこには神殿の辺りから長い首を覗かせている巨大な氷の魔獣がいた。
地震に驚き、へたり込んでいた村人達も凍りついたように動きを止めて、ただジッと魔獣の姿を見詰めるしかなかった。
「……氷……竜」
誰かがそう呟き、幻想的な白と青に染まったその姿に圧倒されていた。
そんな中、逃げ続ける賊の方へ氷竜が顔を向けた。氷竜の注意を引いてしまった事など知らず、賊の二人は必死に走り続ける。
氷竜はその大きな口を開き、強烈な咆哮とともに二人に目掛けて氷嵐のブレスを吐いた。
真っ白な死のブレスは周囲の木々、岩、地面、全てを氷クズに変えて削り尽くした。
ブレスが消えた後には、抉られて何も無くなった地面だけが残った。
「……あぁ」
「……何て魔物だ」
太い四本脚で地面を踏み締め、氷竜が神殿から出てくる。行く手を邪魔する木々を踏み倒し、氷竜は真っ直ぐに山を降りていく。
「マ、マズいぞ……あのままでは、村が……」
「だが、どうも出来ん。あの化け物を相手に俺達に何が出来る」
「何とか先回りして家族を逃がすしか……」
動かずにいた事が幸いしたのか、氷竜はすぐ近くにいた村人達には目もくれずにゆっくりとした歩調で突き進んでいく。
氷竜が目の前を通り過ぎ、重圧から解放された村人達は口々に村に残した家族の身を案じてはいるが、あの氷竜の前に再び身を晒す事になるかと思うと足がすくむ。
「流石にアレを倒す……てのは、無理だよね」
「並みの魔物とは違う。ウチらが束になっても勝ち目は無いよ……でも、時間を稼ぐくらいなら」
ユーリとコーネリアは氷竜との力の差を肌で感じて、素直に勝利を諦めて村人達が避難する時間を僅かでも稼ぐ為に戦おうとしていた。
スバルも同様に氷竜との戦闘を避けて村人達を風魔法で運ぼうと考えた。
「私とルイで村人達を遠くへ……」
(待て、スバル)
避難する方法を提案しようとした時、スバーニャからの連絡が来た。
(一つ気になる事がある。村人に確認したい)
(そんな暇無いよ! 氷竜が村に辿り着く前に全員を避難させないと)
(大した時間は取らん。それにあの氷竜を何とか出来るかもしれん)
(えっ? スバーニャが倒すの?)
(まさか、スバルの身体を使っても今の状況では竜は倒せん。別の方法だ)
「……村人達に確認したい。冷宝山の神殿には何か、道具が安置されていなかったか?」
スバーニャがスバルの身体を使って村人達に問い掛けた。
急な問い掛けに村人達は戸惑い、顔を見合わせている。
「どうした、お客さん。それが一体、何の関係があるってんだ?」
「答えてくれ。大事な事だ」
雰囲気の変わったスバルの様子に村人達は少し気圧される。
「確かに、昔は祭壇の所に古い槍があったよ」
「それは今、どこに?」
「今はもう無い。ボロボロになって朽ちてしまったから捨てちまったんだ……それが何か?」
「ふむ……なるほど。だから易々と……」
村人達から情報を聞き出し、一人納得したスバーニャ。周囲の人間が説明を求めるようにスバーニャの言葉を待っている。
「あの竜は普通の竜では無い。その昔、人族が魔族に対抗する為に作り出した、人造竜だ」
「じ、人造……? 何でそんな事をアンタが知って……」
突然の話に村人がスバーニャに詰め寄ろうとするが、ユーリがそれを制止した。
「今はそれよりも氷竜を何とかする方が先決です。スバル、ボクらに出来る事は?」
「うむ、神殿に安置されていた槍が氷竜を操る魔法具だったのだろう。時の経過によりそれが失われ、契約が切れた事で今の氷竜は制御を失っておる。元々、人族が操るように作られた人造竜だ。新たな契約を結べば自ずと鎮まろう」
「新たな……契約。方法は?」
「見た所、額に小さな穴がある。そこへ剣なり槍なり突き立てれば契約完了だ」
スバーニャは軽く言うが軽々と木々を踏み倒し、ブレスの威力は大地を抉る。
絶望的な表情を浮かべる村人達とは違い、コーネリア達の顔は明るい。
「な~るほど。あの竜の頭によじ登って、額に剣を突き刺せば良いわけね。簡単だね」
「コーネリア、簡単って言うけど相手は竜だよ? 楽観的過ぎない?」
「何の手立てもなく相手しなきゃいけなかったさっきまでの状況と比べたら、楽勝でしょ」
「そりゃそうだけど」
自信ありげなコーネリア達に村人達は




