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62 冷宝山

 冷宝山の麓に存在する小さな村、村人のほとんどが酪農と農業で生計を立てている長閑な村だ。


 訪れる旅人も少ないのか、村にやって来たスバル達を物珍しそうに眺めている。


「こ、こんにちは~」

「あんず、なんたてしたんは?」

「……はい?」

「だもん、なんたてしちすんだかきいたん」


 近くを通り掛かった年配の老婆にスバルが挨拶をすると、首を傾げた老婆が訛りのある言葉で何かを聞いてきた。


 意味が理解出来なかったスバルが思わず聞き返したが、やはり老婆の答えは理解出来なかった。


「えっと、どうしよう……」


 困ったスバルがコーネリア達に助けを求めるが、誰も老婆の言葉が分からず揃って首を傾げた。


「なんらさかして、はぁこんもわかなんちや!」

「え、えぇ何か怒ってるぅ?」

「スバル、何か変な事言ったん?」

「知らないよぉ」


 スバル達が困り果てていると若い村娘が駆け寄ってきた。


「お婆ちゃん、どうかしたの?」

「こんもわがちんは、ふでぐなんらよ」

「そっかそっか、わかった。私が代わりに聞いておくよ」


 村娘が答えると満足したように笑みを浮かべて老婆は立ち去っていった。


「あ、あの……私達、何かいけない事しちゃいました?」

「いえ、そんな事ありません。この村の年寄りは訛りが強過ぎて……外から来る人は大抵、話してる内容が分からないんですよね。あのお婆ちゃんは、アナタ達が何処から来たのか聞いていたんですけど答えが無かったから怪しいって疑っちゃったみたいです。すみません、悪気はないんです」

「あぁ、そういう事なら仕方ないですね。私達、冷宝山の雪景色を観に来たんです」


 スバルが訪れた目的を告げると村娘も予想していたのか、ウンウンと頷き。


「そうですか、御山を観に来られたんですか。うちの村に立ち寄る旅人もほとんどが御山に登るのが目的なんですよね」


 スバルが宿の場所を尋ねると村娘はニッコリと微笑み。


「うちは小さな村ですから専門の宿泊施設は無いんです。皆さんが良ければ、私の家に泊まりませんか? お安くしますよ」


 どうやらこの村娘が困っていたスバル達に駆け寄ったのは単なる善意という訳ではなく、営業の意味もあったようだ。なかなかに強かな村娘である。


 断る理由も無いので、そのまま村娘の家に泊まる事にした。


「私の名前はミルキーっていいます。あそこが私の家で家畜も飼ってるんですよ」


 ミルキーが指差す先にある民家には数頭の牛と羊を飼育している畜舎が併設していた。

 

 畜舎近くの囲いの中で、牛と羊が歩き回り、それを見守っている男性がいた。


「あっ! お父さ~ん、お客さんだよ!」

「んお? これはこれは。こんな辺鄙な村に、ようこそお客さん。何にもねぇけんどゆっくりしていってくれ。ミルキー、お客さんは俺が小屋に案内すっから、母ちゃんに知らせてこい」

「は~い、じゃあねお客さん。また後で」

「んじゃ、小屋に案内すっど。すごそこだ」


 男性が案内した小屋は普段は使われていないが清潔さを保つように掃除がされていた。


 ベッドは大きめのサイズが二つ、並んで使うしかない。野宿するよりかは断然マシなので贅沢は言えない。


「そいじゃ夕食の時は呼びに来っからな。ちょうど羊を一匹潰したから、楽しみにしててくれ。んじゃな」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「夕食まで、まだ時間があるよね。ウチ、ちょっと牧場の羊と遊んで来ようかな」

「あ、ボクも行きたい」


 コーネリアとユーリが牧場で草を食んでいる羊を見に行くと、ルイは昼寝を始めた。


「それじゃ私は村を散歩しに行きますか」


 スバルは一人、村の広場まで出掛けた。


 村には店のような物はなく、村人達は各家で忙しく働いているようでスバルとすれ違う人は居なかった。


 広場には不思議なモニュメントがあった。巨大な輪の木像で、目の前に置かれたベンチに座り視線を上げると輪の中に冷宝山の頂が見える。


「は~、なるほど。ちょっとした芸術性を感じるね」


 持参したおやつを食べながら、何となく冷宝山の景色を眺めているといつの間にかベンチに幼い少女が座っていた。


「………………」

「………………」


 少女の目はスバルのおやつに釘付けになっていて、無言のままジッと見詰めている。


「…………食べ」

「食べる」


 少女の無言の圧力に負けておやつの入った袋を少女の方へ向けるとすぐさま手を入れてきた。


 少しの間、夢中でおやつを食べていた少女が思い出したようにスバルを見て。


「あなた、誰ぇ?」

「私は、スバル。あの山を観に来たんだ。君のお名前は?」

「ユピテル。お姉ちゃんはミルキー、お父ちゃんはリゲルでお母ちゃんがミラだよ。そんでね牛のマクロとねフーと……」


 そう言って小さな指を折りながら次々と家畜の名前を上げていく少女に、スバルは頷きながら言葉を返していく。


「あぁ、ミルキーなら知ってるよ。私はミルキーのお家に泊めてもらうんだ」

「じゃあ、お客さん?」

「そうだよ、私と他に三人。犬獣人のコーネリアと人族のユーリ、それから妖精族のルイ」

「犬! いっぬ見たい!」

「いや、犬じゃなくて犬獣人ね。ユピテルは動物好きなの?」

「好き、お肉とかチーズとか好き!」

「そっかそっか、お父さんのリゲルさんが羊のお肉があるって言ってたから今夜の夕食はユピテルの好きなお肉が出るね」

「わ~い、帰ろ! 早く帰ろ!」


 ユピテルはスバルの手を引いて家路を急かした。苦笑しつつ腰を上げてユピテルの家に戻ると牧場でリゲルに指導されながら牛の乳絞りを体験しているコーネリアとユーリがいた。


「いっぬ! いっぬの人!」

「ん? 何だい、この子は?」


 コーネリアの耳と尻尾に強く反応したユピテルがコーネリアにしがみついた。


「こりゃ、ユピテル! お客さんに失礼だが! すんません、うちの娘が……」

「あはは、平気ですよぉ。可愛いお嬢ちゃん、ウチの名前はコーネリア言うんよ。お嬢ちゃんは?」

「ユピテル!」


 コーネリアがユピテルを持ち上げて肩車をするとユピテルは大喜びで目の前の耳を撫でた。


 擽ったいのを我慢しつつコーネリアが歩き回ると頭上のユピテルが歓声を上げた。

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