61 流星刀
マキュリーの館で振る舞われた夕食を食べ終えたスバル達が部屋で食後のおやつとして果物を食べていると、荷物を抱えた付き人を引き連れムラサキが訪ねてきた。
「ちょっと良いかな。お主達に渡したい物があるのだ」
そう言うと、付き人達がテーブルの上に四つのアイテムを置いた。
「これらは王国からお主達への感謝の品だ。遠慮無く受け取って欲しい」
「やったぁ! これも~らい!」
スバルは青い宝石の付いた指輪に飛び付こうとしたルイを掴んで止めた。
「感謝の品と言われましても……クレナイ様からもムラサキ様からも十分な感謝の言葉を頂きましたし、そこまで気を使わせてしまうのは……」
スバルが遠慮して断ろうとするとムラサキは首を振り、アイテムを受け取るようスバル達に強く勧めた。
「どうか受け取って欲しい。お主達の働きに対して与えるものが感謝の言葉だけなど考えられんし、水棲族の沽券に関わる。それに兄上もお主達の功績に報いたいと強く望んでおられるのだ」
ムラサキはアイテムの中から刀を手に取るとスバルに渡した。
「それは兄上の愛刀だ。クレナイ兄上のせめてもの思い、どうか汲んで欲しい」
そう言うと頭を下げるムラサキに、スバル達は視線を交わして頷く。
「分かりました。水棲族の皆さんの真心、確かに受け取りました。ありがたく使わせて頂きます」
「そうか、よかった。では、説明していこう。まずこの盾、魔力を込めると魔法障壁を発生させる。加えて反射の魔法も付与しておるから単発系の魔法なら敵に返せるぞ」
「これ、ボクが使ってもいいかな? スライムとの戦いで盾が壊れたから新しいのが欲しかったんだ」
丸く厚みのある盾だが水棲族の技術をふんだんに用いた盾は見た目より軽く中心に嵌め込まれた宝珠が輝いている。
「こっちの指輪には海王石という石が付いておる。水魔法に大きな補正が付くのだ。ルイが気になっておるようだな」
「あたいの指には無理だけど腕輪としてなら装備出来るよ! ほらほら、似合う?」
自動でサイズが合うようになっている魔法の指輪のようで、ルイが腕を通すとピッタリと填まった。
「この腕輪は装備者に重力を操る力を与える。攻撃の重さを増したり、身を軽くしたりな。生憎と魔法弾を放つような使い方は出来んが、装備者の戦闘の幅を大きく広げるだろう」
「へぇ~。これはウチと相性良さそう」
試しに腕輪を装備したコーネリアが軽くジャンプすると天井まで届きその場で反転して天井に着地すると、次の瞬間には無音で床に着地した。
「そして、最後にこの刀。兄上の愛刀で、天より落ちてきた星を素材として作られた刀だ。名前は流星刀という」
「流星刀……あれ?」
スバルは刀を抜こうとして妙な違和感を感じた。
「剣と刀では微妙な違いがあると思うが、どうにか使いこなして欲しい。きっとスバルの力となる筈だからの」
「はい、頑張ります」
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翌朝、スバル達はムラサキに地上へ帰還する事を告げると快く承諾された。
短い滞在期間ではあったがクレタの街を十分に楽しんだ一行は、街の外に用意された船で送り帰される事となった。
「スバル達は休暇中であったな。良ければ希望する街まで運んでやるぞ、どこが良い?」
「そうですねぇ……まっすぐポラリスへ戻るのも勿体ないし、どうしようか?」
スバルがユーリ達に問うと概ね皆、同じ考えでもう少し休暇を満喫したいようだ。
「では冷宝山を見に行くのはどうかな? あそこの白い雪に覆われた峰が美しく見応えがあると思うぞ」
「ユキ? ユキって何?」
「コーネリアは雪を見た事ないの? 白くて冷たくてキラキラしてて、とっても綺麗なんだよ」
「へぇ~。スバルとルイは見た事あんの?」
「無いなぁ」
「あたいも無~い」
ユーリ以外に雪を見た事が無かったスバル達は、ムラサキに勧められた冷宝山の景色を眺める為、冷宝山に一番近い浜まで船で運んでもらう事にした。
「そうだ。コーネリアよ、これを持っていけ」
ムラサキがコーネリアへ四角い箱を渡した。
光沢のある黒塗りの箱に赤い紐で封がしてある。表面に螺鈿細工で地上の花をあしらった、とても気品のある品だ。
芸術的な箱にスバル達が見惚れている一方、ユーリだけは眉をひそめボソリと呟いた。
「まさか……玉手箱?」
コーネリアが紐をほどこうとするとユーリがスバルの背に隠れた。
「あ、乾物だ!」
「楽しみにしていたスライムの干物やその他の珍味を入れておいた。後で楽しむが良い」
「うほほ~い。ありがとうございます、ムラサキ様」
和気あいあいと談笑する一同の後ろで、人知れず安堵の溜め息をつくユーリであった。
やがて船は目的地に到着し、ムラサキが下船したスバル達に大きく腕を振って別れを告げると船は海中へと潜って行った。
「さて……ムラサキ様が言っていた冷宝山ってアレだね」
スバルの見上げる方角には、山頂部分に白い雪がある大きな山があった。
不思議な事に近くの別の山には雪が存在していないようだった。
「雪があるのって、あの山だけなんだね」
「分かりやすい目印じゃん。迷わず行けるね」
「ムラサキ様の話だと山頂に神殿がある霊山なんだって」
「じゃあ、行ってみようか」
冷宝山の麓には、その存在を崇める村が存在した。地上に戻ったスバル達は、まずその村を目指した。




