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06 助っ人

 ダグレスを訪れて数日、色々食べ歩きをして十分に満足したスバルは旅を再開する事にした。


「目的地の街までの旅費を節約するには旅人の護衛依頼を受けて一緒に付いていくのが手っ取り早いんだけど……私ソロだし、まだ階級も低いんだよなぁ」


 誰も好き好んで実績の無い者に命を預けたりしない。今のスバルでは個人の実力以前に、実績の無さで冒険者ギルドから依頼の受理を拒否されそうだ。


 さてどうしたものかと掲示板の前で唸っているとある冒険者が声を掛けてきた。


「君、何か困り事かい?」


 声を掛けてきたのは三十歳ほどの人の良さそうな顔立ちの男で金属鎧を着込んだ剣士のようだ。後ろには仲間の魔法使いと弓使いを引き連れている。


「あ、はい。街の移動がてらに護衛依頼を受けておきたかったんですけど、私はブロンズで登録期間もまだ短いから依頼を受けられないんです」

「へぇ、そうか。目的の街ってドコだい?」

「セントナードって街です。勇者様が滞在していたという逸話があると聞きました」


 ニヤリと笑った男が後ろの仲間に振り向き何かを呟くと仲間の魔法使いも同意するように頷いた。


「?」

「……失礼。実はそのセントナードに立ち寄る行商人の護衛依頼を俺達は受けていてね。その行商人の目的地はもっと遠くなんだが、君さえ良ければ臨時メンバーとしてセントナードまでは一緒に行かないか?」

「えっ! 良いんですか?」

「勿論さ。見た所、まだ新人だろ? 後輩を助けるのも先達としての役目ってもんさ」

「ありがとうございます。ぜひお願いします」

「決まりだな。出発は明日だ」


 にこやかに手を振って立ち去っていく男達。思い掛けず護衛依頼に参加する事が出来たスバルは男達に手を振り返して見送り、すぐに真顔になって考え込んだ。


「何か怪しいな、あの男」


 単純に善意で声を掛けてきたのか? それとも何か裏でもあるのだろうか。


「報酬の話しもしなかったし、こっちの事も大して聞いてこなかったな」


 連携が大切な冒険者パーティーの中に赤の他人を入れるというのに、まるで数合わせの為だけに加えたような感じだ。神経を使う護衛依頼で不確定要素を増やすのは良くないのではないかとスバルは考えた。ブロンズで新人、おまけに年若い容姿のスバルを見て即戦力になるとは普通思わないだろう。


「それにあの時の顔……」


 スバルがセントナードを目指していると聞いた時に見せた男のニヤついた顔はそれまでの人の良い柔らかな印象とは違い不快な物だった。


「私の考え過ぎか?」


 一抹の不安を感じながらも翌日、スバルは湖の街ダグレスを旅立った。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 護衛を引き受けた冒険者パーティー『災禍の盾』とスバルは一台の馬車に乗り込み、ダグレスを出発した。

 御者台に馬の手綱を握る弓使いのトロスが座り、剣士のオーストと魔法使いのワンド、そしてスバルと依頼人の行商人が座っている。


「馬車にあまり荷物は乗せてないんですね」

「あぁ、ワシは『アイテムボックス』スキルを持ってるし、この通り魔法鞄で大抵の物は手軽に持ち運べるからな」


 行商人は隅に置いていた鞄を叩いて説明した。魔法鞄はスバルの持っている魔法のポーチよりも収納出来る量が多い逸品で、行商人の言っていた『アイテムボックス』スキルとは魔法鞄と同じく収納系のスキルで、異空間に物を閉まっておけるスキルだ。


 しかし、貴重品は『アイテムボックス』で隠し持つとしても魔法鞄を活用して馬車のスペースが大幅に余っているのだからもう少し売り物になりそうな荷物を積んでも良さそうな気がする。荷物が少ないお陰で一同が快適に過ごせているのは、スバルもありがたいと思っているが素直に疑問に感じた。


「商人なら儲けそうな時はガッツリ儲けようとするものだと思ってました」

「がっはっはっは、そりゃあワシも商人の端くれだ。儲けを逃したくはないが、近頃この辺も盗賊の被害が多発するようになってな。いざとなったら馬車を捨てて逃げなきゃならんかも知れん」

「安心しなよ、ゴートンさん。俺達『災禍の盾』がきっちり守ってみせるからよ」

「おぅ、期待しとるぞ。何しろ冒険者ギルド推薦の腕利きと聞いとるからな」


 スバルはパーティーリーダーのオーストに異変時の対応について確認した。


「魔物にしろ盗賊にしろ、君は商人のゴートンさんの傍を離れずに待機してくれ。対処は俺達だけでする」

「分かりました」


 慣れない四人がかりで対処するよりもいつもの三人だけで対処する方がやり易いという事だろう。

 護衛対象のゴートンを放置する事は出来ないので、その為にスバルを誘ったのだろうか。


(考えすぎだったかな……)


 街を出てからここまで、特におかしな点は見られなかった。

 単なる思い過ごしかと密かに胸を撫で下ろしていると御者台のトロスが緊張した面持ちで鋭く声を出した。


「おい、左の茂みに怪しい人影が見えた。用心しろ」

「何人だ?」

「わからん、一人や二人じゃない」


 幌に遮られて荷台からは外が見えない。オーストとワンドが何時でも動けるように片膝立ちで様子を伺う。

 馬車内の空気が変わり、ゴートンも緊張した様子で魔法鞄を抱き締めている。


「スバル、君はゴートンさんの傍を離れるなよ。新たな指示が出るまで動くんじゃないぞ」

「はい」


 やがてトロスが馬車を止め、荷台の屋根に登った。


「来るぞ!」


 屋根の上からトロスの声が届き、ワンドとオーストが飛び出した。

 怒号と共に火魔法の炸裂音が轟き、岩の砕ける音と武器がぶつかる金属音がしてから、落雷のような轟音が鳴り響くと一転して静かになった。


「ど、どうしたんだ? まさか、全滅したのか……」

「いや、大丈夫みたいだよ」


 外から聞こえる戦闘音に怯えていたゴートンを安心させるようにスバルは軽く肩を叩く。


「やれやれ、逃げ足が速い連中だぜ」

「トロス、今のうちに出発しよう」


 馬車に戻ってきた『災禍の盾』は大きな怪我をせず無事に戻ってきた。


「盗賊ですか?」

「あぁ、こちらよりも人数は多かったが被害が出るのを嫌がったのか無理に攻めて来なかったよ。連中が引いてるうちに移動してしまおう」


 先ほどよりもスピードを上げて馬車は街道を激走した。盗賊連中の移動手段が徒歩だけなら十分に振り切れる。


 そのペースを維持して、日が暮れる頃にはかなりの距離を稼ぐ事が出来た。この日の野営地として緩やかな川近くで一泊する事になった。

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