58 ディープシースライム
「ムラサキ様、あそこ! 光りの柱がっ!」
クレナイの下へ向かうムラサキ達の前に海を貫く光りの柱が見えた次の瞬間、海中を巨大な衝撃波が駆け抜けた。
「きゃああぁ!」
「わあぁっ!」
「ルイ、ウチの傍に!」
「ひゃああぁ!」
「こ、この衝撃……クレナイ兄上ぇ!」
激しい揺れに襲われたスバル達がどうにか衝撃波をやり過ごすと爆心地と思われる海域に駆けつけた。
海底には幾つもの巨大な亀裂が走り、クレナイが使っていた船が半壊状態で転がっていた。
船の後部が砕けて横倒しになった船に駆け寄るとムラサキは大急ぎで船内を見回した。
「皆、無事かっ! 兄上はどこだ!」
「……ク、クレナイ様は……外に」
爆発の衝撃で身体を激しく打ち付け負傷した兵士は、途切れかける意識を必死に堪えムラサキに言葉を伝えると気を失った。
「外……だと」
硬い防御機能を備えた船内にいても、この惨状なのだ。生身で外に居ては生存は絶望的かもしれない。
ショックで思考が停止したムラサキの耳に、外にいるスバルの叫びが届いた。
「ムラサキ様! 外に負傷者です!」
「っ! わかった、すぐに行く!」
心が挫けそうになっていたムラサキは懸命に気持ちを奮い立たせて、スバルの下に急いだ。
「スバル、負傷者の手当てを……兄上! クレナイ兄上、しっかりして下さいっ!」
爆発の威力で大怪我を負ったクレナイがスバル達に支えられながらムラサキの下に来た。
手足は折れ、身体中に酷い火傷を負って苦悶の表情を浮かべているが意識はハッキリしていた。
「ムラサキ……か。テメェ、部外者を……こんな所に、連れてくんじゃ……ねぇよ」
「申し訳ありませぬ。しかし、太陽石の問題を解決する手立てが見付かり、こうして参ったのです。どうやら太陽石の暴走があったのですね、かなりの被害を受けたようですが命が助かっただけでも良かった。兄上も運が良い」
「はぁ……運じゃねぇよ。爆発の衝撃を食らう直前に船が壁になる事で、衝撃を和らげたのだ……言う事を聞かねぇテメェと違い、出来た部下どもだぜ」
重傷を負い、身体の自由がきかなくなっても減らず口を叩くクレナイにムラサキは思わず苦笑する。
「それより、太陽石の問題を解決する手立てが見付かったと言ったな。説明しろ」
「はい。ですが、先に怪我人の治療をしなければ。皆、重傷です」
クレタへ戻ろうと半壊した船に全員を乗せてムラサキの魔法で引っ張ろうとした時、地面が揺れて岩肌に亀裂が走った。
「これは、爆発で地盤が崩落したか……!」
「ムラサキ様、下に何かいるっ!」
コーネリアの言葉に、ムラサキは船の下を見る。船の下に広がる亀裂から触手が伸びて船体に絡みついてくる。
「何じゃ、コイツは!」
崩れる瓦礫を掻き分けて、巨大なスライムが這い出て来た。
幾つもの触手をくねらせて、身の内に黄色い閃光を宿している。
「まさか、ディープシースライムか? だが何なのだ、この馬鹿げた大きさは!?」
地面から出て来たディープシースライムは、ムラサキ達の乗る船よりも大きく半透明の身体の中を駆け巡る黄色い閃光はスライムの身体を内部から焼いているのか、ディープシースライムの表面が沸騰しているかのように泡立っていた。
その異常事態はディープシースライムを苦しめているらしく、触手を振り回してもがき苦しんでいた。
「これは、一体……」
「おそらく、太陽石の所為だ」
「クレナイ兄上! 太陽石の所為とは……まさか、あの爆発を!?」
「ああ、ディープシースライムには魔法を吸収する能力がある。暴走した太陽石の爆発を取り込もうとして許容量を越えたんだろう」
本来ならあの爆発に巻き込まれて周辺の魔物は一掃された筈だった。
唯一、ディープシースライムだけが魔法吸収能力で爆発力を飲み込み、損傷と再生を繰り返しながら生き延びたようだ。
だが太陽石の力はディープシースライムの能力を大きく上回っていたようで、過剰なエネルギーを処理し切れずディープシースライムは巨大化させ、体組織の崩壊が始まっていた。
今のディープシースライムは生きた時限爆弾と化していた。
「急いでここから離脱しろ。あれは長くは保たんぞ」
「くっ……分かってはおるのですが」
ムラサキが魔法で船を動かそうとしても絡み付いた触手が船体を締め上げ、硬い貝殻の船が徐々にひび割れていく。
「ディープシースライムに力負けするとは……」
このままではディープシースライムの自爆に巻き込まれるより先に、触手に潰されて圧死してしまう。
「せぃやあぁ!」
「はあぁっ!」
船体を掴んでいた太い触手をスバルとユーリが切り落とした。
拘束から解放された事で、船がその場から離脱し始めた。
「スバル、ユーリ!」
「二人の事はウチらに任せて!」
「ムラサキ様は街へ急いで! すいちゃん、運んであげて」
動き出す船からコーネリアとルイが飛び降り、ルイの呼び掛けで船の速度が加速した。
「……すまぬっ! 頼んだぞ!」
ムラサキの叫びを残し、船はクレタを目指して消えた。
切り落とされた触手が痙攣し、その動きが止まると浅黒く変色して腐り果てた。
本体のディープシースライムの体内は光りも黄色から白色へと変わり、身体のあちこちが溶け始めた。
「さて。残ったはいいけど、どうしようか」
「本体を魔石ごと切っちゃダメかな?」
「それは止めた方がいいっしょ。魔石に収まりきらないエネルギーが身体中に詰まってる。下手に切ったらその場でドッカンよ」
「てぇ事は、まず内部のエネルギーをどうにかしなくちゃいけない訳ね。よし、それはあたいに任せて。皆はスライムを殺さないように身体に穴を開けて!」
「何か手があるのね。じゃあ、任せた。私とコーネリアで穴を開ける! ユーリはルイを守って!」




