57 爆発
スバルを連れて大急ぎでマキュリーの館へ戻ったムラサキはその足でマキュリーの下へとやって来た。
「マキュリー、居るかっ!」
「こ、これはムラサキ様。そのように慌てて、如何されました」
「済まんが今すぐ太陽石の保管庫へ案内してくれ」
「?? それは何故でしょうか。重要機密ゆえ相応の理由が無ければムラサキ様と言えど……」
「それについては後で説明する。今は一刻の猶予もないのだ。すぐに来てくれ」
「は、はぁ……では、こちらに」
ムラサキの勢いに押され、戸惑いながらもマキュリーは腰を上げた。
部屋を出ると廊下で待機していたスバルを見て、マキュリーが慌ててムラサキに向き直った。
「ムラサキ様、まさかこの方々もご一緒に……?」
「そうだ。さあ、行くぞ」
上手く状況が飲み込めず、さらに戸惑いを深めたマキュリーを急かしてムラサキ達はマキュリーの案内で館の地下へと向かった。
長い廊下の途中、マキュリーが立ち止まり壁を押すと地下への隠し扉が開いた。
そこから螺旋階段を降りると大きな扉が現れた。その扉には鍵穴が見当たらない。
マキュリーは扉に手を当てて何かを呟くと扉が下降し、先に進めるようになった。
「この先に保管しております」
「そうか。ルイ、分かるか?」
ムラサキに促されてルイが部屋の中に入ると白く淡い光りを放つ石が陳列された棚が幾つも並んでいた。
「う~んと……あ、これだ」
ルイが数ある太陽石の中から一つを選び、ムラサキに知らせた。
「ルイ、それなのか?」
「そーです。この石だけ精霊が騒いでま~す」
「……本当にあった」
「ムラサキ様、どういう事ですか。説明して下さい!」
「そうだな、実は……」
マキュリーに詰め寄られたムラサキは太陽石の問題を語り始めた。
クレナイからは口止めされていたが、ルイが異常のある太陽石の判別が可能である事で状況は変わった。
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ムラサキから説明されたマキュリーは顔面蒼白でムラサキの手元にある太陽石を見詰めた。
俄には信じ難い話だが、もし事実であれば人の頭ほどの大きさがある太陽石の暴走という悪夢はクレタの街を確実に破滅させる。
「ムラサキ様、本当にこの太陽石だけが暴走するのですか? 私には他の太陽石との違いが分かりませんが……」
「それは妾も同様だ。だが、妖精族は精霊と深い関係にあると聞く。その精霊がルイに危険を知らせたとなると間違いはあるまい、後はこの太陽石を兄上の下へ運び、処理しなくては……時にマキュリー、この太陽石をどのようにして手に入れた?」
「はっ……それは当然、専門の業者から仕入れました」
「専門というと、ベルトリー商会とアンガース商会のどちらかだな」
「いえ、最近規模を拡大し始めた……」
「もしやマース商会か」
「ご存知でしたか。左様にございます」
職人街でボヤ騒ぎを起こした店が太陽石の取り引きしていたのも、マース商会だった。
業界内で急速に販路を拡大し、商会を大きくしているマース商会。その原動力となっているのが問題の使用済み太陽石のリサイクルであった。
海底の各地の街でエネルギーを使い切り、空になった太陽石を回収し再度魔力を充填して販売していて、その性能は本来の太陽石と比べると幾らか劣るようだが、それでも高い需要があった。
「どうやらマース商会はこの太陽石の危険性を認識していないようだな。ルイの話でも全ての使用済み太陽石が危険という訳でも無いようだ。そうだな、ルイ」
「はい。多分だけど元々の太陽石は様々な属性魔力がバランスよく込められていたんだと思います。でも空になった太陽石に魔力を込める時に、バランスを考えず適当に流し込んだ所為で太陽石の耐久性が著しく落ちたんじゃないかな? すいちゃ……水属性とか闇属性なら穏やかだけど、火属性とか光属性だと場合によっては過剰反応してしまう、かも?」
「あぁ……おそらく、それだ。その過剰反応が起こって爆発となるのだろう。マキュリー、お主はマース商会の支店に赴き、直ちに操業停止と太陽石の流通の経路を確認しろ。但し、太陽石の危険性については王国より発表するまで伏せろ。半端な情報が出回るとマズイ」
「はっ、畏まりました」
一通りの指示を出したムラサキはクレナイの下へ向かう為、スバル達を連れて街の外へと向かった。
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クレタの街から少し離れた場所。深い海溝が存在する海域にクレナイを乗せた船が停泊した。すぐ近くには投棄するには都合の良い海底崖がある。
「クレナイ様、予定海域に到着しました」
「よし、防殼船の動力は切るなよ。万が一の時に緊急発進出来るように準備しておけ」
「はっ……どうしても御自身で行われるのですか?」
「それが王族の務めだ。太陽石の活用は国が推し進めた事業だ、その尻拭いでこれ以上の犠牲は看過出来ねぇんだよ。これで俺がどうにかなったら親父に報告しろ。最悪の事態として太陽石の破棄を決めるだろうよ」
クレナイは各地から回収した大量の太陽石を崖ギリギリの位置に運び出し、そこから崖下の海底を覗き込んだ。
「これだけの深さがあれば多少はマシか」
仮に暴走を始めても、爆発するまでの十数秒の間に断崖の底へ投げ捨てれば被害を多少は抑えられるだろう。
太陽石を手に取ったクレナイは緊張した面持ちで魔力を込めた。
通常の太陽石ならば僅かな魔力を込めても特に反応はしない。確認を終えた太陽石を脇に起き、次の太陽石を調べていく。
そうした作業を続けていき、半分ほどを確認し終える頃には、疲労が蓄積しクレナイの集中力も途切れかけていた。
「はぁ……はぁ……このまま終わってくれよ」
いつの間にか呼吸が乱れ、繰り返し作業で指先に痺れを感じるようになっていた。
クレナイが太陽石に魔力を込めた瞬間、太陽石が光り輝き亀裂が走った。
「くそったれ!」
クレナイは亀裂が広がり輝きを増していく太陽石を崖下へ投げ捨て、船へと急いだ。
「殿下、お早く!」
「防殼機能、全力展開! 緊急発進! 急げぇ!」
動き出した船から部下が身を乗り出しながら手を伸ばし、クレナイを拾い上げた瞬間。
断崖の底から迸る閃光と衝撃が船を襲った。




