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56 精霊の警告

 クレタの街を覆う膜が徐々に光りを帯び、街のあちこちで朝を迎えた人々が活動し始めた。


「ふぁ~……朝か。おはよう、コーネ……あれ?」


 目を覚ましたスバルが隣のベッドを見るとコーネリアの姿が無かった。


 隣室のユーリ達の所にでも行っているのかと思っていると窓の向こうからコーネリアが姿を現した。


「うわっ! 何してんのコーネリア」

「あ、起きたんスバル? えへへ、おはよう」

「おはよ……じゃなくて、何で窓から……て言うか、その荷物は何?」


 コーネリアが抱える紙袋の中から香ばしい匂いが漂っている。


「えへへ、朝起きたら小腹が空いちゃってさ。こっそり街の方へ出掛けてみたら朝市があったんだよ。夜中に漁をして夜が明ける前から屋台を出してるんだって、知ってた?」


 コーネリアが紙袋から串焼きを取り出して齧りついた。何かの触手をぶつ切りにして焼いた物のようだ。


「食べる?」

「今、起きたところだから。いらない」


 スバルはベッドから起き上がり、身支度を整えるとお茶の用意を始めた。


「やっぱり水棲族の街って人族の街と違うよね。空を見ても太陽が無いのに明るいから変な感じだし。店の作りとか見ても、なんて言うか溶けた石が固めて作った感じで面白いよ」

「水棲族って石文化なのかもね。街の入り口で名前を書くのも石板だったし、建物や家具類にも多く使われてる。石製だけど重くないし冷たくもない、不思議な石だよ」


 何かしらの付与がされているのか、触ると石自体がほんのりと暖かい。そうでなければ建物全体が冷えて、中で暮らす者が凍えてしまうだろう。


 スバルとコーネリアが寛いでいると部屋の扉がノックされて、ユーリとルイが入ってきた。


「おっは~……何だよ。コーネリア、もう買い食いしてんのかよ」

「あははは、これから朝食だって言うのに」

「全然、よゆ~だよ」


 ユーリとルイが部屋に入ると串焼きを頬張るコーネリアを見て、呆れたように笑った。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 朝食後、ムラサキは昨日とは別の場所へとスバル達を連れてきた。


 案内したのは幾つもの工房が並ぶ職人街で槌を振るう音や商人と職人の交渉する声が飛び交い、市場とはまた違う活気溢れる場所だった。


「クレタへ訪れた記念に何か買うていかんか? 日用品なら手頃な値段じゃぞ」


 ムラサキの勧めもあってスバル達は店に並ぶ品物を吟味し始めた。


「あ、これは文字が書ける例の石板だね」

「こっちのは魔力を込めると柔らかくなる石? グニグニしてて面白い感触だね。どういう用途で使うんだろ」

「あはは、石製の花なんてあるんだ。魔力を込めると蕾が開花するんだって! ウチ、これにしよ」

「へぇ……綺麗なランプシェード。虹色に変化する光りが楽しめるのか……んお?」


 店先に並ぶ様々な石細工の中に、ルイの興味を引く品があった。それは丸い形をしたランプで、油を使わず極薄の球体の中に小さな石が嵌め込まれて光りを放っている。


「おぉ~、キラキラ輝いて綺麗。豆粒のくらいの大きさなのに結構強めの光りを出すのな。はぇ……ちぃちゃんが騒いでるわ」

「ルイ、どうかした?」

「なんかさぁ、ちぃちゃんがやたらと……あれ、別の子もいるなぁ」


 ランプを前にしてよく分からない事をぶつぶつと言い出したルイにスバル達が首を傾げていると、店の店主が接客に来た。


「いらっしゃい。どれも一点物だよ、気に入った物はあったかな?」

「店主、あれなのだが……」


 ムラサキがルイの見詰めるランプを指差すと店主は喜びの声を上げて話し出した。


「そいつを気に入りましたかな? お目が高い! そのランプに使われているのは太陽石の欠片でしてな、最近仕入れた物なんですよ」

「なっ! た、太陽……」


 ムラサキは驚愕し、思わず叫びそうになるのを必死に堪えて店主に問い質した。


「店主、太陽石を使っているというのは本当なのかっ! あの太陽石を日用品の材料として使うなど不可能だろう。もしそれが本当でも、この値段になる訳が無い!」

「はっはっは。勿論、通常の物は天地がひっくり返っても私らみたいな庶民が手に入れられる代物じゃありませんがね。最近、使用済みの太陽石を加工した安価な物が出回っているんですよ。本来の太陽石と違って光りを放つくらいしか出来ませんがね、それでも結構な売れ筋商品なんですよ」

「そうか……使用済みの。そんな物があったとは知らなんだ。失礼したな……使用済みの太陽石を使った商品は、あのランプ以外にもあるのか?」


 店主の説明を聞き、落ち着いて冷静さを取り戻したムラサキは、取り乱した事を店主に詫びると更なる情報を求めた。


「ありますよ。店の裏に……」

「た、大変だぁ!」


 店主が賑やかに店の奥を指差すと、店の奥から転げるように店員が悲鳴を上げて飛び出してきた。


「おい、どうした! 何を慌てて……」

「店主! 火だっ!」


 店主が慌てる店員に何事かと問うが、店員が答える前にムラサキが店の奥から広がる火の手に気付いた。


「こりゃマズい……皆、逃げろぉ」


 瞬く間に火の勢いは増し、壁から天井へと一気に燃え広がった。店主が慌てて逃げ出そうとして足がもつれ転んでしまった。


「すいちゃん、消して!」


 ルイが指を鳴らすと大量の水が召喚され、火元となった店の奥へと流れ込んだ。


「良くやった、ルイ! 助かったぞ」

「えへへ、どぉもどぉも」


 店は水浸しになったが無事鎮火し、騒ぎが落ち着いた所でムラサキは店員から事情を聞いた。


「一体、何があった? 単なる火の不始末か?」

「それが……よく分からないんです」

「分からんとはどういう事だっ! 店がメチャクチャなんだぞ! 分からんで済むかっ!」


 騒ぎを起こした店の店主は、火と水でぐちゃぐちゃになった店を前にして店員を怒鳴り付けた。


「まぁ、落ち着け店主。出火の瞬間を見ておらんのか?」

「そうじゃ無いんです……私が太陽石を加工していると、石を割った瞬間に……まるで閉じ込められていたものが飛び出すように火の手が上がり……一瞬で部屋のあちこちに飛び火したんです」

「太陽石だと……」


 ムラサキの脳裏に、クレナイから聞かされた太陽石の暴走の話が思い出された。


「あの、ムラサキ様。これなんですけど」

「ん? 如何した、ルイ」


 考えに没頭していたムラサキに、ランプを抱えたルイが話し掛けた。


「このランプに使われてる石、精霊達が警告してるんですよ。危ないって」

「……警告? それに精霊とは。まさかルイ、お主はその太陽石が危険な物だと判別出来るのか!?」

「あたいって言うか、精霊が騒いで教えてくれる……みたいな?」

「頼む! お主の力を妾に貸してくれっ!」

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