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55 王族の矜持

 海底の街クレタを覆う膜が光りを弱め、夜の装いとなって街全体が眠りについた頃。


 街の外へとやって来たムラサキは暗闇の海を睨みつけて、とある場所へと移動した。


 クレタから少し離れた場所に巨大巻き貝を加工した水棲族の船が停泊していた。


 船の傍には歩哨が立ち、周囲を警戒している。そこへムラサキが近付いていくと、物音に気付いたクレナイの部下が槍の穂先を向けて誰何する。


「止まれ、何者だっ!」

「妾はムラサキ。クレナイ兄上に話があって参った。取り次げ」


 突如現れたムラサキがクレナイへの面会を求めると、訝しげな顔を浮かべつつ部下は船にいる仲間へ連絡し、船からクレナイが降りてきた。


「何か用かよ、ムラサキ」

「わざわざ聞くまでもないでしょう。クレタへの無茶な要求、その真意をお聞かせ願おう」

「……あぁ~その件か。本来ならお前を関わらせる気は無かったんだが、半端にあしらってもお前は納得しねぇだろうし、かえって逆効果になるか……着いて来い、場所を変えるぞ」


 クレナイはムラサキを伴って停泊している船から少し離れた場所へと移動した。


「何故、場所を変えたのです。部下にも聞かせられない悪事でも企んでいるのですか」

「黙って聞け。俺がクレタの領主に太陽石の提出を命じたのは、それが国王の意思でありその真意はクレタの為でもあるからだ」

「国王の……? 父上の指示だと言うのですか。それにクレタの為などと世迷い言を……太陽石が容易に手に入る物では無いことくらい、ご存知でしょう!」


 クレナイの口から国王の関与を匂わす言葉が出た事で、ムラサキの怒りが声に乗りクレナイを非難する言葉が溢れた。


「喚くな。順に説明してやる。事の起こりは数年前に発生した海底鉱山の崩壊事故だ。お前も覚えているだろう」

「は、はい。原因不明の爆発により一つの鉱山が崩壊し、多大な被害が出た事故でした」

「表向きには原因不明で通したが、実はその後の調査で原因自体は判明していたのだ」


 ムラサキの記憶の中でも類を見ないほどの大規模な爆発事故。あまりの惨状に原因究明は困難とされていたのだ。それが隠されていた事にムラサキは驚きを隠せなかった。


「あの事故の原因が判明していたなんて……一体、どんな。いや、その前にどうして妾にその知らせが届いていなかったのですか! 妾とて王族の一員ですぞ!」

「それだけ重大な結果だったと言う事だ。その結果を知る者は、極僅か。その情報の隠蔽は徹底され、偶然知ってしまった者には記憶消去の魔法を掛けるほどだったのさ……」

「それほどまでに……あの事故の原因とは、一体」

「あの事故を引き起こしたのは……『太陽石』だったのだ」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 海底王国において、太陽石を用いた技術は比較的歴史が浅く、未だ発展途上の技術ではあった。


 しかしその恩恵は絶大で、太陽石の活用が始まる以前まで、海底の一部で細々と暮らしていた水棲族の暮らしを一変させるほどだった。


 街を覆う『光膜』、街の気温を快適に保つ『温度調整』、作物の生育に欠かせない『陽光』、様々な道具への『付与』など僅か数十年で水棲族の生活に深く根差し、水棲族の文化と言っても過言ではなかった。


 そんな中、試験開発された掘削機がとある海底鉱山で使われた。従来の掘削機では掘り進められなかった硬い岩盤を砕く為に、太陽石の欠片を用いた新型機を稼働させた所、大爆発を起こした。


「崩壊跡から残骸を見つけ出し、研究所で解析した結果、一つの結論が導き出された。それが太陽石の暴走だ」

「そんな……これまでそんな報告は一度も聞いた事がありません! 何故そんな結果に」

「俺も最初は同じように思ったさ。何を証拠に、と。だが研究所は太陽石の欠陥を発見し、極秘実験を行って事故を再現してしまったんだ。その場には国王とシンク、そして俺も同席した……我が目を疑ったよ。神の恩恵と思っていた太陽石が破滅を招く石だったなんてな」

「……クレナイ兄上、太陽石の欠陥とは何だったのですか」

「全ての太陽石に当て嵌まるわけでは無いが、一部の太陽石にはエネルギーを内包する力が弱い物があるのだ。ただの石としてなら安定しているがそこからエネルギーを抽出しようとした途端、石の内部で一気に連鎖暴走を引き起こして大爆発してしまうようだ」

「……な、何か見分ける方法は?」

「無い。見た目では判別出来ず、石の構造を調べようと魔法を掛けるとその魔力に反応してしまう事例もある。調べるには爆発を覚悟しなければならんのだ」


 クレナイは苦渋の表情で言い放ち、話の重大さにムラサキは絶望感に苛まれた。


「……すぐにでも皆に知らせるべきでは?」

「お前は馬鹿か。太陽石が水棲族の生活にどれだけ深く関わっていると思っているんだ。安易にこの事を公言してみろ、パニックなんてもんじゃない。国の崩壊を招く事になるんだぞ!」

「しかし、このまま黙って見ている事など!」

「欠陥のある太陽石は暴走すると数十秒で爆発する。今街で使っている太陽石は問題ない。問題なのは在庫として抱えている物だ。だから俺は各地の太陽石を回収し、誰も居ない極力爆発を抑える事の出来る岩盤の亀裂や深海の傍で確認しているんだ」

「そう、だったのですか……それならば何故、妾に知らせが無かったのですか。国の大事ならば王族である妾にも責任が……」

「万が一の為だ。お前も理解していると思うが今回の自体を招いた原因は王族にもある。ならばその解決に命を張る必要がある」

「ならば、妾も!」

「次代の王族が全員消えたら誰が民を守る? 誰が民を導くというのだ!」

「それは……そういう事なら後継者である兄上達ではなく、妾の方が適任では」

「妹の身を犠牲にして兄である俺達に生き残れとでも言う気か? 侮辱だぞ、それは。お前がすべき事はクレタの領主を説得して俺の所へ太陽石を持ってくる事だ。分かったらとっとと帰れ」

「……分かりました。もう兄上の覚悟に口は挟みません、どうか……どうか、お気を付けて」


 去り際、ムラサキが別れの言葉を口にするとクレナイはそれを鼻で笑った。


「今生の別れのように言うな。それよりくれぐれも他言はするなよ。特に客人の人族は早々に地上へ帰せ。悪人では無いだろうが、下手に巻き込んで争いの火種になっては困る」

「はい、承知しました」

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