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54 太陽石

 ムラサキやマキュリーはスバル達の日常や地上での生活などに興味があるらしく、熱心に耳を傾けて時折、質問を挟みながら話を聞いていた。お互いの文化の違いで話は弾み、和やかな雰囲気で会食は進んでいく。


 食事の最後、デザートで氷菓子を食べているとムラサキが街の外にいたクレナイの事をマキュリーに尋ねた。


「そういえば、街に入る際にクレナイ兄上と出会ってのぉ……身内の恥ではあるが、街に何ぞ迷惑をかけていたのではないかと心配したのだが……」


 クレナイの話を振られたマキュリーの肩がピクリと反応し、口を拭うと皿を下げさせた。


 マキュリーは居住まいを正し、真剣な表情でムラサキの方へ顔を向けた。


「実は……少々、困った状況になっております。クレナイ様から『太陽石』を渡すようにと要求されております」

「太陽石を?」


 ムラサキは眉をひそめた。スバル達には聞き馴染みのない太陽石という物は、よほど重要なアイテムらしくマキュリーは重苦しい表情でムラサキを見ている。


 マキュリーがわざわざムラサキを食事に招いたのも、この問題を相談したいが為だと思われる。


「ムラサキ様、太陽石とはどのようなアイテムなのですか? 様子から伺いますと相当貴重なアイテムのようですが」

「うむ。そうだの……詳しくは言えぬが、太陽石はこの街の存亡に関わる重要な石で、海底鉱山で少量しか獲れぬ貴重な資源なのだ。この街にもそれほど在庫は無かろう。それを失えば、この街がどれほど窮するか子供でも分かろうものを……まこと愚かに過ぎる」

「全く、困った御方で……」


 国を治め、民に繁栄をもたらすべき王族とは思えない蛮行に頭を悩ませるムラサキとマキュリー。


 クレナイという人物の詳しい人となりを知らないスバルからしてみると、王族が意味もなく民を窮地に追い込むというのが理解出来なかった。


「そのクレナイという人にも何か理由があるんじゃないですか? 急に太陽石が必要になったとか」

「それは考えにくいな、個人が太陽石を必要とする事などない。あれは街単位での運用しか……」

「ムラサキ様、それ以上は……」

「おっと、そうだの。何はともあれ、兄上には妾の方からもう一度釘を刺しておこう。これ以上、徒に皆に迷惑を掛けるな、と」

「よろしくお願い致します」


 スバルがクレナイの行動に何かしらの理由があるのではと問うが、ムラサキは一考にせず否定した。その際、太陽石について言及しかけたがマキュリーが口を挟んで止めた。


 ただの客人でしかないスバル達には聞かせられない内容のようだ。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「素行不良な王族か……確かに凄まじい格好だったけど」

「舞台役者みたいな格好だったよね」

「舞台役者かぁ……あたいは舞台って見た事ないんだけど、皆は見た事あんの?」

「ウチはなーい」


 夕食後、部屋に戻ったスバル達は昼間にコーネリアが買った薄焼き菓子を食べながら雑談していた。


「それにしても太陽石か……ムラサキ様はずいぶん警戒してたけど、どういう石なんだろうね」

「多分、この街の空に関係してるんじゃないかと私は思うよ」


 スバルが部屋の窓から外に広がる暗い夜空を見上げた。


「空? どういう事?」

「ここってかなり深い海底だったでしょ。でも昼間はなに不自由しないくらい街は明るかった。今は星が出ていない夜空って感じの暗さなんだよね」

「あぁ! そういえばそうだったね。あまりに快適だったから忘れそうだけど、ここには太陽の光りが届いてないんだっけ。なるほど、だから『太陽石』って名前なのか」

「ふ~ん。でも街を照らす光りを生み出すだけにしては、マキュリーさんやムラサキ様の反応がちょっと過敏というか大袈裟な感じだよね」

「まぁ、その辺は色々あるんじゃないかな。広大な街全体に光りを届けるなら、かなりのエネルギーを必要とする訳だし、それを僅かな量の石で成しているなら太陽石の持っている力はかなりの物だよ。悪用を心配するのは当然だね」


 スバル達があれこれ悩んだ所でこれは水棲族の問題。長居はせず、明日には地上に帰るスバル達が関与する事ではない。


 話の話題が明日の予定についてに変わると、市場の行けなかった店に行きたいとか街の名所を回りたいなど、なかなか紛糾した。


 やがて話が落ち着いた所で就寝となり、二つの部屋に別れてベッドの中に入った。


 虫や野鳥がいない海底の街の夜はとても静かで、スバルは柔らかなベッドの中で今日見聞きした事や明日の予定を思い返していたが、次第に意識が遠退き、穏やかに眠りについた。

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