53 クレタの領主マキュリー
食料品の店を出た後に、色々な店を梯子していると宝石をあしらった豪華な装飾品が並ぶ店の前に通り掛かり、ルイとユーリが吸い寄せられるように近付いた。
単なる装飾品店かと思えば、どうやら様々な魔法が付与された魔法具店だった。
「はぁ……デッカい真珠。これも魔法具なんですか?」
「そうだよ。地上の人族は宝石で魔法具とか作らんのかね?」
ユーリは魔法具店に並ぶ豪華な品を眺めて思わず溜め息をついた。王侯貴族の家宝となりそうな装飾品の数々が、この街では庶民でも手が届きそうな値段で売られている。
ユーリが物珍しそうに魔法具を眺めているのを見て、魔法具店の店主が不思議そうに話し掛けた。
「どうでしょう、無い事はないと思いますけど一般向けじゃないですね」
「そうかい。水棲族の魔法具では宝石を使うのが主流なんだがねぇ。海底鉱山で鉱脈がよく見付かるから材料には困らんしなぁ」
「羨ましい話ですね」
「本当だよね、これなんて地上で売ろうと思ったらどんだけ高値が付くか。はぁ、キラキラ輝いて綺麗だわ~」
地上と海中では鉱山の数自体が桁違いのようで、そこから採掘される宝石はただの装飾品としてではなく、魔法具の材料として有効活用されているようだ。
「う~ん。指輪くらいなら着けても大丈夫かな?」
「効果で選んだ方が良いんじゃない? ユーリは魔法を使うから魔力増幅効果か、ダメージ軽減効果なんていいじゃない?」
「あんまり派手な物は没収されるかも……ペンダントならギリ大丈夫かな?」
「おぉ~! 隠し武器にもなる腕輪だって。魔力を込めるとほどけてナイフになるのか……面白そう!」
それぞれが気になるアイテムを手に取り、品定めをしていると一人の役人がムラサキに声を掛けて手紙を手渡した。
ムラサキが手紙の宛名を確認するとそれは街の領主からの手紙だった。
「ふむ……領主からの手紙か。どうやら妾達を夕食に招待してくれるそうじゃ。ついでに宿泊する部屋も用意してくれるようだから、行ってみるかの」
「領主様の館にですかっ!? 私達、礼儀作法とかちゃんと勉強した事ないですよ」
「あっはっはっは、そんなに気負う必要はない。晩餐会ならいざ知らず、これは私的な食事だ。多少のマナー違反に目くじらを立てるような者はおらん」
貴族の館、さらに食事となるとスバル達が同席するのは場違いとも思える。
何か失礼があってはいけないと思いスバルがやんわり断ろうとすると、ムラサキがその心配を笑い飛ばした。
こうしてその日の夕食は、街の領主マキュリーの館で摂ることになった。
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「ようこそ、御出でくださいました。私がクレタの街を治める領主マキュリーで御座います」
「うむ、妾がムラサキである。領主自らの出迎え、痛み入る。せっかくの機会なので友も一緒なのだが構わぬかな」
「勿論で御座います。遠く地上よりお越しになられた皆様には、精一杯のおもてなしを致したいと思っております」
街の奥にある大きな屋敷に到着すると、年嵩な水棲族の男性が背後に立ち並ぶ部下と使用人を代表してムラサキに挨拶をして出迎えた。
館の主マキュリーはすでに情報を仕入れていたようで初対面のスバル達にも笑顔で対応し、館に招き入れた。
スバル達には客人用の二部屋が案内され、ムラサキにはさらに特別な賓客用の部屋が用意された。
「貴族の夕食か……ユーリはテーブルマナーとか知ってる?」
「え、いや、全然……そもそも水棲族のマナーと地上のマナーって同じなのかな? 地上でも国によって異なるしさぁ」
「気にしても仕方ないじゃん。あまりおかしな事をしなけりゃ大丈夫でしょ! あたいなんて大きさが違うんだから元から同じようには出来ないんだから」
「そうそう、ムラサキ様も気負うなって言ってたし。恥をかくのも勉強だと思えば? それよりどんな料理が出るんかなぁ? 魚料理は確実に出るとして海藻とか? 肉はどうだろうね」
スバルとユーリは貴族の食事マナーについてあれこれ悩み緊張しているなか、ルイとコーネリアはそんな二人の心配をよそに、料理の内容について盛り上がっていた。
しばらくすると使用人が夕食の準備が整ったと知らせに来た。その使用人に案内されて食堂へ行くと、石で作られた長テーブルと椅子が並んでいてその上座にマキュリーが座り、近くにムラサキが座った。
スバル達も案内された椅子に座った。軽く椅子に触れた時、予想よりも椅子が軽い事にスバルは少し違和感を感じた。それはコーネリア達も同様で、頻りに椅子を触っていると。
「椅子がどうにも気になるのかの?」
ニコニコしながらスバル達の様子を眺めていたムラサキがスバルに声を掛けた。
石のような素材で出来ている椅子が木製の椅子と同等の軽さである事に驚いているスバルに、ムラサキは殆んどの家具が特殊な魔法で生成した石で出来ていると説明した。
「軽く丈夫での薄く加工しても問題なく使えるのだ、材木が手に入りにくい海底では一般的な家具はこのような石で出来ておるのよ。そなたらが案内された部屋の家具もそうした品よ」
「石製の家具は海底の街では当たり前ですが、地上では木製の家具が手に入りやすいのでしたな。いやはや羨ましい、水棲族の国では木製の品など高級品です。一度でいいから家中の家具を木製で揃えてみたいものですよ。はっはっは」
マキュリーが海底の街ならではの事情により高値となっている木製家具が地上では手軽に手に入る事を羨み、首を振った。
そうして少し和やかな雰囲気になった所で料理が運ばれてきた。




