51 いざ、海底の街へ
アルスタに到着したスバル達は持ち帰ったメガロルパを港の競売所へ売り払うと代金を受け取り、コーネリア達はチャレンジメニューに挑戦すべく料理店に来た。
「なるほどのぉ……あの島でダンジョンが」
「そうなんだよ。あそこには怪しげな鎧騎士がいて、これまた怪しげな大剣と宝珠で……っんぐ、島中に魔力をばら蒔いてたんよ。はぐっ」
特注の大皿に軽く十人前はありそうなメガロルパの料理が積み上げられ、コーネリアがフォークを突き立てて大口を開けて頬張っていく。
「ボク達が鎧騎士を倒したから、もうおかしな魔力が島を毒する事は無くなったんだよ」
「左様か……しかし、少々不自然な点があるの。ダンジョンとは、通常その地域に自然発生し長い時間を掛けて影響力を増していくもの。それなのに、小規模ダンジョンが外の世界にまで魔力を放出するとは……何やら悪さしておる者の気配がするのぉ」
「確かに……私達が倒した鎧騎士はアンデッド系で、ダンジョンを徘徊していたのが地面系というのも不自然でしたね」
「ミオン先生も何か考えていた様子だったよね。もしかしたら、先にポラリスへ帰ったのは急いで調査隊を派遣してもらう為なのかも」
「ミオン……お主らの教官を務める者の名か。ステラ教団の上層部へ話がいくのなら大丈夫かの。ところでお主らはこの後はどうするのじゃ? コーネリアの腹が満ちればポラリスへ帰るのかの」
「まだ未定ですね。ミオン教官からは休暇を貰っていますから、数日は物見遊山であちこち回りたいかなっと」
「ならば、水棲族の街へ行くのはどうだ? 地上の街には無い光景が見られるぞ」
ムラサキからの提案に驚くスバル達は仲間内で少し話し合うと、滅多にない機会という事でムラサキのお誘いに乗る事にした。
「水棲族の……んぐっ。街かぁ……やっぱり海の底なんかな?」
「多分そうだよね。息、続くか?」
「うっひょおぉ! 水棲族の品なんて高値で売れそうじゃん。いっぱい買い物しよう!」
「ルイってば、さっき溺れたのに全然怖がってないね。逞しいというか欲深いというか……まぁ、ミオン先生への土産話にもなるか」
コーネリアが大皿に残った最後の一切れを食べ終えると他の客達が歓声を上げて祝福し、店の店長が肩を落として賞金と記念品をコーネリアに渡した。
「では、行くか。付いて参れ」
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ムラサキはスバル達を連れ立ってアルスタ近くの砂浜へやって来た。
「ムラサキ様、水棲族の街までどのくらい掛かりますかね? ウチら三分くらいなら息が続きますけど」
「案ずるな、ちゃんと魔法を掛けてやる。というか、素潜りで行けるような場所ではないぞ」
ムラサキは苦笑しながら扇を振るうとスバル達の身体に青い光りが降り注いだ。
「今掛けたのが、環境適応魔法だ。これで水中でも呼吸が出来て、ある程度の水圧でも動ける」
「水圧って?」
「水の重さが身体にのし掛かる事だ。深く潜れば潜るほど、その影響は大きくなるからな」
「ふ~ん、でも水ですよね。そんなに重いもんかな」
「ふふ。まあ地上の者には理解しにくい事であろうな。では、行こうか」
ムラサキの力で牽引されて、スバル達は慣れない海の底へと引っ張られるように潜っていった。
途中、コーネリアが魚の群れに手を出そうとして逃げられたり、逆に寄ってきた大型魚にルイがパクつかれたりしながらも百メートルほど潜ると海底に建物らしき物が見えてきた。
「あれが……水棲族の街」
「何かデカい巻き貝があるんだけど」
街の入り口近くに幅が数メートルほどもありそうな巨大な巻き貝が停まっていた。
「あれは、王国の船だ。しかもあれは……王族の専用船ではないか」
巻き貝を加工して作られた船を見て、その持ち主に気付いたムラサキは、街の入り口で門番と揉めている一行に近付いた。
「何をしているのですか、クレナイ兄上」
「あん、誰かと思えばムラサキではないか。お前、たかが雑用一つ済ませるのにいつまで掛かっているんだ。ノロマが」
クレナイと呼ばれた男は、赤髪を突き立て顔には隈取りの化粧をし、豪華な刺繍の入った着物を着崩していて、およそ王族らしくない格好をしている。
周りにいる仲間達も似たような格好でムラサキに対しても威圧的な態度を取っている。
「人族との大事な取り決めですからな。色々とやる事があるのですよ。それより、都で遊び呆けているクレナイ兄上が何故、このような場所にいるのですかな? わざわざ王族の船まで使って……まさかとは思いますが勝手に乗り回しているのではないでしょうな」
一応、気を遣ってはいるようだがムラサキの言葉の端々には蔑みの感情が込められている。
「テメェにゃ関係ねぇだろ。妾腹の分際で出過ぎた真似をすんな」
「……人前で礼儀知らずな物言いですな。これではシンク兄上の足下にも……」
ムラサキがある人物の名を口にした途端、クレナイは腰に差していた刀を抜きムラサキの喉元に刃を向けた。
「テメェ……マジでぶっ殺すぞ。誰が、あのクソより下だと……あっ? 何だテメェの連れは」
クレナイがムラサキの後ろにいるスバル達の存在に気付き、問い掛けてきた。
鬱陶しそうに扇で刃を払ったムラサキがクレナイにスバル達を紹介した。
「この者達は妾が招待した地上の強者達です。この辺りに蔓延っていた魔力源を打ち払い、平穏をもたらすのにも一役買ってくれたのです。海を統べる王族の一員として礼をする為に招いたのですよ。そういう訳で早々に道を開けてくれますかな、邪魔ですよクレナイ兄上」
「へっ……誇りある水棲族の王族が、たかが地上人に対して媚びへつらうなど……恥以外の何物でも無い。この愚か者がっ!」
額に血管が浮き出るほど怒り狂ったクレナイが、刀の切っ先をスバル達に向けた。




