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50 海底の姫

「どりゃあああぁぁ!」


 コーネリアが気合いとともに一気呵成に釣り糸を引っ張り上げると釣り針に掛かった獲物が海中から飛び出してきた。


 目を見開いて驚くスバルとユーリの前に、白く美しい鱗を持つ巨大魚が現れた。


「うわっ! マズいって、船に上がんないよコレ!」

「これが、メガロルパ?」


 空中で身を捻った巨大魚は水飛沫を上げて着水し、海底へ潜ろうと激しく水面下で暴れ続けた。


 しかし一度捕らえた獲物は決して逃すまいと釣り糸を握り締めるコーネリア。船べりに足を掛け、海中に引き摺りこまれぬよう耐えている。


「マズいな。あのメガロルパの大きさは尋常じゃねぇ、船に上げるのは無理だ。海中で仕留めるしか方法はねぇぞ!」


 メガロルパの異常な大きさを見て、引き上げるのは不可能と判断したバランが銛を手に取り海中で暴れるメガロルパを狙おうとするが、激しい抵抗で船が揺れて狙いが定まらない。


「く、くそ……」

「バランさん、貸して!」


 悪戦苦闘するバランに代わりスバルが銛を構える。


「メロディエンスの名の下に。雷精よ、刃に宿れ 『雷撃(ブリッツ)』」


 スバルの魔法で雷を纏った銛が海中のメガロルパに向かって投擲された。


 放たれた銛はメガロルパの頭部に深々と突き刺さり、付与された雷が頭部に致命的なダメージを与えた。脳を焼かれて身悶えしたメガロルパが絶命し、その巨体が海面に浮き上がる。


「いえーい! 巨大魚げっとぉ!」

「船の上には上げられないから船尾にくくりつけて引っ張るしかないか……」

「縄で縛らないとね。ルイ、精霊さんにお願いしてメガロルパをこっちに持ってきて……ルイ?」


 ユーリの言葉に反応がなく、船体をキョロキョロと見回しても小さなルイの姿が見えない。


「あれ? ルイはどこ?」

「え、そこら辺で寝てなかった?」

「あれぇ、いないぞ」


 三人が最後に姿を確認した辺りを探しても、ルイを見付けられなかった。


「え~と」

「まさか」

「……釣り上げる時の騒ぎで、落ちた?」


 慌てて三人が船べりから身を乗り出し、海中を凝視するがそこには海底へと続く真っ暗な暗闇しか見えない。


「え、え、えぇ、海に落ちても寝てるってあり得ないでしょ!」

「でも、パニックになって溺れた可能性も……」

「それにスバルが雷撃の銛を打ち込んだから、周辺にも電撃が広がったのかも……」

「えぇ~、だとしたらヤバいよ! どうしよう……」


 スバル達が狼狽えていると突如、水面に不自然な波が発生して徐々に大きな渦へと変貌し、中央部から激しい水柱が立った。


 飛び散る水飛沫に驚くスバル達の前に一人の女性が現れた。


「あの乱暴者を釣り上げた強者がどれほど屈強な男かと思ったら、こんな若い娘達だったとは驚いた」


 青い髪、鋭い爪、身体の所々に鱗を生やして水棲の生物的な特徴を持ちながら着物に身を包んだ怪しげな女性。顔の前で扇を広げて面白そうにスバル達を観察しながら船に乗り込んできた。


「コ、コイツぁ……ひょっとして水棲族の姫さんで?」


 スバル達が驚きのあまり沈黙していると恐る恐るバランが女性に声を掛けた。


「おぉ、お主はアルスタの漁師か。時折、見掛けるのぉ。いかにも、妾は海を統べる水棲族の王の娘、名はムラサキ。よろしゅうな」


 敵意は無いようでムラサキがニッコリと笑うとスバル達も挨拶を返した。


 スバル達の警戒が解けるとムラサキは水面に上がってきた理由を話そうと船に腰掛けた。


「まずは、ほれ」

「あっ! ルイ、大丈夫!?」


 ムラサキは袖口からぐったりとしているルイを取り出しスバルに渡した。


「心配ない。多少水を飲んだようだが怪我もしとらん」

「やっぱり海に落ちてたんだ。ムラサキ様が助けて下さったんですね、ありがとうございます!」

「なぁに、たまたま目の前に落ちてきたから拾っただけ。気にするでない」


 ムラサキが扇を降ると船が独りでに動き出した。


「すまぬが話は移動しながらさせて貰おうかの。この船ではあのメガロルパを持ち帰るのも難儀しよう」


 ムラサキが動かした船と一緒に釣り上げたメガロルパも付いてきた。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「バランさんは水棲族の人を知ってるんですか、私は全然知らなかったです。ユーリは知ってた?」

「ううん、ボクも初めて知ったよ。海に王国があるなんて」

「まぁ、滅多に地上へ出てくる事はないからな。それに地上へ出ると言っても港に顔を出す程度だから、他の土地に住む連中が知らないのも無理はねぇ。俺らもあまり交流らしい交流をしてるわけじゃないんだ。それでも海で活動する為に数年に一度、使者を派遣して……あれ、もしかして」


 話している途中でバランが何かに気付き、その続きをムラサキが引き継いだ。


「うむ、妾が使者としてアルスタへ赴く……筈じゃった」

「何かトラブルがあったんですね」

「左様、この辺りの海域に不穏な魔力が満ちて水棲魔物に異常が出始めたのじゃ。その対処に追われてアルスタ行きが遅れてのぉ……しかし、つい先日、唐突に魔力が消え去ったお陰でこうして出発出来たという訳よ」


 ムラサキが話し終えるとユーリがスバルに耳打ちした。


「不穏な魔力……スバル、それってもしかして」

「うん。多分ミーノ島の鎧騎士……」


「アルスタへ行く途中で幾つかの魔物が魔力の影響で暴れておってのぉ。他の魔物達の縄張りを荒らしておった故、始末していたんだが最後の大物をまさか地上の者が仕留めるとは……面白き者達よのぉ」

「ムラサキ様、この娘達が海域に満ちていた不穏な魔力とやらを解決してくれたんですよ」


 ムラサキがスバル達に好印象を持っていると感じたバランは、彼女にスバル達を紹介した。


「ほぉ……それは真か?」

「えぇ、この娘達ともう一人の星騎士様が俺の故郷のミーノ島を救ってくれたんです」

「それは興味深い。詳しく聞かせて貰えるかの」

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