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05 犬神一族のコーネリア

 魔猿退治の報酬を受け取って気になっていた店に向かう途中、屋台が立ち並ぶ広場で大勢の人集りがあった。


「おおぉっと、ここで三番コーネリア選手がラストスパートォ! 山盛りになったタイコス焼きが次々消えていくぅ! この女、胃袋が4つあるとでも言うのかぁ!?」

「余裕余裕~」

「他の選手がペースを落とす中ただ一人独走するコーネリア選手、最早『食欲の神』と言って良いのではないかぁ!」


 どうやら大食いイベントが開催され、一人の選手が注目を浴びているようだ。

 人集りの合間からチラリと覗くと長テーブルの前に五人の獣人が座り、目の前には昨日、スバルも食べた名物菓子のタイコス焼きが山と積まれ、獣人選手達は必死に食べていた。


「あぁ、あの魚の形を模した焼き菓子か。私も食べたけど三つが限界だったなぁ」


 人族の中でも体格の良い獣人族は食事量も人並み以上だが、トップを独走するコーネリアと言う犬人の獣人は飛び抜けていた。


 その食いっぷりは周囲の観客も呆れるほどですでに勝敗は決していると言える。


「隣の牛人や虎人も大食いの人種として有名らしいけど、あの犬人は別格だね。見てるだけでお腹が膨れそうだよ」


 人集りを抜けて魚料理の店に入ったスバルは出汁の効いた粥飯と焼き物を注文した。


 注文した料理を待っていたスバルの耳に一際大きな歓声が聞こえた。

 どうやら先ほどの大食いイベントが決着したようだ。


「名物宣伝の為とは言え、材料費だけでも相当高くつきそうなイベントだなぁ……でも何で甘い菓子が名物になったんだろ。湖で獲れる魚の料理の方が手軽だと思うんだけど」

「ふっふっふ、それはねぇこの街に訪れた勇者様考案のお菓子だからだよ……出汁粥とルパ魚の照り焼き、お待ち」


 注文した料理を運んできた定員がスバルの独り言に答えた。


「勇者? 勇者様がこの街に?」

「そうさ。たまたまこの街を訪れた勇者様が故郷の有名な菓子を元にしたって話さ。魚の形をしてるのに魚を使っていない食べ物なんて面白いよね。さっすが勇者様だよ」

「へぇ……それはそれは。ちなみに元になった料理の名前って知ってる?」


 予期せず勇者の情報を得たスバルがさらに聞き込みをした。


「え~と何だっけ……確か似たような名前で……あっ! 『タイ焼き』だ。タイコスってのはここで獲れる魚の名前で、『タイ』ってのは勇者様の故郷で獲れる魚の名前らしいよ」

「そっか、どうもありがとう」


 笑顔で店員に礼を言うとスバルは料理を頬張りつつ、勇者を見つけ出す鍵となる情報を得た事にほくそ笑んでいるとイベントを観戦していた観光客が店に押し寄せてきた。


「いや凄かったよな、さっきのコーネリアとかいう女。最後までペースが落ちねぇし終了直前のあの食いっぷりは恐ろしかったぜ」

「おぉ、そのうえ余ったタイコス焼きを手土産に貰って帰りやがったからな。胃袋が4つどころか、胃袋に手足が生えた生き物なんじゃねぇのかって思ったよ」

「結構可愛い顔してたけど、声を掛けられる男はいねぇだろうな。軽い気持ちで食事にでも誘ったら財布がふっ飛んじまう」


 大笑いする客の戯れ言は聞き流し、食事を終えたスバルは店を出たがまだ物足りない感じでお腹を擦った。


「もうちょっと入りそう……あそこにするか」


 屋台から漂う蒸かした饅頭の良い匂いがスバルの鼻をくすぐる。

 この屋台の饅頭は濃い目に味付けした肉と野菜が入った饅頭のようだ。


「おっちゃん、饅頭二つちょうだい」

「あいよ、もうちょいで出来上がるから待ってな」

 

 蒸籠の隙間から白い蒸気が吹き出し、食事を終えたばかりのスバルでも思わず喉を鳴らしてしまいそうになる。 


「おいちゃ~ん、ウチにも饅頭十個ちょうだいな」


 後ろから掛けられた声に振り向くと、そこにいたのは先ほどの大食いイベントで優勝していた犬人族のコーネリアだった。


「あ、あなた……」

「ん? 何?」

「さっきタイコス焼きを山ほど食べてたじゃん!」

「あ、観てたの? えへへ、甘い物の後はしょっぱい物が食べたくなるんだよね」

「いや、味がどうのこうのという話じゃ無いでしょ」


 身体能力に長けた獣人らしく筋肉質な手足、がっしりとした体格から察するに相当な実力者だとは思われる。獣人族は戦士の一族と呼ばれるほどだが、食べ物に夢中で年相応の笑顔で喜ぶ彼女からは戦士の鋭さも凄みも感じない。

 狩りをする狩猟犬というより家で昼寝する室内犬のようだ。


「呆れた食欲だね。まだ入るの?」

「えへへ、まぁね。ん~、美味い!」


 蒸し上がった饅頭を両手に持ち口いっぱいに頬張る彼女はご満悦な様子だ。

 スバルが二つの饅頭を食べ終える前に、十個の饅頭を終えたコーネリアがスバルの腰にある剣を見て。


「君は冒険者さん?」

「そうだよ。と、言っても先日になったばかりの新人だけどね」

「へぇ、ウチもそうだよ。里で占いオババの予言が出てね、『ステラ教国の星騎士を目指すべし~』って。田舎からステラ教国までの路銀稼ぎに冒険者になったんよ」


 思わず饅頭を食べる手が止まる。意外と星騎士を目指す者は多いのかもしれない。


「そっか、奇遇だね。私も星騎士になる為にステラ教国を目指しているんだよ。競争相手だけどお互い頑張ろうか。改めまして、スバルだよ」


 スッと差し出した手をコーネリアが握り返す。


「犬神一族のコーネリアだよ。よろしくね」

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